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【完結】「お前を愛することはない」と言われたので、黒薔薇の騎士に嫁いだら溺愛されました ~囚われたはずが、檻の鍵は私が持っています~  作者: ましろゆきな
エピローグ

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エピローグ:黒薔薇の檻の中で

 朝の光が、黒薔薇の庭に差し込んでいた。


 夜のように深い花弁が、淡い金色を受けて、静かに艶めく。


 その光景を窓越しに眺めながら、シルヴィアは紅茶を一口含んだ。


(……悪くありませんわね)


 結婚式から、数日。


 屋敷の中は、すでに通常運転へと戻っている。


 大きな変化といえば――


「おはようございます、シルヴィア」


 背後から聞こえる、落ち着いた声。


「おはようございます、カシアン様」


 振り返らずに応じる。


 以前と違う点があるとすれば。


 こうして、ごく自然に同じ空間にいることが増えた、という程度だろう。


「本日の予定ですが」


 カシアンが、いつもの調子で切り出す。


「北区画の結界強化に関する報告が――」


「後回しで構いませんわ」


 即答する。


「先に、南側の流通経路の見直しを」


「……承知いたしました」


 一瞬の間。


 だが、すぐに頷く。


 そして、何も言わずに指示に従う。


(……ええ)


 シルヴィアは、静かにカップを置いた。


(きちんと“使えます”わね)


 実務面においては、極めて優秀。


 判断も早く、実行力もある。


 多少、思考が極端になる傾向はあるが――


(そこは調整すればよろしいだけですもの)


 問題はない。


「それと」


 シルヴィアは、ふと思い出したように続ける。


「庭園の新しい区画、見ましたか?」


「はい」


 カシアンが頷く。


「ピンクの薔薇が、順調に育っております」


「そう」


 わずかに、視線を外へ向ける。


 黒の中に、ほんの少しだけ混ざる柔らかな色。


 あの一角だけは、異質だ。


 けれど。


(……悪くありませんわね)


 あってもいい、と。


 今は思う。


「もう少し増やしてもよろしいかと」


「……よろしいのですか」


 カシアンの声に、わずかな驚きが混じる。


「ええ」


 あっさりと頷く。


「すべてが黒である必要はありませんもの」


「……承知いたしました」


 静かな返答。


 けれど、その声音は、どこか柔らかい。


 短い沈黙。


 そのまま、それぞれの仕事に戻るかと思われた――その時。


「シルヴィア」


 再び、名を呼ばれる。


「何でしょうか」


 振り返る。


 カシアンは、ほんのわずかに迷うような素振りを見せてから。


「……確認ですが」


 静かに口を開いた。


「この場所は」


 一拍置く。


「居心地が、良いのでしょうか」


(……まあ)


 また、その話ですの。


 シルヴィアは、内心で小さく息を吐く。


 本当に、この人は。


(しつこいというか、不安性というか)


 どちらにしても。


 放置すると面倒なことになるのは目に見えている。


「そうですわね」


 彼女は、わざと少しだけ考える素振りを見せた。


 そして。


「現時点では、非常に快適です」


 はっきりと答える。


「……現時点では」


 カシアンが、その言葉を繰り返す。


「ええ」


 シルヴィアは頷いた。


「今後の環境次第では、評価が変わる可能性もございます」


 さらりと告げる。


 その意味を理解した瞬間。


 カシアンの表情が、わずかに引き締まった。


「……改善を怠らないようにいたします」


「ええ、お願いします」


 満足げに頷く。


 それでいい。


 常に最適化を続けること。


 それが、この関係を維持する条件。


 そして。


「カシアン様」


 シルヴィアは、ゆっくりと彼に歩み寄った。


「はい」


 ほんの一歩の距離。


 その位置で、止まる。


「一つ、付け加えておきますわ」


 軽く首を傾げる。


「仮に環境が悪化したとしても」


 カシアンの瞳が、わずかに揺れる。


「すぐに出ていくとは限りません」


「……それは」


「改善の余地がある限り、様子を見ることもありますもの」


 理路整然と告げる。


 つまり。


 即時撤退ではなく、段階的評価。


 その意味を理解したのか。


 カシアンは、ゆっくりと息を吐いた。


「……猶予をいただける、ということですね」


「そうとも言いますわね」


 くすりと笑う。


「寛大でしょう?」


「……ええ」


 わずかに、苦笑が混じる。


「非常に」


 そのやり取りに、シルヴィアは満足したように頷いた。


 そして。


 ふと、思い出したように。


「そういえば」


 視線を上げる。


「鍵の件ですが」


 カシアンの表情が、ぴたりと止まる。


「まだ、こちらで預かっておりますので」


 軽く手を振るような仕草。


「問題ありませんわね?」


 確認という名の、再宣言。


 カシアンは、ほんの一瞬だけ目を伏せ――


 そして。


「……はい」


 静かに頷いた。


「あなたに、お任せいたします」


 その声音には、もはや迷いはない。


(……ええ)


 それでいい。


 それで、完成だ。


 シルヴィアは、ゆっくりと窓の外へと視線を戻した。


 黒薔薇が揺れる。


 その中に、わずかに混じるピンク。


 閉ざされた庭。


 けれど、閉じ込められているわけではない。


 出ようと思えば、出られる。


 ただ――


(出る理由が、ないだけですわ)


 その事実が、すべて。


 彼女は静かに微笑んだ。


 世界一快適な檻。


 そして。


 その鍵を握るのは、自分自身。


 ――そんな日常が。


 これからも、続いていくのだろう。


 少しだけ騒がしく。


 少しだけ甘く。


 そして何より――


 退屈とは、無縁のまま。


 黒薔薇の庭は、今日も静かに咲き誇っている。

最後までお付き合い頂きありがとうございました。

監禁を「最高待遇の職場」と割り切るシルヴィアのプロ意識(?)いかがでしたでしょうか?


昨日、本作に先んじて完結した物語があります。


★本日 4/25 21:00 完結済

『0.1秒の求婚から逃げ出したのに、婚約者の私を「待つから」と溺愛されました』

https://ncode.syosetu.com/n3254lv/


ユフィと「待つ男」の心理戦が終りを迎えます。


残る一話の連載は継続しております。


★22:40更新 連載継続

『記憶喪失の守護騎士ですが、予知夢の王女を救うためなら……』

https://ncode.syosetu.com/n0331kz/


夜が深まるこの時間は、やはりこの騎士様。情緒溢れる静かな執着を、寝る前の一本にどうぞ。


引き続き、ブクマや評価(★)での応援をいただけますと、執筆の大きな力になります!

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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