#43 決戦(?)は株主総会! 神々と悪魔を従える最強アレン
全次元貫通新幹線『スカイ・レール』の開通により、地上界・天界・魔界の垣根は完全に崩壊した。 三つの世界が一体となった『全次元カルマ・ユニバーサル・リゾート』には、連日、無数の観光客が押し寄せ、テーマパークの売上カウンターは狂ったように数字を刻み続けていた。
そして本日。 地下帝国の中心にそびえ立つ全次元カンファレンスタワーの大ホールにて、世界の歴史上、最も異質で重要なイベントが執り行われようとしていた。
――第1回『全次元合同株主総会』。
重厚な扉が開かれると、会場には三つの世界を代表する名だたる重鎮たちがズラリと顔を揃えていた。
右側には、黄金の法衣を纏った天界の神々と高位天使たち。 左側には、漆黒のマントや角を光らせた魔界の大悪魔や巨大魔獣の代表たち。 中央には、地上の人間諸国の王侯貴族や、エルフ族の元前族長をはじめとする各自治体の代表たち。
かつてなら相容れず、顔を合わせた瞬間に世界を滅ぼすほどの凄惨な戦争が勃発していたはずの組み合わせである。 だが、現在の会場内には殺伐とした空気など微塵もなかった。
「おい、天界の審判神。先ほどスカイ・レールの車内で食べた『天界雲上プリン』だが……あれは絶品だな。今度、我が魔界の黒イチゴと交換せんか?」 「ふむ、悪魔よ。悪くない提案だ。我が方も魔界サファリの『地獄のジャーキー』の味には深く感銘を受けておる。互いの特産品としてコラボ商品を開発しようではないか」
神と悪魔が膝を突き合わせ、和気あいあいと物産展の商談を進めている。 数千年にわたる仇敵関係をあっさりと過去のものにしたのは、正義でも愛でもなく――圧倒的な『経済効果』と『ホワイトな生活環境』であった。
ガーン、ガーン、ガーン……。
会場に重厚な鐘の音が響き渡ると、壇上の照明が照らし出された。 中央のマイクの前に立ったのは、仕立ての良い漆黒のスーツに身を包んだクロエであった。彼女は眼鏡の位置をクイッと直すと、透き通るような美しい声を会場全体に響かせた。
「皆様、ご起立を。ただいまより、第1回『全次元合同株主総会』を開会いたします。議長を務めますのは、我が『影の天秤』商会代表、ならびに全次元リゾート最高オーナー――アレン様ですわ」
万雷の拍手と歓声が沸き起こる中、アレンが壇上へと歩み出てきた。 ……相変わらずの、ゆるい半袖シャツにハーフパンツ、足元はふかふかのスリッパという究極にラフなスタイルである。 その抱っこ紐の中では、白いポメラニアンのシロが「ふあぁ」とあくびをしていた。
「あー、みなさんお疲れ様。大家のアレンです。今日は集まってくれてありがとうね」
アレンがマイクに向かって呑気に語りかけると、神々も悪魔も、王様たちも一斉に背筋をピンと伸ばして耳を傾けた。
「今日は難しい話をしに来たんじゃなくて、今期の決算報告と、みんなへの『配当金』の発表をしに来ただけだから。肩の力を抜いて聞いてよ」
アレンがパチンと指を鳴らすと、クロエが操作するホログラム画面に、巨大なグラフと数字が映し出された。
「それでは、決算の報告をさせていただきますわ」 クロエがスラスラと説明を始める。
「今期、全次元統合リゾートの運営、ならびにクリーン魔導インフラのライセンス収入により得られた純利益ですが……天界・魔界・地上の過去1万年分の国内総生産(GDP)の合計を、およそ千倍以上上回りましたわ」
「「「せ、千倍ぇぇぇっ!??!?」」」
会場全体から、悲鳴にも似た驚愕の声が上がった。
「つきましては、筆頭株主であるアレン様のご意向により、各世界への『決算配当金』ならびに『社員・住民還元バフ』を以下のように執行いたします」
1.【天界】:老朽化した全神殿の無料改修、ならびに全天使への「特別ホワイト賞与(極上魔導エネルギー)」の支給。 2.【魔界】:全魔物の食料自給率百パーセント化、ならびに「お化け屋敷・サファリ特別歩合給」の全額即日支給。 3.【地上界】:全加盟国の税率ゼロ化、ならびに医療・教育・インフラ維持費の完全無料化。
「な……税率ゼロだと!? 医療も教育も無料なのか!?」 「我々の食料が……飢えに苦しむ必要が金破無くなったというのか!?」 「神殿が修繕され、無給残業もないなんて……! 神よ、いやアレン様ぁぁぁっ!」
会場は一瞬にして、割れんばかりの歓喜と涙の渦に包まれた。 神も悪魔も人間も、立ち上がって抱き合い、お互いの健闘を称え合っている。
「さらに、来期からの追加福利厚生として――」 クロエは不敵に微笑み、続けた。
「全次元の全住民に対し、年3回の『完全有給リゾート休暇(全額アレン様負担)』を義務化いたしますわ」
「「「うおおおおおおおおっ!!! アレン様万歳!! 大家様万歳!!!」」」
地鳴りのような歓声が体育館ほどのホールを揺らした。 かつて武力で世界を支配しようとした神々や魔王たちが、アレンの提示する圧倒的な「配当と福利厚生」の前に完璧に屈服し、心からの忠誠を誓った瞬間であった。
壇上の横でその光景を見ていた主神ゼウスと魔王バアルが、感極まったように頷き合っていた。
『ふ……見事なものだな、バアルよ。我々が数千年間、血を流して争ってきたのが馬鹿らしく思えるわ』 『うむ……武力で力づくで抑え込んでも、得られるのは怨嗟だけ。だがアレンは、金と美味しい飯と休みで世界を平和にしてしまった……。完敗だな』
「あ、二人とも。お疲れ様。ほら、今日の株主総会記念の特製どら焼き、食べる?」 アレンが二人に向かって、焼きたてのどら焼きを差し出した。
『「いただきます!!」』 神と魔王が、一糸乱れぬ動きで同時にどら焼きに飛びつく。
「ふふっ、アレン様。大成功ですね!」 傍らでリリアが嬉しそうにアレンの服の裾をぎゅっと掴み、エメラルドグリーンの瞳を輝かせた。
「そうだね、リリア。これでみんなが笑顔になってくれたなら、一番だよ」
アレンは会場を満たしている満面の笑みを見渡しながら、心からの満足感を覚えていた。 前世で社畜として使い潰され、孤独に死んでいった自分。 だが今、目の前には、自分が与えたホワイトな環境で幸せそうに笑う無数の人々がいる。
世界を買収した男の、究極の「平和への答え」。 株主総会は誰一人として異議を唱える者なく、満場一致の拍手喝采の中で、大成功のうちに幕を閉じたのであった。
決戦(?)は株主総会! 神々と悪魔を従える最強アレン




