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待状09 -家庭教師サークルの小さな世界 14

三人(みつにん)が執務室(オフィス)へ戻った頃には、他の者たちの準備はあらかた整っていた。机の上には教材が几帳面に積み上げられており、この短い離脱が元々のリズムを乱すことはなかったようだ。古珞鸒(グー・ローユー)が顔を上げ、彼らの間へ視線を巡らせると、気遣うような調子で尋ねた。

「劉張三(リウ・ジャンサン)はどうだった?」


于奕孺(ユー・イールー)はクスッと笑みを浮かべ、皆を安心させるように言った。

「大丈夫、ちゃんと会ってきたわ。ただ酷く疲れている様子で、やたらと眠がっていたけれど」


鄭愷苑(ジョン・カイユエン)はそれを聞くと、まず安堵の息を漏らしたが、すぐにその『眠がっていた』という言葉に何かを捉えられたように、声のトーンをわずかに硬くした。

「無事なら良かったけれど……でも、眠気ね……」

言葉を最後まで言い切らず、何かを連想したかのようだった。


潘穎嫆(パン・インロン)の反応はさらに早かった。彼女は顔を上げた。

「まさか……催眠能力を持つ傀儡師(くぐつし)なんじゃ……?」


古珞鸒はしばし考え込み、どこへ繋がるか分からない糸をゆっくり解きほぐすように、平坦な声で言った。

「その可能性もあるけれど——誰かが劉張三の精力を吸い取っているから、彼が疲労を感じているという見方もできるわね」


聞き終えた陳硯之(チェン・イエンジー)の声からは、不安が消え去ることはなかった。

「じゃあ理由がどうあれ……とにかく劉さんは狙われているってことですね」


于奕孺は肩をすくめた。その口調に揺らぎはない。

「狙われていることと、催眠をかけられているかどうかは別問題よ——受ける影響が違えば、対処法も変わってくるわ」


その時、宋知行(ソン・ジーシン)が掛け時計に目をやった。

「まずは授業を始めよう——今日は全員が無事に教室へ入ったことを確認しないと」


誰も異論は唱えなかった。各自手元の教材をまとめると、出口へと移動し始めた。


于奕孺は列の中ほどを歩き、順番に一人ひとりをそれぞれの教室のドア前まで見送り、全員が中に入ったことを確認してから、自身の担当場所へと向かった。


案の定、彼らの動きを目にした湯志傑(タン・ジージエ)が興味深そうに近づいてきた。彼は于奕孺から手渡されたメモ用紙を受け取り、視線を落としてサッと目を通した——そこに書かれていたのは、コマ替え(授業の入れ替え)の時間だった。彼は何も言わずにメモを小さく折りたたむとポケットに押し込み、監視室の方角へと歩き出した。


二日目となる今日、彼と劉張三は比較的自由であり、固定の授業スケジュールもなければ、特定の場所に留まる義務もなかった。規定の巡回時間にあらわれ、記録をつけさえすれば良いのだ。

もし修繕が必要な場所があれば、彼に一声かけて劉張三に処理させれば済む話だった。


授業開始にともない、廊下から人の姿がまばらになり始め、教室のドアが次々と閉められていった。


劉張三は、湯志傑から渡されたスケジュール表と警備員の巡回時間を交互に見比べ、数字の列に視線を何度も往復させた。そして口を開いた。

「お前の巡回時間……ちょうどコマ替えの時間と被ってるな」


湯志傑は頷き、至極当然といった風に言った。

「だからお前のところに来たんだよ」

一拍置き、補足するように続ける。

「ルールは固定でも、人間は柔軟に動くものだろ。コマ替えの時間帯は廊下が一番混乱するし、一番事件が起きやすい。もしその時間に異状がなければ、外に出て様子を見てくれ。ついでに例の怪しい場所も調べてきてほしい」


そう言われ、劉張三の視線は変化のない数面の監視モニターへと注がれた。画面には相変わらず誰もいない空っぽの廊下が映し出されており、何ひとつ異状はない。過去数時間とまったく同じ光景だった。彼は少し沈黙してから頷いたものの、どこか微かなためらいを滲ませていた。


湯志傑は背を向けて立ち去ろうとしたが、ドアの脇でふと足を止めた。振り返って劉張三を見ると、その顔に妙な表情が浮かんでいるのに気づいた——ボーッとしているのではない。何かの考えが頭の中で何度も反芻されているような顔だ。


「どうした?」

湯志傑が尋ねた。劉張三は驚いたように一瞬固まった。見抜かれるとは思っていなかったらしい。手中のメモを置くと、何とも言えない決まずさを漂わせた声で言った。

「……どうにも不気味なんだ」


湯志傑は少し考え、声を和らげた。

「罠なんじゃないかと疑ってるのか?」


劉張三は黙り込み、机の上に視線を落として自身の記憶を再点検しているようだった。やがて口を開いたその声は、先ほどよりも低かった。

「マネージャーは知っていたはずなんだ——」

言葉を一度切る。

「あの引き継ぎの際、あいつが俺に業務を言いつけてきた時……」

最後まで言い切らなかった。

「……なのに、何一つ言及しなかった」


湯志傑は好奇心を刺激されたように尋ねた。

「言わなかったのに、どうしてマネージャーが知ってると言えるんだ?」


劉張三はすぐには答えなかった。彼は顎で監視モニターの方を示してみせた。『あの画面を見ろ』と言わんばかりに。数台の画面は相変わらず誰もいない空虚な廊下を映し出し、通行人もなく、音すらない。劉張三はその日のマネージャーの挙動を回想しながら言った。

「あいつはあの画面をじっと見ていた……だが何も言わなかった」

少し間を置く。

「それから『気をつけろ』とだけ俺に言ったんだ」


劉張三は腑に落ちないといった表情を浮かべた。

「その時から妙だと思ってたんだ——じゃなきゃ、俺がこんなに早くあの異変に気づくはずがないだろう?」


湯志傑は顎をさすった。

「つまり……お前を故意に誘導していたと?」


劉張三の頷きに躊躇はなかった。

「その可能性は高いと思う」


その答えを聞いた瞬間、湯志傑は手を下ろし、明らかに不機嫌な口調になった。

「なら、さっき話してた時にどうして言わなかったんだ?」

一字一字、真剣に問い詰める。

「もし俺のせいで、お前が酷い目に遭ったらどうするつもりだったんだよ?」


劉張三の顔に申し訳なさそうな色が浮かんだ。先ほどの躊躇を弁明するように言った。

「考えすぎかと思ってな……」

彼は再び監視モニターに目をやった。

「それにあの場所は……お前たちが『偽物の俺』を見つけた場所じゃない」

無用な心配をかけたくないというのは、いかにも彼らしいやり方だった。


湯志傑は沈黙し、その『考えすぎ』の度合いを再評価するかのようだった。しかしダンジョン(副本)においては、全員の命を救うのは往々にして直感である。

人間の生存と危険回避の遺伝子は、常に潜在意識の中に眠っているのだ。


湯志傑は考え込み、ふと奇妙なことに気づいた。彼は顔を上げて劉張三に言った。

「おかしいな……なぜか俺とお前は同じ時間にマネージャーから仕事の指示を聞いたはずなのに、今の俺にはあいつの印象がほとんど残ってないんだ」


劉張三はそれを聞くや否や、食い気味に言葉を返した。その声には焦りが混じっていた。

「俺がずっと言えずにいたのもそれなんだ! 俺もあのマネージャーの印象がさっぱりない。どういうわけか女性だったことしか覚えてなくて、どんな顔をしていたか思い出せないんだ。それどころか、どんな役職の人間だったのかさえ見当がつかない」

彼は一拍置き、さらに声を低くした。

「一番おかしいのは……あいつはその後、一度も俺たちの前に現れないし、次の指示も寄こさないことだ。まるで突然消え失せちまったみたいに」


湯志傑は不安を募らせた。

「たった昨日の出来事だぞ……」


二人は相談の上、手分けして行動することにした——劉張三はそのマネージャーの行方を捜し、湯志傑は自身の持ち場に戻って周囲の動静に気を配る。


湯志傑が警備員室へ差し掛かると、遠くに一人の女性が立っているのが見えた。人を待っている風でもなく、様子を伺っている風でもない佇まいだった。彼は反射的に時刻を確認してから、足取りを早めて近づいて行った。


「すみません、ちょっと用事で外していまして——」

彼女の前に立ち、警備員らしい丁寧な口調で言った。

「何かご用でしょうか?」


女性が振り返った。湯志傑はひと目で見覚えがあると感じたが、どこで会ったのか思い出せない。さらに妙なことに、彼女が振り返ったその瞬間、猛烈な眠気が波のように押し寄せてきた。あくびが出そうになったが、彼は必死で堪えた。あまりにも不自然な眠気だった。彼は不審に思いながら、女性の顔立ちを静かに観察した。


「最近、この塾は新しい講師に入れ替わったのかしら?」

女性が尋ねた。不躾な調子ではなかったが、あらかじめ準備されていた質問であることは察しがついた。


湯志傑は笑みを浮かべ、礼儀正しく返した。

「私はただの警備員ですので、そちらの事情は詳しくなくてですね」

彼は頭を少し傾けた。

「保護者の方ですか?」

一拍置き、自然な口調で言った。

「お若いですね——小学生や中学生のお子さんがいらっしゃるようには見えませんが」


女性は観察されるのを嫌がるように、引きつった笑みを浮かべた。

「……ただ好奇心で聞いたまでよ」

だが、彼女は立ち去ろうとしなかった。湯志傑は彼女に去る気配がないことに気づいた。その場に留まること自体が、すでに『ただの好奇心』とは矛盾していた。


何より彼女は警備員室の目の前に立っている。湯志傑は社交辞令の口調を維持するしかなかった。

「よろしければ……塾の方へご案内しましょうか?」


女性は慌てて首を振った。その動作は先ほどよりも素早かった。

「いいえ、塾の人たちを煩わせるほどでは……」

話し方を緩め、不自然に聞こえないよう配慮しながら言った。

「本当に、ちょっと気になっただけだから」


湯志傑は返事をしなかった。その場に立ち尽くし、彼女の顔を見つめた。確かに見覚えのある顔だったが、先ほど劉張三と話していたあのマネージャーではない。あのマネージャーは眼鏡をかけていなかったはずだ。


女性は湯志傑がじっと自分を見つめたまま答えようとしないのを見て、わずかに体を背向けた。

「それじゃいいわ、失礼するわね」

だが彼女が背を向けた瞬間、湯志傑は再び猛烈な眠気に襲われた。まるで何かが彼女の身体から拡散し、空気をつたって自身の意識の輪郭へと染み込んでくるかのようだった。あくびが弾けそうになったが、口を開く寸前でその反応を押し殺した。


「講師たちのことがお知りになりたいなら、お教えできなくもありませんよ」

彼は眠気に浚われそうになる集中力を繋ぎ止めるように、ゆっくりとした口調で言った。

「ただし、理由を教えていただく必要がありますが」


その言葉は、果たして女性の足を止めさせた。彼女が振り返る。その答えがようやく彼女の真の関心事に触れたかのようだった。表情に大きな変化はなかったが、声は先ほどよりもかすかに軽くなっていた。幾重もの探りの言葉の中から、本当の問いを取り出すように。

「ただ知りたいだけよ……その中に『彼女』がいるかどうかを」

声は先ほどよりも小さく切り詰められ、何かに気づかれまいとしているかのようだった。


湯志傑はすぐには返さなかった。眠気が引き引いていくのを感じていた。彼は彼女を見つめ、変わらぬ落ち着いた調子で尋ねた。

「『彼女』とは、誰のことですか?」


女性は呆然とした。湯志傑が自分の言う『彼女』を理解できないとは思っていなかったらしい。当然通じると思っていた言葉が届かなかったかのように、彼女の表情は固まっていた。


湯志傑の胸がキュッと締め付けられた。まさか……このダンジョンにおける特別なキャラクターなのか?

彼はその思いを顔には出さず、穏やかな口調を保ったまま『知っているが敢えて言わない』というような表情を巧みに作り、相手が先に手の内を明かすのを待った。


女性はうつむいた。その声はさらに小さくなっていた。

「……何でもないわ。行くわね」

振り返る動作に躊躇はなく、終わらせることを決めたようだった。


湯志傑は引き止めなかったが、口を開いた——決して早くはないが、一字一字を普段より重く踏みしめるように。彼は経文を唱え始めた。その経術は『邪』に対してのみ用いるものだったが、今回は相手の正体が露わになるのを待つことなく、彼女の体内に何か反応するものがないかを確かめるべく先手を打ったのだ。


経文が空間に落ちると、確かに空気の境界が揺らいだ。女性の足取りは止まらなかったが、その反応は予想以上に激しいものだった——角を曲がる直前、彼女は猛然と振り返った。その瞳には抑えきれない怒りが浮かんでいた。亀裂から溢れ出るかのように急速に表面へ湧き上がり、そして自ら即座にそれを呑み込んだ。

湯志傑の視線はその顔に一瞬でロックオンされた。そして、彼はついに思い出したのだ。目の前の顔と完全に合致した。

「……葉(イエ)執事か!?」


その三文字は、触れてはならないスイッチを押してしまったかのようだった。女性の動きが止まり、表情は怒りから空白へ、そして呆然とした状態からパニックへと変わった。彼女は背を向けると一目散に走り出した。先ほどとは比べものにならない素早さで、逃亡するように廊下の端に沿って急速に姿を消した。痕跡すら残さずに。


湯志傑は追わずにその場に立ち尽くしていた。彼の動揺も彼女に負けず劣らず酷いものだった——先ほど識別した顔のせいで、頭の中に疑問が濁流となって押し寄せていたからだ。


葉執事——それは以前の『情詭(じょうき)』のダンジョンに登場したキャラクターだった。ここにいるはずのない存在だ。すでに処分されたはずだった。だが彼女は現れた。現代の服を纏い、まるでこの塾に長く勤めている人間であるかのように。それでいて、誰の目にも留まらない絶妙なタイミングで彼の視界に現れたのだ。

眠気は完全に吹き飛んでいたが、新たな疑問が彼の頭を痛ませ始めた。


違う。湯志傑の思考が跳ねた。記憶の奥底から一本の糸が手繰り寄せられる——あの女、葉執事の狙いは最初から自分ではない。彼女の狙いは、あの『夫人』と瓜二つの人物。古珞鸒(グー・ローユー)だ。


彼は本能的に程晉陽、宋知行、顧長安、于奕孺らの教室のドアを力任せに開け放ち、中に飛び込んで叫びたい衝動に駆られた。

『ローユーが危ない! 葉執事がまた現れた! また夫人を狙おうとしてるぞ!』

だが、そんなことはできない——授業を中断すればフロア全体を驚かせ、あの女に正体が破れたことを悟られてしまう。長思案することなく、彼は監視室へと走り出した。重い足音が響き、彼が通り過ぎるたびに廊下の照明が短く明滅した。加速するリズムに同調するかのように。


彼は監視室のドアを力任せに押し開けた。ドアパネルが壁に激突し、鈍い音を立てる。驚く劉張三の視線の中、湯志傑はまだ荒い息を殺しきれない声で叫んだ。

「俺がさっき誰を見たと思う!?」


劉張三が言い返そうとした——「知るかよ」の「か」を口にする前に、湯志傑の目つきが変わったのに気づいた。驚きではない、警戒だ。劉張三は彼の視線を追ってドアの方角を見た——ドアの脇に、そこにいるはずのない影が立っていた。

湯志傑が連れてきたわけでも、元から部屋にいたわけでもない。一具の傀儡(くぐつ)だ。女性の姿をしている。部屋の中でずっと待っていたかのように静まり返り、動きもせず、音も立てない。だがその視線は、監視室にいる二人をしっかりと捉えて離さなかった。


「気づかれたからには……」

声はドアの方角から響いた。低くはあるが、凝縮されたシグナルのように二人の間の隙間に落ち、霧散することも部屋の静寂に吸収されることもなかった。

「——生かしてはおけませんね」


劉張三の反応は言葉よりも早かった。傀儡が湯志傑の側面に迫るより早く身体を滑り込ませ、足高く蹴り上げて女性の傀儡を元の場所から弾き飛ばした。容赦のない力任せの一撃を受け、傀儡は床に叩きつけられて鈍い音を立てた。だがその四肢が折れることはなく、構造上の制約を持たない物体のように、すぐさま体勢を立て直そうとしていた。


湯志傑はその女性傀儡の状態を確認するために振り返りはしなかった。彼の視線はすでに部屋の左上の壁面にロックオンされていた——そこに張り付く小型の影。人型よりも薄く小ぶりで、四肢を壁の角と天井の隙間に密着させている。

彼は間置かずに呪文を唱え始めた。スピードは普段より早く、確認済みの手順を最短の時間へ凝縮させるかのように。動こうとするその影を、未だ途切れぬ声の波で足止めする。小型の傀儡は壁の角で微かに震えた。目に見えぬ境界に阻まれたかのように、元の場所から動けなくなった。


「二匹か!?」

湯志傑の視線は壁角に縫い付けられた小型の傀儡から離さなかったが、敵の総数を把握したがっていた。


「違う!」

劉張三はすでに湯志傑の隣へと戻っていた。彼の声は極限まで低く、覗き見られているような寒気を孕んでいた。

「ドアのところにもう一匹いる——廊下の光と影の境目に立っているんだ。十メートルほど離れた場所で、動きもせずこちらを見つめている。そしてもう一匹……」

彼は言葉を詰まらせ、喉仏を上下させた。

「潜んでいる奴がいる。場所は特定できないが……『いる』んだ」


まさにその時、小型の傀儡が湯志傑の予想を超える速さで術を破った。壁の角から跳ね上がった瞬間、圧縮されたスプリングのように天井の縁に沿って短い弧を描き、湯志傑の頭部側面へと突き進んできた。それがどこへ落ちるか判断する時間などなかった。


「伏せろ!」


その声は、彼自身の反射神経よりも早く届いた。声の主を確認する暇もなく、体が先に動いていた。頭上を圧縮された空気の渦がかすめていくのを感じた。直後、ペンデュラム(霊擺)の描いた弧が小型の傀儡に命中した。接触の瞬間、硬い物体が空洞を叩くような短く甲高い音が響いた。すると傀儡は内部から支えを失ったかのように接触点から内側へ縮み、細かな破片となって床へ飛び散った。


湯志傑が顔を上げると、于奕孺がドアの前に立っていた。その手の中でペンデュラムの糸が微かに揺れており、収めきれぬ力の余韻を漂わせていた。


劉張三の声に明確な驚きが混じる。

「授業の方は大丈夫なのか!?」


于奕孺はペンデュラムを腰のポーチへ収めながら、息を整えるように答えた。

「私のは絵の授業よ」

監視モニターへ視線を走らせる。大半の画面には変わらず誰もいない廊下が映し出されており、異状がないことを確認して、彼女は半分胸を撫で下ろした。

「生徒には『お腹が痛いからトイレに行く』と言ってきたわ」

彼女は話し方を緩めた。

「速戦即決よ。説明が終わったらダッシュで教室へ戻らなきゃならないんだから」


小型の傀儡の破片が床に散乱していた。于奕孺は破片から視線を外した。再構築は不可能だと確信すると、残る二匹の傀儡へと向き直った。


監視室の照明は変わらず灯り、破片は床に散らばったままだ。于奕孺がペンデュラムを収めた時も、まだ息は完全に整っていなかった。劉張三の声が横から飛ぶ。緊張を緩めない確認だった。

「まだ三匹いるぞ」

言葉が落ちるやいなや、室内の空気の流れが目に見えない境界によって再調整されたかのようだった——氷藍色の光の影が、ドアと監視卓の間の空隙に忽然と姿を現した。予兆もなく、足音もなく、まるで最初からそこに存在していたかのように、その瞬間に初めて姿を視認させたのだ。


その霊獣の姿はしなやかで軽やかで、狐のようであり狼のようでもあった。四肢は細いが確かな力強さを感じさせる。額には一本の青玉色の独角が生えており、先端は微かに上を向き、蛍光灯の下で安定した冷たい光を放っていた。背中には三対の羽翼が重なり合い、縁はごく淡い藍色の光沢を帯びている。羽毛の配列は精巧に調整された構造のようで、静止した装飾でもなければ、今広げられたばかりの姿でもない。

その動作には音がなく、部屋全体の周波数がその進入によって再校正されたかのようだった。周囲の空気は一時的に静止し、全員の視線がその境界の輪郭へと引き寄せられた。


残る二匹の傀儡は、移動を完了させる間もなく粉砕された——目に見えぬ力で内部から支えを奪われたかのように、接触の瞬間に形体が瓦解した。破片が床へ散らばる。余計な音もなく、痕跡すら残さずに。


劉張三の動作が止まった。声が喉に引っかかったまま、出せずにいた。

「……なんて美しいんだ」

手が宙で止まる。消えゆくその形体に触れたいかのように、だが指先を近づけることすら恐れ多いかのように。その存在を汚してしまうことを恐れるかのように。


湯志傑の反応はより直接的だった。手はまだ微かに震えていたが、抑えきれない感嘆の声を漏らした。

「なぁ……もう一度見たい」


霊獣はその称賛に応えることはなかった。蛍光灯の下で数秒間その姿を維持すると、自身の縁に沿って内側へと収縮し、空気の中へ消え去った。痕跡ひとつ残さずに。


于奕孺は手を下ろし、肩で息をしながら言った。

「もう授業に戻るわ」

彼女は二人の顔を振り返らなかった——だがドアの前で足を止め、振り向かずに一言付け加えた。

「今度から、こんな無茶な戻り方をさせないで頂戴ね」

そうして彼女は監視室を出て行った。足を緩めることなく、廊下に沿って教室の方角へ素早く走り去った。


湯志傑の視線は未だ霊獣が消えた場所に釘付けになっており、大真面目な逡巡を混じえて言った。

「なぁ……俺が今から陳硯之みたいになったら、祖師様に軽蔑されると思うか?」


劉張三は一瞬呆気にとられた。突拍子もない問いに驚いたらしい。

「お前、師門を裏切る気か!?」


「違う!」湯志傑は慌てて否定し、捲し立てた。「太鼓持ちになりたいだけだ!……もう一度だけでいいから見せてほしい。本当に綺麗だった!」


劉張三は迷わず彼の後頭部を叩いた。力は強くなかった。

「バカ言手ないで、真面目な話をしろ」

彼は言葉のテンポを落とした。

「さっき何を言おうとしてたんだ?」


そう言われ、湯志傑は自分が飛び込んできた本当の理由を思い出した。言おうとして、急に不都合を感じた。彼は顔を傾け、劉張三の耳元へ低く囁いた。周囲に未確認の異状がないか確かめるように、故意に声を落として。

「……ハニー、手を貸してくれ」


劉張三は彼を睨みつけた。変顔をしているのを見て冗談ではないと悟ると、手を差し出し、警戒を含んだ声で釘を刺した。

「しょうもない事だったら……骨を叩き折るからな」


湯志傑は答えなかった。彼はうつむき、指先で劉張三の掌に素早く幾つかの文字を書き走らせた。筆数は少なく、力も弱かったが、相手にその形を識別させるには充分だった——『葉』『執』『事』。

その三文字が掌に落ちた瞬間、劉張三の背筋を冷たいものが走り抜けた。見えない体温に触れられたかのように、緩やかに広がる未完成の形体が、その軌跡に沿って自身の輪郭を再描画していく——あの顔が目に見えるようだった。記憶から浮上したのではない。目に見えぬ隙間から這い出し、目の前で再構築されているかのようだった。

彼は視線を無理やり引き戻した。その再構築されつつある光景が止まったかどうか、振り返って確認することはしなかった——一目でも見れば、あの存在が完全に実体化し、隙間からこの部屋へ這い入ってくると直感したからだ。


「……確かに、口に出さない方が良いこともあるな」

劉張三の声は囁き声に近く、息だけのように聞こえたが、一つひとつの言葉が歯の隙間から絞り出されていた。覗き見られた後の冷や汗を伴って。

「特に俺とお前の間では、多くを語る必要はない」


彼はゆっくりと五指を握り締め、その三文字と寒気を掌の中に押し込め、拳を作った。力が入って指節が白くなる。その動作は保護ではなく、封印だった——抉じ開けられた記憶の亀裂を、強引に押し潰して閉じるための。


湯志傑は彼が拳を握るのを見つめ、自身も沈黙した。先ほどの「太鼓持ち」などというふざけた言葉が喉に突っかかり、口の中がカラカラに乾いていた。彼はもう霊獣のことも、祖師様のことも口にしなかった。ただ劉張三の視線に倣い、床の破片を見つめていた。あたかもそこに全ての謎を解くコードが隠されているかのように。数秒後、彼は同じくらい低い声で呟いた。自分自身に、そして劉張三に聞こえるように。

「あの女……絶対にまだ『見て』いるぞ。感じるんだ」

一拍置き、無意識に自分の掌を擦った。

「あの女は……あの存在(霊獣)を恐れている。だから傀儡を差し向けて探りを入れ、邪魔者を『掃除』しようとしたんだ。俺たちはさっき、あの存在に守られたわけだが……同時に、より多くのものを晒してしまった」


劉張三は答えなかった。ただ緩やかに拳を解いた。掌の三文字の痕跡は消え去り、淡い白指の跡だけが残っていた。しかしあの女の顔を、彼はすでに刻み込んでいた。


まもなく、湯志傑は巡回に向かわねばならなかった。去り際、劉張三が再び念を押した。

「気をつけろよ」

湯志傑は短く応じると、階段の方角へ向かって歩き出した。足音は廊下に沿って遠ざかり、やがて完全に消え去った。


劉張三は監視室のドアの前に立ち、すぐにはドアを閉めなかった。視線をショッピングモール左手の方角へ巡らせる——コマ替えまであと十分ほど。廊下の生徒たちはまだ動き出しておらず、いくつかの監視モニターの画面にも何の異状もあらわれていない。

だが、ひとつだけ引っかかることがあった。さっき部屋を出た時、あの猛烈な眠気が確かに和らいだのだ。気のせいではない。慣れ切っていた圧力が、あのドア枠を跨いだ瞬間にふっと緩んだのだ。

彼はそこに立ち、眉をひそめた。胸中で先ほどの出来事を反芻する——あの傀儡は、突如として監視室の中に現れた。廊下から入ってきたわけでも、誰かが連れ込んだわけでもない。部屋の中で発生したのだ。最初からそこに存在し、彼が気づくのを待っていたかのように。

彼は思わず考え込んだ。監視室そのものが、一連の異象の発生源なのではないかと。


劉張三は監視室の外に立ち、すぐには立ち去らなかった。ドア枠の内側にあるモニターの列に視線を落とし、何度も目にしておきながら一度も真剣に読み解こうとしなかった光景を、改めて審視した。


なぜ監視室なのか? 風水か? それとも電子機器のせいか?

突如、彼はNASAの『パラレルワールド(鏡像世界)』の仮説を思い出した——SFではなく、物理学界における宇宙のもうひとつの解釈だ。ビッグバンの際、我々の世界とは完全に反対で、時間が逆行する『鏡像世界』が生まれたのではないかという推測である。以前、ネットの噂話として聞いたことがあったが、当時は聞き流していただけで真に受けてはいなかった。


だが今、ここに立ち、整然と並ぶ画面を見つめていると、その仮説が役立つかもしれないと思えてきた。画面は鏡ではない——だが光を反射する。映像を捉え、信号を変換し、光景を再現する。『鏡像世界』への亀裂が本当に存在するならば、入口を開くために完全な鏡など必要ないのではないか。モニターの表面であっても、似たような機能を果たし得る——鏡ほど鮮明ではないにせよ、『反射』という条件は満たしている。

彼は『情詭』のダンジョンの最後の部屋を思い出していた。壁一面の鏡、部屋中に広がる倒影、そしてあの女——葉執事。もし監視室のモニターがあれと似た効果を発揮できるのだとしたら、彼女の出現はもはや『偶然』などではない。


劉張三は視線を引き戻し、二度と監視室の中を見ようとはしなかった。


この発見を、一刻も早く他の皆に伝えなければならない。自分の推測がダンジョンの進行を加速させ、他の者たちが何も知らぬまま手遅れになるのを恐れたからだ。

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