待状09 -家庭教師サークルの小さな世界 05
唐衍之は厨房の方向へ視線を送った。鍋物やフライパンがぶつかり合う音はなおも響いていた。彼は顔を戻し、神妙な持ち味で言葉を紡いだ。
「みんなが揃うまで待たないか? この日誌は重要そうな気がする」すぐに彼の視線は駱馥琪へと向けられた。「君たちの今日の授業はどうだった? 困難はあったか? 君はどうだ?」
駱馥琪はその問いが自分に向けられたものだと察し、わずかに背筋を伸ばして思考を整えた。
「私はまあまあかしら。生徒たちはちゃんと授業に出てくれたわ。ただ、質問に答えようとしなくて、消極的なのよね」
彼女の報告を聞き終えると、唐衍之は深く頷き、自身の状況と照らし合わせた。
「うちも似たようなものだ。大半の生徒は問題ないんだが、何人か露骨にサボろうとする奴がいてね——ただ、親がドアの前に張り付いて監視しているから、逃げ出すに逃げ出せないんだ」
潘穎嫆が耐えかねて驚きの声を上げた。
「あなた、中学生を教えているんでしょ? それなのに親が監視しているの?」
その声に詰問のニュアンスはなく、単に聞き間違いではないかと確認するような響きだった。
厨房の騒がしさがようやく一巡し、静けさを取り戻した。劉張三が大皿料理を抱えて現れた。
「できたぞ! 話は終わりにして、まずはメシにしよう」
卓上には次々と料理が並べられていった。高菜とインゲンの豚ひき肉炒め、茹で青菜、そしてポークランチョンミートの卵焼き。彼は皿を置くやいなや、「これが俺のイチオシだ」と指を刺した。指先はランチョンミートを指している。
湯志傑がニンニク香るシイタケと豚バラの炒め物を手に後に続き、胸を張った。
「俺も作ったぞ、ニンニクシイタケと豚バラの炒め物だ。食べてみてくれ。それから蒸しハンバーグ(蒸肉餅)と腐乳チキンウィングもある」
宋知行は汁ものの椀を並べながら言った。
「スープを作りました。ヘチマと玉子のスープです。それと揚げ豆腐も」
最後に程晉陽が厨房から出てきた。手には二つの小皿が握られている。
「トマトとヒヨコ豆の煮込み、それにサイコロステーキとポテトの黒胡椒炒めだ」
劉張三はテーブルに溢れる料理を一巡して見渡し、念のために付け加えた。
「足りなかったら弁当もあるからな」
鄭愷苑がすぐさま食いついた。
「冗談じゃないわ! みんなの手料理を味わわなきゃ損でしょ」
彼女の視線はすでに料理の数々に注がれ、どれから箸をつけるべきか品定めしていた。
潘穎嫆はそのやり取りには加わらなかったが、すでに自分の茶碗にご飯をよそい始めていた。
顧長安に従って古珞鸒が食卓へと歩み寄ると、彼女は低く呟いた。
「私、あんまり食欲がなくて……ご飯はいいわ」
宋知行がすぐさまそれに応じ、ごく自然に尋ねた。
「スープを飲まれますか?」
古珞鸒は小さく頷き、お礼を口にした。
于奕孺は遠慮することなく、当然のように言い放った。
「私はご飯半杯で」
劉張三は口では「自分でよそうんだな」と叫びつつも、手はすでに彼女のために半分ほどご飯を盛っていた。陳硯之が手際よく箸と茶碗を配り終え、一行はようやく食卓を囲んで腰を下ろした。
全員が着席したのを見届け、鄭愷苑はすべての皿から一口ずつ料理を口へと運んだ。そして一口噛み締めるごとに感嘆の声を上げた。
「美味しい! みんな最高のエプロン男子(住家好男人)ね!」
湯志傑は頭を低くしてご飯をかきこみながら、淡々と返した。
「俺はただ、節約のために料理を覚えただけだ」
それを聞いた劉張三も思わずため息を漏らした。
「俺も似たようなもんだ——外食は高すぎるからな」
食卓にしばしの静寂が訪れた。咀嚼音と食器のぶつかり合う微かな音が、その隙間を埋めていく。
男子4人の手料理を称賛する会話が途切れることはなかった。程晉陽が箸を置き、ごく自然な調子で未だ明かされぬ核心へと踏み込んだ。
「それで……その日誌には、何が書いてあったんだ?」
彼は先ほどまで厨房で忙しく立ち回っていたものの、居間の動きを逃してはいなかった。唐衍之が投げかけた「みんなが揃うまで待たないか」という探りを胸に刻んでおり、今まさにそのリズムに乗って、焦点をあるべき場所へと戻したのだ。
顧長安は出し惜しみすることなく、平穏な声で応じた。
「日誌によれば、保護者たちの監視が相当厳しいらしい。一部の生徒は挑戦的な態度を取り、故意に講師を困らせようとする。責任者はあらゆるトラブルをボランティアに押し付ける……そこまでは克明に記されていた」
だが、彼は一転して重苦しい表情を浮かべ、言葉を続けた。
「……だが、真の問題はそこじゃない。日が経つにつれて、補習塾の中にいる者たちの言動が、次第に奇怪さを増していくと書かれているんだ」
鄭愷苑は動かす手を止め、明らかな警戒を声に滲ませた。
「奇怪……? どういうことよ?」
顧長安は少し考えを巡らせてから、ついに口を開いた。
「彼らは探るような口調でボランティアに問いかけてくるらしい——『誰が最初に追い出されると思う?』とな。あたかもボランティア自身に、誰かを推薦させたり推測させたりしようとするかのように」
潘穎嫆は思わず口を大きく開け、嫌悪感を露わにした。
「そんなに悪質なの……? 恐ろしいわ」
陳硯之も呆然と立ち尽くしていた。全く予期していなかった展開に、言葉を返すことすらできなかった。
劉張三も汁椀を置き、慎重な探りを入れた。
「……その日誌には、俺たちのこの二つの職種(警備員と修繕工)について何か書かれていたか?」
顧長安はしばし沈黙した。どこまで話すべきかを精査しているかのようだった。やがて重い口を開く。
「書いてあった。……警備員と修繕工は極めて多忙を極める、と。休息を取る時間すらほとんどないほどにな」
投じられた言葉が食卓の上に落ち、全員の驚愕を深めた。
その情報は爆弾のように食卓の真ん中に炸裂し、場は長い静寂に包まれた。鄭愷苑が真っ先に茶碗を置き、焦燥感を隠さずに尋ねた。
「理由は書いてないの!?」彼女は顧長安を直視した。「どうして警備員がそこまで忙しくなるのよ?」
顧長安はまず頷き、続いて首を振った。彼自身もこの疑問を反芻しているようだった。
「日誌にはただ……大小様々な苦情が頻発するため、警備員と修繕工はあちこちの場所やフロアへ出ずっぱりで対処に追われる、とだけある。詳細は書かれていない」
古珞鸒が茶碗を置いた。その声は平穏だったが、極めて真摯な判断を下していた。
「つまり……『詭(ケガレ/バケモノ)』が主客転倒を狙い始めたということね。今はまだ試す段階だから、本格的な行動を起こしていないだけ」
鄭愷苑は耐えかねて眉をひそめた。
「本当に狡猾ね。まずは授業という労働で私たちの体力と精神を擦り減らし、その上で本気を出すつもりなんだわ」
そう吐き捨てる彼女の視線は特定の誰にも定まっておらず、まるで独り言のように呟いていた。
食卓の空気は目に見えて沈んでいった。箸を置く者、スープの椀を脇へ押しやる者。誰一人として料理に手を伸ばそうとはしなかった。陳硯之はうつむいて茶碗の中のご飯を見つめ、何かを思案しながらも口には出さなかった。劉張三の視線が古珞鸒と顧長安の間を往復したが、結局言葉を継ぐことはなかった。
重苦しい雰囲気がさらに底へと沈み込もうとしたその時、于奕孺が箸を軽く振ってみせ、不急不緩な声でそれを断ち切った。
「そう悲観的になるものじゃないわ。こういう時こそ気を引き締めて、しっかり食べて良く寝るのよ。そう不測の事態に備えなきゃ、これからの試練に立ち向かえないでしょう?」彼女は言葉を継いだ。「少なくとも、ここの『詭』が一筋縄ではいかない存在だと分かっただけでも収穫よ」
駱馥琪は苦笑を漏らし、諦めたように言った。
「それもそうね……そうするより他にないもの」
陳硯之は力強く頷いた。あたかもその言葉を、前進を再開するためのシグナルとして受け取ったかのようだった。なにしろあの于奕孺の発言なのだ。彼は再び頭を下げ、ご飯をかきこみ始めた。
宋知行の視線が古珞鸒の目の前にある茶碗へと落ちた。
「少しお代わりをお持ちしましょうか?」
彼女は首を横に振った。その表情には、押し殺しきれない不快感が滲んでいた。
「あまり食欲がないの……」
その様子を見て、鄭愷苑が露骨な気遣いをみせた。
「胃でも痛むの(被打胃)?」
古珞鸒は微かに眉を寄せ、まだ確信の持てない感覚を言葉にしようと試みた。
「押さえつけられているような……圧迫感があるの。でも、単に『田に月を足した(田加月)』せいかもしれないわ」
劉張三はその言いまわしを理解できず、男3人の間で視線を往復させた。彼らも自分と同じく茫然自失としていることを確認すると、全員を代表して問いかけた。
「何の暗号(隠語)だよそれ? 『田』に『月』を足したら——ただの『胃』じゃないか?」
潘穎嫆はその言葉に何かを触発されたかのように、ハッと膝を打った。
「あああ! あの曲ね!」
鄭愷苑は文脈についていけないことへの苛立ちを隠さずに呟いた。
「参ったわ、知ってる曲が多すぎてピンとこない……どれのこと?」
古珞鸒は眉をひそめ、明らかに痛みを耐え忍びながら口を開いた。
「『面如無人』よ」
鄭愷苑はしばし沈黙した。
「……やっぱり思い出せないわ。惜しいわね、こちらの携帯電話は現実のものとは仕様が違うから調べられないし」
鄭愷苑の言葉を聞き、于奕孺がここで口を開いて補足を加えた。
「同じだったらそれこそ惨事よ——スマホがすでに侵入されて、あちら側に接続されていることを意味するんだから」
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その疑問は陳硯之の胸の中でくすぶり続けていたものだったが、彼が茶碗を置いたタイミングでついに口から溢れ出た。
「実は前からずっと疑問だったんだ……どうしてみんな、怪異の空間(詭本)にある食べ物を一切疑わないの?」
彼はみんなが食べているのを見て安心したから口にしただけであり、疑問が消えたわけではなかった。
劉張三は箸を置き、笑ってみせた。
「ああ、これは『正規副本(正規の試練空間)』だからだよ。心配いらない。正規副本は一見恐ろしいが、実際には神々が見守っているんだ。ただ手を差し伸べないだけでね——なんといっても、これは『考核(試験)』だからな」
湯志傑も頷き、確信に満ちた調子で告げた。
「毎食毒が入っているような状況なら、そもそも試験として成立しないさ」
二人は同時に言葉を切り、続いて湯志傑の声が一転して重くなった。警告を含めるかのように。
「ただし……これが『私人詭本(個人が作り出した怪異空間)』や『魔本』の類なら話は別だ。そういう代物には絶対に触れない方がいい。一目散に逃げるのが上策だ」
陳硯之は何かに記憶を刺激されたかのように、慎重に口を開いた。
「僕たち……昔、特殊な『怪詭本』に入ったことがあるんです」
湯志傑と思わず目を丸くし、驚きを隠さずに尋ねた。
「怪詭本だと!? まさか……俺すら行ったことがないぞ。お前たち、どうやって攻略したんだ?」
陳硯之の視線が于奕孺の方へと微かに泳いだ。彼は慎重に言った。
「彼女がすごいんです。全部解決してくれました」
彼はそれ以上多くを語ろうとしなかった。その話題が于奕孺の不興を買うことを恐れているかのようだった。
劉張三は彼の視線を追って于奕孺を見つめ、評価を改めるような眼差しを向けた。
「あんた、本当に一行を率いて突破したのか?」
于奕孺は微かに顎を上げ、誇らしげに言った。
「あなたたちこそ、私人詭本や魔本の存在まで知っているなんて——経験豊富な手練れ(ベテラン)の見識ね」
劉張三は手を振って、あっけらかんと明かした。
「いや、俺たちは毎回、行動を起こす前に『祖師爺(教祖・神仏)』にお伺いを立てるんだ。以前、不審な詭本から招待状が届いたことがあってな。明らかに俺たちを標的にしたものだったんだが、祖師爺が介入して俺たちを救い出してくれたのさ。だからその記憶が強烈に残っている」
湯志傑も頷き、声のトーンを一層落とした。
「あいつ……あのあまり喋らない『子健』って奴がいるだろ。あいつがもう参加したがらないのもそれが理由だ。あの時、真っ先に毒牙にかかったのがあいつだったんだ」彼はためらい、その言葉に一層の確認を求めるように付け加えた。「あいつは……『女色(女の誘惑)』の試練を越えられなかったのさ」
劉張三の顔色が明確に陰った。
「これは極めて重要なことだ」彼はその場にいる男性陣へと向き直った。「修行において『色欲』への耐性を鍛えないのは、身を滅ぼすほど危険なんだ」
自分が諭されていると感じ取ったのか、程晉陽は困惑を声に混ぜた。
「……俺、そんなに女に飢えているように見えますか?」
宋知行も異常なほど真面目な顔で言葉を継いだ。
「僕は節度を弁えています。軽はずみな行動はしません」
顧長安はより気楽に、当然といった体で問うた。
「俺が女に困っているように見えるか?」
誤解されるのを恐れるあまり、陳硯之の声には必死の弁明が混じっていた。
「僕! 僕は絶対にそんなことしません! かなりのインドア派(宅男)ですから!」
唐衍之すらも、視線を短く駱馥琪の方へと泳がせ、低く応じた。
「……僕も自愛しているつもりです」
劉張三は口を開かけ、女性が同席するこの場でどう言葉を表現すべきか躊躇した。彼が口を開くより早く、鄭愷苑が沈黙を破った。
「色欲と言っても、単に好色だから引っかかるわけじゃないわ——感情の投影対象(投影対象)さえ存在すれば、誰だって術中に落ちるのよ」
湯志傑は思わず手を叩いた。心からの称賛だった。
「あんたは救世主(救星)だよ!」
鄭愷苑はその言葉をスルーし、率直に苦言を呈した。
「あなたたちがハッキリ言わないからでしょ——そういう可能性があると知っているくせに」
劉張三の表情には気まずい色が浮かんでいた。
「なにしろ女性陣がいる前だからな、気に障るかと思ってね」
古珞鸒は真剣に思考を巡らせ、静かで真摯なトーンで言った。
「精怪(怪異)は、私たちが情欲や執着を投影している対象に化ける可能性があるわ。だから——」彼女は一拍置き、場にいる男性陣が理解したかを確認するように見渡した。「重々慎重にならなければダメよ」
食卓が一瞬静まり返った。劉張三は急に静かになった面々を見渡し、耐えかねて笑い声を漏らした。
「これでようやく理解できたみたいだな」
鄭愷苑は先ほどの劉張三の配慮に対して、真面目に応じた。
「女性がいる前で、あまり男女の深い話題を掘り下げるのは確かによくないわね」彼女は一拍置いた。「誤解を生むか、不必要な対立(黒戦)を引き起こすだけだもの。私たちのような気心の知れた仲ならまだしも——もし見知らぬ他人が混ざっていたら、本当に気をつけなきゃ駄目よ」
劉張三は深く頷き、無力感を滲ませた。
「往々にして、真実ってのは直球で言いすぎちゃいけないものだからな」
しかし、顧長安は「化ける(偽装)」という忠告の中にあったある線に触れ、二人の会話を割り込んで尋ねた。
「……ということは、君たちは誰かが『鸒』に化けた現場に遭遇したことがあるのか?」
果たして、鄭愷苑の回答に躊躇はなかった。即座に応じる。
「何度もね(多)」
潘穎嫆も頷いた。
「ええ、何度も」
ここで古珞鸒もため息を漏らした。
「私の側も同じよ——家族に化けられたり、苑やアパン(潘穎嫆)の姿に扮した怪異に遭遇することがしょっちゅうあるわ」
駱馥琪は思考を巡らせた。
「私はあまり夢を見ないけれど、自分の両親のフリをした誰かの夢を見たことがあるわ。夢の中では気づかないけれど、目が覚めた瞬間に猛烈な違和感に襲われるの」
4人の証言を聞き、劉張三は思わず問いかけた。
「……お前たち、一体これまでどんな修羅場をくぐり抜けてきたんだ?」
食卓の空気が再び重く沈んだ。潘穎嫆の顔には言葉にできない無力感が漂い、その声は細く、けれどハッキリと響いた。
「一言では言い尽くせないわ。勿体ぶっているわけじゃないの——本当に、どこから話せばいいのか分からないのよ」
鄭愷苑はまず彼女を一瞥した。その瞳には深い共感が宿っていた。
「本当によ……」彼女は自身の言葉に触発されたかのように、トーンを変えた。「ねえ、私たちが正式な招待状を受け取る前、頻繁に『私人詭本』に連れ去られたり、自分の心魔が作り出した空間に迷い込んでいたのはなぜかしら?」
その問いは劉張三に向けられたものだった。彼は即座に首を振り、素直に認めた。
「俺に分かるわけがないだろ」
湯志傑が言葉を挟んだ。自身の経験と照らし合わせるような調子だった。
「俺たちは最初から、招待状が届いて初めてこういう『任務夢』が始まったんだ。お前たちは違うのか?」
鄭愷苑は慌てて首を振った。
「私は自分が誘拐されて、ひたすら逃げ惑う夢を頻繁に見ていたわ」
潘穎嫆の声にも確信の持てない躊躇いが混じっていた。
「私もよく分からないの。修行を始めてからの夢は、何でもありだったから……でも、今みたいにシステム化されたものは、最近になってようやく始まったのよ」
駱馥琪は頭を掻きむしり、あからさまな困惑を示した。
「私はずっと、夢なんてほとんど見なかったのに」
彼女の向かいに座る唐衍之が彼女を見つめ、その途方に暮れた様子に同意した。
「僕も最近になって見始めたんだ。それまではずっと穏やかだった」
鄭愷苑はしばらく考えを巡らせ、散らばった手がかりを並べ替えるように口を開いた。
「あなたたちには正統な伝承(血統・流派)があるから、通常は正規の試練(正規副本)へと導かれるのよ。私たちは独学で修行を模索してきたから——だからこそ最初は、雑多な私人詭本に巻き込まれてしまったんじゃないかしら?」
劉張三は思案してから言った。
「見ていると、確かにお前たちは新しいタイプの修行者のようだな。俺たちみたいな伝統派とは違う。だが、確かに相応の腕前を持っている。ただ……後ろ盾(守護者)がいないとなると、かなり危険に見えるな」
湯志傑も同意した。
「怪異(詭)に対抗できるだけでも、一般人が怪異空間に引きずり込まれた時には不可能な芸芸当だ」
ここで陳硯之がじっと耳を傾けていたが、耐えかねて尋ねた。
「……じゃあ、こういう夢を見ない(巻き込まれない)方が、かえって幸せなんじゃないでしょうか?」
劉張三はそれを聞くやいなや、鼻で笑った。
「お前、副本(この空間)がどうやって作られていると思っているんだ?」
陳硯之は沈黙した。その言葉を胸の中で反芻し、確かめるように呟く。
「……じゃあ……もしかして……一般人は、副本の中の……」
彼は最後まで言葉を紡がなかった。
湯志傑がその言葉の尻尾を引き取り、声を潜めた。
「その可能性は極めて高い。もしお前たちが、知人の作ってしまった怪異空間を攻略したことがあるなら、より痛感するはずだ」彼は一拍置いた。「この世界には、物質的な層だけが存在するんじゃないと思い知らされる。精神の世界……それこそが、真に恐ろしい場所なんだ」
鄭愷苑は溜め息をつき、疲弊した声で言った。
「精神の世界なんて、結局は人間自身が生み出したものでしょう? 行き着くところ、人間の精神そのものこそが、この世で最も恐ろしいのよ」
かなりの時間が流れた後、劉張三がぽつりと低く呟いた。
「……反論できねぇな」
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食卓の皿はほとんど片付いていた。唐衍之は全員が箸を置いたのを確認すると、自ら立ち上がった。
「僕が片付けますよ。さっきは何もできませんでしたから」
彼は手を伸ばして皿を重ね始めた。その動作はまるで自分の家で振る舞うかのように自然だった。
駱馥琪もほぼ同時に立ち上がり、手際よく言った。
「私も手伝うわ」
二人は食卓のものを手際よく片付け、一前一後となって厨房へと消えていった。




