33.真剣でありながら楽しく過ごした2年間
ブックマーク・評価、ありがとうございます。
「「(ごちそうさま!)」」
「食後のオレンジジュースでございます」
「わお! 大盤振る舞いだね~」
(あたしも飲みたい! でも、あたしはチクチクが少ないのがいいの…)
「今日くらいはね? 緋雨の分は弱めの炭酸で、オーちゃんは普通でいい?」
(ありがと! リュート!)
「私は普通でいいよ~。このグラス…よりも、炭酸水作るのにも苦労したね~」
「まぁね。霧になったり水浸しになったり、水風船みたいになって破裂したり…。その甲斐はあったかな?」
「『ウォーター』がどんどん美味しくなっていったから、そこも大きいよね」
「あ~…こう言うのもなんだけど、弄ってない『ウォーター』って泥水飲んでるみたいだったもんね。臭み…匂いも味も」
「私もちょっとは改良してたけど、その時より劇的な進化じゃない?」
「真水にしきらない調整が難しかったね。…純水だっけ? まぁいいや。お陰で消費魔力が増える事増える事…。『洗浄』の質が更に良くなったけど」
(『創造』を使って『洗浄』を作るって案も出てなかった?)
「出てたね。確かに『創造』で1つの魔術として創ってしまえば、使うのは楽になるだろうね。…応用が利かなくなりそうだけど」
(…どっちがいいのかしら?)
「ん~…良し悪しだよね~。手を洗う為にお風呂に入る、みたいな感じになるだろうし。私は俺の時でも魔法陣を重ねるのまでが限界だから、『洗浄』の質が上がらないんだよね…」
「私だってスマホが無かったら多分同じだよ。コレのお陰で記録と呼び出し、極小化が出来てるからね。文明の利器だね~ほんと」
「…ここでのその使い方合ってるのかなぁ?」
明らかに文明の利器どころではない。
「私もスマホ持ってたら…あ~、持ってるだけじゃダメか」
「ん~…そうだろうねぇ。私もどうやってスマホがスキルになったか分かってないし、やろうとしても…体内への異物混入に…」
「怖っ!?」
「あはは…。まぁ、スキルに昇華させるには『眼』の力が必須だろうね。出来る保証は無いし、消費魔力だってどれだけ必要になるか想像もつかないや」
「代替案を考えておこうかな。スマホじゃなく魔石で同じ事出来るかもしれないし。…便利さはスマホが圧倒的に上だけど」
「スキルとしてじゃなくても、普通に写真や動画、オフラインのやつならゲームも出来るし、音楽も聴けるからね」
「そういえばリューちゃんのスマホって音楽多いよね。数もジャンルも」
(おふらいん? じゃんる?)
「オフラインは…あ~そうだねぇ、緋雨と話が出来ない状態…みたいな感じかな? オンとオフの話は覚えてる?」
(覚えてるわ! 力を入れてる時と入れてない時、みたいな感じ…よね? …という事は、おん…らいんはあたしと話が出来る状態?)
「そんな感じ、繋がってる時がオンライン、繋がりが切れてる時がオフラインって感じだよ。ちゃんと説明できる環境なら、もっと細かく教えてあげられるんだけど…」
(そう? 多分大丈夫…、間違って使っちゃった時は教えてね)
「あはは、了解。ジャンルっていうのは大きく分けた種類って意味だよ」
(種類…じゃんるね! 覚えたわ!)
「緋雨は勉強熱心だね。えっと…スマホに音楽が多いって話だったっけ。私…侑人は専門学校行っててさ、音楽関係の。歌い手じゃないけどね」
「へぇ~、そっちの道には進まなかったの?」
「卒業してから機材を買う為に働いてたんだけど、婆…ぁ~一時的にだったけど、婆ちゃんが体調崩してね? それで実家の仕事手伝う事にしたんだ。街で働いてたのもバイトだったしね」
「なるほど…、実家はご飯屋さんだったっけ?」
「そうだよ。担当してたのは調理より接客が主だったけどね。まぁ、専門通ってたあの時の名残…とでも言うか、スマホはカメラより音重視で出してるメーカーのやつにしたんだ。…今思えばサブスクじゃなくて良かったって思うよ」
「サブスク?」(さぶすく?)
「あれ…オーちゃんも知らない? 緋雨に分かりやすく言うのは難しいけど…先にオーちゃんに説明すると、サブスクリプションの略で定額料金サービスの事。マンガ読み放題、音楽聴き放題とか」
「あ~、なるほどね、サブスクって言うんだ。…確かに緋雨に伝えるには難しいね、お金を払う事で遊び放題…みたいな?」
(遊ぶのにお金を払う…、なる…ほど? さぶすくね? 覚えたわ?)
緋雨にマニアックな知識ばかりが増えていく。本当に覚えられたのかも怪しい気がする。そもそも覚えなくてもいい知識ではないだろうか。
桜華がマギカネリアに召喚される前からあったサービスだが、サブスクの呼び方がそれほど広く定着していたわけではない。知っている人は知っている程度、そのせいで桜華にも伝わらなかったのだろう。
サブスクという呼び方で流行語にノミネートもされたが、それは桜華が召喚された3年後…2019年頃の話である。
「まぁ、曲が多いって言っても、好きなものばっかり入れてるだけなんだけどね? 作曲みたいなアプリも入ってたみたいだけど、全然使ってなかったし」
「色んな音録ってたもんね。今じゃ…なかなか個性的なドラムみたいなの作れてるし」
(私はドラム好きよ? どんちんかんちん、音がいっぱいでワクワクする!)
「あはは、楽しんでもらえて何より。やりだしたら案外面白かったしねこれ。ドラムだけでも時間がかかるし、曲にするには音が足りないし、息抜き程度にしか作ってないけど」
「ボイパとかしたら音増やせるんじゃない? 私は出来ないけど」
(ぼいぱ?)
「あ~…ボイパはね~。私も全然上手く出来ないけど、ドゥッ!とかツッ!とか、口でドラムっぽい音を出すんだよ」
(なるほど! 確かにドラムの音っぽいわね! …どっ!つっ!どっ! ………? 覚えたけど…何か違う…)
…緋雨に更にマニアックな知識が増えた。
「あはは、難しい技術だからね。ボイパは上手く出来るかより恥ずかしさが勝っちゃって続かないんだよね~。自然の音縛りって事にしようかな? 披露するわけでもないし、今は普通に曲を流す方向で」
「レベル上げが終わってからは普通に音楽流してたもんね。異世界感が薄れちゃってた時あったよ」
「あはは、確かにそれはあるかも。桜華くんとして召喚されて以降の曲もあるから、時代を先取りしちゃったね」
「ある意味では…。時代に取り残された感じの方が強いけどね? …そういえば、めっちゃ古そうな曲もあったけど、何の曲なの?アレ。歌えそうなくらい覚えちゃったよ」
「ランダムで流してたからね~、結構古いドラマの主題歌だよ。すっごい好きで、カラオケで何回も歌ってたんだ。…一人で行った時ね?」
「…ヒトリ」
「いや~、その曲は好きなんだけどさ? 古い上に世間の評判は微妙らしくて。そんな歌だと周りがしらけるじゃん? それなら気兼ねなく一人で行った時に思いっきり歌うのがいいかな~って」
(カラオケは歌を歌う場所で、ドラマはお芝居…だったわね)
「正解、よく覚えてたね。…2年経った今も、歌が全然上達しなかったなぁ」
「う~ん、なんて言えばいいんだろうね? …上手な音痴?」
「言い得て妙…」
リュートの音痴は継続中だった。自分の事ながら自分の手に負えないらしく、リュートの姿で歌う事は諦めていた。
2年の間にスマホへ録り溜めた音は500種類以上。戦闘中の打撃音やモンスターの鳴き声、木を殴った音や生活音まで様々だ。他にも緋雨の簪の鳴る音や竜化したリュートの鳴き声等々、2年の間に集めた音はパーカッション等として十分組み立てられる程の量となっている。
もちろんダンジョンからの脱出が最優先事項だが、心のゆとりは大事である。料理はともかく、録音や雑談などと余計な事をせず攻略に専念していれば、今居る場所まで来るのに半年以上は早くなっていたかもしれない。
その場合のリュート達の仲は、殺伐…とまでは言わないが、とても誕生日を祝うような間柄にはなっていなかっただろう。
真剣でありながら楽しく過ごした2年間。その結果が吉と出るか凶と出るか…はたまた結果が出ずにまだ冒険は続くのだろうか。
「…さ~て、それじゃ準備を済ませたら行ってみようかな」
「『CC』、今度こそ…だね。ここまで来るのに長かったような、あっという間だったような…」
「まだ最下層と決まったわけじゃないけどね? 確率は高そうだけど」
(何が出てきても全力で倒すだけよ!)
勇者である桜華と卵を抱いた侑人が迷い込み、刀となった緋雨(とデュフフ陰陽師)が世界を越えてやってきたダンジョン。その攻略が完了するのかしないのか、進んでみなければ分からない。
現在…第九十九層、危険度ランク11に該当するアースドラゴンやサラマンダーといった下位竜が湧く階層…のセーフエリア。節目となる第百層を目前に、気力も体力も満タンである。
…リラックスし過ぎにも思える。
そして…そんな場所で誕生日パーティーを開催するなと言いたい。
「………その恰好で行くの?」
「うん、もし『竜人化』を使う事になって…『インベントリ』に収納する余裕が無かったら、服が破れちゃうからね。出られたら着替えるよ」
「あ~…、なるほどね」
短パンにTシャツ姿になったリュートは、着替える為に身に着けていたマントを『インベントリ』に収納した。
シンプルな服ではあるが、付与魔術がかけられた一品である。その防御力は下手な鉄鎧や宝箱産の防具よりも高い。宝箱から得た靴やブーツも持っているのだが、最初から履いて行かないようだ。
『竜人化』を使う事になったら服が破れる、それはいつかのように腰に生える翼で破ってしまうという意味では無い。ステータスの開放という行為だけで服や鎧が耐えられずに弾け飛んでしまうのだ。
試した当時…それ用に服が完成し、実際に竜人化を使ってみた時は苦労したのだ。…主に桜華と緋雨が。やっと完成した服がボロ布になってしまい、涙目でしょんぼりするリュートを慰めるという意味で。
桜華の「なるほどね」の言葉には、当時の慰めた思い出が詰まっていた。
「よし、俺は準備おっけー」
「私もいいよ」
(あたしはいつでも行けるわよ!)
「あはは、それじゃ…行こう」
「おう!」(うん!)
多少の緊張はある。
どんなモンスターが出てくるのか、そのモンスターを倒せば外へ出られるのか、…倒せる相手なのか。
強くなった自信はある。
ダンジョンで桜華とリュートが出会って2年。共にレベルを上げ、技を増やし、技術を磨いてきた。実際、第九十九層に出没する下位竜、アースドラゴンやサラマンダー相手にも問題無く戦えている。
緋雨も力のコントロールが格段に上がった。もう「叩き折って殺してくれない?」と言っていた頃の緋雨はいない。リュートの相棒として、溢れるやる気がチリンと簪を鳴らす。
第九十九層から階段を下り、辿り着いた第百層。
そこには、今までの五層毎にあった中ボス部屋よりも重厚で大きな両開きの扉が存在した。
その扉の前で、リュートと桜華が顔を見合わせ、頷いた。
リュートが左側の扉に、桜華が右側の扉に手を当て、押し開いていく。
2人共やる気に満ちた目をしていながら、口元は微笑んでいるようにも見えた。
「グルアアアアアァァァ!!」
部屋の中に入ったリュート達を大きな叫び声が出迎えた。
2年に及ぶ勇者と少女と刀の、最後の戦いが始まる。




