14.指切り
ブックマーク・評価・いいねをしていただきありがとうございます!
桜華が『魔力吸収』を使用し、リュートが自分の中の魔力を抑えようと奮闘する事1時間。ようやく魔力を抑えられたリュートの左目は水色に戻っていた。そして、リュートが落ち着いた頃には『魔力操作』の熟練度はとんでもなく上がっていた。
熟練度としての数値を知る術はないので、リュートの体感ではあったが。その数値の確認が出来るようになるのはもう少し先の話である。
『ありがとうございました桜華さん、助かりました』
『いや、無事ならいいんだ。時間かかっちゃって悪かったね』
リュートは桜華に鼻血を拭かれ、カワイイを取り戻した。
『それは魔力を抑えられたから全然いいんですけど…、こっちが謝らなくちゃいけないというか…』
『うん?』
『その………、桜華さんの過去とかこれまでの事が、…見えちゃったんです』
『………多分、さっきの左目の力かもね。見られたものは仕方ない…かな』
魔力を抑えきれず膝立ちだったリュートと、正面にしゃがみ込んでリュートの肩に手を置いて対処していた桜華。
リュートが扱い切れなかった左目からは、桜華の過去も流れ込んでいた。
桜華が産まれた事を喜ぶ両親の顔、着るものやおもちゃが女の子寄りだった幼児期、それを当たり前だと思っていた桜華の表情。
女の子が欲しかった母親の行動に父親が気付いた事、その後の家庭環境、割れた性格とケンカの日々、その中にある癒しの時間。
召喚される時に出会った女神アナスタシア、降り立った異世界で初めての命のやり取り、精神の摩耗による地形をも変える自爆。
訓練の日々と人族に対する猜疑心、魔族を倒す旅での出会いと死別、魔王との邂逅から和平へ向かう旅の終着点、人族の裏切り。
王女との逃亡生活からダンジョンで目覚めるに至った経緯、王女を殺した男の顔、ダンジョンから出られずに鬱憤を晴らす日々。
侑人との出会い、託された卵の世話、産まれたリュートへの心配、戦うリュートを見守りつつ、紳士的に見守っていた事まで。
…見え過ぎである。
『そうですね…、プライバシーなんて無いってくらい見えちゃうみたいです。キラーアント相手には弱点らしいものも見えましたし。相手のステータスから体の中まで見えて、脳が処理しきれない感じでしたよ。…それとは別に、視点の移動って言うんですかね…自分の容姿を確認する事も出来ました。オッドアイになってるのも見えました。確かに私は母親似で、美人と可愛いが融合してましたね。父親としての贔屓目抜きにしてもリュートマジ天使…』
『…今はどっちの目も青いけどね。ほんとなんて魔眼なの?あれ』
『なんなんでしょうか…あ、そうだ。ステータス』
情報が載っているのではないかと思ったリュートは、ステータスを確認してみる事にした。ステータスの数値は上昇していたが、リュートとしてのレベルは上がってはいない。竜帝のジョブレベルが上がっていて、それがステータスに反映されていたのだ。
スキルのページを開いてみたが、それらしいものは何も記載されていなかった。
桜華に確認してみると、
『魔眼はスキル扱いだから記載されているはず』
という答えが返ってきた。が、何度見ても、表示をジョブ別から一覧表示にしてみても、それらしいものは見つからなかった。
考える事を途中で切り上げて、桜華の持っていたマジックバッグに魔石とドロップ品を詰められるだけ詰め、一旦セーフエリアまで帰ってきたリュートと桜華。キラーアントが脅威ではない事は分かったが、湧いて見つかったら面倒臭いので。
魔眼(仮)の事も気になったが、他に気になる事があったのでリュートが桜華に質問をした。
『ところで、…ちょっと言いにくいんですけど、ここに来る切っ掛けになった…桜華さんを蹴り飛ばした人族の男、覚えてます?』
『…あぁ、忘れられない…かな。ほんとに全部見えてるっぽいね』
『すみません…』
『いや、さっきも言ったけど見られたものは仕方ないよ。不可抗力なんだろうし…まぁ、恥ずかしいって気持ちはあるけどね』
『ありがとうございます』
『それで、その男がどうかした?』
『…その男、まだ生きてます』
『…そうか、………ん?』
(あの男がまだ生きてる…。過去を見てしまったというリュートの言葉は本当だろう…けど、なんで生きてるって知ってるんだ? 侑人さんが知ってる人物だった? …いや違う、何だ?)
リュートの言葉に何か引っかかりを覚えた桜華だったが、正解に辿り着く前にリュートから答えが返ってきた。
『…桜華さんのいた時代より700年経っているマギカネリア、人がそんなに長く生きていられるわけがない』
『!?』
桜華の感覚では、蹴り落とされたのは半年前の出来事。だが、侑人がやって来たのは桜華が居た時代より700年後。
死別に出生に危機と、短時間の内に衝撃的な出来事が続いていたせいで、時間のズレという些細な問題は頭の片隅へと追いやられていたのだった。
『あの男は、人化した竜種です。そして俺が…侑人がここに来る原因を作ったヤツです』
『………』
『名前はグルード。竜の谷に居た時、人化した姿を見た事があるので間違いないでしょう』
侑人を崖から落とそうとしていた、竜の谷に住むドラゴンの1体、グルード。
侑人が竜の谷で過ごしていた約半月のうちに、グルードの人化した姿を見た事もあった。その姿は桜華の記憶の中の人物と全く同じであった。
桜華にグルードの話をしながら、リュートは侑人の…崖から飛び降りる前の事を思い出していた。
グルードは「勇者が終の棲家としたのがここだ」と言っていた。何故そんな事をグルードが知っていたのか? 詳細な場所が記された書物もないはずなのに?
有名な物語なので耳にした事はあったのだろう。しかし、人族の事を憎むグルードが勇者の物語を好んで読んでいたとは考え難い。侑人に聞かせるためだけに話を仕入れたというのも考え難い。
グルードの魔の手から逃れる方法を考えながら、そんな事を考えていた記憶があった。
桜華の記憶の覗き見だったとはいえ、知ってしまえば簡単な事。…終とさせた張本人がグルードだった。グルード自身が勇者であった桜華を、あの崖から蹴り落としたからだった。
『…そう、か』
『………桜華さん、指切りしましょう』
『…なんで突然指切り?』
『一緒にここを出る、因縁の相手であるグルードをぶっ飛ばす。それまで助け合って強くなりましょう? 約束というより誓いですかね』
『そうだね…、どうやって脱出すればいいか分かってないけど』
『あ~…、上層の出口からは出られないみたいですしね。それでも2人で考えれば何かいいアイデアが浮かぶかもしれませんし』
『確かに。…でも、きっと俺が足を引っ張ると思うんだ。この首輪のせいで本来の力が出せなくてさ…』
首輪に触れながらそう言う桜華に、リュートが朗報を告げる。
『その事なんですが…多分なんとかなると思います』
『…マジ?』
『多分ですけどね? 左目から入ってきてた情報の中に、その首輪に関するものもあった気がします。ただ…色んな情報が一気に俺の中に入ってきてたので、ちゃんと見れてはないですけど…』
『外す方法がさっぱりだったんだ。小さな手掛かりだろうとあるなら嬉しいよ』
『あはは、頑張ります。でもまずは…魔力が回復してからですかね』
『…あと体もしっかり休ませておいた方がいい。体力は残ってたとしても、精神面が参ってるでしょ』
『ですね…、思ってた以上に鬱憤溜まってたんだな~って思いました。リュートには悪い見本になっちゃいましたし…親としては反省です』
『バランスって難しいよね。過保護もダメだしスパルタも良くないし。…それどころか産まれてまだ半日も経ってないからね?』
『…そうですね。狩りという点はギリギリ許容できても、暴言吐いて癇癪起こして暴走して…猛省します』
『…発破かけた俺も悪いけどね』
人だろうとドラゴンだろうと、生後0日で実戦などという事はあり得ない。それが比較的安全性が約束された憂さ晴らしだとしても。
リュートは桜華と指切りをしながら、改めてリュートの模範となるような行動を心掛けようと誓ったのだった。侑人として。
☆
『拗らせてたんすね~侑人さん』
『自覚はあるけどね。…なんだろう、会えば毎回恋に落ちてたとでも言えばいいか』
『…犯罪行為をしてなければまぁいいんじゃないすか? それにしても、そんな恥ずかしい台詞よく言えますね?』
『若い頃は絶対言えなかったけど、歳をとると恥ずかしさなんて薄れていくからね~』
『…俺もそのうちそうなるんすかね~?』
桜華とリュートは、食事をしながら雑談していた。口調は宣戦布告前の状態に戻っている。
本日のメニューはオーク焼肉(味付け無し)だ。オークもこのダンジョンに…第二層に存在している。…明日のメニューも同じだろう。
『よく咄嗟に動けたっすね?』
『なんだろ、虫の知らせ…とでも言うか、嫌な予感がしてさ。そしたらリカちゃんが線路に落ちていって、気が付いたら俺も線路に降りてたって感じだね。冷静な時なら「非常停止押さなきゃ!」って思えるけど、その時は行動した後だったし』
『結果的にリカちゃんを助けて綾音さんに渡せたから…いいんじゃないんすか?』
『助けたんだからいいじゃないかとまでは、さすがに開き直れないけどね? 本来ホームから線路に降りたりしちゃダメだし。まぁ罰金や謝罪で命が救えるんだとしたらいいじゃないかって、助けながら考えてた気はするけどさ。助けに向かってなきゃ多分…間に合わなかっただろうし』
『…確実に1人の命は助かった、多分それでいいんすよ。…その後侑人さんも難を逃れてたら、こっちに転移してなければどうなってたんでしょうね?』
『………すごく、何とは言わないけどチャンスを逃しちゃった気がしてきたよ。喜びのあまり綾音にハグでもされてたかもな~、ほっぺにチューされたりとか? …勿体ない事をした気になってきた~!』
『父親像不安定になってるっすよ』
桜華の過去を見てしまったお詫びとして、侑人のこれまでの話を桜華に伝える事にしたのだった。
転移する切っ掛けとなったであろう電車事故の詳細。侑人は、マギカネリアに来て初めてその話をした。
『結局お願いの力はどうなったんでしょうね? 転移してその力が覚醒して~とか、ラノベやアニメでありそうな話なのに』
『そこはさっぱりだね。そもそもそんな力を持ってた事がおかしかったんだけど…』
『動物や虫の声が聞こえるって事は無かったんすか?』
『そういう力じゃ無かったよ。さっき言ってた覚醒みたいな事が起こればあったのかもしれないけど。出来る事は単純にお願いをする事だし、それに聞いてくれる子がいるかどうか次第だったしね。同じ子でも日によって聞いてくれない時もあったし』
『なるほど、覚醒してたらテイマーみたいな事しながら旅してたかもしれないっすね』
『あはは、それはそれで面白そうとは思うけどね』
初恋の話や不思議な力を持っていた話。
野宿で100円ライターが大活躍だった話。
シェリルとの出会いが本当はラッキースケベだった話。
街に住んで間もない頃、「危ないから」という理由で…ミュリアルに監視されながら湖で水浴びをした話。
…一緒に水浴びをしようとしたミュリアルを説得して止めさせた話等々、わざわざ言わなくてもいいのにと桜華にツッコミを入れられながら話していった。
死ぬ間際で語れなかった事を詳しく、見てしまった桜華の記憶と釣り合わせるように、侑人のこれまでの事と自身の恥ずかしいエピソードを晒していった。
『シルヴィアさんが緊張しながらお願いを聞いて欲しいとか言うからさ? デートのお誘いなんじゃないか、もしかしたら付き合ってとか言われるのかとソワソワしてたのさ。そしたら「あなたとの卵が欲しい!」って言われて、さすがにキョトンとしちゃったよね。シルヴィアさんがドラゴンだなんてその時は知らなかったし』
『予想のし様もないでしょ、お願いにしろシルヴィアの正体にしろ』
『まぁそうだけどさ~?』
『それで結局、その…シたんすか? あ~いや、リュートがいるってことはそういう事っすよね…変な事聞いてすんません』
『…と、思うじゃん? 竜族の秘術で、魔力で作られたからシてないんだよ。…何言わせんの!?』
『勝手に言っといて理不尽!』
興味津々に聞いてしまった桜華は、まだ魔法使いへの権利を手放していない。年齢は20歳だが、マギカネリアに召喚されてからはそれどころではなく、日本に居た頃も恋愛はしてこなかったようだ。
桜華の性格…男性の面と女性の面が同居していた弊害だろうか。恋愛対象が男女どちらなのか桜華自身も分かっていなかったというのもある。体は男だから恋愛対象は女だろうという、そんな簡単な話ではない。
仮にそう思い込んで女性と付き合ったとしても、桜華の中の女性的な部分を受け入れてもらえるかというのは大きなネックとなるだろう。
桜華は誰かに知ってもらいたいわけでも無かったし、知らせる気も無かった。リュートには、不可抗力とはいえ知られる事となってしまったが。
『いいんじゃない? 今の同居してる自分の事は嫌いじゃないんでしょ?』
『いや、でも…いいのかな?』
『桜華くんが今の自分が嫌なら、どうにかしようと考えればいいんだよ。嫌じゃないんなら同居したままでいいじゃん。桜華ちゃん…と呼べばいいのか、2人で1人みたいな所もあるんだしさ? どっちも大切でいいんだよ』
『………』
『桜華くんのご両親は…なんと言うか、極端な所はあったと思うよ? お母さんの行動もそうだけど、お父さんの「男はこうあるべし!」って押し付けてる感じもね。お父さんに感謝してるってのは分かるけど、女性がかっこいいものをかっこいいと思ったらダメとか、男性がかわいいものをかわいいと思ったらダメとかないんだし。女のくせに男のくせになんて考えはもう古いしさ。取り入れた方がいいと思った話なら取り入れればいい、好きな物は好きでいいんだよ』
『…なんか、侑人さんは父さんと同年代のはずなのに…なんだろ、柔軟っすね』
『あはは、良く言えば尊重…悪く言えば放棄とも無関心とも取れる言い方だけどね。それに俺が30歳の頃だったらまた考えは違ってたとも思うよ? けど、ゲームや漫画はコミュニケーションとして共有したいかな~? …親子で同じネトゲしてたら周りが引くかな?』
『あ~…、家庭用ゲーム機で対戦とかするなら、そうでもないかもしれないっすけど…』
『まぁ、にゃんすたを親子でやる家なんてないよね…。個人的には全然うぇるかむだけど。あ、もちろん悪い道に進もうとしてたら止めるだろうけどね?』
一通り侑人の過去を話した後は、桜華の過去の話もしていった。取って付けたように父親っぽい発言をしたが、説得力は感じられない。
にゃんすたとは『にゃんだふる☆オンライン』の略、侑人も桜華もプレイした事のあるネットゲームである。桜華にネトゲの知識があるのはにゃんすたのせい…おかげだ。
誰にも相談などしてこなかった桜華の内面、その全てを知っても態度を全く変えなかったリュートに対して、桜華はやっと一番の友達…心の友を見つける事が出来たと思えるようになっていた。
『なんならパパって呼ぶ?』
『…どっちかと言えばリュートが産まれるのを見守ってた俺の方がパパじゃないっすか?』
『じゃぁパパって呼ぼうか?』
『…遠慮しておくっす』
変な心の友が出来てしまったようだ。ドンマイ桜華。




