34.言う事を聞かない少女
\祝10,000PV/
ブックマーク・評価、ありがとうございます。
長めです。
そして…先に言っておこう。
期待してた方…ごめんやで…。
アシッドドラゴン
危険度ランク14に分類される上位ドラゴンの中で、主に瘴気や酸での特殊攻撃を行ってくる。
特殊攻撃以外の戦闘力も高く、上位ドラゴンの中でも頭一つ抜けた強さを持つ。
体長は4mを越え、ブレスには腐敗効果もある。
戦闘が長引けばアシッドドラゴンが撒き散らす瘴気で調子を崩す為、討伐には迅速さが求められる。
☆
リュートと桜華が開いた扉の先、ダンジョンの第百層に待ち構えていたのはアシッドドラゴンだった。危険度ランク14に分類される上位竜種だ。
危険度ランクとは、人族がモンスターに対して付けた目安である。ゴブリンやオーク、スケルトンやゴーレム等、ある程度の強さを持った人族でも対処可能なモンスターは、割と細かく分類されている。
総合的な戦闘力を数値化して表すと、
ランク1 戦闘力~100
ランク2 戦闘力100~200
ランク3 戦闘力200~500
といった表示になる。
侑人がミュリアルの授業で習った知識では、人族が対処可能なモンスターの危険度ランクは、7~8といった所だ。…しかしそのランクのモンスターに対処できるのは、ソロではなく…熟練のパーティーやパーティー同士でのレイドを組んでの場合である。
オークロード等が分類される危険度ランク6以降は、分類がかなり大雑把に…且つ大幅になっている。詳細な分類化…調査している余裕が無いからだ。
危険度ランク6に分類されるモンスターを数値化するなら、その戦闘力の目安は3000まで。ランク8ともなれば戦闘力10000までのモンスターが対象となる。
危険度ランク8のモンスターの中でも、オークキングは難敵として知られている。ただ、攻撃力や敏捷といった部分では、同ランクに分類されるオーガの方が高い。耐久力やスキルを含めた総合的な討伐難易度で、オークキングの方が同じランク内でも上位モンスターとして扱われている。
オーガを8、オークキングを8+、戦闘力は低いが厄介な特殊能力を持つナイトメアを8-と表示すれば分かりやすいだろうか。
危険度ランクが8を越えれば、その戦闘力は戦った者の体感でしか測れない。そんなモンスター相手に『鑑定』を使える人物を連れて行けない…強さを測っている余裕など無いのだ。
「………………」
低ランクのモンスターが細かく分類されているのは、人族が戦う為…そして逃げる為の目安。自分とモンスターの強さを比較できる範囲なので、低ランクモンスターは細かく調べられ、その詳細な特徴や倒し方も知られている。
ただ、種族としての危険度が低かったとしても、そこにレベルは考慮されていない。
危険度ランクの高いモンスターであっても、レベルによってそのランクを下回る強さの個体もいる。…その逆も然りだ。
リュートと桜華が迷い込んだこのダンジョンの第十一層のように、危険度ランク1でありながら高レベルとなったゴブリンという存在もいる。
「………………」
桜華の居た時代であれば、危険度ランク10程度であってもソロで対処出来る者はいた。ジョブの変更やカンストボーナスによるステータスの底上げがあったからだ。
その頃の危険度ランクの分類は、ゴブリンとゴブリンロード…ランク1からランク3までは大した差が感じられないという理由で同ランクとして扱われていた。それでも細分化されているのは、子どもや年寄り、非戦闘職の者への配慮であった。
侑人の居た時代であれば、いくら強ジョブ高レベルの人族でもソロで対処出来るモンスターは…精々ランク7までだろう。平均的な冒険者の強さで見れば、ランク4がいいところ。そうやって見れば、やはりかなりの衰退具合だ。
ジョブ変更が出来なくなった事がステータスの底上げを奪い、レベルを上げる事への枷となった。これは人族に限らず、エルフや獣人種、竜種にも同様の災いが起こっている。
当時の事が伝わっていない、未来のマギカネリア。その原因の分からない衰退をした世界が、もうすぐ転換期を迎える。
(………………)
危険度ランク14に分類される上位ドラゴン。その中でも飛び抜けて強い個体は、色を冠して呼ばれる。黒竜や黄竜、または白竜と。
その白竜…シルヴィアが侑人との間で使ったスキル、『生誕』。それによって創り出された特別な卵。その卵から生まれた小さな白竜。その白竜はリュートと名付けられた。
通常のドラゴンの卵…交尾によって産まれた卵は、『生誕』で創り出された卵の様にアイテムやモンスターを吸収する仕様は無く、孵化の際に卵から経験値を得る事も無い。
通常のドラゴンの赤子は、いくら竜種と言えども弱い。それはドラゴンに限らず、どの種族にとっても同じだ。ステータスやスキルの知識も無く、レベルも1なので当然だろう。
モンスターの赤子もドラゴンの赤子も、長い年月をかけてその危険度に見合った存在へと成長していく。その過程をすっ飛ばしてしまえるのが『生誕』だ。
その『生誕』であっても、得られるのはスキルと経験値だけ。善悪の区別も常識もない、強すぎる子ドラゴンが産まれる…はずだった。
「──────」
侑人を吸収し、朧気ながら『神の宝珠』の力に頼ってリュートが侑人を助け、侑人の意識を持ったリュートが生まれる事となった。
硬すぎる殻を破り、桜華と出会い、感情を爆発させ、暴走に反省し、緋雨と出会い、誓いを立て、修行に明け暮れ、遊び、戦い、2年もの時間を過ごした。
その中で時には落ち込んだ日もある。
モンスターに怒りをぶつけた日もある。
桜華が寝ている時にこっそり泣いた日もある。
産まれた直後からあり得ない速度で強さを身に付け、『神の宝珠』を使いこなす為に…生き残る為に努力した。モンスターとして見ればその脅威度は…危険度ランクに見合う以上の存在へとなっていた。…身体の成長は全く見られないが。
そんな2歳のドラゴンが、…本来の力を出せないはずの人化した姿で、…ダンジョンの第百層で待ち構えていたアシッドドラゴンを、…倒した。
…倒してしまった。
「…ゴメン、桜華くん」
扉を開けるとドラゴンが叫んで出迎えた
ドラゴンによる瘴気と…匂いが酷かった
瘴気と匂い対策で『洗浄』を使い続けた
ドラゴンが弱りそのまま勝利(今ココ)
ちなみに、『洗浄』の他に空気を綺麗にする『清浄』という魔術も組み立てられている。イメージしたのは高性能な空気清浄機である。こちらでもダメージを与えられた可能性は高い。
「いや、ほら………。安全に倒せて良かったんじゃない?」
(…いいのかしら?)
そんな会話をしていると、アシッドドラゴンの体はキラキラと光の粒子となって舞い上がり、魔石とドロップ品を残して消えていった。
アシッドドラゴンの見せ場は「よく来たな下等生物が!」と叫んだ登場シーンのみ。死闘を繰り広げるでもなく、リュート達に新たな力が目覚めるでもなく、割とあっさり戦いが終わってしまった。
『洗浄』で力の源がなくなってしまったアシッドドラゴンは、そのまま力尽きてしまったのだ。…「痛たたた!?」と叫んでいた気がしないでもない。
死因…綺麗になった事。アシッドドラゴンにとって、清潔は毒なのかもしれない。
魔石は今まで見た中で一番魔力を秘めており、ドロップ品は毒性を持った大きな爪だった。
リュートが『インベントリ』にそれらを仕舞った所で、床に一つの光が現れた。
「…実際に見るのは初めてだよ」
「…ポータル。五十層では無かった演出だね」
(何が出てくるのかしら? あたしの出番ね!?)
リュートはミュリアルの授業で、情報としては知っていた。桜華の記憶を覗いてしまった時に見た事はあった。ポータルを実際に見るのは初めてだった。
桜華は勇者として何度もダンジョンを攻略し、実際に見た事も使った事もある。ポータルを見るのは久しぶりだった。
緋雨は…床に現れた魔法陣から何か出てくるかもしれないとやる気満々だった。頼もしい限りだ。
「これで、出られる…のかな?」
「そのはずだよ。2年前の答え合わせって思うと…感慨深いものがあるね」
「だね。………、情報は見れなかったよ。権限不足っぽい」
「そっか。…ダンジョンを作ったのは神様か何かなのかな?」
「自然現象でポータルなんて出ない…出ないよね? 分かんないけど、権限が絡んでると思うとそうかもしれないね」
(…あのぽーたる?からは何も出てこないの?)
「あれはここの出口みたいなものだよ。…行ってみる?」
「…そうだね。…いつの時代に出るんだろうね」
「出てのお楽しみ? …楽しくはないけど。それじゃ行…一応手を繋いで行こう?」
「…ふふっ、怖いの?」
「いや~…なんて言うか、直感? 手を繋いでた方がいい気がして」
「そっか、勘も大事だからね。一緒に行こう」
(あたしも一緒よ!)
「あはは。そうだね、みんなで一緒に行こう」
リュートが緋雨を右手に持ち、リュートと桜華が手を繋ぎ、床に現れていたポータルへと歩き出す。
ポータルの中心まで来ると足を止め、その時を待った。その2秒後にはポータルからの光が強まり、周りの景色が見えなくなった。
ダンジョンの外へ出られると決まったわけではない。しかし出られそうな予感はしている。
リュートの脳裏に、これまでダンジョンで過ごした日々が思い浮かんでいた。
キラーアントから必死に逃げて死んだ事、守ったはずのリュートに守られて生かされた事、泣きながら戦い…暴走した事。
魔術の改良に失敗して泥だらけになった事、魔術でダンジョンの壁に大穴を作った事、リュートの美味しい水が完成した事。
子竜の姿で『飛翔』を使い飛び回った事、急造のお風呂で桜華ちゃんと背中を流し合った事、過去を思い出させられて暴走しそうだった桜華を止めた事。
レベルアップをお互いに喜び合った事、修行の効率化を図って桜華に引かれた事、初めてパンツを作成して穿い………いや、なんでもない。
緋雨に血を与えた時に簪を鳴らしていた事、誕生日を祝ってもらった事、気合十分で挑んだ第百層での激闘………いや、なんでもない。
(──コン───理ナ──538───移完──)
リュートと桜華の頭の中に、…殆ど聞き取れなかったが、システムの声らしきものが聞こえた。それが何だったかを考える前に、真っ白だった世界から光が弱まっていった。
光が消えると、目の前には木々が、後ろには岩山が、足元には土と草が、見上げれば…本物の空と太陽があった。風が肌を撫で、髪を揺らし、緑の匂いと葉が擦れる音を運んでくる。
リュートと桜華は手を繋いだままお互いの目を見合って、再び前を向いた。喜びを分かち合うよりも、体中で感じる久々の自然を静かに噛み締めていた。
☆
「………あるハズの入口が無いんだけど。どうなってるんだろ? 入り口は別の場所? …分かんないや。とりあえず印だけ付けておこうかな? まずは…どこか村でも見つけて情報収集?」
「そうだね。少なくとも俺の居た時代より平和そうではあるけど…誰かに聞くのが一番か。…ってか、印ってそれ?」
「誰かに見せるものでもないしね?」
(すごいわ! ダンジョンの外! 外にもモンスターがいるのよね? …でもゴブリンだとしたら物足りないわ)
「あはは、あのダンジョンに比べたらさすがにね? 力の調整は大丈夫そう?」
(全力でやると…多分この森が切り株だらけになっちゃうものね。調節はリュートに任せた方がよさそう)
「了解、頼まれたよ相棒」
(うん!)
「ただ…弱いモンスターばっかりだろうから、出番減るかもね?」
(そんなぁ!?)
緋雨は元気な返事と共に簪をチリンと鳴らした。
本来あるはずのダンジョンへの入口が無く、岩山へとりあえずで目印をつけた。…古典的な日本産の落書きである。「へのへの~」というリュートの声付きだ。
森の中を進み、襲ってくるゴブリンやグレイウルフを倒し、20分程度歩くと…森の終わりが見えてきた。
「実際ダンジョンから出られたわけだけど、これからどうする?」
「そうだね~…、俺はやっぱりミルファリアさんに会いに行こうかな」
「私は…、人を見つけて話を聞いてから決めようかな。時代によってはジャガーバルト領がまだ無い可能性もあるし」
「あ~確かに。一緒に来る?」
「ん~…、ん~! …やめとく」
「そう?」
「行きたいと言えば行きたいけど、久々の…感動の再会だしね。いきなり知らない人間を連れて行くのも~って思っちゃうし。話のネタとして紹介だけでもしておいてもらえればいいかな? それで改めて里を訪れる時があったらその時に連れて行ってよ」
「まぁ、そう言うなら…」
「一人で考える時間も欲しい…っていうのもあるしね? …シルヴィアさんになんて言えばいいかとか、ダンジョンから出られたら改めて考えちゃって…。まぁ、それも今の時代を把握出来ないと何も…ストップ」
「…人かな?」
「みたいだね、村を探す手間が省けたかな? こんにちは~!」
「…行動早いよリュート」
怪しい者ではありませんアピールをしながら、森の出口付近の切り株に腰を下ろして汗を拭いていた男へと近付いていくリュート。と、その後を追う桜華。
パッと見で男の年齢は30歳頃、近くの木に斧が立て掛けられている。木こりさんらしい。
「お~? …こんにちは。誰だい?お前さん達、ここらじゃ見かけねぇな」
男が声のした方向に顔を向けると、そこには見知らぬ男と少女がいた。いくらフレンドリーに声を掛けられたとはいえ、木こりさんの警戒心は高い。
「初めまして。私はリュートといいます、こちらが…「桜華です」。少しお尋ねしたい事があるのですが…」
「………そうか、俺はローバックってんだ。聞きたい事があるのは構わんが…」
初めましてと言いながら頭をペコリと下げたリュートを見て、木こりさんの警戒心は早くも緩んだ。
「ありがとうございます! …変な質問をするかもしれませんが、ルクセウス王国ってどちらの方角でしょうか?」
「………へ?」
「えっと…、ルクセウス王国って…ご存知ですか?」
「………本当に変な質問だな、ここがルクセウス王国だろ?」
「…ふえ?」
「…ん?」
ルクセウス王国が存在しない時代なのかと思って質問を変えたリュートだったが、まさかの答えが返ってきた。
質問をしておきながら「ふえ?」と答えてしまったリュート。ローバックが「ん?」と聞き返してしまうのもある意味当然の反応か。
もしローバックがルクセウス王国を知らないと答えていれば、カロマス王国について聞くつもりだった。カロマス王国はルクセウス王国の前の呼び方であり、桜華を勇者として召喚した国の名前でもある。
「し、失礼しました。では…、ジャガーバルトという領地はご存知ですか?」
「あ~、確か冒険者上がりの貴族様の領地がそんな名前…だったような気がするが…」
「なる…ほど…。(多分間違いない、私…侑人の居た頃の時代だ。あれから等倍で進んでる? 基準は何だったんだろ? 桜華くんの居た時代に出る確率が高いと思ってたんだけど…あ)ごめんなさい、考え事してました」
「構わんさ、聞きたい事はそれで全部かい?」
「えっと…最後にもう1つだけ。ジャガ…じゃない、ルクセウスの王都へ行くにはここから何日くらいかかりますか?」
「王都? 王都なら…あっちに村があるんだが、村まで行って街道沿いに南に…馬車で10日ってところだな。それなら道に迷わないだろうよ。俺はそろそろ仕事に戻るが、王都に行くんなら気をつけて行きな?」
「はい! 本当にありがとうございました!」
ペコリと頭を下げて礼を言うリュート。おおよその時代と場所が分かり、更に方角まで分かればリュートには十分だった。
ローバックが斧を持って伐採を再開し、そこから少し距離を取った所でリュートと桜華の話し合いが始まった。
侑人が暮らしていたジャガーバルトの街。その街から突然行方を晦ましてしまった。
ダンジョン生活中、すぐには会えないかもしれないと考えていた。逆に…もう会えないかもしれないとも考えていた。
ジャガーバルト領があると分かり、ジャガーバルトの街にいる友人知人の顔が頭に浮かんだ。みんなが居るのだと思うと…リュートの胸に恋しさが湧き上がってくる。
「…それじゃ、リュートはジャガーバルトに行くって事でよさそうかな?」
「そうだね、みんなの顔が早く見たいよ。…待ち合わせはジャガーバルトにする? 王都にする?」
「ジャガーバルトかな? 俺もその街を見てみたいし」
「了解。…桜華くんがジャガーバルトに来て合流したら、竜の谷に行こう。それまでには覚悟を決めておくよ」
「分かった。…また会おう、親友」
「あはは。また後でね、親友」
(バイバイ桜華! リュートにはあたしがいるから心配いらないわ!)
「ふふっ、そうだね。リュートを頼むよ緋雨」
(任せて!)
リュートと桜華がグータッチをし、桜華はマジックバッグから取り出したアイテムを見た後、北へ向かって歩き出した。
…ふと桜華が振り返ると、リュートはまだ出発せずに…振り返った桜華に向かって手を振り始めた。手を振り返した桜華は苦笑いをして、リュートが早く出発出来るようにと…目的地へ向けて走り出した。
「………それじゃ、行こうか緋雨」
(うん、…本当に桜華と一緒じゃなくて良かったの?)
(一緒に行くのはまた今度にするよ。一人で考えたいっていうのもあるからね)
(…リュートがそう言うなら。それで、歩いて行くの? 飛んで行くの?)
(あはは、飛ぶには姿を変えないといけないから、両方の意味で目立っちゃうよ。…う~ん、でも急いだ方が良さそう…かな?)
(勘?)
(なんとなくね? 多分、早く皆に会いたいって気持ちのせいかも。外も2年過ぎてるだろうから、長い間どこ行ってたんだ~って怒られに行かなきゃ)
(あはは! それなら早く行きましょ!)
(うん、そうだね!)
リュートと緋雨は、ローバックに教わった道…を通らず、南へ向けて直進を始めた。
☆
(おっと、その前に…)
森から出て、すぐさま森へ引き返した。
「ローバックさん」
「うん? お前さんは…リュートって言ったか、どうした?」
「親切に教えていただきありがとうございました。お礼にこれを」
「ふはは、子どもがそんな事気にすんじゃねぇよ」
「いえ、大した物ではないので。感謝の気持ちなのでどうか受け取ってもらえませんか?」
(…さっきの質問といい今といい、ほんと変な嬢ちゃんだな)
「分かった、受け取っておく。本当にいいんだな?」
「はい! ありがとうございます!」
「なんで渡した方が礼を言ってんだよ…」
「あはは。お仕事中でしょうし、あっちに置いておきましょうか?」
「あ~そうだな。今キリが悪いからよ、さっき座ってた切り株の所にそいつを置いといてくれるか?」
「分かりました。それでは私はもう行きますので。本当にありがとうございました」
「いいっていいって、こっちこそ気を使…さっきの兄ちゃんはどうした?」
「あぁ、彼なら先に旅立ちましたよ」
「はぁ? 嬢ちゃんを一人残して行ったってのか?」
「置いて行かれたわけじゃないですよ? 別行動を取ってるだけですので。それに私、結構強いので」
「強いったって…そうか? まぁ…気をつけて行けよ? モンスターが出るような場所は避けろよ? 村の方から街道を行けば割と安全だからな?」
「はい! それでは~!」
切り株の上に小さな包みを置いて、リュートはローバックに言われた村への道…を通らず、南へ向けて直進を始めた。言う事を聞かない少女である。
☆
side:ローバック
「…ふぅ、仕事に身が入らねぇ。話を聞かねぇ嬢ちゃんめ、村へ行けって言ったろうに…なんでそのまま南へ行くかなぁ? 呼び止めようと思った時にはもう随分遠くへ行ってやがったし…まったく」
俺は早めの昼休憩に入った。斧を木に立て掛け、汗を拭きながら昼飯と護身用の剣が置いてある切り株へ向かった。
切り株の上には俺の手のひらよりも小さい…布の包み?がある。なんだっけこ…あぁ、嬢ちゃんのお礼だったか。
正直その後の事が気になって、すっかり忘れちまってた。足は速かったみてぇだし、まぁ大丈夫とは思うが…心配しても仕方ねぇか。
「よっこら…せっと。木の実か何かか? …硬いな、ゴブリンの魔石か?」
包みを開いてみると、
「………」
ポーションが入ってた。…ポーション? …え? ………え?
「いやいやいやいや!?これ上級じゃねぇか!? しかも青と赤の2本!? 青いのはMPポーションだろ!? 何考えてんだあの嬢ちゃん!」
くそっ、最初に確認しときゃよかった! あんな話をしてやった程度でこんな物を礼として渡す奴があるか!
包みの中に入っていたのは、上級…多分上級のポーションだ。…HPとMPの。
HPポーションは割と安い。初級のHPポーションなら銀貨5枚程度だ。だが上級のHPポーションは大銀貨4枚はするんだぞ? 上級のMPポーションなんて…確か金貨5枚以上するんじゃなかったか?
服装からしていいとこのお嬢さんって感じはしなかったが…いや、成長したらかなりの美人になるのは間違いなさそうだったが。まさかこんな礼をされるとは…。
「はぁ…、今度会った時に何て言えばいいんだよ。…今度があるかは分からんが」
HPポーションはまだしも、MPポーションの方は使うに使えねぇ。使えば勿体ねぇし、売るのもなぁ…。
俺の3か月分以上の稼ぎになりそうなモンをポンと置いてった嬢ちゃんに…文句を言える日が来るのか分からんが、どんな文句を言ってやろうかと考える。
…ん? 包みの中に紙…手紙か?これ。「お好きに使ってください」? …ははっ、いつの間にこんな物を。…ってか、価値を知ってた上で礼として置いていったのか。
まったく…なんだったんだろうなあの嬢ちゃんは。リュートっつったか、不思議なやつだったな。
どこからやってきたのか知らねぇが、無事に王都まで辿り着いてくれよ?
「ありがたく受け取らせてもらったよ。ありがとな嬢ちゃん」
ここには俺以外誰もいなかったが、ポーションを両手で持ち上げ、改めて嬢ちゃんへの礼を口にした。
☆
side:???
【絶級ダンジョン(刻)ノ初踏破ヲ確認、コングラッチュレーション】
【踏破者…管理ナンバー28538、転移設定開始…中断】
【管理ナンバー28423、管理ナンバー18、ノ同行ヲ確認、設定ヲ再開】
【転移時刻…管理ナンバー28538ノ発生時ニ設定】
【転移先…管理ナンバー28538ノ発生場所ニ設定…エラー、侵入経路3カラ初期位置ニ変更】
【転移開始…完了】
アシッドドラゴンは臭いので戦いませんでした。
とうとう脱出。
五章終了まであと2話。




