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【一旦完結】ジャガーバルト家の義妹  作者: もにーる
第五章 『生誕』編

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23.真剣な話をしているとふざけたくなる病気


(その後のあたしは…あたしと父上たちはどうなったの?)

(…大丈夫? 一気に全部聞くのは辛くない?)

(さっきはあたしが自分で聞きたいって言っておきながらりゅうとに当たっちゃったけど、今はりゅうとがいるから大丈夫って思えるの! だから、聞かせて)

(分かった…とはいっても、そこから緋雨は持っていかれてしまったから、その後の事は緋雨の事しか分からないんだ。それも所々って感じで)

(そう…なんだ。それでもいいわ、聞かせて)

(うん。…先に言っておくけど、これからの話は君の意思じゃない。父上殿の想いが呪いのように刀に宿っていたんだ。その事を忘れないで。…楽太さんが周りの人達に刃を振るった後、東へ向かって歩き始めたんだ。視界は凄く濁ってしまってるけど、目的地は恐らく江戸。着の身着のまま、食べる物もお金も持たずに───)


………


 楽太の足取りは覚束ないもので、酒に酔っているようにも見える。しかしその顔を見れば、酒が原因では無いとすぐに分かるだろう。

 憎しみを溢れさせ、それを隠そうともしない表情。睨むような目は血走っており、涎を垂らしながらも歯を食いしばり、体に見合わない小さな刀を持ち、ただ東を目指して進んだ。街道に沿う事もなく、森が目の前にあれば森の中を、山があれば山を登って進んだ。リュートの感じる濁った音と視界の中でも、大まかな情報は掬い取れていた。


 そんな旅が長く続くはずもなく、楽太は運悪く山賊に遭遇してしまった。様子のおかしい男だと訝しみながらも、山賊は楽太を殺して身ぐるみを剥いだ。…持っていた刀もだ。

 刀を持ったのは山賊のお頭だろうか。「気味の悪いヤツだった」と言いながら刀を奪うとチリンと簪が鳴り、次の瞬間…仲間の山賊達を切り捨て、お頭は東へ向けて歩き出した。そのお頭の姿は、お頭自身が気味の悪いヤツと言っていた楽太と同じものだった。


 時に殺されて刀を奪われ、時に返り討ちにし、時に力尽きて別の者に拾われ、時に足を踏み外して川で溺れ。少しずつだが確実に東へ向けて進んでいた。

 それを止めたのは、数人の共を連れた…立派な着物を着た男だった。その見た目は…陰陽師とでも言えばいいだろうか、白を基調とした着物に烏帽子を身に着けていた。

 視界も音も濁っていて、その声は上手く聞き取れず、その顔も霞んでよく見えない。だが、その男は強かった。

 渡り渡って刀を持っていた老婆、その老婆から刀を奪い取った男は、すぐに布に包んだ。


………


(その男は取り憑かれなかったの?)

(多分だけど、取り憑かれる事に抵抗出来る力を持ってて、その間に布に包んで…封印でもしたんだろうね。それからは周りの事が把握出来なくなってる)

(そう…、あたし…沢山人を殺しちゃったんだね)

(緋雨の意思じゃないけどね。父上殿もそんな事をさせるつもりじゃ無かったはずだし)

(うん、さっきも言ってくれてたものね。ありがと、りゅうと)

(どういたしまして)

(………そんなあたしを、今りゅうとが握ってる…よね? 大丈夫なの?)

(何の問題も無いよ。最初は驚いたけど、私にも抵抗出来る力があるからね)

(問題…ないんだ…、それならいいんだけど。それで、あたしは封印されたのよね? …ここはあたしが封じられてる土地っていう事になるの?)

(いや…君の封印を解いた者がいたんだ)


………


 どれだけ時間が経ったのかは分からないが、ある時光と音が戻ってきた。相変わらず音は濁って聞こえ、ぼやけた視界だったが、木で出来た大きな船の上であった事は分かった。そして覗き込む者がいる事も。

 覗き込んでいたのは、白い着物に烏帽子を身に着けた…太った男だった。封印を施した…細身で凛々しい男とはまるで印象が違い、脂ぎった顔には吹き出物があちこちにできている。

 その男が「デュフフフ」と気味の悪い声を漏らしながら、緋雨を手に取った。


………


(~~~っ!?)


 話を聞いているだけとはいえ、触られたという過去に嫌悪感を抱いたのか、緋雨から声にならない悲鳴が漏れた。

 自分の知らない所でデュフフされていたと思えば分からないでもない。


………


 太った男がその刀で何をしようとしていたのか…ただ力を欲していただけなのかは分からないが、刀を手にした瞬間…細身の男のように耐える事は出来ず、これまでの者達と同じ様に意識を乗っ取られた。

 額や首に血管が浮き出し、呼吸は荒く、目は血走り…はしていないが、白目を剥いている。その姿はとても正常とは思えない。

 ただ、その男のお陰なのか、リュートが確認出来る音も景色も多少良くなっていた。その点だけは感謝…したくなどないが一応感謝した。


 異変を感じたのか、1人の男が近付いてくる。緋雨を封印した細身の男が同じ船に乗っていて、様子を見に来たのだろう。再び封印しようとしているのか、細身の男は何度か声をかけた後、戦う構えを見せた。

 ただ…これまで緋雨を手にしてきた者達とは違い、不摂生な生活をしていそうな太った男ではあったが、曲がりなりにも緋雨を封印した細身の男の同僚。…その男にも力があった。


 意識を乗っ取られたと思っていた太った男は、僅かにでも理性があるのか、右手に持った緋雨を振り上げ…その場で振り下ろした。封印を施した細身の男との距離は…約10歩程、とても刃が届く距離ではない。刀を投げた訳でもなかったのだが、…細身の男は危険を感じたのか、その場から横に飛んで避けた。

 次の瞬間…船は縦に半分近く()()()()。真っ二つとはならなかったが、船が沈むには十分な損傷だ。しかし攻撃を避けられた事で、追撃の為に再度緋雨が振るわれ、その攻撃が更に船に損傷を与えた。

 船が沈むまでそう時間はかからなかった。


………


(あたし…船まで斬れるの?)

(みたいだね。力ある者が振るえば、刀の中にある力を引き出せる…のかもしれない。緋雨の中には、力を持った武器が沢山詰め込まれているんだ)

(…父上の異能の力ね?)

(そう、その沢山ある力と存在感がどれも強くて、緋雨の意識は刀の中で埋もれていた。今は私が緋雨の力を強めてる…って思ってくれればいいよ)

(そうなんだ…。いっぱい助けてもらってたんだね、ありがとりゅうと。でも…なんで助けてくれたの? その…りゅうとも力が欲しかった…の?)

(うん? あぁ、力が欲しいかと言われれば欲しいけど、それが理由じゃないよ。刀を見た時にさ? 沢山の憎しみや哀しみの気持ちと一緒に、助けてって声が見えた気がしたんだ)

(声…なのに見えるの?)

(変な言い方に聞こえるだろうけど、私の左目には少し特別な力があるんだ。声が文字として見える感覚…かな。そのお陰で緋雨を見つける事も出来て、こうして話をする事も出来てる。あぁでも、話が出来るのは緋雨の方の力みたいだけどね?)

(そっか…、見つけてくれてありがと。邪魔してごめんね、続きをお願い)

(分かった。…船が沈んでいく時、そこが海だった事が分かった。進んでいた先には陸が見えていて、でも後方を見れば…遠くにだけどそっちにも陸があって、川と言うには幅が広くて…おそらく湾だったんだと思う。船の周りには多くの人が海に投げ出されていて、浮いていた船の残骸に捕まって助かった人達が何人もいたように見えて───)


………


 緋雨を手にしていた男は、助かろうという気が無かったのだろうか…傾き沈みゆく船に乗ったまま、後方…遠い陸の方を見続け、そのまま船と共に海の中へ沈んでいった。

 大きな力をその手にしてはいても、所詮は人の体。水の中では当然呼吸は出来ず、比較的早く海の底まで着きはしたものの、男は海面に向かって泳ぐこともせず…そのまま命を落とすかと思われた。


 男は刀の力を把握していたのか、それとも闇雲だったのか、浅い海の底の船の上で、船を斬った時と同じように刀を振り上げ…振り下ろした。

 その攻撃は船上で細身の男相手に放った時のものとは違い、目の前の空間を裂いた。その海の中に生まれた一筋の裂け目はその場から消えず大きく広がっていき、その向こう側は歪んで見えていた。

 大人1人が通れそうな程に広がった裂け目は辺りの物を急速に吸い込み始める。船の破片を、魚を、海水を。そしてその裂け目を作り出した男も吸い込まれ…腹が引っかかって止まった。


………


(~っ…)

(腹が引っかかってしまった男は混乱した様子で、破片や魚が次々と顔に当たってた。でも海の中だから声は出せずに、口からガボボガボボと空気が漏れて…)

(ぷふ~っ!あははは! 刀を持たれたって聞いた時は気持ち悪かったけど、そんな目に遭ってたなら許してあげるわ! お腹が引っかかるって、きっと鍛錬なんかもしてなかったんでしょうね…ぷふふ!)

(そうだろうね~、ガボボガボボって空気が漏れてたのは喋ってたのかもね? 「デュフフデュフフ」って)

(あははは! もうりゅうと! 真剣な話なのに笑わせようとしてるでしょ!?)

(あはは、でもそんな場面が見えちゃったら、なんか言いたくなっちゃって)

(気持ち悪いのは確かに無くなったからあまり文句が言えないわね…。空間…?を切り裂くっていうのは、正直あまりよく分からないけど。あたし凄く強そうなのに…男の腹が引っかかった事の方が印象に残っちゃうわ!)

(ごめんごめん、続きを話すね?)


 リュートは…侑人はきっと、真剣な話をしているとふざけたくなる病気なのだろう。もしくは笑わせたくて仕方ないだけなのかもしれない。


 緋雨が笑う度、刀に付いていた簪がチリンチリンと鳴っていた。泣くことも出来ないと言っていた緋雨だったが、悲しいと思う気持ちはちゃんとあり、そして笑う事も出来るのだと知る事ができた。

 それは確かな収穫だった。


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