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【一旦完結】ジャガーバルト家の義妹  作者: もにーる
第五章 『生誕』編

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10.ステータス

ブックマーク・評価をしていただきありがとうございます。


 侑人が泣き止んだのは約20分後だった。

 元気の無かった子竜が突然大声で泣き始めてしまい、最初はオロオロした桜華だったが、(父親の死が分かるのかな? じゃぁ仕方ないか)となんとなく納得して撫で続けた。

 ぐったりとしている姿を見るよりも、涙を流しながらでも力一杯に鳴き声をあげてくれる方がまだ安心できるのだ。


 泣き止んだ子竜には、目に力強さがあった。その目に映る世界は、侑人として見ていた時よりも輝いて見えていた。


 …目に映る世界といってもダンジョンのセーフエリアなのだが。


(こんな形は望んでいなかった。でもリュートが俺を助けてくれた…。父親がいつまでも凹んでたらいかんよな、そっちの方がリュートが悲しむ)

(システム…と呼んでいいのかな、独断で記録を残すなんて事…絶対普通じゃないはず。これも『生誕』のスキルの効果なんだろうか…分からないけど。でもそのお陰で生きる活力を貰えた。…今ならフルール聖国の人達の気持ちも分かる気がする)

(ごめんな…それとありがとう。自分の事しか考えてなかったよ…。逆に考えれば、リュートに親殺しをさせるのと同じだもんな)

(俺として…そしてリュートとして生きていく。楽しい事も、嬉しい事も、辛い事も悲しい事も…どんな時でもあったかいがいいもんな、リュート?)


 システムが記録していた音声…思念と言った方がいいだろうか。システムとリュートのやり取り、そしてリュートの想いを聞き、助けられた事への悲しみを胸に刻んでなんとか立ち直った侑人。

 死ぬ直前だったとはいえ、浅はかだったと反省した。泣きながらリュートの名前を何度も呼んだ。我が子に助けられた事に感謝した。同時に何故こんな事をしたのかと叱りもした。


(………、正直まだ全部呑み込めてはいないけど、まずは母さんの所へ帰らないとな。…なんて伝えればいいんだろうか)


 卵を大事に撫でるシルヴィアの優し気な顔が頭に浮かぶ。それを隣で見てきた侑人にとっても…伝える事は辛い。

 大切に育てていた子の命を奪ったと罵られるだろうか、返せと憎まれるだろうか、それすら言われず拒絶されるだろうか。とてもではないがポジティブには考えられなかった。

 だが、我が子の最初で最後の『おねがい』を叶えないという選択肢は侑人には無かった。


(…時間かかっちゃうかもしれないけど、絶対帰ろうな。まずは…)

「キュゥ、キュイ!」

「元気になったのか? それなら良かったよ」


 桜華に対して心配かけてすまなかったという謝罪は、鳴き声にしかならず全く伝わらなかった。



(ステータス)


 謝罪に失敗した侑人は、気を取り直してステータスを確認した。

 ただ呆然と見ていた先程までとは違う。システムのおかげで生きる力を取り戻し、現状に前向きに取り組もうとしている。

 桜華の膝の上でぐったりとし、指一本動かす事さえ億劫だった侑人はもういない。今はきちんと座り、前足で空中に表示されているステータスを操作している。…座っている場所は桜華の膝の上のままだが。


 桜華は桜華で、


(まさか孵化してこんなすぐにステータスの操作を? 知能がとてつもなく高い…いや、そういう次元じゃない気がする。竜種は産まれた時からこうなのか?)


 と、リュートに対して勘違いをしていた。人間で考えれば、生後1時間でスマホを操作しているようなものだろうか。桜華がビビるのも当然だろう。

 ちなみに侑人はステータスを可視化状態にはしていない。リュートの手の動きを見て、ステータスを触っているのだろうという桜華の推測だ。


(名前はリュート、改めて名前を付けてくれてありがとう桜華くん。レベルが136…あれだろうなぁ、卵の経験値。…ミュア師匠よりレベルが上って事を思えば、…単純に考えてエルフの400年分を超える経験値なのか…卵ェ。ジョブが竜帝…? …授業でも本でも見聞きした覚えないぞ。…種族特有のジョブか? 竜って付いてるし。獣人種にはそういったジョブがあるんだっけ、竜種もその括りなんだろうな。あ、HPとMPは常置にってミュア師匠が言ってたっけ)


 師の教えを思い出し、HPとMPがステータスを開かなくても確認できるようにした。HPとMPの横にあるボタンを押すだけの簡単な作業である。

 アクティブにすると、ステータス画面とは別に視界の左上にゲージが2つ浮かんだ。冒険者のような戦闘を主にして生活する者は基本常置モード、ごく一般的な生活をする者ならば緊急時以外は大抵の者がオフにしている。邪魔とまでは言わないが目障りという理由で…。


 ちなみにミュリアルのレベルは89である。大幅に師を超えてしまっていた。

 長命なエルフにはレベル100を超える者は珍しくない。戦闘を好むエルフの場合はレベル150を超える者もいる。

 レベルは30上がる毎に、次のレベルアップに必要な経験値が異常に増える。なので長命なエルフでもレベル90以降になると、レベルアップにかなりの時間がかかる。


 人族で例を挙げると、ジャガーバルトの領主であるラルフがレベル47。怪我で冒険者を引退したのが20歳頃だった事を思えば、決して低い数値ではない。

 基本戦う事無く普通に生活している人族ならばレベルは10前後。最低限ステータスを上げる為に、ジョブが戦闘系ではなくても多少のレベル上げが国から推奨されているのだ。

 例えば、ゴブリンであればステータスの無い侑人でも倒せる。マギカネリアで生きる人族なら、誰もが一度は戦っているモンスターだ。しかしゴブリンばかりを倒し続けても経験値は途中から入らなくなる。レベル差による取得経験値の減少が起こる為、そして単純に経験にならなくなるからだ。

 前者は、モンスターとのレベル差が開くにつれて取得できる経験値が下がっていくという意味だ。ゴブリンに限らずモンスターにもステータスやレベルが存在し、低い高いといった差はあるが、それでもゴブリンは最弱のモンスター…経験値が入らなくなる時が訪れるのは早い。

 後者はそのまま…命がけで必死に戦って勝利した初心者、真剣だが一撃で倒せる中級者、指先一つでダウンさせる上級者が、同等の経験を得ているわけがない。その差が経験値に出るのだ。

 また、パーティーを組んでいればモンスター1匹からの経験値は割り振られ、パーティーメンバーが多いほど経験値が減り、レベルアップには更に時間がかかる事となる。その分安全性は高くなるのでパーティーを組むのが基本だ。多少の経験値の為に死んでしまっては元も子もない。


(スキルは…【最適化中】?で操作出来ないのね。終わればアレが使えるようになるのかな? …よく分からんけど苦労かけますシステムさん)


 スキルの確認をしようとした侑人だったが、システムさんが頑張っている最中なので見られなかった。侑人のシステムに対する好感度が爆上がりしている為、システムさんと呼ぶことにしたようだ。

 システムとリュートとのやり取り、リュートの想いと「おねがい」、システムがそれらを記録として残してくれた事に人間味を感じているのも大きいだろう。

 その記録が無ければ、生きる事を諦めていたかもしれない。

 絶望に染まったまま…侑人が自ら命を絶っていた可能性もあったかもしれない。

 …システムさんからシステム様へ格上げされる日が来るかもしれない。



 ひとまずスキルの確認を後回しにして、ステータス上のそれぞれの項目を観察する事にした。

 先ほど見た名前の横には(0)と付いていて、年齢を表している。そしてレベル、種族名、ジョブと項目が続く。ジョブの横には黒い逆三角形のマークがあるが、触れても反応が無い…ただのマークのようだ。

 他にHP、MP、物理攻撃力、魔法攻撃力、物理防御力、魔法防御力、筋力、魔力、体力、精神、敏捷、器用。レベルアップに必要な経験値と現在の経験値。一番下にはログとスキルをそれぞれ表示させるボタンがある。

 侑人がミュリアルの授業で習った、絵に描いて見せてもらった項目そのままだ。

 おかしいのは…その数値だけ。物理攻撃力だけに注目してみても4,000を超えている。ラルフの攻撃力の10倍以上と言えばおかしさが伝わるだろうか。

 更に魔法攻撃力は、エルフであり上級魔術師であるミュリアルの約10倍以上…10,000を超えていた。


(………、俺は誰と戦うつもりなんだ? 仕様が仕様なら明らかに私生活に影響出るだろこれ…)


 通常、普段の生活の中でステータスの数値がそのまま発揮されるわけではない。仮に侑人の筋力値がそのまま発揮されてしまえば、意図せず握力でドアノブが変形し、うっかり机の脚に小指をぶつけて机の方が壊れ、着る服が何枚も破れる事になるだろう。そうならないと教わって知ってはいても、心配せずにはいられなかった。

 戦闘時であれば、心臓近くに存在するステータスの源…核の開放や、戦うという意思によってステータスの数値が肉体に反映され、超人的なパワーやスピードを使えるようになる。


 マギカネリアでは、意識してステータスの開放を行う者はいないと言っていいだろう。赤ん坊から子どもに、子どもから大人に成長する過程で、その調節を体が覚えるのだ。普段息をするのに「呼吸をしよう」とわざわざ考えない、といったところか。

 赤ん坊が無意識にステータスを開放してしまったとしても、それは微々たるもの。だが、無意識に魔力・・を放出してしまう事はとても危険で、最悪命にかかわる。赤ん坊のジョブ次第というところもあるが、それを防ぐ為に魔力を封じる腕輪を付けるのだ。

 …しかしそれらは()()()()()の話。子竜が同じ産まれたての赤子だとしても、種族の差があり、侑人としての意識があり、それに予備知識もある。


(確か、開放するとステータスが肉体に反映されて能力が上がるはず。モンスターに勝てそうかどうか…他にも色々感覚で分かるって教わったっけ。通常の力の入れ具合とは違って、胸の中心辺りから…開く?感じって教わったよな。…なんか出来そうな気がする。ほんの少し…ほんの少~し開───)

「キュァ!?」

「!?」


 突如湧き上がる今まで感じた事の無い力に、侑人は思わず鳴いてしまった。力の開放を感じ取った桜華も、声は出さなかったが驚いてしまっていた。

 驚かせてしまった桜華には、振り返って頭を下げて謝罪した。


 知識として教わってはいたが、それでも未知の体験…体中を駆け巡る力の奔流は凄まじかった。

 侑人には、その激しい力に2つの種類があるように感じられた。それをどう表せばいいかと考え、(…色で区別するなら赤と青かな?)と思った瞬間、よりその2つを分けて感じられるようになった。侑人が初めて感じたステータスの恩恵と、自身に満ちる魔力の存在であった。


 侑人は以前、美鈴がジャガーバルト領を訪ねて来た時…出会ってまだ1か月程度の頃に質問した事がある。ステータスや魔力がある状態というのは、日本で過ごしていた今までとどう違うのか、不都合は無いのか、と。


『う~ん…、最初はなんだか力が強くなった感じはありましたよ? 調整するのも、なんて言えばいいか…知ってた事を思い出した感覚でしたし。あ、ほら! 久しぶりに自転車に乗って感覚を思い出すような! この例えはとてもピッタリな気がします!』


 美鈴はそう言っていた。はしゃぐ大女優…ぐうかわだったと言っておこう。


 それはともかく、美鈴の言っていた思い出すような感覚は侑人には全く感じられなかった。今は確認のしようも調べようもないので、これも召喚と転移の差だろうかと一旦結論付けた。


 美鈴のレベルは1、聖女のジョブレベルも1。対して侑人は竜帝というジョブレベルこそ1だが、卵の経験値を得たリュートとしてのレベルは136なのだ。


 美鈴と侑人が、お互いに10%程度の力を開放したとしても、その差は大きく違う。美鈴が徒歩から自転車に乗る程度の上昇とするなら、侑人はいきなり大型バイクに乗るようなもの。

 また、レベル差に加えて種族の差は大きい。聖女と竜帝というジョブの違いによるステータスへの影響もあるのだが…()()侑人にそれを知る術は無い。

 種族が変わり、初めてのレベルアップが一気に100回以上お知らせされたり、それを呆然と聞いたりといったハプニングが…沢山どころではなくあったが。ともかく、侑人がマギカネリアに来て3カ月半、やっとステータスと魔力を得る事が出来たのだった。


 とここで、


【最適化が完了しました】

【一部を引き続き最適化中。しばらくお待ちください】

【最適化済みのスキルの確認が可能です】


 システムさんが残業していると、アナウンス(天の声)によって伝えられた。誘導まで付いて非常に親切である。


(おぉ、これでやっとスキルが見れる。システムさんありがとうございます)


 心の中でちゃんとお礼を言って、早速スキルの確認を行った侑人。

 ステータスの前面に表示されたスキルのページには…、


「キュァ!?」

「今度はどうした!?」


 画面一杯に様々なスキルが並んでいた。

 ミュリアルの授業では、スキルは少なければ未取得、多くて10個前後と習っていた。侑人のスキルのページには、ざっと見ても30以上のスキルが並んでいる。鳴いてしまっても仕方ない。…よく鳴くおっさんである。今は子竜だが。


 再び驚かせてしまった桜華に、最初と同じ様に振り返って謝罪した。「キュゥ…」と鳴き声付きである。

 桜華は頭を下げる子竜の姿に、(ヤバい…可愛い)とメロメロっていた。気をつけろ桜華、その子竜の中身はおっさんだぞ。


 謝罪の後、桜華が内心メロメロっている事など知らない侑人がスキルのページをスクロールすると、…更に倍以上の数のスキルが表示されている事を確認してしまった。


(………、ドユコト。え~っと…剣術、疾走、格闘術、騎乗、意思疎通に異空間収納…。獲得できるジョブ全部違うじゃんこれ)


 剣術は剣士のジョブ、疾走は遊撃士、格闘術は拳闘士、騎乗は騎士、意思疎通は調教師、異空間収納に至っては商人の2つ上の豪商というジョブで得られるスキルだ。目についたスキルはこれでまだ一部である。

 更に侑人の獲得したジョブは商人でも剣士でもなく、竜帝。混乱しつつもページの最初からスキルを探そうとして、『ジョブ別に表示』というボタンを発見した。


(………、授業でも習ってない、ミュア師匠の伝え忘れ? …いや、そもそも産まれた時からジョブは固定のはず。ジョブ別なんてボタンがあるわけがない…のか? リュートが特別だった可能性が一番高いかな…。危険性はないだろうし押してみるか)


 せっかく便利そうなボタンがあるので早速押してみた。

 スキルが乱雑に表示されていたページが、サッとジョブ一覧の表示に変わった。剣士や商人、調教師に調理師、教師や建築士といったジョブも表示されている。ジョブの横にはジョブのレベルも表示されていた。


(………、なるほど。さっぱり分からない。まぁそれは冗談として、どういう基準? それなりにジョブレベルも上がってるみたいだし…あ、もしかして俺の経験した職…じゃないか。建築なんてした事ないし、教員免許だって持ってないし、魔道具なんて作った事もないし。…それに、調教なんていつしたのかと。…しかも調教師も上級調教師もジョブレベルMAXじゃん。何?何なの? 何を調教したの? …う~ん、保留!)


 調教おっさ…侑人は一旦保留にした。情報が少ないので…あと上級調教師というジョブのレベルがMAXだった事が地味にダメージを与えていたので。

 調教についての詳しい説明は、まだミュリアルから聞いていなかったので勘違いをしているだけなのだが…。

 ジョブ一覧からスクロールして目当てのジョブを探し、タップしてみるとスキルが表示された。


(竜帝のスキル、魔装…だけ? あれ…無いのか? レベルを上げないといけないのか…それともタブが違うのか…)

(こっちはジョブ以外? こんなのもあるのか。種族別スキル…竜人種、これか。咆哮、飛翔、…あった、人化)


 やっと見つけた『人化』のスキル。

 侑人はゆっくりと桜華の膝から降り、トテトテと歩いて距離を取り…桜華の方へ振り返った。


 …余談だが、侑人は初めてのあんよに(リュートが歩いた!)と若干テンションが上がっていた。…やはりどうでもいい事なので言う必要は無かったかもしれない。そもそも歩いているのは自分(侑人)なのだが…これも一種の親バカだろう。

 振り返った先にいる桜華は、何故か頭を左右に2度3度振ってからリュートを見つめた。生後1時間程度で歩いた事に目を疑ったのだろうか。


 桜華にちゃんとお礼と謝罪をする為に、侑人はドキドキしながら産まれて初めてスキルを使う。

 体中に感じる赤色と青色の力、区別した侑人からすれば魔力は青色に当たる。スキルを使おうという意思に体内の魔力が反応し、発動させる為の魔力が胸の中心に集まっていく。


………


「多いか少ないかは個人差があるけど、魔力は誰もが持ってる」

「…すごく意識してないと、どう魔力が動いてるか自分でも分からないかも」

「胸の中心にある核の事を教えたけど、魔力がその核に集まってくる感覚…かも?」

「魔術だけじゃなくて、スキルの発動にも魔力が消費される」

「使おうと思うスキルに魔力が反応して集まってくる…気がする」

「最初の内は魔力が多く消費される事があるけど、スキルの熟練度が上がれば無駄な消費は少なくなる事がある」


………


 MPの消費に気をつけるのは当然だが、魔力の詳細な動きなどは意識しなければ気にも留めないのが普通であり、魔力はそれほどまでに日常に溶け込んでいる。ミュリアルも師として教える為に言語化する事に苦労していた。

 侑人は当時の授業で習った事を思い出していた。攻撃用のスキルや魔術は手や足に魔力が集まり、自身に作用するスキルや魔術は体の中心や各部位に魔力が集まる、と。

 あとはそれを実際に発動させるだけ。


(ちゃんと出来るかな…『人化』!)



 side:赤城 桜華


 侑人さんから託された卵は、ちゃんと孵化した。卵を…孵化するところをあんなにじっくり見た事なんてなかったから、思わずがんばれって声かけてしまった。

 産まれたのは…小さな竜だった。真っ白な鱗、尻尾まで真っ白で、うっすらと開けた目の色は青色をしていた。ガルディアの娘、シルヴィアと…そっくり…? え…、まさか…。卵の時点でおかしいとは思ってたけど、侑人さんまさか…そんな性癖が?


 一瞬そう思いはしたものの、子竜にリュートと名前を付けた。好きは…人それぞれだしね…うん。

 そのあとは…力無く俺の膝の上で横たわっていた。呼吸はしている、温かさもある。リュートの体に異常は見られないけど、目はどこか一点をボーっと見つめていた。

 念の為『ヒール』をかけながら様子を見守った。


 俺が罠にかけられた時の首輪が無ければ…無理矢理にでも首輪を引き千切って侑人さんを助けていれば、リュートは今頃元気いっぱいに鳴き声を上げていたんじゃないだろうか。

 そう思って首輪に触れると、やはり痛みが走った。尋常じゃないこの痛みは、首輪を外そうとする度に何度も経験した。勢いに任せて引き千切ったりしたら、きっと同時に首が飛んでただろうな…。

 いくら同郷とはいえ、会って間もない侑人さんの為に…一か八かで命はかけられなかった。俺が死んだら、託されたリュートが1人ぼっちになっちゃうから。…いや、それは言い訳だな。…死にたくなかったんだ。


 そう思っていたら、リュートの体が震えだし…ポロポロ涙を流しだした。

 次の瞬間には大きな鳴き声をあげた。遅かった産声…と呼ぶには悲しさと怒りを主張しているように思える。父親…侑人さんの死を分かっているのかもしれない。


 驚きはしたけどなんとか慰めてみた。泣き止んだリュートの目は、さっきまでとは違って力強さがあった。

 そこからは何か吹っ切れたようにキュイキュイ鳴いたりお辞儀をしたりと元気な姿を見せている。そしてリュートは俺の膝の上に座って、空中に向かって右手を伸ばした。見えてはいないけど、前足の動きを見ればステータスを触っているのだろうという事は分かった。

 どれほど高い知能を持っているのか…そう竜種について考え事をしていると、リュートの鳴き声と力の開放に驚かされた。2度目は鳴き声だけだったけど、ちょっと驚いた。その度にリュートが振り向いて頭を下げた。


 …正直俺はドラゴンに対して特別な感情は持ってない…いや、持ってなかった。

 そのはずなのに…なんだろう、可愛くて仕方ない! 特に2度目の頭を下げながら鳴いた時なんて、私にクリティカルヒットしちゃったよ!

 真っ白なリュートを見つめる、可愛い。今もステータスを触っていて…首を傾げた、ヤバい…可愛い。

 これから私とリュートの長い生活が始まるのね。リュートのステータス遊びがひと段落したら、そうね…まずはオスかメスか確認しなきゃだよね。それによってリュート君って呼ぶかリュートちゃんって呼ぶか変わっちゃうし。…でも当分の間はリュートちゃんでいいかな?

 ダンジョンで一生を終わらせたりなんてさせない。絶対一緒に外に出ようね? …いけない、あまりの可愛さに『私』が出ちゃってた。意識を『俺』に戻さないと…。


 竜種は人族の言葉を理解し、竜の姿のまま話す事も出来る。ガルディアが言うには、話すというより思念を飛ばすと言った方が正しいらしい。そういうスキルがあるって言ってた。

 リュートと会話が出来るようになったら…じゃまだ早いかな? 成長して、父親の死を受け止められるくらいまで大きくなったら、俺の口からそれを伝えなきゃならない。それまでは俺が父親代わりだ。


 …父さん、俺この歳で子ども育てる事になったよ。人の子じゃないけどさ、真っ直ぐで強い子になってほしいと思う。…父さんも俺に対して同じ気持ちだったのかな?

 ちゃんと出来るか分からないけど、父親…やってみるよ。立派な父親を。


 そう密かに決意していると、リュートが俺の膝の上からゆっくりと降りて…歩いた。

 歩いたああぁぁ~! トテトテがんばれ~! 揺れる尻尾も可愛い~! 振り向いた! 超可愛いんですけ…いかんいかん、立派な父親が秒で消えてた。


 距離を取って振り返ったリュートは、眩しく光り…そのシルエットを大きくしていった。光は弱まり、見えてきたのは背の大きさが小学生の…3、4年生くら───


『…てきた。お~かぅん、ぁまえぉ…つけたくぇて、あいがとぅ』

『………』

『うまぅ、っくえが、でぁい…』

『………………』

『…おうかくん?』


 呆然と見つめていた俺はすぐに…上着を脱いだ。脱がずにはいられなかった。脱ぐ以外の選択肢などなかった。


『ご、ごめん。まずはこれで隠してくれ…』


 横を向きながら、脱いだ上着をすっぽんぽんの少女に渡した。インナーを着ているので半裸にはなっていない、安心してくれ。…俺は誰に説明しているんだ?


『あ…、あはは…ありがとうございます。…おぉ? しゃべるの上手く…なってきてる?』

『い、いいからまずは服を…』

『そうでした…』


 少女…リュートが人化したと思われる姿。今俺は横を向いて目を逸らしているが、真っ白な髪に青色の目、可愛さと美しさの絶妙なバランス、見た瞬間は天使だと言われても余裕で信じそうな神々しさも感じた。…あれ、手伝った方がいいんだろうか? 服の着方なんて分からないよな?

 そう思っていると、


『んしょ…ん…? 大分ちがう…』


 問題無く着れていそうな声と衣擦れの音が聞こえた。え…知能高いどころじゃなくない? いや、それを思えばもう言葉を…喋って…ん?


『着れたよ~』

『そ、そうか』

『あはは~、見られちゃった…』


 恥ずかしそうに頬を染めてそう言ったリュート。その姿は可愛いという言葉では到底表せるものではなかった。なぜリュートが日本語で話しているのかという疑問がどうでもよくなってしまう程の衝撃だった。


 私は…、立派な母親ママになるかもしれない。


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