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【一旦完結】ジャガーバルト家の義妹  作者: もにーる
第五章 『生誕』編

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22.緋雨

話を切れなかったので長めです。


『多分大丈夫だと思うけど、もし私が錯乱したら止めてくれる?』

『…何その嫌なフラグ、止めるけどさ』

『あはは。後でちゃんと波消しくんがここにある理由も教えるよ。あ、そうだ。身動きが取れなさそうな位置にいる事にしよう。もしもの時、多少は時間稼ぎになりそうだし』

『うん…まぁ、気をつけて?』

『らじゃ~! 暇になるだろうし、CCを教える時用に女性の姿のイメージでも固めてて』

『分かった、そうして待ってるよ』


 波消しくん(小)の隙間から見えた、抜き身の…脇差と呼んでもよさそうな短めの刀。リュートがその刀を直接見る事によって、その刀に秘められた過去を知る事が出来た。


 勝手に覗き見をする行為に忌避感を覚え、最初は目を逸らそうとしたのだが…出来なかった。

 憎悪渦巻く中、微かに…だが確かに、救いを求める声を聞いたからだ。


(まさか刀に過去があるなんて思わなかった。…いや、刀になってまで過去が残ってる、が正しいか。約束を守ろうとする想いがリュートとダブって見えちゃったんだよな…、これで助けないとか出来るわけない)


 小さな村で幸せに過ごす4人、歯車を狂わせた役人、非業の死を遂げた家族とその後。

 リュートはその全てを見終えた時、救わなければならないと涙しながら決意した。


(リュートとして産まれ変わって…生き続ける事になってから、泣いたり怒ったり…体が感情に素直になってるんだろうか? 前はここまで気持ちが振れなかったと思うし…う~ん、喜怒哀楽も2人分あるって感じなのかな? それとも精神が体に引っ張られるとか、そういう現象なのか…いや、2人分って思っておこう。そっちの方が…なんかいいし)


 そんな自己分析をしながら桜華に相談する事にした。独断で行動してもしもの事があれば、桜華を困らせてしまうので。

 リュート自らが「呪詛の塊」と称したモノ、刀であったそれに触れて助けると話をしたが、当然桜華に止められた。リュートが左目の力を使って見た事によって、「やはり精神汚染を受けた」または「呪い操られている」、そう疑ったからだ。


 桜華に刀が日本・・にあった物である事を話し、優しく丁寧に説得した。理解を得られた後は、微妙なフラグになりそうな言葉を残しつつ波消しくんの隙間を…あえてリュートがギリギリ通れる狭い隙間を選んで進み、刀に触れられる場所まで辿り着いた。


 抜き身で鞘は見当たらず、鍔には簪の飾りが付いており、その簪はリュートが刀の過去を覗いた時に見たままの形をしていた。

 その刀身の柄は菱巻、銀色をした上身かみは錆も無く、直刃の刃文が美しさを見せている。


(父上殿は能力を隠し、平和に暮らしていたのにな…。全てを…家族を亡くした哀しみが正気を失わせた、か…)

(鍛冶の道具を使わずにコレを作り上げるなんて、あの時代じゃなくても気味悪がられただろうな。現代なら、…見せようによっては手品とでも言い切ればいいんだろうけど。…きっと産まれる世界が悪かったんだ。マギカネリアでなら、そんな異能も受け入れられてたと思うし)

(それでも…娘を苦しませる事になってるのだけは間違ってるよ? …父上殿、今から娘さんを助けるからね)


 リュートは刀の柄に手を伸ばして握り、自身の中に入ってこようとする呪いを『状態異常無効』のスキルで無効化し、左目の出力を上げて刀に干渉していった。


(…なんてこった、見て知ってはいたけど多過ぎる。鍛冶場にあった武器の殆どを使ったせいで絡まってるのか…)

(地球に魔力なんて無いから、…気?みたいな力でも使えたのかな? もしくは…昔は地球にも魔力があったのか…)

(なんだろう、それぞれが主導権を持ってる? そうする事で呪詛が増すようになってるのか。刀を持った人がそれに当てられて、恨みを晴らすべく行動していた、と…)

(柄を握ったから分かるけど、これじゃ正気なんて保てない。君を持った人が何人も廃人になって…、そんな事したかったわけじゃないもんな? もう少しだけ待っててくれな?)


 怒り、哀しみ、憎しみ、快楽、狂気、後悔。武器の…またはその所持者だった人物らの様々な想いが、復讐という核を中心に刀に詰め込まれていた。

 リュートは絡み合う感情の糸…その1本1本を解し、選り分け、救いを求める声を探した。まだ幼い少女の…家族を守る為に戦った侍の声を。



(そう、君が父上と母上から貰った大事な名前。君の名前は、緋雨ひさめだよ)

(ひさ…め? ………緋雨、そうだった…父上と母上からいただいた、大事な…あたしの名前…)

(何度忘れても私が思い出させてあげる)

(もう忘れないわ! でも…うん、あり…がと。その…ごめんなさい、閻魔大王とか言っちゃって…)

(ううん、気にしないで。突然声をかけてパニくったと思うし)

(馬肉食った…? …何て?)

(あぁ~えっと、混乱させちゃったと思うしね)

(そ、そうね。馬の肉なんて普通食べないものね)

(え? そうなの?)

(…え? 食べるの?)


 この2人、仲良しか。

 リュートが触れた刀の中にあった少女の意識。絡まり合う感情の中から彼女を見つけ出し、その意識を増幅させ、直接コンタクトを取る事に成功した。


(…まぁいいわ、それよりあたしは今どうなってるの? 確か、………あれ? 思い出せない…)

(………)

(父上と母上、それに兄上と一緒に暮らしていたの。それで、約束を守れなくて…、約束?)

(………)

(ね、ねぇ? あたし覚えてるんだよ? 嘘じゃないよ? 兄上には凧揚げや独楽回しを一緒にしてもらったし、父上はよく農具を直していたし、母上は子守歌を歌ってくれたんだよ?)

(…うん、そうだね)

(それで、………それで、………ドロドロした暗い所にいて、…今はここにいる)

(………)


 必死に思い出そうとしているのに思い出せない。…その焦りからか、緋雨の声は震えて聞こえた。


(ねぇ私さん。あんたは…あなたは、あたしがここにいる理由を、…知ってるの?)

(…知ってるよ)

(!教えて! あたしはどうして兄上達と一緒じゃないの!?)

(………)

(知ってるのなら教えてよ! 緋雨って、あたしの名前だって教えてくれたじゃない!)

(…知らない方がいい事も(ないわよ!)…)

(知らない方がいいのかどうかは、あたしが知ってから決めるわ! だから! …だから、お願いします…教えてください)

(…そっか。分かった、知ってる限りの事は教えるよ)

(ほんと!?)

(うん。見聞きしたものとは別に、話声から推測してる場面もあるけどね。…ただ、とても辛い話になる。聞きたくないって思ったらちゃんと言って欲しい、いいかい?)

(…分かったわ)

『桜華くん、私は無事なんだけど、ちょっと時間がかかると思う』

『そうなの? 無事ならいいんだけど…無茶しないようにね?』

『了解』

(? 誰か他にいるの?)

(あぁ、ごめん。友達が近くにいてね、後で紹介するよ。それじゃ…始めるね)

(…うん)


 桜華に努めて明るく声を掛け、リュートが知る限りの過去を緋雨に伝え始めた。


………


 小さな村の外れにあった家に住む4人の家族。父と母と子が2人、裕福とは言えないが、その家族は幸せに暮らしていた。


 ある日、父親が藩主の使いから仕事を依頼され、2年の歳月をかけて一振りの刀を作り上げた。

 父親は完成した刀を持って、藩主の所へ出掛けていった。兄妹に母親の事を守ってくれと伝え、妹は「約束します!」と大きな声で返事をした。


 それからひと月が経った頃、5人の役人が母と兄妹の住む家へとやって来た。その役人は、父親に依頼した刀を受け取りに来たのだと言う。

 妹は訝しみ、母と兄も不審に思いはしたものの、かみしもを着た役人を追い返す事など出来るはずもなく…。父親の帰宅まで予定ではあと2日。母親は…本意では無かったが、役人を家に泊める提案をした。

 役人はその提案を断り、態度を急変させ、兄妹を組み伏せて母親に乱暴を働こうと近付いた。しかし役人の皮を脱ぎ去った盗人は、母親の圧に尻込みし、その隙を兄妹に突かれる事となる。

 5人いた盗人の内2人が息絶えたが、油断していた妹をかばう形で兄が、兄妹に駆け寄ろうとした母が重傷を負い、残された妹が1人で盗人に立ち向かった。その妹もまた…母と兄がされたのと同様に斬られた。斬られ、蹴られ、骨が折れ…。それでも手にしていた武器を無我夢中で相手の腹に突き刺し、また1人…盗人の命を奪った。


………


(ふぅ…ふぅ…) 

(…止めるかい?)

(ううん、ふぅ…すぅ~ふぅ…、続きをお願い)


 記憶が思い出されているのか、光景を思い浮かべているのか、緋雨の息遣いは荒くなり、それを案じたリュートが声をかけた。それでも緋雨は話の続きを催促し、リュートはそれに応えた。


………


 3人の仲間を失った盗人の1人が、妹に向けて刀を振り下ろした。左肩口から胸、腹、腰の右側へ、斜めに大きな傷を作り…妹はその場で膝をついた後、倒れた。

 傷口から流れ出す血が土間に大きなシミを作る。妹の意識は遠のいていき、それでもその霞む目で…その最後の時まで盗人を睨みつけていた。


 少女からの想定外の反撃に遭ったと、残った盗人2人はこの後の処理について考えた。…危機を脱して気が抜けていたのだろう、2人の盗人は…予定より早く家に戻ってきた父親によって殺された。


 家族の父親は、藩主の所から使いの者…新八しんぱちと共に、馬を使わせてもらい2日程早く帰宅する事が出来たのだ。村の入り口に馬を繋いで待たせ、新八と共に歩いて家へ向かったらしい。

 もうすぐ家に着くという場面で、我が家の…開けっ放しになっていた玄関を見た。…そこから我が子が斬られるのを…崩れ落ちる瞬間を見て駆け付けた。駆け付け、そのまま…倒れていた役人の物であろう刀を拾い、盗人2人に斬りかかった。1人は一刀で斬り伏せ、もう1人には反撃を食らいながらも、首を斬り付けて血を噴き出させ、その命を刈り取った。


 役人に刃を向ければ…刀を振るえばどうなるか、父親が分かっていないはずは無い。しかし、父親にとって何より大事なものが奪われたのだ。人生と罪を天秤にかける時間など必要無かった。

 遅れてやってきた新八は、父親を諫める事は出来なかった。恐らく藩主の所から村までの道中、父親から家族の事を聞きでもしていたのだろう。


………


(…ふぅ。そこは憶測なのね?)

(私も全てを知っているわけじゃないからね、多分当たってるとは思うけど。他所から村に流れてきた父上殿に、藩主に仕える人の中に友人がいたなら…新八という人がもしそうなら、そちらの可能性もあるね)

(分からないけど、…あたしも多分、道中で聞いたんだと思う)


 緋雨は自分が死んでしまった事よりも、父親がすぐに仇を討ってくれた事の方に意識がいっている様子を見せた。(聞きたい事がもっと沢山あるはずだろうに)と、リュートには緋雨の押し殺す感情がなんとなくだが伝わっていた。


………


 新八が殺された5人の役人を調べた所、5人の内1人はその顔を見た事があった。その1人は江戸に居るはずの、徳川に仕える人物であったらしい。

 実際に言葉を交わした事もあり、何より「殿より直々にご要望があった」と、刀の製作依頼を出したのもその人物だったとの事。名を比留間ひるま 将監しょうげんと言った。

 その話を、家族の亡骸を抱えながら聞いた父親は、仇を取っただけでは収まらぬ怒りと絶望から、徳川への復讐を誓った。


 新八は父親を心配しつつも、藩主の元へこの事態を報告せねばと、「短気を起こされるな」と言い残して去っていった。馬を繋いでいた場所まで戻り、村人に惨事を伝え、「また戻って来る。それまでどうか皆で支えてやってほしい」と言い残して。…しかしその願いは叶わなかった。


 父親は1人ずつ亡骸を抱き上げ、話しかけながら丁寧に鍛冶場へ運んだ。妻を、息子を、娘を。

 役人からの反撃を貰った父親の利き手の前腕部。その傷は見た目よりも深く、腱が断ち切られていて握るという動作も出来なかった。

 商売道具のつちを扱い、家族を養っていた大事な手。しかし、父親にとって()()()()はもうどうでもよかった。


 鍛冶場の中から鍵を掛け、飾られていた大小、並んで置かれていた短刀や槍の穂先、地面に転がされたままの様々な武器、それらを手当たり次第炉の中へ投げ込んでいく。或いはそう見えただけで、計算されて投げ込まれていたのかもしれない。

 父親は気が触れていたのだろうか、それとも復讐に取りつかれていたのだろうか。多くの武器が入れられたその炉の中へ…娘の亡骸を大事そうに入れた。


………


(っ…)


 父親の常軌を逸した行動に息を呑む緋雨。それでも聞かないという選択はしなかった。


………


 火種も無いはずの炉はひとりでに火が入り、あり得ない速さで熱量を増し、炉の中の武器と…実の娘を溶かした。それは父親の持つ異能の力だった。

 父親はその異能を持っていた為に師の元を離れた。父親自身、その力の異常性を理解していて、恐れてもいた。武器の強さが分かるという能力は、その異能の付随効果でしかないのだろう。

 もし異能に名を付けるのであれば『合成』、または『融合』、はたまた『再生』だろうか。それぞれの武器の強みを掛け合わせ、新しい武器として作り上げる能力だった。


 その能力には鍛錬どころか火箸ひばしつちさえも必要無かった。あまりの熱に近付く事さえ危険な眩しい程の橙色の炉の中、ドロドロに溶けた金属に対して…父親は左手を突き入れた。

 手は燃える事無く、何かを握る動作をすると、溶けていた金属が体積を減らしていく。ゆっくりと橙色の湖から手を引き抜くと柄頭が、鍔が、鍔と一体化した簪が、銀色に輝く上身が現れ、切っ先が見えた時には炉の火は消えていた。まるで火など最初から入っていなかったかのように。

 小さめな一振りの刀が完成し、父親は握っていた刀の鍔に付いていた簪に優しく触れて声をかけた後、不自由になった右手を上身に添えて横向きに持ち、ゆっくりと地面に置いた。


 異能を使った事で体力を使った…いや、おそらく命を削ったのだろう。立ち上がって息子の亡骸の元へ行くまでに何度もよろけた。

 それでも歩みは止めず、息子を抱き上げて炉の前まで行き、先程と同じ様に武器を炉へ入れ…その中に息子の亡骸を入れた。

 炉には再び火が入り、先程同様…炉に左手を突き入れた。しかし先程とは違い、父親の腕はみるみるやせ細っていき、顔は血の気の無い…蒼白なものとなっていた。

 それでも能力を使い続け、輝きを急速に弱める炉から引き抜かれた左手には、最初のモノよりも長い刀が握られていた。


 鍛冶場の戸を叩く音と身を案じる声がする。村の住民がやってきたのだ。

 その音を無視しているのか聞こえていないのか、父親は刀を持ったまま反応を示さなかった。


 やせ細っていた左手が不釣り合いには見えなくなる程、父親の全身はやつれてしまっている。その体はあばら骨を浮き上がらせており、その足は骨と皮だけになってしまったかのように細り、その顔は頬の肉をごっそり削ぎ落としたかのように、…わずか15分足らずで床にせっていたと言われても不思議ではない姿へと変わり果ててしまっていた。


………


(…じゅうごふん? って時刻の事?)

(あ~そうだね、確か…四半刻の半分って言えば分かるかな?)

(分かるわ…、そんな短い間に父上が…。…父上は、鬼になったの?)

(それは私にも正確な所は分からない。伝えているのは、君から伝わっていた光景だから。…でも、父上殿はきっと、大事な家族を奪った徳川家に復讐する事しか考えられなかったんじゃないかな。…うん、それだけ家族を愛していたんだと、そう思うよ)

(………そう、…そうね)


 リュートの言葉を噛み締めるように同意した後、緋雨は喋らなくなった。


………


 父親は立っている事も出来なくなり、それでも力を込めて這って進み…持っていた刀を最初に作った刀のすぐ側に置いた。…妻も同じく武器にしようと思ったのだろうか、それとも最後を妻の隣でと思ったのだろうか、這って妻の元へと進む。

 父親は横たわる妻のすぐ側まで行くと、その手に触れ…「すまない…」と口にした。目を閉じると涙が零れ、そのままその生涯を終えた。

 村の者数人が鍛冶場の扉をこじ開け中に入ってきたのは、それからすぐの事だった。


 衰弱しきった男と、その妻。鍛冶場へやってきた者達は、2人の亡骸を呆然と見つめていた。何があってこんな事になっているのか、夫婦以外に子の姿が見えず、あるのは地面に揃えて置かれた抜き身の二振りの刀だけ。

 盗もうと思ったわけではないだろう。1人の男が長い方の刀を握って持ち上げた。柄も鍔も付いているこの刀が、先程炉から出されたばかりの…夫婦の息子だったモノだと気付ける者はいない。


 刀を持った男は、妙な復讐心が沸き起こったのか…刀を持ったまま鍛冶場を出ていこうとした。当然周りの者がそれを止め、男も復讐心に抗って刀を地面に置いた。刀を手放した途端、男の中にあった復讐心は薄れた様子だった。

 直接持つのは危険だと判断し、「布で包んでおいて「また戻って来る」と言っていた藩主様の使いの判断に任せよう」という話でまとまった。


 布を用意し、長めの刀をその布で巻いた。それを行ったのは復讐心に取りつかれかけた男だった。短時間でも触れた経験のある者が行うのがいいだろうという判断で、男もそれに納得した上で行った。

 柄を握るとやはり心の底の方に暗い感情が現れ、抗いつつ布の上に刀を置いてぐるぐると巻く事に成功した。同じ要領で簪の付いた小さい方の刀の柄を男が持ち───


………


(その途端、…その鍛冶場に居た者達が皆、死んでしまった)

(!? な、なん…で…)

(その男の人も気をつけていたと思うんだ。憎悪が沸き起こる刀と共に置かれていたもう一振り、その刀にも同じ力があるんじゃないかと。しかし、経験もしていて気をつけていたはずのその男の人でも、一瞬で意識を持っていかれた。そして…そのまま周りの人に刃を振るったんだ、取り憑かれたように)

(あた…あたしは…そん…)

(分かってる、そんな事をしたかったなんて全く思っていないって)

(あ…うん、………その、男の人って…誰か分かる?)

(…うん、体は大きくて背も高くて、優しい雰囲気をした人だよ、ラクって呼ばれてた)

(…楽太さんだ。…よく兄上と一緒にあたしと遊んでくれた人。体が大きいからかくれんぼしてもすぐ見つけて…、独楽回しがすごく上手くて…、そんな優しかった楽太さんが皆に刃を振るったなんて…。あたし、………こんなに悲しい気持ちなのに、涙も出ないんだね。刀になってるなんて…思いもしなかった)

(………刀にした父上が憎いかい?)

(…分からない、分かるわけない! 父上の無念も分かるし、でも今あたしがこうなってる事にお礼を言いたいかと言われれば…)

(ありがとう…とは言えないよね、気持ちは分かるよ)

(!?あんたに何が分かるのよ! 死んだ事もない、望んでもいない形で生かされる事の何が分かるっていうのよ!)

(………)

(あんたが握っているからなんとなく分かるわ! 傷も負った事の無さそうな、何の苦労も知らなさそうな柔らかい手だって! なんならあたしがその手を傷つ…けて…)

(お前ちょっと黙れや)

『リュート!?』

『あ~…ごめん、無事だよ。ちょっとこの()とお話し中なんだ』

『そ、そう? かなり力が漏れてたから』

『それは本当にかたじけない』

『…う、うん(かたじけない?)』


 思わずかたじけないと謝られた桜華は、返事をするくらいしか出来なかった。注意した方がいい言葉遣いだっただろうか、そして自然と出た言葉なのか、和ませようとして出した言葉なのかと考えてしまったのだ。それは緋雨との会話で昔の言い方に気を遣っていた余韻が出てしまっただけである。


 リュートにガチギレされてしまい、怒気を感じ取った緋雨は言葉を発する事が出来ず黙ったまま。リュートは深呼吸して心を落ち着かせ、緋雨との話を再開した。


(ん~ごめんね、大人げなく怒っちゃったよ)

(え…えっと、あの…)

(辛い事を伝えられて、君が勢いに任せて言ってしまった事だって分かってるよ。それでも言われたくない事だってあるんだ)

(ご、ごめんなさい…)

(…うん、私も配慮が足りなかった、本当にごめんなさい。…私の事も少しだけ伝えるとね? 死んだ事があるんだ。…つい最近の話)

(え…)

(分かりやすく言うと…俺は本来男でね? 君の父上殿より歳が上だったんだ。ある時、娘と共に殺されそうになって敵から逃げて、怪我を負ったけど娘を守る事が出来たんだ。でもその怪我で命を落としてしまって…死んだと思っていたら守ったはずの娘の体で目覚めて、今こうして生きてるんだ。娘に命を譲られて…いや、娘の命を奪って…)

(あ、あたし! そんなつもりじゃ!)

(いいんだよ。私も最初はどうすればいいか分からなくて暴れたりもしたし、大声出したりもしたからさ。感情をコントロ…ん~、感情を抑えたり出来ないのは分かるつもり。ありがとうなんて素直に言えないもんね?)

(…うん、こんな形で生き…刀になったみたいだけど、生き続けたくは無かった…って思うかな。…思います)

(今まで通りの話し方でいいよ? …私も同じ事考えた、こんな形で生き続けたく無かった~って。でも恨む事も出来なくて…)

(あたしも…そうかも。…あたしね? 私さんは何でも知ってたから、お話を聞いてる時に神様なのかな? って思ってた)

(あはは、閻魔大王でも神様でもないよ。ちょっと強い…特別な力を持っただけの女の子だよ)

(…ねぇ私さん、名前…教えてくれる? なんとなく聞こえた気はするけど、ちゃんとは分からなくて)

(いいよ、私の名前はリュート)

(りゅうと…)

(死ぬ前の男だった時は、侑人って名前だったんだ)

(ゆうと…侑人…そう、ありがと。もしりゅうとが名前を忘れた時は、あたしが教えてあげるわ!)

(…あははは! そっか、ありがとう緋雨)

(うん!)


 無事に仲直りしたリュートと緋雨の距離は縮んだ。とても似た境遇を経験している2人は、より分かり合えたのだった。


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