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悪逆王の無茶ぶりがすべて村の発展に変換される件について 〜実は我が村、地下帝国と化して王国経済を乗っ取り中〜  作者: チラミン


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#40 【番外編】敏腕秘書クロエの休日〜影の天秤と、甘いカフェタイム〜

天界の不動産差し押さえ、魔界の債務整理とダンジョンリゾート化。

三界を揺るがす巨大プロジェクトが次々と大成功を収め、アレンの地下帝国は過去最高益を更新し続けていた。


そんな怒濤の日常の中、とある穏やかな午後のこと。

地下帝国の最高級ショッピングモールにある、クラシックなジャズが流れるカフェテラスに、一人の美女の姿があった。


黒髪を流麗にまとめ、シックなボルドーのブラウスを身に纏った女性――かつて王国財務省の天才官僚であり、現在はアレンの筆頭秘書を務めるクロエである。


いつもなら仕仕立ての良いスーツを着込み、分厚い書類の山と格闘している彼女だが、今日のテーブルの上にあるのは書類ではなく、アンティークのティーカップと、可愛らしい焼き菓子が載った三段のスタンドであった。


「ふう……。たまには、このような時間も必要ですわね」


優雅に紅茶を一口含み、ほっと一息をつくクロエ。

今日はアレンから「クロエ、最近働きすぎだから絶対に休んで。今日仕事をしたら罰金ね」と半ば強制的に与えられた、久々の完全休日であった。


(アレン様は本当に甘い方……。ですが、その甘さに救われているのは、私自身なのですけれど)


ふっと目を細め、サクサクのスコーンにクロテッドクリームを塗りながら、クロエはアレンと出会った頃の記憶に思いを馳せる。


かつての自分は、王国財務省の最年少官僚として国の財政を支えていた。だが、悪逆王による無茶な重税政策に真っ向から反対し、王側近の不正の証拠を掴もうとした結果、無実の罪を着せられて「最も過酷で貧しい最果ての辺境村」へと永久追放されてしまったのだ。


絶望の中、泥にまみれて死を待つだけだと思っていたあの辺境の村で出会ったのが――過労死寸前で前世を終え、ただ静かに引きこもりたいだけの男、アレンだった。


『へえ、君が王都から来た財務の専門家? 頼りになりそうだね。俺、難しい計算とか嫌いだから、これ好きに使って数字の管理お願いしていい?』


出会った初日に、国家予算レベルの金券(カルマポイント)をあっさりと預けてきたあの呆れた顔を、今でも鮮明に覚えている。


「あの時は本当に頭が痛くなりましたわ……。『この村の年間予算の千倍近い金額を、なぜ一個人が持っているのですか!?』と、開いた口が塞がりませんでしたもの」


アレンの繰り出す「カルマポイント製インフラ」は、いつもクロエの官僚としての常識や論理を木っ端微塵に粉砕してきた。

一口食べれば病気が治る万能野菜、蛇口をひねれば無制限に湧き出る温泉とバフつきの聖水、果ては天界や魔界すらも合法的に買い叩く『影の天秤』商会の巨大な資本力。


王国の腐敗に絶望していたクロエにとって、アレンのあまりにも規格外で狂った設備と、どこまでもホワイトで温かい理念は、何よりも眩しく、そして救いそのものだったのだ。


「国家の予算を数千億単位で計算していた私が、今や神々と悪魔の財政を再建し、全次元の経済圏を動かすことになるとは……人生とは分かりませんわね」


自嘲気味に微笑んだその時だった。


「あの、すみません……! クロエ様ですよね!?」


カフェの横を通りかかった若い女性商人(かつて地上の貧困街からアレンの雇用支援でやってきた元難民)が、目を輝かせて駆け寄ってきた。


「はい、そうですが……?」

「やっぱり! いつもアレン様のお隣で素晴らしい差配をされているクロエ様! 私、クロエ様に憧れて商会の入社試験を受けたんです! 今日の『魔界リゾートの店舗展開計画』も、クロエ様の作ったマニュアル通りにやったら大成功して……! 本当に、私達のヒーローです!」


女性商人は感極まった様子で何度も頭を下げ、去っていった。

周囲を見渡せば、テラス席のあちこちから、従業員や住民たちが憧れと尊敬の眼差しをクロエに向けているのが分かった。


「……ヒーロー、ですか」


冤罪を着せられ、すべてを奪われて辺境に捨てられた自分が、誰かの希望になっている。

それもすべて、自分を信じて全権を委ねてくれたアレンのおかげだった。


「……まったく。お休みをいただいたというのに、頭の中がアレン様でいっぱいになってしまうなんて」


クロエは少し照れたように頬を緩めると、用意していた小さな小箱を取り出した。

中に入っているのは、今日の休日に自分の足で歩き回り、地下帝国の職人たちと試作を重ねて作り上げた『アレン様専用・特製高級ビターショコラ』だ。


「甘いものがお好きなアレン様ですが、最近はデスクワーク続きでお体も心配ですから……砂糖控えめで、ポリフェノールたっぷりの極上品に仕上げましたわ」


自分のための休日のはずが、結局のところ、アレンの喜ぶ顔を想像しながら過ごしてしまっていたのだから世話はない。


「さて……そろそろ帰りましょうか」


紅茶を飲み干し、優雅に立ち上がるクロエ。

秘書としての自分も、一人の女性としての自分も、すべてはあの愛しい主(アレン)のためにある。


* * *


ペントハウスへ戻ると、リビングでは相変わらずの光景が広がっていた。


「あー、クロエ! お帰り! ちゃんと休めた?」

ソファでシロを膝に乗せたアレンが、ゆるい笑顔で出迎えてくれる。


「ええ、アレン様。おかげさまで、非常に有意義な休日を過ごさせていただきました」

クロエはしとやかに微笑み、手に持っていた小箱をアレンに手渡した。


「これ……? もしかして、お土産?」

「ええ。アレン様の健康を考えた特製ショコラですわ。お仕事の合間に召し上がってください」

「わあ、ありがとう! クロエのくれるものって、いつもセンスが良くて助かるよ」


さっそく箱を開け、ショコラを口に運んだアレンが「うわ、すごく美味しい……!」と目を輝かせる。

その無邪気な笑顔を見ただけで、胸の奥がじんわりと温かくなるのをクロエは感じていた。


「ふふっ、喜んでいただけて何よりです。……さあ、アレン様。充分に充電させていただきましたので、明日からの『天界・魔界・地上三界統合経済圏』の立ち上げ、一気に進めますわよ」


「えっ、あ、うん! お願いしますクロエ秘書長!」


眼鏡のツルをクイッと押し上げ、完璧な笑みを浮かべる天才秘書。

彼女の冴えわたる算盤と、アレンの規格外なカルマポイントがある限り、この地下帝国の繁栄が揺らぐことは決してないのだ。


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