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悪逆王の無茶ぶりがすべて村の発展に変換される件について 〜実は我が村、地下帝国と化して王国経済を乗っ取り中〜  作者: チラミン


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#4 追放された天才令嬢〜王からの新たな無茶振りと、絶望の新顔〜

「あああっ! お慈悲を、どうかお慈悲をぉぉぉ!」


枯れ果てた大地に、村長の悲痛な叫び声が響き渡る。

彼は地面に這いつくばり、泥水に顔を擦り付けながら、天を仰いでボロボロと涙を流していた。その周囲では、他の村人たちも同じように頭を抱え、絶望に打ちひしがれたような悲鳴を上げている。


「おしまいだぁ……私たち、もう生きていけないよぅ……」


俺の隣では、ツギハギだらけの麻袋を着たリリアが、見事な嘘泣きを披露していた。両手で顔を覆いながら肩を震わせているが、指の隙間から覗くエメラルドグリーンの瞳は、ちっとも悲しんでなどいない。

それどころか、彼女の頬は地下での豊かな食生活のおかげでほんのりと桜色に色づき、肌はツヤツヤだ。それを隠すために、今朝も念入りに竈の灰と泥を顔に塗りたくってきたのだから、大した役者魂である。


ここは地上。悪逆王カルロス三世が支配する、地獄のような辺境の村。

俺たちが『秘密の共有』をしてから、数日が経過していた。

夜は地下帝国で王侯貴族のような贅沢を極め、日が昇れば地上に戻り、悲惨な貧困村の住人を演じる。その二重生活は、驚くほどスムーズに村に定着していた。


そして今日、村に新たな『ボーナスイベント』がやってきたのだ。


村の中央広場には、土煙を上げてやってきた王都からの使者が立っていた。

前回の三流徴税官ガーリックではなく、豪奢な馬車に乗って現れたのは、冷酷な目つきをした王宮の文官だった。周囲には、王家直属の近衛兵が十数人も控えている。


「静まれ、底辺のウジ虫ども」


文官が羊皮紙の巻物を広げ、冷ややかな声で宣告した。


「先日の金塊の献上、国王陛下はいたく喜ばれた。貴様らのような辺境のゴミ溜めにも、まだそれほどの富が眠っていることが証明されたからな」


(ほら見ろ。俺の言った通りだろ?)

俺は地面に膝をつきながら、隣で震えるふりをするリリアに目配せをした。リリアも小さく頷き返す。

悪逆王は、あの純度100%の金塊を見て完全に目が眩んだのだ。これでもっとむしり取れる、と。


「よって、陛下より新たな命を下す。この村の西に広がる『呪われた森』――あそこに棲み着いているという『森の主』を討伐せよ。そして三日以内に、その極上の毛皮と魔石を王都へ献上するのだ。もし期日までに果たせねば、貴様らが金塊を隠し持っていた罪を問い、この村を火の海にしてくれる」


その宣告を聞いた瞬間、村人たちの悲鳴は一段と大きくなった。


呪われた森。

そこは、王国軍の精鋭ですら生きて帰れないと言われる、凶悪な魔獣たちの巣窟だ。そこに棲む『主』となれば、単なる災害に等しい。

武器はおろか、まともな農具すら持たないただの村人に、三日以内にそれを狩ってこいと言うのだ。

それは事実上の「死刑宣告」であり、金塊を出し渋る(と王都は思っている)村への、究極の脅迫だった。


「ひ、ひぃぃぃ! 村が焼かれる! みんなくい殺されちまうだぁぁぁ!」


村長が白目を剥いて地面を転げ回る。その迫真の演技に、近衛兵たちは汚いものでも見るように顔をしかめていた。


一方、俺の頭の中では、歓喜のファンファーレが鳴り響いていた。


《極大の理不尽・国家による虐殺行為の強制を検知しました》

《算出対象:民間人に対する災害級魔獣の討伐強要、および理不尽な連帯責任(村の焼き討ち)》

《算出完了――理不尽度数:測定不能(極大+)》

《被害想定額および精神的苦痛を【カルマポイント】に即時変換します》


《獲得ポイント:50,000,000 pt》

《現在のカルマポイント残高:57,800,000 pt》


(五千万ポイント……ッ!!)


俺は歓喜のあまり吹き出しそうになるのを必死に堪え、唇を噛んで下を向いた。

ただの嫌がらせレベルだった前回とは違い、今回は明確な「死の強要」だ。王の傲慢と理不尽さがスケールアップしたことで、カルマポイントの獲得量も一気にインフレを起こしたのだ。


これだけのポイントがあれば、地下に巨大な商業施設でも、娯楽施設でも、なんだって作れる。現代のゲームセンターだろうが、映画館だろうが思いのままだ。

王様の無茶振り、最高すぎる。


「泣き叫ぼうが喚こうが、王命は絶対だ。せいぜい命がけで森を這いずり回るのだな」


文官は鼻で笑うと、背後の兵士たちに顎でしゃくった。

兵士たちが馬車の後方に繋がれていた鉄格子の檻を開け、中から一人、泥まみれの人間を引きずり出して地面に放り投げた。


「きゃっ……!」


地面に倒れ込んだのは、小柄な女性だった。

美しい銀色の髪は埃にまみれて絡まり、着ているのは村人たちと同じような粗末な麻の服。手首には重々しい手枷がはめられている。

だが、その泥だらけの顔立ちの端正さと、姿勢の良さは、彼女が元々こんな辺境にいるような身分ではないことを物語っていた。


「おい、その女を置いていく。王国の反逆者だ」

文官が吐き捨てるように言った。


「その女は元・財務省の官僚、クロエ。若き天才などと持て囃されていたようだが、国王陛下の素晴らしい税制改革に異を唱え、あろうことか陛下の個人的な財産を『不正な搾取』などと非難した大逆人だ」


文官の言葉に、俺は少しだけ目を細めた。

王国の無茶な税制に反対した? この狂った国で、王に向かって正面から正論をぶつけたというのか、この細腕の令嬢が。


「陛下は慈悲深くも、この生意気な小娘の命を奪うことはなさらなかった。貴様らのような底辺のゴミどもと共に、この最果ての地で一生泥をすすって生きる権利を与えられたのだ。せいぜい、仲良く森の主に食われるがいい」


文官は下劣な笑い声を上げながら馬車に戻り、兵士たちと共に土煙を上げて王都へと引き返していった。


馬車の影が見えなくなるまで、広場には静寂が落ちていた。

地面に投げ出された銀髪の令嬢――クロエは、ゆっくりと顔を上げ、焦点の合わない虚ろな瞳で周囲を見回した。


「あ、ああ……」


彼女の唇から、絶望の吐息が漏れる。

クロエの灰色の瞳には、信じられないほどの絶望が渦巻いていた。元・財務官僚というエリートの頭脳は、目の前の光景を瞬時に、かつ冷酷に分析してしまったのだろう。


乾ききった不毛の土壌。

倒壊寸前のあばら家。

そして、泥だらけで怯えたように身を寄せ合う、痩せこけた村人たち(※演技中)。


(終わった……私の人生は、ここで終わるのね……)

彼女の心の声が聞こえてくるようだった。


王国の財政を正し、民を救いたい。その一心で寝る間も惜しんで働き、不正の証拠を集めた。だが、結果は無実の罪を着せられての永久追放。

たどり着いた先は、今まさに王の気まぐれで「魔獣の餌」にされようとしている、余命三日の貧困村だった。


「私の、正義は……何の意味も、なかった……」


クロエはついに耐えきれなくなったように両手で顔を覆い、ボロボロと大粒の涙をこぼし始めた。

自分の無力さへの悔しさと、これから待っているであろう餓死、あるいは魔獣に引き裂かれる凄惨な未来への恐怖。天才的な頭脳を持っているからこそ、その絶望の解像度はあまりにも高すぎた。


「うっ、ぐすっ……こんな、こんな便槽のような村で……一生を終えるなんて……神様、あんまりです……!」


彼女が地に伏して号泣し始めた、その時だった。


「――よし、完全に姿が見えなくなったな」


俺の合図とともに。

さっきまで白目を剥いて地面を転げ回っていた村長が、「よっこらせ」と軽快な動きで立ち上がった。


「いやぁ、冷たい土の上は腰にくるわい。それにしてもアレン、今のワシの泣き叫び方、どうじゃった? 王都の劇団員にも負けとらんじゃろ?」

「ええ、最高でしたよ村長。百点満点です。特に最後の絶望した顔なんて、芸術的でした」

「ふぉっふぉっふぉ! 伊達に毎晩、地下のシアタールームで映画を見て研究しておらんからな!」


村人たちが次々と立ち上がり、ポンポンと服の泥を払い始める。

「あーあ、またお風呂入り直さなきゃ」「今日の晩ご飯、ハンバーグがいいなー」などと、さっきまでの絶望感が嘘のような、呑気な会話が飛び交い始めた。


「え……?」


号泣していたクロエが、ピタリと動きを止めた。

涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げ、信じられないものを見る目で村人たちを凝視する。


「な、なに? なんで……あなたたち、さっきまで死ぬほど怯えて……」


混乱の極みにあるクロエの前に、俺とリリアが歩み寄った。


「お疲れ様です、クロエさん。王国での正義の味方ごっこ、大変でしたね」

俺が手を差し出しながら言うと、クロエはビクッと肩を震わせた。


「あ、あなたは……?」

「俺はこの村のアレン。まあ、村の裏の責任者みたいなものです」

「裏……? あなたたち、頭がおかしくなってしまったの……? 三日後に、森の主を倒さないと皆殺しにされるのよ!? それなのに、どうしてそんなに平気な顔を……」


パニックに陥りかけるクロエの横で、リリアがポケットをごそごそと探り、紙に包まれた何かを取り出した。

そして、クロエの顔の前にスッと差し出す。


「はい、これ。さっき地下で焼いたばかりの、特製クッキー。甘いもの食べたら、少しは落ち着くよ」

「く、くっきぃ……?」


クロエは呆然としながら、無意識にそれを受け取った。

黄金色に焼き上がった、バターと蜂蜜の濃厚な香りが漂う厚焼きのクッキー。こんな最果ての貧困村に、いや、王宮の厨房にすら存在しないレベルの、完璧な焼き菓子の匂いだった。


「な、なぜ……こんなものが、ここに……?」


極度の混乱と、空腹。

クロエは震える手でクッキーを口に運び、小さく齧った。

サクッ、という軽快な音とともに、極上の甘さが彼女の脳髄を殴りつける。


「――――っ!?」


クロエの灰色の瞳が、限界まで見開かれた。

あまりの美味さに思考がショートした天才令嬢を見下ろし、俺はニヤリと悪党のような笑みを浮かべた。


「王国に見捨てられて絶望するのは分かりますけど、早まらないでくださいよ。俺たちの本当の村は、こんな地上のゴミ溜めじゃない」

「え……?」

「ようこそ、辺境の貧困村へ。長旅で疲れたでしょう。まずは地下の大浴場――『サウナ』で、極上の汗を流してきませんか?」


王国経済を知り尽くした天才官僚。

彼女が俺たちの地下帝国(裏アカウント)の真の恐ろしさと、底なしの快適さに敗北し、完全に堕落するまで――あとわずか数時間の命だった。



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