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悪逆王の無茶ぶりがすべて村の発展に変換される件について 〜実は我が村、地下帝国と化して王国経済を乗っ取り中〜  作者: チラミン


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#34 グランドオープン! 湯けむりイハカ第2テーマパーク

かつて空を覆っていた鉛色の排気ガスは嘘のように晴れ渡り、突き抜けるような青空が広がっていた。

無骨で殺風景だった鉄鋼の建造物群は、その堅牢な骨組みを活かしつつ、色鮮やかな塗装とガラス張りの近代的なリゾートホテルへと見事なリノベーションを遂げている。

街のあちこちから湧き出るのは、軍事工場の黒煙ではなく、ほのかに硫黄の香りが漂う真っ白な温泉の湯けむりだ。


「わぁぁっ! アレン様、見てください! あそこの巨大な鉄塔、ウォータースライダーになってますよ!」


麦わら帽子に純白のサマードレスを着たリリアが、目を輝かせながら指を差した。

彼女が指さした先にあるのは、かつてイハカ連邦が誇った最終戦略魔導兵器『滅国巨神(アポカリプス)』である。動力源である魔力を絶たれ、ただの巨大な鉄クズと化していたその兵器は、現在、全身をパステルカラーに塗られ、腕や足の関節から幾重にも連なる巨大なスライダーを張り巡らされた『絶叫ジャングルジム&プールタワー』として第二の人生(?)を歩んでいた。


「うんうん、せっかくの巨大建造物だし、解体するのもお金がかかるからね。再利用(リサイクル)はエコの基本だよ」

「さすがは大家様! 無駄のない素晴らしい資産運用ですわ!」


アレンはリゾート地特有の緩い服装(大きめのシャツにハーフパンツ)で、冷たいフルーツジュースを飲みながら頷く。その隣では、黒い水着の上に薄手のパレオを羽織ったクロエが、相変わらず手元のホログラム端末で売上データを弾き出しながら絶賛していた。


ここは、本日グランドオープンを迎えた『イハカ温泉&サファリリゾート(第2テーマパーク)』。

ブラック軍事国家として大陸中から恐れられていたイハカ連邦の跡地は、アレンの暴力的なまでの資金力(カルマポイント)と、クロエの容赦ない経営手腕によって、世界最大規模の複合レジャー施設へと完全に生まれ変わっていた。


「アレン様! あっちにすごく面白いクマさんのマスコットがいます! 一緒に写真撮ってきてもいいですか!?」

「いいよ。でもあんまりイジメちゃダメだよ、リリア。中の人も『色々と』大変なんだから」

「はーい!」


元気に駆け出していくリリアの先には、炎天下の広場で、子供たちに囲まれて風船を配るピンク色の丸っこいクマの着ぐるみがいた。

着ぐるみはどこか動きが鈍く、時折「ヒィィ……」というくぐもった悲鳴のような息遣いが漏れているのが分かる。


『お、おいガキども……風船を持ったらさっさと向こうへ行かんか。わ、私は休け――』

「あっ、クマさん! 私にも風船ください! それから、この前のサーカスで見たバク転、クマさんもできますよね!? ねっ!?」

『ば、バク転だと!? 無茶を言うな小娘! この中が何度になっていると思っているんだ、サウナよりも暑いんだぞ! ええい、引っ張るな! しっぽを引っ張るなァァッ!』


無邪気な笑顔でクマの着ぐるみを振り回すリリア。

その着ぐるみの中で、元・イハカ連邦総統ガルバが、滝のような汗と涙を流しながら絶望のどん底を味わっていることなど、客の子供たちは知る由もない。


「ふふっ、ガルバ総統もすっかり人気者ですね」

「一日十二時間労働の過酷なシフトですが、給料は歩合制でしっかり支払っていますからね。彼がかつて搾取してきたエルフたちの苦痛に比べれば、生ぬるいほどのホワイト待遇ですわ」


クロエが冷たく眼鏡を光らせながら言うと、アレンは苦笑いを浮かべた。

ガルバの借金は二兆ポイント。この着ぐるみアルバイトだけで完済するには、おそらく数百年はかかる計算だが、アレン特製の『疲労回復ポーション』を毎晩飲まされているため、過労で倒れることすら許されないのだ。まさに、健康的に一生働き続けるという真の地獄である。


* * *


「お待たせいたしました、アレン社長! 皆様! 本日の特製ウェルカム・ドリンク、『真夏のトロピカル・マナ・カクテル』でございます!」


プールサイドのVIP用パラソルの下でくつろぐアレンたちの元へ、一人の屈強な男性が満面の笑みで歩み寄ってきた。

アロハシャツの胸元をはだけさせ、サングラスを頭に乗せ、真っ黒に日焼けしたその男は、手にした銀色のトレイに色鮮やかなグラスを並べている。


「ありがとう、バグラム。すっかり板についてきたね」

「はっはっは! もったいないお言葉です!」


かつてイハカ連邦軍のトップとして君臨していた総司令官・バグラム中将であった。

以前の彼は、常に眉間に深いシワを刻み、胃薬を片手に部下を怒鳴り散らす神経質な軍人だった。しかし今はどうだろう。全身から溢れ出る陽のオーラ、白い歯を輝かせる眩しい笑顔。すっかり南国のリゾートマネージャーそのものである。


「いやぁ、アレン社長の商会に拾っていただいてから、長年悩まされていた胃潰瘍が嘘のように治りましてね! 朝は小鳥のさえずりで目覚め、美味しい朝食を食べ、お客様の笑顔のために汗を流し、夜は定時で上がって温泉に浸かる……。人間らしい生活とは、かくも素晴らしいものだったのですね!」

「それは良かった。軍隊の指揮より、ウェイターの方が向いてたみたいだね」


「はい! 誰かを傷つけるための作戦を練るより、どうすればお客様が喜んでくれるかを考える方が、何百倍も充実しております! 来月からは有給休暇を使って、妻と娘をこのリゾートに招待する予定です!」


バグラムが熱弁を振るう横で、水着姿でプロテインをシェイクしていたオリビアが、深く頷いた。


「素晴らしいぞ、バグラム! トレイを持つその姿勢、広背筋から指先まで一直線に力が伝わっている! 我がブートキャンプで徹底的に体幹を鍛え上げた成果だな!」

「ありがとうございます、オリビア隊長! 隊長の千回スクワットに比べれば、繁忙期のホール業務など準備体操にもなりません!」


元敵国の将軍と、自国の騎士団長(脳筋)が、プロテインとトロピカルドリンクで乾杯し、肩を組み合ってガハハと笑っている。

あまりにも平和でカオスな光景に、アレンは平和の尊さを深く噛み締めていた。


「しかしクロエ、こんなに人員をホワイト待遇にして、色々と最新設備まで導入しちゃったけど……経営の方は大丈夫なの? 流石に今回はポイントもかなり使ったし、少しは赤字になってない?」


アレンがストローでカクテルを啜りながら尋ねると、クロエは手元の端末を操作し、空中に巨大なホログラムのグラフを投影した。


「ご心配には及びません、アレン様。こちらが、今期の『影の天秤』商会の決算報告となります」

「えーっと……グラフの線が、上を突き抜けて天井まで行っちゃってるんだけど。これ、どういう見方するの?」


「端的に申し上げます。今期の我が商会の純利益ですが……先ほど正午の時点で、この大陸に存在する『全国家の国家予算合計』を上回りましたわ」


「…………ぶっ!?」

アレンは口に含んだカクテルを盛大に噴き出した。


「ぜ、全国家の予算合計って……この大陸全部の!? ちょっと待って、温泉とサファリパークの売上だけでそんな天文学的な数字になるわけないだろ!?」

「ええ。リゾート部門の利益も凄まじいですが、大きな要因は『インフラと特許の独占』です。イハカ連邦が長年培ってきた軍事魔導技術……そのすべてを、我が商会が平和的産業向けに特許申請し、各国へライセンス販売を開始いたしました」


クロエは冷徹な笑みを浮かべ、淡々と説明を続ける。


「例えば、戦車用の魔導エンジンを『安全な民間用バス』の動力として転用。毒ガス散布用のドローン技術を『大規模農場の自動水やり機』として販売。これらの特許料が、毎秒単位で我が商会の口座に転がり込んでおります。さらに、解体した軍事施設の数百万トンに及ぶ特殊鋼材をリサイクル市場に流したことで、莫大な現金収入を得ました」

「お、おう……」

「結果として、イハカ連邦の旧国民たちは全員が超富裕層向けのサービス業に従事し、給料は前職の五倍。街は潤い、犯罪率はゼロ。お客様も最高のサービスに満足してリピーターとなる……完全なる『富の永久機関』が完成いたしましたわ」


軍事国家を解体し、その技術と労働力をすべて平和産業に全振りする。

言葉にすれば簡単だが、それを一国を丸ごと買い取って実行してしまうアレンの規格外の力と、クロエの容赦ない搾取(主に他国からの)システムの賜物であった。


「……もう、俺が一生遊んで暮らしても使い切れないどころか、世界を買える金額になってるよね、これ」

「はい。アレン様が望まれるなら、明日には隣の帝国を現金で買い取ることも可能ですわ」

「絶対やらないからね。俺はスローライフがしたいんだから」


アレンは呆れたように息を吐き、パラソルの下で大きく伸びをした。


* * *


夕暮れ時。

空が美しい茜色に染まる頃、一行はリゾートホテルの最上階にあるVIP専用の特大露天風呂にいた。

最高級の魔導大理石で作られた湯船からは、リゾート全体と、その向こうに広がる手つかずの大自然を一望できる。


「はぁ〜……極楽、極楽。やっぱり、ひと仕事終えた後の温泉は最高だね」


アレンは湯船の縁に頭を乗せ、だらりと手足を伸ばしていた。

彼の頭の上では、白いポメラニアンの姿に偽装した神話級の魔獣、フェンリルのシロが器用に丸まって居眠りをしている。温泉の熱気が心地よいのか、時折「くぅ……」と寝息を立てていた。


「アレン様ぁ〜!」


そこへ、脱衣所の方からバスタオルを巻いたセレスティアが小走りで駆け寄ってきた。

一族の救出を経て、少しは族長らしく落ち着いたかと思いきや、その慌てん坊ぶりは相変わらずである。


「アレン様! 私、お背中をお流ししま――あっ!」


ツルッ。

案の定、温泉の成分で滑りやすくなっていた大理石の床で見事に足を滑らせたセレスは、宙を舞い、頭から真っ逆さまに湯船へとダイブした。


ドッボォォォンッ!!


「ぷはぁっ!? ご、ごほっ、ごほっ! ま、またやってしまいました……っ!」

「ははは、大丈夫? セレスさん。お湯は逃げないから、そんなに急がなくてもいいよ」


盛大な水しぶきを上げてずぶ濡れになったセレスに、アレンは笑いながらタオルを差し出した。

その隣では、同じくお湯に浸かっていたリリアが「セレスさん、頭にアヒルのおもちゃ乗ってますよー!」と無邪気に笑い、オリビアはお湯の中でも空気椅子(スクワット状態)をキープして「ふんっ! ふんっ!」と謎の鍛錬を続けている。クロエは防水仕様のタブレットを持ち込み、まだ何か仕事のデータを眺めていた。


「みんな、本当にお疲れ様」


アレンは夕日に照らされたリゾートの街並みを見下ろしながら、ポツリと呟いた。

元々は、自分がのんびりと引きこもって暮らすための地下シェルターを作るはずだった。それがいつの間にか難民のエルフを保護し、悪徳企業を潰し、ついには一国を丸ごと買収して巨大なテーマパークを作り上げてしまった。


予想外の連続だったが、結果としてこれだけ大勢の人間(とエルフと魔族)が笑顔で暮らせる場所ができたのだ。

カルマポイントの使い道としては、間違っていなかっただろう。


「これでイハカ連邦のゴタゴタも全部片付いたし、しばらくは何も起こらない平和な日々が続くだろうな。毎日温泉に入って、美味しいものを食べて、お昼寝をする……俺の究極のホワイト・スローライフ、堂々の完成だ」


アレンが満足げに目を閉じ、頭の上のシロも同意するように「ワン」と小さく鳴いた。

温泉の温もりと、夕暮れの穏やかな風が、彼らの身体を優しく包み込んでいく。


最強の大家と、その個性的すぎる店子たちが織りなす、規格外の国家買収劇。

イハカ連邦編は、誰も血を流さず、誰も不幸にならない(一部の元ブラック指導者を除く)最高のハッピーエンドと、天文学的な利益を生み出して、堂々の大団円を迎えたのであった。


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