#44 最後のポイント使い道〜アレンの選んだ「世界最高のホワイトスローライフ」〜
全次元合同株主総会の大成功から、数日が経過した。 『全次元カルマ・ユニバーサル・リゾート』は本格稼働を迎え、地上界・天界・魔界の三つの世界は、争いのない平和で豊かな時代を享受していた。
そんな賑やかな喧騒から離れた、地下帝国の最深部――アレンのプライベートペントハウス。 静かなリビングで、アレンはふかふかのクッションに背中を預け、冷たい麦茶を飲みながら、目の前に浮遊する半透明の『システムウィンドウ』を見つめていた。
「……さてと」
画面に表示されているのは、依然としてエラー音を立てながら明滅を繰り返す数字。
【所持カルマポイント:999,999,999,999,999,999……】 【※Error:カウンター・オーバーフロー状態が継続中。】
全次元のインフラの独占ライセンス、リゾートの爆発的な入場料収入、さらには三界の経済が活性化したことで、毎日恐ろしい勢いでカルマポイントが振り込まれ続けている。 もはや数値としての意味をなさず、この世界の理すらも何度でも買い換えられるほどの天文学的なエネルギーである。
「アレン、淹れたてのハーブティーをお持ちしましたよ」
リビングの扉が開き、リリアがトレイに乗せたカップを運んできた。 天使の輪ができるほどツヤツヤな亜麻色の髪を揺らし、もこもこのルームウェアに身を包んだ彼女は、アレンの隣にチョコンと腰掛けた。そのエメラルドグリーンの瞳は、心からの安心感と愛情に満ちている。
「ありがとう、リリア」 「ふふっ、アレン、何か考え事ですか?」
「うん。この余りまくってるカルマポイントさ……もう使い道がないくらい溜まっちゃったから、最後にドカンと『一番良い使い方』をして、このシステム自体を完全に完了させようかと思ってね」
「一番良い使い方、ですか……?」
アレンがパチンと指を鳴らすと、システムウィンドウが青く輝き、ポイントの消費メニューが開かれた。
これまでのアレンなら、「全自動スパ」や「美味しいご飯」、「巨大なリゾート設備」を買ってきた。 だが、今の彼が望むものは、これ以上自分一人が得をするような贅沢ではなかった。
「クロエ、ちょっとみんなを集めてくれる?」 「かしこまりました、アレン様」
隣の執務デスクで書類を整理していたクロエが優雅に一礼し、すぐさま連絡を入れた。
ほどなくして、ペントハウスのリビングには、アレンの大切な身内たちが大集合した。
プロテインシェーカーを手にした脳筋騎士団長・オリビア。 エルフの森から遊びに来ていたドジっ子新族長・セレスティア。 もこもこ部屋着を着込んでクッキーを突っついている社畜元天使・セラフィナ。 そして、アレンの膝の上で丸くなり、幸せそうに「くぅ〜」と寝息を立てている神話級魔獣・シロ。
「アレン様! 全員揃いましたぞ! 本日の緊急筋トレ会議でしょうかッ!?」 「違いますよオリビアさん……。アレン様、大事なお話ですか?」
みんなの視線がアレンへと注がれる。 アレンは温かいハーブティーを一口含み、みんなの顔を一人ひとり見回してから、優しく微笑んだ。
「うん。みんな、今まで俺の我が儘に付き合ってくれてありがとう。……俺ね、余ったこのカルマポイントを全部使って、一つの『パッシブスキル(永続バフ)』をこの全次元に買い与えようと思うんだ」
「全次元に……永続バフ、ですか?」 クロエが眼鏡のツルを押し上げながら尋ねる。
「そう。『全次元・永久ホワイト環境化バフ』だよ」
アレンは画面の操作パネルに手をかざした。
「内容はこの三つ。 一、この世界に住むすべての生命に【病気・過労に対する強い耐性】を与える。 二、大地の恵みを豊かにし、【食べ物に困る飢餓を永久に撲滅】する。 三、他者を理不尽に踏みにじる悪意に対して、【強い抑止と対話の心】をもたらす。 ……これで、二度と俺の前世みたいな『社畜として使い潰されて過酷に死ぬ人間』も、リリアやセレスさんたちみたいな『不当に脅かされる犠牲者』も生まれなくなる」
アレンの提示した、あまりにも温かく、そして優しさに満ちたポイントの使い道。
ただ自分の引きこもり生活を守るために始まったポイント使いは、巡り巡って、世界中のすべての人々を「ホワイトな幸福」で包み込むための、究極の祝福へと昇華されていたのだ。
「あ、アレン……っ!」 リリアの目から、ぽろぽろと綺麗な涙がこぼれ落ちた。 自分を飢餓の地獄から救ってくれた神様のような男は、最後までどこまでも優しく、世界で一番温かい人だった。
「ふふっ……どこまでもアレン様らしい、最高の資産運用(ポイントの使い方)ですわね」 クロエが感極まったように目元を拭い、誇らしげに微笑む。
「我らのアレン様は、やはり世界一の大家様だーっ!」 オリビアが感涙にむせびながら叫び、セレスティアとセラフィナも大粒の涙を流して頷いた。
「よし……それじゃあ、全ポイント投入! ポチッとな!」
アレンが画面の【全ポイント消費・最終確定】ボタンを押し込んだ。
――ズズズズズズズズ……ッ!!
次の瞬間。 ペントハウスを、地下帝国を、地上界を、天界を、そして魔界を――。 全次元のあらゆる空間を、温かく柔らかい黄金色の光が包み込んでいった。
病に伏していた者はたちまち体力を取り戻し、枯れていた農地にはたわわな実りが芽吹き、争おうとしていた者たちの心からは角が取れ、穏やかな笑みがこぼれ出す。
世界全体が、アレンの投じた圧倒的な優しさによって「永遠のホワイト世界」へと書き換えられた瞬間であった。
そして――アレンの手元にあった『システムウィンドウ』は、すべての役割を終えたかのように、パッと綺麗な光の粒子となって空中に溶けて消えていった。
【カルマポイント・システム:全行程を終了。ユーザー・アレンに『永遠の幸福』を授与します。】
「……ふぅ。これで、ポイント稼ぎも終わりか」
空になった手元を見つめ、アレンは晴れやかな顔で大きく息を吐いた。 ポイントという特別な力はなくなった。だが、彼にはもう、そんなものがなくても何一つ困らないだけの財産と、最高の仲間たちが揃っていた。
「アレン……!」 リリアがぎゅっとアレンの腕にしがみついてくる。
「アレン、ポイントがなくなっても、私はずっとアレンのそばにいるからね! ずっとずっと、大好きなアレン様のご飯を作りますからね!」
「うん、ありがとうリリア。ポイントなんてなくても、俺たちの日常は何も変わらないよ」
アレンはリリアの頭を優しく撫で、周りにいる仲間たちを見渡した。 呆れながらも温かい眼差しを向けるクロエ、力強く胸を叩くオリビア、ドジを踏んで転びそうになるセレスティア、ドーナツを口いっぱいに頬張るセラフィナ、そして膝の上で「きゅぅん」と甘えるシロ。
「さて……面倒なポイント管理も終わったことだし。今日からが、本当の意味での『俺の究極のホワイトスローライフ』の始まりだな」
アレンは満足そうに目を細め、大切な仲間たちの温もりに包まれながら、静かに最高の笑顔を浮かべるのであった。




