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悪逆王の無茶ぶりがすべて村の発展に変換される件について 〜実は我が村、地下帝国と化して王国経済を乗っ取り中〜  作者: チラミン


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#10 王都の依存と地下の宴〜さあ、王国を買い占めようか〜

「さあさあ、今夜は無礼講じゃ! 王都の豚どもを完膚なきまでに騙し通した快挙を祝って――カンパーイ!」


村長のダミ声が響き渡り、地下帝国のメインホールに設置された大スクリーンシアタールームで、一斉にグラスが打ち鳴らされた。


カチャン! と清らかな音が重なり合う。

さっきまで地上で泥水をすすり、雑草を貪っていた「貧困村の住人たち」の姿はどこにもない。

最新のバブルバスとスパエリアで綺麗さっぱり泥と汚れを洗い流し、ポイントで生成された清潔で肌触りの良い室内着に身を包んだ彼らは、ホールの至る所に設置された豪華なソファーやテーブルを囲んでいた。


ホールの真ん中にどんと鎮座するのは、全長十メートルを超える巨大なカウンターテーブルだ。

その上で目にも止まらぬ素早い手つきで寿司を握っているのは、アレンがポイントで新設した『全自動・高級寿司握りプラント』――見た目は粋な職人風のヒューマノイドロボットである。


「はい、大トロ一丁! サーモン炙りマヨ一丁!」

「うひょー! このマグロって魚、口に入れた瞬間に脂がとろけるぞい!」

「私、このウニってやつがお気に入り! 臭みが全然なくて甘いんだもん!」


板前ロボットから次々と差し出される、新鮮そのものの極上寿司。地上では王宮の晩餐会ですらお目にかかれないレベルの海の幸に、村人たちは頬を膨らませて歓声を上げている。


「アレン、見て見て! シロもすごく嬉しそう!」


リリアが満面の笑みで指差した先では、ポメラニアンサイズに縮んだ幻獣シロが、専用の特大黄金ボウルに顔を突っ込んでいた。

ボウルの中に盛られているのは、高級A5ランク和牛のローストビーフを贅沢に刻んだ特製肉丼だ。


「わふっ! ワフワフッ!(うまい! うますぎる! 俺、この村の犬になって本当によかった!)」

シロは千切れんばかりに短い尻尾をブンブンと振り回し、口の周りをタレだらけにしながら猛烈な勢いで肉を平らげている。


その横のソファーでは、サウナハットを脱ぎ捨てて髪を乾かしたクロエが、完全にリラックスした姿勢で深く腰掛けていた。

片手にはキンキンに冷えたコーラの入ったクリスタルグラス。もう片方の手には、握り立ての『炙りエンガワ』が握られている。


「んん〜っ……! このエンガワのコリコリとした食感と、炙られた脂の香ばしさ……そしてそれをコーラの強力な炭酸で一気に洗い流す爽快感……っ! 完璧ですわ……これぞまさに文明の頂点……!」


うっとりと目を細め、頬を染める元・天才財務官僚。

地上で「こんな村で死ぬのは嫌ぁぁ!」と迫真の号泣を見せた悲劇の令嬢と同一人物とは、誰も思わないだろう。


「クロエさん、さっきの演技、本当に迫力あったよ。王都の役人、本気でドン引きしてたもん」

リリアがクレープを一口かじりながら笑うと、クロエはグラスのコーラを上品に(しかし豪快に)飲み干して、胸を張った。


「ふふん、当然ですわ。彼らのような上っ面しか見ない愚か者を騙すなど、赤子の手をひねるようなもの。……それよりアレン様、大スクリーンでカラオケを始める村人たちのテンションが凄まじいことになっていますけれど」


クロエが指差した前方の大スクリーンには、現代の最新カラオケシステムが映し出されていた。

マイクを握りしめた村長が、大画面に流れる映像とテンポの速いアップテンポな曲に合わせて、ノリノリで腰を振っている。


「「「ワシらの村は〜! 地下で天国〜! 王都の役人は〜! 馬鹿ばっかり〜!!」」」

「「「イエーイ!!」」」


村人たちが手拍子を打ち、タンバリンを叩いて大合唱している。もはや貧困村の悲壮感など欠片も存在しない、完全に出来上がった大宴会場だった。


「まあ、今日くらいは思い切り羽を伸ばさせてやろう」

俺は肘掛けに寄りかかり、手元のグラスを軽く揺らした。


地上では「生きる屍」のフリをして役人を追い払い、地下では最高級の寿司とカラオケに酔いしれる。この圧倒的なギャップと背徳感こそが、俺たちの地下帝国の日常なのだから。


* * *


同時刻――王都、カルロス王宮。


豪華絢爛な装飾が施された大謁見の間には、重苦しい沈黙と、どこか安堵したような雰囲気が漂っていた。


玉座に深々と腰掛け、金杯を手に不機嫌そうな顔をしているのは、悪逆王カルロス三世。

その御前で、平伏しているのは、昼間アレンたちの村から逃げるように帰還した特別税務視察官ヴォルクと、大商人バアルだった。


「……ほう。では、あの最果ての村には、何一つとして価値のあるものは残っていなかったのだな?」


カルロス三世が地響きのような低い声で問う。


「は、はいっ! 陛下!」

バアル商人が汗を拭いながら、必死の形相で頭をこすりつけた。


「あそこは正真正銘の地獄でございます! 住人どもは餓死寸前で正気を失い、泥水をすすり、雑草や毒キノコを貪り食べておりました! 前回の金塊や幻獣の素材で、奴らの隠し財産と余力は完全に底をついたと断言できます!」


「左様でございます、陛下!」

ヴォルク視察官も追従するように言葉を重ねる。


「あの村が王都を騒がせている謎の『裏商会』と繋がっているなど、とんでもない言いがかりでございました。あのような死に体の大地、あと数ヶ月もすれば勝手に全滅することでしょう。これ以上の調査や税の徴収など、出張費の無駄に過ぎません!」


「ふは……ふははははっ!」


二人の報告を聞いたカルロス三世は、満足そうに腹を抱えて高笑いを上げた。


「そうか! あのゴミどもめ、身の程知らずにも余に献上物を出したせいで、ついに干上がったか! 素晴らしい! これぞ余の偉大なる治世の成果よ!」


悪逆王は豪快に金杯のワインを飲み干した。


「よし、あの村は放置しておけ! 勝手に野垂れ死ぬ様を笑いぐさにしてやるわ! 我らは王都のさらなる発展と、裏市場から買い占めたあの『至高の物資』で宴を催すぞ!」


「御意にございます、陛下ぁ!」


悪逆王も、目の前で頭を下げる役人たちも、何一つ気づいていなかった。

自分たちが「完全に騙され、無害な存在として切り捨てた貧困村」こそが、今まさに王都の喉元を締め上げている『裏商会』の正体であるということに。


そして――王宮の廊下を歩くバアル商人は、視察官の耳元でニヤリと下劣に囁いた。


「ヒヒヒ……ヴォルク殿。あの村に何もなくて安心しましたな。さあ、今夜も『影の天秤』の闇市へ向かいましょうぞ。あの商会が持ち込む『純白の米』と『高純度の魔石』がなければ、我が商会の貴族向けビジネスも成り立ちませぬからな」


「ええ、分かっていますとも。どれほど価格が吊り上がろうと、あの極上品だけは手に入れねばならん……いくら金を積んででもな!」


王都の支配層たちは、すでにアレンたちの地下帝国が生み出す「快適さと物資」の毒に、骨の髄まで侵されていた。

自分たちが汗水垂らして民から絞り取った金貨や土地の権利書が、巡り巡って「あの貧困村の地下にあるゲーム機や豪華な食事」へと変換されていることなど、夢にも思わずに。


* * *


深夜。地下帝国のプライベートラウンジ。


カラオケで盛り上がる村人たちの歓声を遠くに聞きながら、俺たちは小さな円卓を囲んでいた。


クロエが最新の水晶型データ端末を操作すると、空中には王国の立体地図と、数え切れないほどのグラフや数値がホログラムとして浮かび上がった。


「アレン様、王都の潜入調査員(変装した村人)からの最新レポートが届きましたわ」


クロエは眼鏡をくいと押し上げ、不敵な笑みを浮かべた。


「視察官とバアルは、王宮で完璧な嘘の報告をしてくれたようです。これにより、地上での我が村への警戒レベルは『ゼロ』にまで低下しました。王都の連中は、私たちが勝手に餓死するのを高みの見物決め込むつもりですわ」


「計画通りだな」

俺は満足げに頷いた。


「ええ。ですが、真に滑稽なのはここからです」

クロエが細い指先でホログラムのグラフをタップする。


「現在、王都の裏市場に流通している『最高級の食料』の八割、そして『高純度魔石』の九割が、我が闇商会『影の天秤』が供給しているものです。王宮の貴族や大商人どもは、我が商会の極上品なしでは日々の贅沢どころか、魔導具の維持すらできない状態に陥っていますの」


「へぇ〜! じゃあ、王都のお金持ちたちは、みんなアレンの作ったものに頼ってるんだね!」

リリアが感心したように目を丸くする。


「頼っている、などという生ぬるい表現では生ぬるいですわね」

クロエはコーラの入ったグラスを軽く揺らし、紫煙ならぬコーラの泡を愛おしそうに見つめた。


「彼らはすでに『依存』しているのです。そして我が商会は、物資の対価として金貨だけでなく、王国の『穀倉地帯の土地権利書』『鉱山の採掘権』さらには『王宮兵站(食料供給)の流通パス』を着々と回収しています。……現在、王国の物流と金融の約三割が、実質的に我が地下帝国の管理下にありますわ」


「三割か。想像以上のスピードだな」


「ふふふ……元財務官僚の分析力を舐めてもらっては困りますわ。王国の経済構造など、穴だらけのザルと同じです。このままいけば、あと数ヶ月で王国の『胃袋』と『財布』を完全に握り潰すことができますわ」


クロエの灰色の瞳に、妖しいまでの知性と、ほんの少しの悪徳の光が宿る。

ポテトチップスとサウナで堕落したポンコツ令嬢は、その圧倒的な頭脳を「自分たちの快適な生活を守るため」だけにフル回転させ、国家という巨大な怪物を裏から解体しつつあった。


その時、俺の視界の端にシステムウィンドウが静かにポップアップした。


《第一章・展開ミッション【経済的足がかりの確立】完了》

《王国の主要流通ルートの完全把握および、隠蔽拠点の絶対的安全を確保しました》

《累積カルマポイントが規定値を突破しました》


《現在のカルマポイント残高:210,000,000 pt》

《【第二章:王国買収編】の機能が解放されます》


「二億ポイント、か」


思わず口から漏れた数字に、隣でシロのお腹を撫でていたリリアが「に、におく……?」と引きつった声を上げた。


これだけのポイントがあれば、地下帝国にさらに巨大な都市を築くことも、王国の国家予算を何十回と丸呑みすることも容易い。


悪逆王カルロス三世は、俺たちを「最も過酷で貧しい辺境の村」へ追放し、絶望の中で死ぬことを望んだ。

だが、彼が理不尽な命令を下せば下すほど、俺の手元には膨大なポイントが転がり込み、そのポイントが生み出す圧倒的な物資とインフラによって、王国の足元は確実に崩れていく。


王様、あんたが俺たちをこの村に捨ててくれたおかげで、俺たちは今、人生で一番楽しい時間を過ごせているよ。


「さて」

俺はテーブルの上のグラスを持ち上げ、クロエとリリアに向かって掲げた。


「表向きは、泥水をすする最下層の貧困村。だが裏では……王国を丸ごと買い叩く影の支配者だ」


クロエがニヤリと悪魔のような笑みを浮かべ、自分のグラスを重ねてくる。

「ええ、アレン様。美味しい新作ポテトチップスと、快適なサウナ生活のために……さあ、次は王国の兵站(食料供給)を完全に買い占めて、あの愚王をすっぽんぽんにして差し上げましょうか」


「ワフッ!」

シロも賛同するように力強く吠えた。


カチャン!


グラスとグラスがぶつかり合い、冷えたコーラがシュワリと弾ける。


悪逆王が自らの首を締め上げていることなど露知らず。

最果ての貧困村による、痛快で、圧倒的で、最高に贅沢な「地下からの下克上」は――いまや誰にも止められない領域へと踏み出していた。


(第一章・完)


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