待状09 -家庭教師サークルの小さな世界 08
翌朝、古珞鸒は自然と目を覚ました。今回の自分の回復具合の早さに少々驚きつつ、隣のベッドに目をやると、すでに空になっていた。
彼女はベッドを降り、ドアを開けた。まだ完全に覚めきらない視線が、まず居間の中央へと落ちる。于奕孺がソファに腰掛け、膝の上にノートを広げていた。すでにかなり前から起きていたかのようだ。そして彼女の対面では、男たちがずらりと一列に並び、腕立て伏せに励んでいた。まるで同じ指令によって同期制御されているかのように、その動作は異様なほど整っている——程晉陽のテンポはすこぶる安定しており、宋知行の動きは速くはないものの非常に標準的で、このところ継続して鍛錬を積んできたことが見て取れた。顧長安の動作は明らかに身体にしみついた慣れたものであり、陳硯之のフォームはまだ完璧とは言えないものの、必死に食らいついている。列の末端には劉張三、湯志傑、唐衍之の姿もあった。
古珞鸒はドア枠の縁に佇んだ。「……?」
まだ頭が完全に回っておらず、ずらりと並んだ男たちと于奕孺の間で視線を往復させながら、しばし状況が飲み込めずにいた。
于奕孺が顔を上げ、まずパッと明るい笑みを浮かべた。
「あら? 起きたの?」
それから男たちの方へと向き直り、トーンを変えずに言い放つ。
「気を抜くんじゃないわよ。恥ずかしがる必要なんてない、続けなさい」
古珞鸒は小さく首を傾げ、腕立て伏せを続ける男たちの列を一巡するように見やった。寝起き特有のややかすれた声で尋ねる。
「これは……一体どういうことかしら?」
于奕孺はソファに深々と腰掛けたまま、どこか誇らしげに口を開いた。
「肉体だけでなく、魂だって修練できるでしょう? だから彼らにまず基礎のトレーニングをさせているのよ」
古珞鸒はその言葉にハッとさせられたように、口元を微かに動かした。深い笑みではないものの、確かな納得がそこに浮かぶ。
「まさかそういうことだったとはね」
彼女は記憶を掘り起こすように言った。
「確かに、これを知る人はあまり多くないわ。けれど身体に運動記憶を刻み込んでおかなければ、副本の中で魂魄を強化することなんて不可能なのよ」
それを聞き、于奕孺は深く頷いた。
「だからこそ、起きたらすぐに鍛錬しろと言ったのよ——さもないと自分の気が洩れてしまうもの」
古珞鸒は反対しなかった。「あなたもよく知っているわね、お疲れ様」
彼女は厨房の方向へ一瞥をくれ、声を少し潜めた。「朝食の準備かしら? 私、お粥が食べたいわ」
床に伏せた陳硯之の息の上がった声が、途切れ途切れに伝わってきた。荒い息遣いの中にも明瞭さが残る。
「宋さんが……もう準備してくれましたよ。昨夜、ルオユーさんが少ししか召し上がらなかったから……今日は腹ペコになるんじゃないかって心配して……」
于奕孺はノートから目を上げ、容赦のない口調で注意を促した。
「これだけの人数の中で一番体力が無いくせに、一番お喋りね。腕立て伏せを続けなさい」
陳硯之は苦笑し、それ以上は何も言わず、体を沈めて次のセットへと向かった。
古珞鸒の視線が宋知行の上に落とされた。少し間を置いてから、静かに口を開く。
「ありがとう」
宋知行は顔を上げ、彼女の表情や胸中を確かめるように視線を交わすと、穏やかに応じた。「気にしないで」
朝の体能訓練が一区切りつき、于奕孺は彼らを解散させた。
劉張三はすぐには立ち去らず、彼女の脇に立ち、尋ねた。
「俺の耐久度はどれくらい数値化できる? 魔詭本みたいな凄惨な場所でだ」
于奕孺はノートをパタンと閉じ、淡々と言い放った。
「すぐに眠くなったり、頭が重く腫れ上がるようになるでしょうね。あそこの濁気は強烈だもの」
少し離れた場所に立っていた湯志傑がそれを聞きつけると、顔に少しばかり不服そうな色を浮かべた。
「じゃあ『種』ってのは、生まれつきそういう副本に適した体質だってことなのか?」彼は一拍置き、「陳硯之の奴でさえ俺たちより幾分マシなんだろ——あいつなんてたかが『附属種』に過ぎないってのに」
于奕孺は首を横に振って説明した。
「あの子はあなたたちより少しマシという程度よ。忍耐強さという意味では確かに優れているけれどね。いくら附属種と言っても、半ぶんは『種』の血を引いているのだから」
彼らのやり取りを聞き、古珞鸒は昨夜の出来事を思い出した。すぐさま于奕孺に確認をとる。
「彼らに軽く説明してあげたの?」
于奕孺は頷いた。
「耐受性についてなら話しても問題ないわ。濁気に抗うための要となる部分だし——それに現在の感染の広がりを見れば、遠からず一般人にも波及するわ」彼女は言葉を切り、視線を陳硯之へと向けた。「硯、覚えているわね? 後で頼むわよ」
陳硯之は背筋をピシッと伸ばし、任務を授かったことを喜ぶかのように威勢よく言った。
「任せてください! まだ起きてこない淑女三人組には、僕からきっちり説明しておきますから」
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宋知行が古珞鸒の傍らへ歩み寄り、彼女がまだ何も口にしていないことを確認した上で、ごく自然に問いかけた。「お粥は食べたかい?」
古珞鸒は案の定、首を横に振った。「みんなの訓練に見入っていて、まだなの」
宋知行は微笑みを浮かべ、多くを語らずに体を少し斜めに引いて、席に就くよう促した。古珞鸒は気まずそうに「気を遣わなくていいのに」と言いかけたが、宋知行はすでに一杯のお水を彼女の前に置き、さらに昨夜整理したノートを彼女の手元へと押し進めていた。彼の意思はすでに固まっているようだった。
「先にお水を飲んで、これに目を通してほしい。僕たちが昨夜新しく整理した資料なんだ」
案の定、それを聞くや古珞鸒の手が止まった。視線がノートの上に吸い寄せられ、結局は小さく頷いて促されるまま席に着き、お礼を言った。
ノートを開くと、文字はかなり整っており、何より明確な階層構造を持っていた——これが思いつきで書き殴られたものではなく、入念な整理を経て書き記されたものだとすぐに理解できた。幾頁かめくり、段落ごとに分類された情報の上に目を走らせる。性急にページをめくろうとはしなかった。
各クラスの臨界点が極めて明瞭にマーキングされており、どのクラスが破滅の縁に瀕しているか、どのクラスが比較的安定しているかが一目瞭然だった。さらに、警備員や修理工が注視すべき重点項目も独立してリストアップされていた。
まるで今日起こり得る出来事を、あらかじめ一度シミュレーションし終えているかのようだった。彼女はもう一頁めくり、自身の考察と合致しているか、何か見落としがないかを模索した。
お粥の芳しい香りが厨房から漂い出し、数歩離れたこの場所にも届いていた。
ほどなくして、宋知行が二つの皿を手に戻ってきた。お粥が一碗と、その脇には殻を剥かれたゆで卵が一個添えられている。彼が卵を古珞鸒の目の前へと差し出した。
彼女は一瞬呆気にとられ、受け取る際にあわてて重ねてお礼を言った。一口齧り付きつつ、心の中で密かに呟いた——(優しさの中に、微妙に強引なところが混ざっているかしら?)
それでも彼女は卵をきれいに平らげ、余計な弁明はしなかった——現実世界の彼女とて決して生活能力が欠如しているわけではないが、忙しくなると自分の世話がおざなりになるのは事実だった。ただ、他人に世話を焼かれることにまだ慣れておらず、どこか気恥ずかしさを感じていたのだ。
宋知行は長居せず、彼女が目の前のお粥をいつもより多めに口にしたのを見届けてから、胸を撫で下ろして離れていった。
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やがて部屋の奥からようやく物音が聞こえ始め、鄭愷苑、潘穎嫆、駱馥琪がぞろぞろと起きてきた。
陳硯之はすでに厨房の入り口に立ち、自然なトーンで声をかけた。
「宋さんがお粥を煮てくれましたよ。自分たちの分は厨房で盛ってください」
駱馥琪は宋知行に視線をやり、親指を立ててみせた。寝起き特有の掠れ声ながら、心からの賛辞を贈る。
「あなた、本当にとびきりのいい男ね」
宋知行は答えず、俯き加減にチラリと古珞鸒の様子を伺った。彼女が駱馥琪の言葉に頷いて同意しているのを目にすると、ようやく口を開いた。
「食べ終わったら、足りなければおかわりしてください」
駱馥琪が潘穎嫆と鄭愷苑の方を振り向き、お粥を盛ってこようかと尋ねようとした矢先、陳硯之が割り込んだ。「あ、結構です!」
彼女はポカンとした。「はい?」
陳硯之は唐衍之の肩をポンと突き、真面目くさった顔で言った。
「君が彼女たちの分を盛ってきてあげなよ」
彼はゴホンと咳払いし、何もやり残したことはないと言わんばかりに姿勢を正した。
「僕は、イー大人から言い渡された重要な任務を果たさなきゃならないからね」
その表情は真剣そのもので、あたかも重大な社運を賭けたミッションに臨むかのようだった。
隣に立っていた劉張三が耐えかねて吹き出した。
「最初に出会った時は、お前がこんなお調子者だとは夢にも思わなかったぞ」
唐衍之の視線が駱馥琪の上に一瞬留まり、自然な調子で言った。
「三人とも先に座っていてくれ。僕が持って来るよ」
駱馥琪は小さく頷き、「ありがとう」と言い添えた。
鄭愷苑は遠慮することなく椅子の端に腰を下ろし、通り通る声で言った。
「どうもどうも! ついでによろしくね」
潘穎嫆も続いて腰を下ろし、陳硯之をじっと見つめた。「空気読み(空気を読む男)boyね」
陳硯之は傍らに立ち、真真面目な調子で言葉を継いだ。
「滅相もありません。僕は至って大真面目です——今朝、イー大人から『種』に関する講義を受けまして、あなた方にもきっちり説明するよう仰せつかったのですから」
彼の口調に冗談の口風はなく、まさに重要な任務を遂行するエージェントのようだった。
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陳硯之が説明を始めるより早く、鄭愷苑の反応が先回りして表に出た——特に驚いた様子もなく、むしろ不負け嫌いな負けん気が声に滲む。
「今のところ、彼らはただほんの少し出遅れているだけでしょ。遅かれ早かれ絶対に私たちに追いつくわ」
彼女の視線が、露骨に程晉陽、宋知行、顧長安の方向へと向けられた。
潘穎嫆はそれほど感情を表に出さなかった。「話しなさいよ——彼らの才能が人一倍強いことくらいしか、私たちは知らないんだから」
そこへ駱馥琪が直球を投げ込んだ。
「私はただ、彼らが私より強いことしか知らないわ。細かいことはさっぱりよ。だから説明して頂戴」
陳硯之は頭を掻いた。「皆さん、案外何も知らないわけじゃないんですね」
それでも素早く気持ちを立て直し、語り始める。
「『種』のルーツにはいくつかのパターンがあります——前世で修練を積んでいた者、前世で世人から鬼神として祀られた者、あるいは仙神として封じられた者、天庭で何らかの職務に就いていた者。さらに稀少なケースになると、元々が生まれながらの『先天神霊』だったりします」
彼の視線が全員を一巡する。
「一般的に、天庭で仙神の使いっ走り(下働き)をしていたような存在は『附属種』に分類されます。イー大人曰く、僕はこのタイプである可能性が極めて高いそうです」
鄭愷苑は真剣に耳を傾けていた。「ほうほう、続けなさい」
唐衍之がちょうど三杯のお粥を運んできて、鄭愷苑、潘穎嫆、駱馥琪にそれぞれ手渡した。彼はごく自然に駱馥琪の隣の空席に腰を下ろし、一緒に最後まで説明を聞く体勢を整えた。
陳硯之は彼女たちが社交辞令で聞いているのではないと悟り、出し惜しみすることなく続きを捲し立てた。
「イー大人が僕たちを使って少しテストをしたんです。彼女が言うには、タイプによって『種』の強度や特性は全く異なるそうです——大半の人間は能力が平均化していますが、単一の能力に特化したタイプも存在するらしくて」
記憶に洩れがないかを確認してから、彼は言った。
「けれど全体として見れば、『種』として転生してきた霊魂は、総じて『邪(邪気・魔力)』に対する防御性能が高い傾向にあります」
彼の視線が程晉陽、宋知行、顧長安の間を往復した。
「イー大人によれば、程晉陽さんはバランス型で、単独での立ち回りに向いている。宋知行さんは法術系に偏っていて、防衛能力に長けている。顧長安さんは攻撃と防御が完璧に融合した万能型……」
彼は一拍置き、自分のパートの締めくくりに入った。
「で、僕——『附属種』は、逃げ足の速さに特化しているらしく、逃げながら防ぎ、隙を見て反撃するのに向いているそうです」
鄭愷苑は彼を凝視し、思わず評価を下した。「……似合ってるわね」
潘穎嫆も真顔で頷いた。「確かに」
最後に駱馥琪が慰めるような眼差しを向けつつも、容赦のない言葉を言い放った。「名は体を表す(能力は人なり)、ね」
陳硯之は鄭愷苑の「似合ってる」という評価を聞き、顔に哀愁を漂わせた。
「問題は、僕自身が逃げ足が速いなんて到底思えないことです。イー大人が言うような領域に達するには、相当努力しなきゃならない……」
鄭愷苑はその哀愁を綺麗に無視し、畳み掛けた。
「で、他の人は? 彼女、何か言っていた?」
陳硯之は拍子抜けしたように目を丸くした。「他の人……ですか?」
鄭愷苑は箸を置き、ストレートに尋ねた。
「『種』でも『附属種』でもない、残りの人たちのことよ。種じゃなくたって、練磨し、戦わなきゃいけないんだから」
その意図を理解し、陳硯之は慌てて頷いた。
「ああ、はいはい! イー大人は言っていました——唐衍之さんは武技の発展に特化して魂を磨いてきたから、前世の多くで軍人や用心棒のような職に就いていたはずだって」
彼は唐衍之を一瞥した。本人が口を開く様子もなく、不快感も示していないのを確認して続けた。
「今世でも似たような仕事に就いているから、彼の防御能力は極めて高い。打たれ強さに関して言えば、並の『種』をも凌駕するほどだそうです。あれは紛れもなく、幾世にもわたる累世の積み重ねの賜物だって」
鄭愷苑はバンと卓上を叩いた。「素晴らしいわ、そういう話が聞きたかったのよ!」
隣に座っていた潘穎嫆も深く頷いた。「他には?」
陳硯之は思案した。
「劉張三さんと湯志傑さんは、法術の修練を積んできた関係で『感応力』が飛び抜けて強いそうです——だから防御力やタフさでは唐さんに一歩譲るけれど、法術の扱いと立ち回りの柔軟さでは遥かに勝っているとか」
彼は少し声を潜めた。
「ただ、ご本人たちもその仕組みをいまいち理解できていないみたいですが」
お粥の碗はすでに空になりかけていた。鄭愷苑の箸が碗の縁を軽やかに叩き、何か聞き逃した詳細がないかを確認しているようだった。
潘穎嫆は碗を置き、陳硯之へ視線を向けた。「まだあるかしら?」
陳硯之は記憶を反芻し、語り残しがないかを確かめた。
「イー大人はこうも言っていました——男女で体質が異なるため、累世で選択できる方向性も自ずと変わってくる。集団における性別の差異も加わるため、修行の方法を完全に一致させることは不可能だ、と」
彼は語気速度を落とした。
「法術だけを修めて外の世界の一切を無視していると、あっという間に『三蔵法師の肉(邪修たちの格好の標的)』になり下がって、外道の輩から狙われやすくなるから気をつけろ、と」
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彼女たちが一通りの話を聞き終え、お粥の碗も綺麗に空になった頃。
斜め向かいに座っていた劉張三が、しばらく言葉を推敲してからようやく口を開いた。彼の視線が鄭愷苑、潘穎嫆、駱馥琪の三人を行き来する。
「で、三人さんはどう思うんだ?」
鄭愷苑は顔を上げて彼を見つめたが、言葉は挟まず、彼の続きを待った。
劉張三も回りくどい言い方はしなかった。
「あんたたちの目から見て、『種』、『附属種』、そして『非種』の間の差ってのは、やっぱりデカいと思うか?」
鄭愷苑と潘穎嫆の二人は、ほぼ同時に頷いた。動作こそ控えめだったが迷いはなく、その問いに対する答えは最初から決まっているかのようだった。「デカい(大きい)わね」
劉張三は片眉を跳ね上げた。しばらく思案し、どこか苦々しいトーンで尋ねる。
「じゃあ、それを見分けるのは容易いと思うか?」
鄭愷苑は真剣に考量してから言った。「誰が『種』かを見分けるという意味? 一概には言えないわね」彼女は一拍置き、「正直に言って、時間がかかると思うわ」
潘穎嫆も明確に困惑の色を浮かべ、頭の中で何かと比較検討してから口を開いた。
「状況によるわね。相手があからさまに能力を見せつけているなら判別しやすいけれど、意図的に隠そうとしているなら、見分けるのは極めて困難だわ」
鄭愷苑は卓越しに視線を走らせ、程晉陽、宋知行、顧長安の方向へと目を向けた。確信に満ちた口調で言う。
「私にとって、『種』と『非種』の違いというのは——『潜在能力』足す『底徳』のようなものね」
彼女はさらに思考を深めた。
「特定の人物を例に挙げるなら……」それから彼女は唐衍之の方向へと視線を転じた。トーンを変えず、対照群を提示するように言った。「非種でありながら実力を持つ人間というのは、『経験値』の塊のようなものよ。幾世もの人生を生き抜き、世の中の理を熟知した老練な手練れ(老油条)という印象を受けるわ」
それから、彼女の声には先ほどまでの疾走感が薄れ、思索を深めるようなトーンへと変化した。
「附属種となると……非種との判別はさらに難しくなるわね。けれど相対的に見れば、彼らは状況判断に長けていて、決定的な過ちを犯しにくい。正しい選択に追従する嗅覚に優れている気がするわ」
陳硯之は微かに頭を下げ、どこか自信なさげに恥ずかしがった。「……ありがとうございます」
鄭愷苑と思わず盛大な白目を剥いた。ストレートに言い放つ。
「あなたのことを褒めたわけじゃないわよ——単に私の分類基準を例に挙げただけ」
陳硯之は鄭愷苑の容赦ないツッコミに打ちのめされることもなく、へらへらと笑いながら応じた。
「でも、あなたの言っていることは間違っていないと思いますよ。僕は本当に運がいいんです——じゃなきゃ、二回目の副本攻略でルオユーさんやイー大人みたいな凄い人に巡り会えるわけがありませんから」
彼はわざと反対側へと視線を遣った。
「劉さんたちなんて、副本で三年ももがいてようやく二人に出会えたんですからね」
劉張三が低い声で毒づいた。弄られた悔しさを隠しきれない。
「このクソガキが……調子に乗りやがって!」
鄭愷苑は深く頷いた。「確かにね。私もあなたが人の懐に入る(強い奴にしがみつく)才能に長けていると思うわ——今や完全に『強い奴の専用オプションパーツ』化しているもの。計算高いわね」
湯志傑は椅子の背もたれに深々と身体を預け、どこか諦め交じりのトーンで呟いた。
「俺たちは災難だな——とんだとばっちりだ」
彼は手にしたコップを置くと、于奕孺の方向へと視線を走らせた。
「イーが言っていたぞ……『二兎を追う者は一兎をも得ず』だってな。感応力が強い者は、相対的に防御が脆くなる。その逆も然りだ。だからこそ、チームプレー(集団での連携)こそが最も安全な手段なんだとさ」
彼は言葉を切り、不可解そうに首を傾げた。
「だが俺は感応力が強いわけでもないのに、老劉より防御が高いとも思えんのだが」
劉張三は言葉を返さなかったが、口元を微かに動かしただけで、それ以上は何も語らなかった。




