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【一旦完結】ジャガーバルト家の義妹  作者: もにーる
第五章 『生誕』編

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35.何か分からないけど超怖ぇ!

ブックマーク・評価をしていただきありがとうございます!


 ローバックに心配されている事など露知らず、リュートは南南西…っぽい方向へ直進していた。

 『気配遮断』のスキルで存在感を消し、『眼』で遠方を確認しながら、時速30キロ程の…駆け足で。


(…しまったな、ローバックさんに今が何年なのか聞いておけばよかった)

(きっと浮かれてたのね、声が弾んでいたもの。戻って聞く?)

(ん~、お礼を置いてきたのに戻るのも恥ずかしいし、このまま行こう)

(分かったわ。どれくらいで着きそうなの?)

(…なんとも言えないね。ローバックさんは王都まで馬車で10日って言ってたから、1日…直線距離で50km進んだとして500km…は単純すぎるかな?)

(ごひゃっきろ…え~と、1kmが1000mで…え~と、…遠いわね!)

(あはは、そうだね。明日中には着くと思うよ)


 この少女、2日で500km以上の距離を進むつもりらしい。

 ちなみに村から王都まで、街道を使って進めば700kmを超える。村と村を繋ぐように、そして山や森を迂回する形で街道があるので、その分距離が伸びるのは仕方のない事だ。


(長さの事よく覚えてたね。すごいよ緋雨)

(い、いきなり褒めないで。恥ずかしい…)


 リュートの左腰にある緋雨の簪がチリンと鳴る。2年経っても簪が鳴ってしまうのは相変わらずらしい。


(私も教えてもらう事多かったけどね。一寸とか一尺とかの長さは、言葉では知っててもどれくらいの長さかよく知らなかったし)

(あたしの方が沢山教えてもらったわ! でも、あたしからも教えられる事があるんだって思うと…何だか嬉しかったわね)

(そっか。また教えてもらう事があったらよろしくね?)

(その時は任せて!)


 ちなみに一寸は約3cm、一尺は約30cmである。

 他にも一刻や半刻という時間の長さが夏と冬で変わるという話も聞いていた。昼と夜を六刻ずつで分けていた時代、夏と冬では太陽の出ている時間が違うので、一概に一刻=2時間とはならなかったのだ。

 それを伝えた当時の緋雨は、興味深そうに話を聞くリュートと桜華を見て嬉しそうに簪を鳴らしていた。


(ところで、服は着替えないの? ダンジョンから出たら着替えるって言ってたけど)

(あ~…そうだね。移動が続きそうだし、街に近付いてからでいいかな? 一応マントだけ着ておこうっと。…『洗浄』で綺麗になるといえばなるけど、向こうに着くまでは動きやすさ───)

(どうしたの?)

(…火柱…っぽいものが見えた。遠すぎて確実じゃないけど、方角と距離的には…ジャガーバルトに近い? 火柱で合ってたのかな…訓練…戦闘中?)


 王都の方向から大体の予想を付けて『眼』で確認していると、リュートの表情が真剣なものになった。ジャガーバルト…と思われる領地付近から、大きな火柱らしきものが確認できたからだ。


 ダンジョン内では遠方の確認をするにも限界があった。地上に出て初めて長距離の…500kmを超える場所の確認が出来る事が分かった。が、遠すぎるその映像は鮮明さが全く無い。

 荒いモザイクがかかったような視界にオレンジ色の線が縦に伸びた、という程度の光景。不鮮明さに加えて音は聞こえず、魔術による火柱だったとしても魔力を感知するには遠すぎる。

 よく見えるようにならないかと魔力を注ぎ込んでみたが、あまり改善はされなかった。


(火柱…本当に? 全然見えないわ)

(さすがに見えないだろうね、短い時間だったし。そうだね~…京辺りから江戸の火事が見えるって言ってる感じかな?)

(なるほど…多分無理ね!)

(あはは、緋雨は京も江戸も行った事無いもんね。どれくらい遠いか答え合わせしよう。予定変更、1時間で行くよ)

(1時間…半刻くらいね!)


 間違っていればそれでいい、笑い話にすればいいだけだ。だがもし、ジャガーバルトに何らかの危機が訪れているのであれば…。

 そう思ったリュートは、2日で500kmのペースから時速500kmへペースを変える事にした。


(急いだ方がいいと思った勘はこれだったのかな? 行ってみないと分からないけど)

(もし何か起きてるならあたしの出番ね!)

(頼もしいよ相棒。ここなら大丈夫だろう…『気配遮断』『竜人化』。『飛翔』、跳ぶよ!)

(いいわあああよおおぉぉぉ!?ひやああぁぁぁ!?)


 『竜人化』によってリュートに角と尻尾と翼が生え、前髪の一部が黒くなった。服とマントで見えないが、体には白い鱗が出現している。


 リュートは『飛翔』の練習として、ダンジョンで『竜化』や『竜人化』を使って飛び回った事がある。竜人の姿で緋雨を持って一緒に飛んだ事もある。

 その時の速度をイメージしていた緋雨は、経験した事のない上昇速度に悲鳴を上げた。まだ飛んではいない、跳んだだけだ。


(ご、ごめん緋雨。『インベントリ』に入っとく?)

(そ、そうね!? 楽しかったわ!?)

(了解、また後でね? よし、…一応『認識阻害』も使おう)


 リュートは緋雨の楽しかった発言にツッコミも入れず流してしまった。ジャガーバルトで何が起こっているのかが気になり過ぎているのだろう。

 緋雨を『インベントリ』へ収納し、火柱らしきものが見えた方角へ目を凝らした。答え合わせ用にスマホを追尾録画モードにして…律儀か。

 ジャンプで到達した高度は300m前後。消費を抑える為に『眼』は一旦力を解除し、翼に魔力を集中させ、進みたい方向をイメージして移動を始めた。


 …その後方をスマホがピッタリついてきている。…なかなかシュールな光景である。



 ドラゴンが空を飛ぶという行動に羽ばたきは必要無い。翼に集められた魔力が、浮く、進む、上昇下降といったイメージを実際に行ってくれるからだ。

 リュートが飛ぶという行動だけに集中して練習していれば、それなりに上達していただろう。『飛翔』のスキルが勘に働きかけもするので尚更に。しかしどちらかと言えば…飛ぶ事はリュートにとって遊びの範疇だった。


 産まれた瞬間高レベル、生後間もなく行った戦闘、戦闘後の『眼』の制御と訓練等によって上昇した『魔力操作』。結果的に魔力によって飛ぶという行動は、リュートには練習する程の難しさでは無くなっていた。せいぜい空中でバランスを取る事に苦労した程度だ。

 ただ、基本安全運転ばかり。宙返りといった曲芸じみたものは試したが、高速飛行は行っていない。狭いダンジョン内という事情もあり、行えなかったというのが正しいが。


(魔力を増やしても思ったより速度が上がらない、シルヴィアさんはもっと速かったはずなのに。込める魔力じゃないのかな…翼の出力限界? それなら…)


 飛んでいても風の抵抗はあまり感じず、上空なので体感速度も分かり辛い。しかし、思い描く速度よりも遅いという事は確かに感じられた。なんなら、走る方が確実に速いとまで思えていた。


 もっと速度が上がらないかと考え、高度を上げて…斜めに落ちていくように飛んでみた。…斜めに飛んでいるうちは速度は上がった。

 また、風の抵抗を考えて、『ウィンド』で前方に壁を作るイメージ…よりも、細長い卵の様なイメージで自身を覆ってみた。少々…多分…気持ち程度…速度が上がった…気がする…多分。

 更に、後方に風系統の中級魔術『ウィンドボム』を発動させ、推進力としてみた。…推進力作戦は失敗した。


(あれ? …あぁ、反作用? 術者の保護のせいか? なら…覆ってる風を結界に変えて…円すい型の方がいいかな。ボムの術者保護を消して…そうだ、全方位への発動から指向性を持たるように変えて…っと。よし、威力を上げて…『ウィンドボム』っうおおぉぉ!?)


 自分で弄ったはずの加速装置が予想以上の仕事をした。風の大砲が円すい型をした結界の底を叩き、思っていた以上の急加速が起こり、思わず心の中で叫んでしまった。


 通常の『ウィンドボム』は、ランク2相当のモンスター程度なら広範囲の複数体をまとめて倒せる程の()()()()である。良い子は真似しないで下さい。

 改変した『ウィンドボム』は全方位から範囲を狭められた空気大砲へと変わり、攻撃として使用すればランク5相当のモンスターでも倒せるであろうものとなった。…最低限の威力で。良い子は絶対真似しないで下さい。

 この方法を続ければ到着が早まるだろう。そう思っていたリュートの頭の中に声が響いた。


【スキル『高速飛翔』を獲得しました】


(おお? ありがとうございますシステムさん。………なるほど、一定の速度を超える事が獲得条件なのか。早速使ってみよう、『高速飛翔』)


 『高速飛翔』は『飛翔』スキルのリミッターを外したようなものだ。いくら魔力を込めても一定以上の速度までしか出せない『飛翔』と違い、『高速飛翔』は魔力を込めれば込めた分速度が上がる。


(おおぉぉ!速い! 『飛翔』とここまで変わるとは…。結界とか風の膜がないと息出来ないんじゃない? …呼吸の心配いらないんだった)


 本来の『高速飛翔』の習得方法は、まず『飛翔』の熟練度を上げる事、そして一定の速度を超えて飛ぶ事だ。しかし、『飛翔』の熟練度がカンストしたとしても『高速飛翔』の習得は出来ない。

 『飛翔』の熟練度の上昇によって飛ぶ速度は上がるのだが、『高速飛翔』の習得には速度が足りないのだ。具体的に言えば、時速50km程度足りない。


 通常のドラゴンは、『飛翔』の熟練度を上げた後、嵐の中を飛んだり上空から急降下したりと努力して『高速飛翔』のスキルを得る。…ただ、プライドが高い者が多い竜種。「努力するなんて格好悪い」「一回で習得出来なかったら恥」等と言って、『高速飛翔』を習得していない者は多い。…習得していなくても困らないという点もあるが。

 更に、毎日飛び回る事はしないし、飛ぶ事に真剣に取り組む事も普通はしない。そうなれば熟練度が上がる速度は…とても遅い。熱心な者もいるかもしれないが、なかなか稀な個体だろう。


(これ以上は速過ぎてバランスが崩れそう…風の道を作ればいけるか?)


 リュートは飛ぶ事に対して熱心というわけでは無かったが、魔術を併用するという工夫で『高速飛翔』を習得した。

 同じ方法で通常のドラゴンが『高速飛翔』を習得する事は………可能だろう。ただし、リュートが全面協力すればの話だ。

 飛んでいるドラゴンと並走し、結界魔術で対象を覆い、風系統の魔術を空気大砲に作り替え、威力を上げて結界の底に放つ。対象を…ドラゴンミサイルとして打ち出せばきっとスキルを得られるだろう。

 …いくらドラゴンが強かったとしても、リュートもドラゴンに属する種族。威力を上げた風大砲は怪我をする可能性もあるので、結界魔術は必須かもしれない。


 それはともかく、生後2歳…誕生日を迎えたばかりのリュートは『高速飛翔』を習得する事が出来た。魔力を込めれば込めただけ、速度を上げる事が出来た。

 思い付きで作ってみた風の道が飛ぶ姿勢を安定させ、更に速度を上げる事が出来た。

 速度制限の無くなった空の旅は順調だった。


(ん~…ここらが限界かな? 結構魔力使っちゃったし、なんか結界が壊れそうだし。もっと速度を上げようと思ったら結界の強化…って、今どこだっけ!?)


 …順調すぎた。

 速度を上げる事に集中していたリュートは、目的を思い出した。速度を緩め、『眼』で確認してみれば…みれば…、


(………あれ、どこ? 方向ズレてたの…あ、見つけた。多分あそこっぽい。思ったより近付いてたんだな…)


 見失ってしまっていたジャガーバルトの街を、想像より手前で見つける事が出来た。方向のズレは無かったらしい。危うくジャガーバルトの街を飛び過ごす所だったが。

 推定500kmあった距離は残り15㎞程度まで縮まっており、『眼』に映る映像は格段に良くなっている。とは言っても、まだ街はぼんやりとしか見えず、鮮明とまでは呼べない。


 リュートは緩めた速度のまま地上へと斜めに飛んでいく。地面に近付いた所でふわっと上昇し、トトンっと着地した。街まで直接飛んで行かないのは、竜人の姿をいきなり見せると驚かせてしまうから。…ではない。それも確かにあるが、理由は別にある。


 親切心…いや、心配だからである。


 と言うのも、竜人の姿のリュートは存在感が強すぎるのだ。『気配遮断』を使っていてもそれは消し切れない。…現に、着地した近くの森から動物や鳥の鳴き声…悲鳴が聞こえ、バサバサと多くの鳥が飛んで行ってしまったのが見えた。


(あ…、ごめん鳥さん達…)


 …リュートは『認識阻害』も使っていたので、他の者からは姿を把握され難くなっている。鳥たちからすれば「何か分からないけど超怖ぇ!」という状況だった。


 存在感について知る事が出来たのは随分前の事。桜華ちゃんの前で『竜人化』した時…桜華ちゃんがリュートの存在感に当てられて気絶してしまったからである。桜華の…男の状態のステータスならば問題は無かったのだが、当時の桜華ちゃんはまだまだ弱かったのだ。

 桜華ちゃんのレベルとステータスが上がると気絶せずにいられるようにはなった。しかしそれは耐えられるというだけで、リュートから感じられる存在感は変わらない。

 気絶した時の話を桜華から聞くと、「あれは耐えられない!」との事だった。

 ただ、それは一般的には正しい言葉でもあった。


 人族はドラゴンの力量を測れない。気絶するから…ではなく、圧倒的な力量差を感じ取ってしまうからだ。

 仮にだが、シルヴィアが『生誕』を使う為に『竜化』した時、触れ合える位置に居た侑人がもしも…ステータスを持っていたならば、高確率で気絶していただろう。…ショック死の可能性もなくはない。

 戦ってはいけない、戦う意思さえ持てない、逃走一択、厄災。ドラゴンには…危険度ランク14にはそんな意味が込められている。…そのランク14が、ドラゴンのヒエラルキーのどの辺りを指しているのかは定かではないが、戦う相手としてのランクでない事は確かだ。


 リュートは桜華ちゃんを気絶させてしまった当時、威圧したわけでもなく、気絶させようとしたわけでもない。距離が近かったという事情もあるが、単純にリュートが強かった事が原因である。

 『気配遮断』を使う事を思いついて試し、有用だと判明した。それからは基本セットで使っている。

 桜華ちゃんを気絶させてしまったのが約1年半前の事。今の…更に成長したリュートの竜人時の存在感は、『気配遮断』では遮断しきれない程に強くなっている。


 …1年半前、なぜリュートが『竜人化』を使ったのか。竜人仕様の服が完成したお披露目会の為だった。

 …ステータスの開放で力作がボロ布となり、お披露目会は慰め会へと変わったが。


(『人化』。さすがにあのまま移動出来…なんだ? モンスターの大群?)


 そんな当時の事を思い出しつつ『人化』したリュートは、走りながら金色に輝く『眼』でジャガーバルトに焦点を合わせた。そこに見えたのは…森から溢れ出るモンスターの大群であった。


 すぐに速度を上げて駆け出し、何が起こっているかより何をすべきかを考える。


(近付くにつれてよく見えるようになったな。ゴブリン…グレイウルフ…オーク? あれは…オークロード? ………みんなだ、みんなが居て…戦ってる)


 走る速度は更に上がり、ジャガーバルトの街まで5kmを切った。ジャガーバルト領に居ないはずのオーク種の存在を確認した。そして、人の顔もなんとか判別できる程度の映像として見る事が出来るようになった。


 3kmを切った所で、オークロード2体が森から出てくるのを確認した。映像は鮮明さが増し、シェリルや銀の盾の5人の姿を見る事が出来た。


 2kmを切り、ニックとフランソワがピンチに陥っている事を確認した。


(やばいな、まずはアレから。この距離…『必中』でオークロードの頭を指定。遠いけどいけたな、『ストーンバレット』放出!)


 走りながら『必中』スキルでオークロードをマークし、『インベントリ』から『ストーンバレット』を放った。その速度は通常の『ストーンバレット』よりも早く、オークロードが『必中』でマークされた事を感じて動きを止めた数秒後には、マークされた頭部を打ち抜いていた。

 リュートは走る勢いそのままに前方に跳び、頭部が再生されつつあったオークロードの胸に()()し、


(ただいまの挨拶は後!)

「ふっ!」

「ブゴォ!」


 ゴブリンを巻き込む形になるように蹴り飛ばした。企み通りにオークロードボウリングは成功し、転がるオークロードがモンスターの大群の注目を集める。

 リュートは華麗に着地を決め、ジャガーバルト防衛戦へ参加した。


(何が起きてる? 怪我人もいるな。…とりあえず情報が必要だ)

「助太刀します! 状況は!?」


 リュートの参加により、戦況は好転した。戦闘は有利になり、怪我人は皆回復させた事でいなくなり、行方不明だった孤児院の子がダンジョンから救出され、ボスとして出現したオーガの討伐も成された。


 この日、災厄が降りかかっていたジャガーバルトに、小さな英雄が誕生した。


三章3話に合流しました。


五章終了まであと1話。

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