待状09 -家庭教師サークルの小さな世界 01
## 程晉陽
7日目の夕暮れ時、程晉陽が帰宅した際、ドアの隙間にあの米白色の封筒が横たわっていた。
最後にそれを見た時、自分がどんな感情を抱いていたか、もう覚えていなかった。しかし今回、しゃがみ込んで拾い上げた動きに迷いはなかった。まるでこれから起きることを、すでに熟知している者の動作だった。封筒を破り、引き出したダークグレーの厚手カードには、やはりあの一行が記されていた——「招待人を見つけてください」。裏に返してみるが、白紙のままだ。
最近、同僚たちが彼の変化に気づき始めていた。給湯室で誰かが尋ねた。「ジムにでも通い始めたの? 腕のラインが変わったね」彼は答えず、ただ軽く頷いて話題を逸らした。また別の者がからかった。「彼女でもできた?」彼は否定もしなかったが、肯定もしなかった。どう説明すべきか分からなかったからだ——確かに胸に抱えているものはあるが、それは恋愛などではない。
時折、彼は疑うこともあった。あの副本、あの人々、あの赤い糸……それらは本当に存在するのだろうか、と。だが鄭愷苑は言っていた。彼女と鸒姉、潘穎嫆、駱馥琪は現実世界でも互いを知っていると。劉張三と湯志傑もそうだ。彼らは自分が生み出した幻影(夢)ではない。ただ、現実の中で彼らと巡り会う方法を、自分がまだ見つけ出せていないだけなのだ。
同僚たちには明かしていないもう一つの変化があった——最近の彼は、誰かが言葉を発する前に、その感情を先回りで察知できるようになっていた。読心術の類ではない。ただの朧げな予感だ。相手が口を開く前に、これから発せられる言葉の向かう先が善意なのか悪意なのかを察知できる。時には視線が交錯する前に、相手が次に何を言おうとしているのかさえ分かってしまうことがあった。これが副本の影響なのか、あるいは自分がまだ理解し切れていない何者かへと変貌しつつあるからなのかは分からない。大事として騒ぎ立てる気はなかったが、心の中ではハッキリと理解していた——これは注視し始めなければならない変化なのだと。
彼はカードをポケットに収め、二度と見返さなかった。窓の外は暗闇に呑まれつつあった。彼は灯りを消し、いつもより早く床に就いた。目を覚ませば、あの空間にいることは分かっていた。どんな表情で歩み寄るべきか、まだ決め兼ねていたが、自分がそこへ向かうことだけは確信していた。
## 宋知行
宋知行がジョギングを終えて帰宅した頃には、夜は完全に深まっていた。
玄関に立ち、屈んで靴を脱ごうとした時、靴箱の端にあの米白色の封筒が静かに横たわっているのが目に入った。焦って開封することはせず、まず台所へ向かって一杯の水を注ぎ、時間をかけて飲み干してから、屈んで封筒を拾い上げた。開封し、中のダークグレーのカードを引き出す。相変わらずあの一行だ——「招待人を見つけてください」。
裏返すと、白紙。すでに7日が経過していた。今度は何に直面するのか分からなかったが、二度と逃げたくないことだけは分かっていた。
最近、彼は実家に顔を出した。兄と義理の姉は彼の姿を見るなり目を見張った。義姉が言った。「どうしてそんなにガタイが良くなったの?」傍らに立つ兄は無言だったが、その眼差しには同様の驚きが宿っていた。宋知行はただ苦笑いを浮かべ、説明はしなかった。こうした変化を口にしないことにはすでに慣れていた——説明すれば、更なる質問を呼び込むだけだからだ。
前回の副本での出来事を、彼は忘れていなかった。というより、絶えず考え続けていた。あの赤い糸、あの光景、問いかけることの出来なかった言葉たち。強くありたいと願うのは、何かを証明したいからではない。自分に印が刻まれたことには、必ず理由があるはずだと感じていたからだ。
もう一つ、己の気のせいかどうか確信の持てないことがあった——最近の彼は、一瞬にして人間の善悪の情を見分けられるようになっていた。相手が何と言ったか、何をしたかではなく、相手の感情が言語よりも早く彼の感覚へと到達するのだ。これが進歩なのか錯覚なのかは定かではないが、もし錯覚でないとすれば——人は知らず知らずのうちに、己の真意を漏らしてしまうものだということになる。そして自分は、まだ言葉にされていないその部分を読み解く術を学びつつあるのだ。
机の前に戻り、彼は招待状とノートを並べて置いた。どんな心情であの扉を開けるべきか決めていなかったが、誰かが動くのをただ待つだけの自分には二度と戻らないと誓っていた。窓外の夜色は深い。灯りを消し、暗闇の中でしばらく佇んでから床に就いた。扉の向こうに何が待ち受けているのかは分からない。だが、踏み出す準備はすでに整っていた。
## 第八話・塾(補習社)
全員が目を覚ますと、そこはこぢんまりとしたオフィスの中だった。
頭上の蛍光灯が均一な羽音を立てて明滅し、卓面は浅いグレーのプラスチック加工が施されていたが、縁の剥がれ落ちた部分から黄ばんだ木板が覗いていた。空気中には古い紙、消しゴムの屑、そして消毒液が混ざり合った独特の匂いが漂っている。いかにも街の補習塾にありそうな匂いだった。
扉の前に一人の男が立っていた——40代半ばほど、アイロンの行き届いていないシャツを纏い、首元を緩めている。顔には「理不尽なのは分かっているが、言わなきゃならないんだ」と言いたげな気まずい笑みが浮かんでいた。自分は責任者だと名乗り、口調は早口で、言うべきことをさっさと伝え終えて一刻も早くこの部屋から立ち去りたがっているようだった。
「これまでの講師陣が揃って辞めてしまいましてね」彼は咳払いを一つ挟んだ。「背に腹は代えられず、ボランティアの皆さんを募って当面を凌ぐことになったわけです。新しい講師が決まり次第、解散となりますから」
一拍置き、自分の弁明が破綻していないかを確かめるようにして続けた。
「塾の授業時間は生徒の下校に合わせてあります——18時半から21時半まで。その他の時間は教材の準備、生徒の宿題の確認、小テストの採点にあててください」彼は卓上の書類を顎で指した。「午前中は準備時間です。昼食は出ますよ。皆さんに提出してもらった希望通りに科目を振り分けておきました」
そう言い終えると、彼は隣の部屋の方角を指し示した。
「常勤の講師は向こうにおります——ここはボランティア専用の部屋ですので」
言い落とすとクルリと向きを変え、足早に立ち去った。あたかもこの部屋に毒でも充満しているかのように、ドアは彼の背後で「カチャリ」と音を立てて閉じられた。
しばしの静寂が訪れた。
程晉陽は自身の机を見下ろした。卓の隅には数冊の教科書と、幾度もめくられた痕跡のあるプリントの束が積まれていた。表紙を開く——数学、物理。いずれも高校レベルだ。対面に座る宋知行の卓上には、美術史のテキストと歴史資料が置かれている。程晉陽の背中合わせの位置には顧長安が座り、英語の教材と経済学のプリントを広げていた。その向かいにいる陳硯之は、手に持った教科書を掲げてみせた。化学、生物。
程晉陽の隣に座る鄭愷苑が覗き込み、露骨な疑念を声に乗せた。
「化学と生物? あんた、教えられるの?」
陳硯之は微かに眉をひそめ、懐疑的な視線に抗うように言った。
「当たり前だろ! これでも大学院を目指して勉強してるんだ——学部は情報工学だったけどな」
鄭愷苑は退かない。
「それとこれとは別でしょ?」
陳硯之は言い返さず、逆に問い詰めた。
「あんたは何を教えるんだよ?」
鄭愷苑は手元の教科書をひらひらと振ってみせ、居直ったような呆れ顔で答えた。
「小学校の社会(人文科)と、小学校の国語(中国語文)」
陳硯之は彼女の教科書を見やり、次いで自分の手元を見つめ、一拍沈黙した。
「……俺は高校だ」
宋知行も頷いた。
「僕も高校だ」
顧長安。
「高校」
程晉陽。
「高校だ」
その時、横から潘穎嫆ののんきな声が漂ってきた。
「あら……いいわね。私は小学校の英語と理科社会(常識科)——低学年担当よ」
鄭愷苑がすぐさま乗っかる。
「私は高学年担当!」
駱馥琪は自身の教材をパラパラとめくった。
「私は中学の英語と公民ね」
古珞鸒は俯きながら中国史の教科書をめくっており、淡々とした声で言った。
「私は中学と高校の中国史よ」
程晉陽の視線が彼女の上に落ちた。迷うことなく半歩前へ踏み出すと、彼は元より古珞鸒よりもかなり背が高いため、頭を下げて声を低く落として尋ねた。
「体調は良くなったか?」
古珞鸒は微かに呆気にとられたようだった。この場面でそんな質問を投げかけられるとは思っていなかったのだろう。少し間を置いてから頷いた。
「……いくらかマシになったわ」
傍らに立つ宋知行が、慎重な確かめようとする口調で言った。
「咳はどうだ?」
古珞鸒は少し考えた。
「まだ少し出ますけれど、以前のような息苦しさはなくなりました」
背後から顧長安の声が響いた。
「体力は? 相変わらず疲れやすそうに見えるが」
古珞鸒は少し首を傾げ、己のコンディションを再評価するようにしてから答えた。
「……できる限り休むようにしますわ」
三人はそれ以上追及しなかった。だが、全員が同じ真実に思い至っていた——体力はまだ戻っていないのだと。
鄭愷苑の視線が古珞鸒から外れ、周囲を一巡した。
「劉張三と湯志傑の姿が見当たらないけれど?」
彼女が言い終えないうちに、オフィスのドアが押し開けられた。
劉張三が入口に立っていた。手には鍵の束を握り、腰にはトランシーバーがぶら下がっている。彼の表情には諦めが色濃く漂っていた。
「ビル管理会社に直接雇われたメンテナンス技師(修理工)だよ。俺は頭が良くないから、講師なんて務まらないんでね」
鄭愷苑は沈黙した。どう返すべきか押し測っているようだった。結局、彼女は手にした小学生用の教科書を高く掲げ、殊更威張ってみせた。
「安心しなさい、私も小学生レベルよ」
潘穎嫆も頷く。
「私もそうよ」
横から于奕孺の起伏のない声が舞い込んできた。
「私は中学の国語(中国語文)と、小・高の美術よ」
宋知行が彼女を振り返り、明確な困惑を口にした。
「どうして僕が美術じゃないんだ?」
于奕孺は彼を睨みつけ、「私が知るか」と言わんばかりの理不尽さを込めて吐き捨てた。
「あんたが他の人間より頭が良いからじゃないの? だから与えられなかったのよ」
古珞鸒の視線がドアへ向かった。
「湯志傑はどこ?」
劉張三は頭を掻いた。
「……あいつは警備員(保安)だ。俺は現場に戻るよ、お前たちほど自由じゃないんでね」
駱馥琪は彼を見上げ、穏やかだが慰めるような声をかけた。
「きっと、あなたにしかできない役割があるはずよ」
その時、再び扉口に人の影が差した。唐衍之がドアの脇に立ち、室内を見渡すと、明らかに面食らった様子で意外そうに呟いた。
「……まさか、また行きあうとはな」
鄭愷苑の反応が最も早かった。
「あんたは何を教えるの? 何の教科書を持ってるのよ?」
唐衍之は手元の教材を見下ろした。
「中学の数学と、小学の数学だ」
言い終えると、彼の視線が一瞬だけ駱馥琪の方角へと流れた。
駱馥琪は俯いて己の教科書を追っており、その視線には気づいていなかった。
だが潘穎嫆は見逃さなかった。彼女は声をひそめ、観察するような慎重さで呟いた。
「自分に解けるかどうか、教科書を確かめているんじゃないかしら?」
鄭愷苑の視線もそのラインを追って揺れ、適当にあしらうように言った。
「他人の教科書まで覗き込んで研究中ね」
古珞鸒は己の教材を見つめている。
于奕孺はスケジュール表を確認している。
席に座る程晉陽は、思い思いに動く女たちを見渡しながら、胸中で一つの推測を導き出していた——この女たちは恐らく、前回の赤い糸のことなど微塵も心に留めていないのだろう、と。
対面に座る宋知行もまた、全く同じ懸念を抱いていたが、彼の視点は少し異なっていた——唐衍之は駱馥琪に気がある……だが、大半の人間は気づきもしないだろう。
程晉陽の背後に座る顧長安は、英語のテキストをめくりながらも、頭の中では教材とは無関係な思惑を巡らせていた——この女たちは、こと男女の情に関しては恐ろしく鈍感だ。それほどまでに自己中心的なのだろうか?
その時、陳硯之が唐突に立ち上がった。その動作はあまりにも急で、椅子が床を擦って耳障りな音を立てた。彼は一歩踏み出し、そして——その場に膝を突いた。
「謝罪させてくれ!」




