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【一旦完結】ジャガーバルト家の義妹  作者: もにーる
第五章 『生誕』編

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25.やりたいかやりたくないか


(あたしを…、叩き折って殺してくれない?)

(…一応理由を聞いておこうかな?)


 リュートは緋雨の言葉に返事を保留して、まずは理由を聞く事にした。


(うん。ここから元の…世界?に帰る事は難しそうで、何よりあたしだけじゃ一歩も動けないわ。父上と母上は…死んでいて、兄上はきっとあたしと同じように封印されているか…壊されていると思うの。父上の復讐を叶える事も出来ないし、それにまたあたしが暗くて苦しい所に行くのも…嫌。りゅうとに元の世界に連れて行って欲しいなんて言えないし、りゅうと以外の人があたしを持てば…その人が死んでしまう)

(………)

(今はりゅうとのお陰であたしがあたしでいられてるんだよね? あたしは…、緋雨は…、緋雨として死んで、父上と母上の元に行きたいのです!)

(…そっか。お願いを聞いてあげる事は出来るよ)

(ありがとう! お願いするわ!)

(待った待った! 早いよ!)


 緋雨、食い気味にも程がある。


(気持ちは分かったけど、いくつか伝えたい事もあるんだ。話を信じてくれてるのは良かったけど、私としては死んでほしくないしね? だから私の話も聞いてくれる?)

(…分かったわ)

(まず、元の世界に連れて行って欲しいと言われれば、私にその気持ちはあるよ。というのも、私…死ぬ前の俺は、緋雨と同じ国の出身だからね)

(…話を聞かせてくれてた時に、そうかもって思いはしてたわ)

(そっか。ただ、緋雨がいた時代より…多分300年か400年は先の時代にいたんだ)

(さ…三百年?)

(それで、私は日本に…元の世界に一度だけでも帰りたい、とも思ってる)

(っ! …そう)


 覚悟を決めていたはずの緋雨の気持ちが僅かに揺らいだ。が、発言を撤回する決め手にはならなかったようだ。


(次に、私なら多分…緋雨を苦しい所から解放してあげられると思う。これはまだやってみないと分からないけどね)

(それは…魅力的な話だわ。今思えば、ずっと悪い夢を見ている感じだったし)

(私にも見えてたよ。でも、緋雨の意識がはっきりしていなかったからこそ、今無事なんだと思う。暗くて怖い、呪いで満ちた中にずっと居たら、正気を保てて無かっただろうからね)

(う~ん…、場所はあんまり思い出せないけど心が覚えてる…そんな感じがするわ)

(もし上手く解放出来たとすれば、このまま緋雨を置いて行くなんて事は出来ないから、連れて行くか…壊すかを選ばなきゃいけなくなるけど)


 緋雨の意識を強めさせ、呪いに埋もれないように処置が出来たとしても、緋雨が刀である事実は変わらない。

 自分で動く事も出来ず、一人で…刀として永遠の時を過ごす事になるのだろうか。そう考えれば、こんな場所に緋雨を置いて行く事はリュートには出来なかった。

 似た境遇の少女へ、忘れていた過去を伝えた責任もある。リュートの説得は続いた。


(それで、復讐の話だけど…正確な時代は忘れたけど、徳川の世は終わってるよ)

(そ、そうなの? あ、復讐する相手はもういないって…聞こえたような?)

(緋雨と話が出来始めた時に言ったね。確か…十五代だったかな? 長く続きはしたけど、徳川…ぁ~最後の将軍が…なんだっけ、大政奉還? 政権を朝廷に返した…だったかな? まぁそれで江戸幕府は終わったんだ。侑人の居た時代は、緋雨からするととても平和で裕福に暮らせる場所だと思うよ)

(江戸幕府…って言うの?)

(ん? あれ? …そっか、当時はそう呼ばないのか。名前とか色々忘れてるし…勉強不足だなぁ)

(…ふふっ、りゅうとにも分からない事あるんだね)

(あるある、沢山あるよ。普段から使ってないと結構忘れちゃうからね。今の…徳川の話もそうだし、数学の式だって使わないと忘れちゃう。…数学じゃ分からないかな? え~…算術?そろばんかな?)

(算盤は分かるわ! 触ったことはあるけど、あたしには難しかったわ!)

(あはは、自信満々に言わなくてもいいのに)


 張り切って答えた緋雨だったが、リュートに突っ込まれてしまい、簪をチリンと鳴らした。恥ずかしかったのだろう。

 ちなみに大政奉還の説明は大体合っている。行ったのは十五代将軍の慶喜よしのぶである。


(つまり、あたしの…父上の復讐する相手はもういないのね?)

(そういう事になるね。侑人が居た時代では、って話だけど)

(…それでも心残りが減って良かったわ)


 リュートの説得が一歩後退した。


(それで、復讐の話と被るんだけど…兄上の名前、思い出せる?)

(兄上…兄上は…、思い出せる…兄上の名は村正だわ)

(そう、緋雨と同じく刀となった兄上殿は…ん~そうだね、詳しくはないし推測でもあるんだけど、徳川に仇なすと伝えられてる有名な刀があるんだ。妖刀村正という名で)

(!?)

(それがもしかしたら、緋雨の兄上殿なのかもしれない。でも村正という名前の刀はいくつもあったはずなんだ。だから兄上殿が直接関わってるかは分からないけど、兄上殿が復讐を果たした…可能性もある)

(兄上が…復讐を…)

(可能性もあるって話だけどね? 何代目の将軍が、何が原因で命を落としたのかも分からないけど、もしかしたら兄上殿が…って。緋雨が言ったみたいに、封印されてたり壊されてる可能性だってある。復讐に全く関わらなかった可能性がね)

(そう…よね…)

(…帰る方法を見つけて、兄上殿を探さない?)

(………出来る…の?)

(出来るかどうかは正直まだ分からない、緋雨の居た頃に戻れるのかも…ね。仮に私の居た時代の方に戻れたとしても、兄上殿が刀として残ってる保証は無いし、居たとしても緋雨のように意識があるのかも分からない。緋雨がやりたいかやりたくないかだよ)

(………、やりたい…探したいけど…)


 緋雨の心は揺れた。

 もちろん戻れるのなら戻りたい、兄に会えるのならば会いたい、その気持ちは間違いなくある。しかしもう一歩が踏み出せなかった。


(…もし死んでしまったら、父上殿の願いが無かった事になるよ?)

(父上の願い…?)

(緋雨を刀にした時、父上殿はこう言ってたんだ。「復讐などさせてすまない…。緋雨との約束を…打ってやると言った一振りを、こんな形にしてしまってすまない…。俺を許さなくていい、恨んでくれ…ずっとずっと恨んでくれ。恨み続けて…酷い父の事を、どうか忘れないでくれ」って)

(………)

(私には伝える事は出来ても、緋雨に生き続けろなんて強制出来ない。でも、今死んで後悔が何一つ無いのかって、立ち止まって考えさせる事くらいは出来る。父上殿の事…忘れないでいてあげる?)

(………、うん…)

(…そっか。それに、私との約束もあるよ?)

(りゅうとと…約束…?)

(もし私が自分の名前を忘れちゃったら、緋雨が教えてくれるんでしょ?)

(あ…、うん…そうね!)


 緋雨が前向きに父親の願いを聞く決意をした所で、おどけた雰囲気で約束を持ち出したリュート。やはり真剣なままではいられない性分らしい。



 そこからの行動は早かった。善は急げと、リュートは波消しくん(小)の山から緋雨を救出した。

 …急いで波消しくんの隙間から脱出したせいで、チラリどころかモロリをしてしまっていたが。

 捲れた服はすぐさま元に戻された。

 淑女への道はまだまだ遠そうだ。



 脱出してモロリを直すと、リュートは改めて桜華に緋雨を紹介した。

 リュートが持っている刀が、妖刀村正の姉妹刀…かもしれない…と告げられた桜華は返事に困った。村正という刀がある事は知っていた桜華だが、姉妹刀と言われてもピンとこない。緋雨という少女の来歴を語っていないリュートのせいである。

 桜華も『状態異常耐性』のスキルを持っていたので、緋雨を握らせ…る前に用心して指先で触れさせてみた。が、すぐに指を離した。


『『キュア』…マジか。『ハイキュア』…ふぅ、俺には無理かも。リュートは平気なの?』

『問題無いよ。スキルの耐性がカンストして『状態異常無効』も覚えたしね』

『………カンスト早くない?』

『あはは…、侑人のお陰と言うか…せいと言うか』


 長年の喫煙で『状態異常耐性』スキルの熟練度が高かったなど、想像出来るはずもない。加えて竜人種という種族による耐久力も高かった事で最初の汚染を無事に乗り越えられたのだが。

 ちなみに『CC』で復活した侑人の肺はクリーニング済みである。『CC』の仕様ではなく左目の力だ。相変わらずのチートっぷりである。


 桜華と緋雨のコンタクトは失敗となったが、大切な仲間であり同志が1人増える事となった。

 (よろしくね!)という緋雨の言葉をリュートが代わりに伝え、『こちらこそ』という桜華の返事に対して緋雨は簪をチリンと鳴らして応えたのだった。



 桜華とリュートと緋雨、3人でセーフエリアまで戻ってきた。戻って早々桜華はご飯の準備を、リュートは緋雨の最適化…?…リフォーム? まぁ…改良を行った。


 やる事はそう難しい事ではない。刀の中で自己主張する力それぞれを序列化し、緋雨をボスとした。有用な能力を序列の上位に、呪いや狂気といった危険な力を序列の下位に置いた。

 リュートは緋雨と相談しつつ、危険な力を取り除く案も出したのだが、


(この刀…この体は、父上があたしの為に作り上げてくれたもの。危険でも取り除くなんて出来ないわ! ずっとずっと…忘れない為にも)


 と言われてしまった。同時に、リュートはその言葉にハッとした。


 死んで卵に吸収させる事を選び、しかし廃棄されそうになった侑人。その情報を必死になって残してくれたリュート。緋雨の言葉にそれを思い出させられて、納得してしまったのだ。

 脆弱でデメリットになる侑人を見捨てなかったリュートに対して、恩を仇で返す事になるのではないか…と。

 仮にリュートに危険な力があったとして、それを取り除く力を持っていたとして、取り除くだろうか…と。

 全部をひっくるめてリュートだと思えば、取り除くという行為はもう考えられなかった。


 緋雨の想いを汲みはしたが、父親による呪いの力は強かった為、纏める力を緩める事になった。これによって精神汚染の力も弱まる事になるだろう。

 リュートはリュートで左目の扱いにも随分と慣れ、緋雨という刀をどんどんカスタマイズしていった。

 緋雨自身が使いたい力を引き出せるように調整し、周囲の音や景色を把握できるように序列のバランスをとった。景色の把握が可能となった緋雨は、目の前にいた白髪の少女に驚いたとか…。日本人的要素が全く無いのだから、言葉にも詰まろうというものだ。

 だが、リュートの『見える~?』という発言と手を振る行動で、(あ、この感じ間違いなくりゅうとだわ)と秒で納得出来ていた。

 最終的に、リュートによる緋雨の意識のブーストを弱めても暗さや怖さが戻って来る事はなくなり、緋雨の居る空間は随分居心地が良くなっている。


 父親の想いが、…捻れていた愛情が、やっと正しい形で緋雨を守り始めたのだった。


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