31.オーちゃん
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「ジャガーバルトの街が見えてきましたよ! もう少しです!」
馬車と並走する一行が、ジャガーバルト側からでも確認出来る位置まで来ていた。
リュートの呼びかけに、バラバラにではあるが返事が返ってくる。以前は魔術師のジョブだったトールに至っては、歩く方が速いのでは?と思える駆け足を見せながら、「はすっ…」と答えていた。
「よく頑張りました! あとちょっとですよ~! もうすぐ終わりますよ~!」
「頑張れ~」
馬車の中からは女性2人の応援が飛んできている。
もしリンリンファンがこの応援を聞けば、やる気を漲らせてラストスパートをかけていただろう。…もしくは視線が馬車に張り付いて訓練にならないかもしれない。
そんな感動のマラソン大会がもうすぐ終わるという時に、女性の声が聞こえてきた。
「お~い!リューちゃ~ん!」
「? …おぉぉ~!? いらっしゃ~い!オーちゃ~ん!」
街から駆け寄ってくる1人の女性。その女性を迎えるようにリュートは手を広げ…女性に向かって行った。
リュートが飛びつき、オーちゃんと呼ばれた少女が受け止めてクルクルと回る。リュートのテンションとその行動から2人の仲の良さはよく分かるだろう。
「「!?」」
「ふぅ、誰だろ…」
「「「「はぁはぁはぁ」」」」
「ぜぇ~あ˝ぁ~…はすっ…」
ミュリアルと美鈴は予想外のライバルの出現かと驚き、ジンは平常運転だった。
銀の盾は喋るどころではなく、トールに至っては限界を超えていた。
「もう行ってきたの? 早くない?」
「森まで近かったから、あっちにはすぐ着いたんだよ。2日は滞在したし」
「そっか~、無事に行けたんだね。それにまた会えて嬉しいよ」
「言う程時間経ってなくない? 10日くらいのもんでしょ」
「いや~、こっちも色々あってさ。戻って早々ジャガーバルトが危機だったし、王都に行ったらやろうと思ってた事も大体済ませてきたし」
「働き過ぎじゃない…? てか、危機って何があったの? 平和そうな街だけど…」
「うん、モンスターの…あ~後にしよっか。皆を紹介するよ」
オーちゃんと呼ばれた女性を連れて馬車の近くまで戻ってきたリュート。
まさかのライバル登場か!?と、警戒心強めのミュリアル。美鈴もまた2人の仲良さげな関係を目の当たりにして、(リュートちゃんの事情知ってるのかな? どういう関係?)と危機感を抱いていた。
近くで見るその女性は17歳程度に見える。身長は160cm前後、髪の色は薄めのピンク色をしているが、顔立ちの彫りは浅い。…と言うより、ガッツリ日本人顔である。
「えええぇぇぇ!?」
馬車から降りたミュリアルと美鈴、そこへ驚きの声を上げたのは…オーちゃんと呼ばれた女性であった。
「な、なんでこんな所に!?」
「あはは、そうなるよね。本物だよ? 前に言ってたもう1人が彼女。彼女もこっちに召喚されたみたいでね。紹介は必要ないかもしれないけど、小林 美鈴さん」
「あ、あの、あっ握手して下さい!」
「は、はい」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
「ほら、美鈴ちゃんが驚いてるから落ち着いて」
「だ、だってさ! 一ファンとしては興奮しちゃうのが普通だって! 普通するよね!?するでしょ!?」
「分かった分かった、はい『リラックス』。それでこちらが私の師匠のミュリアルさん」
「待ってぇ! あぁ…さよなら私の興奮…。初めましてミュリアルさん。ミルファリアさんによく似てますね」
「…おばあちゃんを知ってるの?」
「ここに来る前に会ってきましたから。孫をよろしくって言ってましたよ」
「………、そう」
なぜ祖母であるミルファリアの事を知っているのか、どうやって集落の位置を知ったのか、基本排他的なエルフが多い森の集落を訪れ、その長から孫をよろしくと頼まれるような関係とは一体。
考えても答えはでなかったので、簡単にそう返事をしたミュリアルであった。
「御者のオーランドさんと、こちらの5人が銀の盾というパーティで、侑人としてお世話になった冒険者の先輩方」
「よろしくお願いします」
「ふぅ~、よろしく。こんな姿勢ですまないけど、休ませてくれ…」
「あはは、リューちゃんの訓練は厳しいですからね」
「まぁ…否定は出来ないかな。怪我には気をつけてるけどね? ヘトヘトにはなるけど」
「一緒に訓練やってるハズのリューちゃんが全くヘトヘトになってないけどね。ほんと体力オバケなんだから」
「あはは…、慣れもあるから。日々の訓練は欠かせないし」
「「「「…(え˝?)」」」」
「そうだよね~、私もずっと負荷かけて走ってきたし」
「「「「…(え˝?)」」」」
心の声が重なった銀の盾の5人であった。
ただ一緒に走って魔術による負荷をかけているだけだと思っていたリュートが、自分たちと同じ様に負荷をかけて走っていたと知ってしまった。更にオーちゃんと呼ばれた女性も似たような事をして走ってきたらしいと聞き、言葉も出なかった。
その感情をどう表せばいいのだろうか。尊敬か、絶望か、呆れか。
「そしてジンさん、王都で冒険者をしてたんだけど、この度ジャガーバルトに移住してきてくれたんだ。親友です!」
「ははっ、ありがとうリュートちゃん。ジンって言うんだ、リュートちゃんにはよく…驚かされてるよ」
「あははは! 分かります、ビックリ箱みたいな人ですからね。リューちゃんも隅に置けないな~、旦那様候補?」
どこからかバッ!と振り向くような音が2つ聞こえた気がした。
「確かにジンさんカッコいいもんね。でも結婚とかまだ早いし? それに私としてはやっぱり…お嫁さんが欲しいかな?」
どこからかバッ!と振り返るような音が2つ聞こえた気がした。敏感な女性が2人いるようだ。
「おっと、オーちゃんの紹介もしないとね。皆さん、こちらの方は赤城 桜華さん。700年前に召喚された勇者です」
「改めて初めまして。今は女性の姿ですが、本来は男です」
「…はい!?」
「…おぉ…」
「「「「………」」」」
「はすっ…」
「へぇ~、よろしくね」
反応はそれぞれだった。唯一よろしくと返事をしたジンは、(リュートちゃんなら勇者と知り合いとか言われても…あんまり驚かないな)と何か達観しているようだった。…何に対しても達観し過ぎではないだろうか?
一番興奮しそうなはずのミュリアルも、その返事は静かなもの。今はリュートの「お嫁さんが欲しい」発言を噛み締めている最中なのだ。日本語に夢中になるきっかけとなった『勇者オーカの日記』、その日記を書いた本人が目の前に現れたというのに…恋とは人だけでなくエルフをも盲目にするようだ。
こうして無事…無事? なんとか自己紹介を終えた面々は、揃ってジャガーバルトの街へ入っていった。
☆
「ただいま帰りました」
「お帰りにゃさいませリュートさま!」
「お帰りなさいませ、リュート様皆様。長旅お疲れ様でした」
「突然すみませんが、お客様がいますのでよろしくお願いします」
「桜華と申します。突然お邪魔してすみません」
「いらっしゃいませオーカ様、ジャガーバルト家へようこそ」
メイドのミルとマリアに出迎えられ、領主宅へと入っていった。大汗をかきながら走った面々は、ちゃんと『洗浄』をかけられているので清潔だ。ヘトヘトだが。
「…居候にしては手厚い歓迎に思えるね?」
「ん? あぁ、養子になったんだよ。今の私は三爵家の義理の娘だからね」
「…そう言えば、領主様から家族にならないかって話をされてるって聞いてたね。忘れてたよ」
「あはは、確か2年前に話しただけだったからね」
「…良かったの? だってまだ…」
「…うん、筋は通しに行かなきゃ…ね」
そんな話をしながらリビングへ。そこにはリュートの義理の姉であるシェリルと、孤児院にいた虎人族のララがいた。ララはメイド服を着ていて、この領主宅で絶賛修行中であった。
「お、お帰りなさいませ! リュート様皆様!」
「お帰りなさい皆さん」
「ただいまララちゃん、シェリルさんも。ラルフさんとミリアさんは?」
「父様はさっきまでララちゃんと訓練をしていて、部屋で汗を拭いてるよ。母様はその付き添い。怪我をしてからもうベッタリなんだから」
「あはは、ラルフさん愛されてるね。ララちゃん、ここでの生活や修行はどう?」
「はい! とても良くしてもらってます! ラルフ様がリハビリには丁度いいと、毎日相手をしてくださいますので。メイドの修行はまだまだですけど…」
「そんな事はないわよララ。覚えるのも早く、失敗してもそれを繰り返さないし。後は数をこなして体に覚えさせれば大丈夫」
「はい! ありがとうございますマリアさん!」
ララがなぜ領主であるラルフの家でメイド修行や訓練をしているのか、…リュートの役に立とうという想いからだ。
ギャバットの馬車に轢かれそうになった所を侑人に助けられ、ダンジョンではリュートに命を救われ、芽生えた好意が着実に育っていた。リュート、罪作りな少女である。
「おお、戻ってきたか。おかえりリュート、皆もご苦労だったな。座ってゆっくりしてくれ」
「お帰りなさい皆さん」
「ただいま帰りました。ラルフさん、膝の調子はどうです?」
「バッチリだ。最初はまぁ、思いっきり動かすのは怖かったし、張った感じはあったがな。今ではこの通りだ」
リビングへやってきたラルフとミリア。ラルフは屈伸して、膝の快調具合を見せている。
リュートがミュリアルを迎えに王都へ行く前日、ラルフの膝の治療を行っていたのだ。これまでの人生の約半分を共にした古傷だったが、リュートが『眼』を使って正常な状態である右膝を確認し、それを参考に左膝へ『ヒール』をかけて健康な状態へと戻す事に成功していた。
治す手段としては他にも…あるにはある。傷を再発…古傷と同じ場所に再び怪我をさせ、高位の回復魔術をかけるという方法だ。これならば傷が完治する見込みがある。…完治しない可能性や、悪化する可能性もある。
その事を思えば、古傷を安全に治してもらったラルフには、リュートに対して感謝しかなかった。
「足の太さというか、筋力の差はあるがな? 改めて礼を言うよ、ありがとうリュート」
「どういたしまして。中々に酷い怪我でしたからね、念の為診ておきましょう。…大丈夫そうですね」
「早いな…。優秀な医者としても食っていけるんじゃないか?」
「…忙しくなりそうなので遠慮します」
「がっはっはっ、そうか。ミスズ殿も久しぶりだな、自分の家と思ってくつろいでくれ」
「ありがとうございますラルフ様、短い間ですがお世話になります」
そう話がひと段落した所で、初めまして組の自己紹介が始まった。
ジンがラルフと同じ村の出身である事や、リュートとの出会いや上級ダンジョンに行った事などを話した。村についての話に花が咲き、緊張気味だったジンもすっかり馴染んできている。
桜華もリュートとの出会いや、共に戦った事、美鈴と同じ日本から召喚された事や、700年前に勇者としてこの世界へ来た事などを話した。
「…とても信じられないな。誰もが知る勇者オーカが目の前にいるとは…」
「そんなに有名になってるとは思いませんでした。私としては700年も経った感覚がないんですけどね…」
「出会ったのはダンジョンの中でしたし、そのダンジョンの時間の流れがおかしかったんでしょうね。私も2年過ごしたと思ってたら全然時間進んでなかったみたいですし。最悪の場合、数千年は時間が進んでいる可能性も考えてましたから」
「数千年…。まぁその辺の話も、ミュリアルが帰ってきてくれたお陰でやっと聞けるな」
「あんまり楽しませる話でもないんですけどね? 時間が中途半端なので、夕食の後にしましょう。その間に王都での報告を───」
そのタイミングでドアノッカーが鳴った。マリアが対応しに出てみれば、ニックがリュート宛の手紙を持ってやってきたのだった。
「おかえりリュート殿」
「ただいま帰りましたニックさん、いらっしゃいませ」
「おまえさん宛に手紙が届いてるぞ、王都のギルドマスターのバルトス殿からだ」
「…もしかして、私達より先に手紙が届いたんですか?」
「それだけ急いで届けたんだろうな。事件の事は俺宛の手紙と、コレを運んでくれた冒険者から聞いたよ」
「あはは…、そうでしたか」
「事件? 何かあったのか?」
「簡単に言えば、リュート殿が難癖をつけられて、殴られて飛ばされて、飛ばされた先のギルドの壁をぶち抜いて穴が空いたらしい」
「「「………」」」
「…穴だけで済んだのか?」
先ほど話を聞いたばかりのニックも、今話を聞いたラルフやその家族も、心配する場所は同じだった。
「私を何だと思ってるんですか…」
「いや…、更地になっていてもおかしくないだろう?」
「更地にしようとしてたのはミュア師匠でしたけどね」
「ん…、リュートに止められた」
「そ、そうか。無事なようで何よりだ」
「まぁ、コレはその謝罪の手紙だろう。ギルドマスター直筆のな。それだけ誠意をもっての行動って事を汲んでやってほしい」
「分かりました。とりあえず読んでみます。…字うま~」
ニックから手紙を受け取り、その内容を確かめた。
冒険者の管理及び職員の監督不行き届きであったとの謝罪、手紙を届けて貰った事に対する感謝、スタンピードの情報に関して詳しく聞かせて欲しいので、ぜひ訪ねて欲しいというお願いが書かれていた。
ギルドで対応してくれたユーリンからの食事のお誘いも添えられている。
「謝罪のお手紙でしたよ。あとスタンピードの事が聞きたいから、王都に来た時には訪ねて欲しいそうです」
「…素直に一通目を受け取っておけば、その話も聞けてただろうになぁ」
「そうですね…バルトスさんのせいではないですけど。王都の上級ダンジョンは、5万匹のモンスター…スケルトンが溢れそうでしたし」
「何だと!?」
「一大事じゃねぇか!」
「数は減らしてきましたので当分大丈夫ですよ。…バルトスさんは、上級がスタンピードを起こしそうだって気付いたのかもしれませんね。もしそうならすごい推察力です」
「そ、そうか…。5万匹のスケルトン…想像出来ねぇな」
「上位種や変異種、他のモンスターもいるかもしれませんしね。また数を減らしに行くつもりなので、その時にでもギルドへ話をしに行ってみますよ」
「そうしてやってくれ。…突然スタンピードなんてものが起こると言われても、信じるやつは王都には少ない…どころかいないだろう。モンスターの数を減らすクエストを出したとしても、上級のドロップを考えれば期待出来ねぇしな。…中級の方は大丈夫だったのか?」
「上級に比べて人気のダンジョンみたいなので、定期的に狩られていて問題無さそうでした」
「確かに中級の方が稼ぎがいいからな」
「報告が大体済んじゃいましたね。受領証と領収書とお金は明日ギルドへ持って行けばいいですか?」
「あぁ、それで問題無いぞ」
受領証と領収証は、手紙の配達と魔石の販売に関してのもの。ニックから提案されたものだ。
…正確には、スタンピードの報酬をリュートに受け取らせる為に与えた高額報酬依頼である。
話が落ち着いた所で、夕食を食べる事となった。
大人数の為、みんなで『森の恵み』で外食する事になり、訪ねたその時に店主のグランにリュートが侑人である事を伝えた。
実際に侑人の姿を見せるとグランは驚き、「無事だったんだなぁ…」と泣きながら侑人の帰りを喜んでくれた。その声に店の奥から赤ん坊を抱いた奥さんがやってきて、侑人におかえりと告げたのだった。
心配をかけた事を謝り、遅くなってしまった出産祝いを渡した後、配膳の手伝いをして席に座り、食事を摂りながら簡単に報告の続きを話し始めた。
ギャバットに罰を与えた事、ララに隷属魔術をかけた魔術師も対処したので安心だという事を報告し、その他いくつか浮かんだ報告事項は家に帰ってからする事にした。
ラルフからもララの戦闘技術が向上している事が伝えられた。…元々平和な街なのでそれくらいしか伝える事が無かったようだ。
☆
「それでは、…改まって話す程のものでもないですが、何があったか話させてもらいます」
『森の恵み』で食事を終えてジャガーバルト家に帰ってきた面々は、侑人が行方不明になってからの経緯を聞く事となった。
「まずですが、私は人族ではありません」
「…ん?」
「…はい?」
「「「………」」」
「その時点から話してないんだ…」
「うん、話が長くなっちゃいそうだったからね。それに…いや、まぁそういうこと」
リュートが桜華にそう答えた後、皆の方に向き直って話を続けた。
「今の私は竜人種という、竜と人とのハーフです。この姿は『人化』したもので、『竜化』と『竜人化』の3形態を持っています」
「ちょっと…整理が追いつかん。竜ってあの竜か? 上位竜の?」
「そうです。高い知能を持ち、人語も操ると言われる…高ランクのモンスターとして知られているドラゴンです」
「ドラゴンはとても人族の手に負える相手じゃない。…遭遇した事も無いが。そんなドラゴンと人とのハーフなんて初めて聞くぞ」
「そうなんですか? 私たちの…国では、竜人族とかドラゴニュートとか呼んで、珍しい話ではないんですけど。まぁお話の中でですが」
「ですね。美鈴さんが言ったように、私達の居た国にある物語の中ではよく聞く種族です」
「…なんでまたそんな事になったんだ?」
「その辺も順を追って話していきます。…あの日、クエストとして森に出掛けた侑人が襲われ、怪我を負いました。そこを助けてくれたのがシルバさん、漆黒と呼ばれる冒険者です」
「そう言えば、最近見かけて無かったな。スタンピードの時も…居なかった」
「助けてくれたシルバさん…いえ、本来の名前はシルヴィアさんと言うんですが、シルヴィアさんはドラゴンが『人化』した姿だったんです」
「…ドラゴンが人の姿で街中にいたというのか?」
「そうですね。助けられた侑人はそのまま、シルヴィアさんに連れていかれました。それでまぁ…傷の治療をしてもらい、その見返りに…え~、子どもが欲しいとお願いされました」
「「!?」」
「とは言っても、実際に侑人が何かしたわけじゃなく、…なんて言うか、シルヴィアさんが膨大な魔力で侑人ごと満たして、卵を創り上げたと言えばいいんでしょうかね。その卵から産まれたのが私です」
「ふむ…、ドラゴンの生態なぞ知られてないから、それが普通なのかもしれんな」
「いえ、ドラゴンの中でも特殊なケースらしいですよ? 貴重な経験をしました」
貴重な経験どころじゃないと思ったのは全員だった。
「その時点ではユート殿とリュート殿は別々だったのだろう? 何があって…そうなったんだ?」
「リュートがまだ卵だった時、竜の集う場所…竜の谷へ行きました。その竜の谷にいた他のドラゴンに襲われたんです。よく思われて無かったんでしょうね…。その後、崖から落ち、その先がダンジョンに繋がっていたようで、そこで桜華さんと出会いました」
「…うん、いきなり卵を抱いた侑人さんがやってきてビックリしたよ」
「そのダンジョンで侑人が死んで、リュートとして目覚めてしまったわけです。卵の殻を破るのがあんなに難しいとは思いませんでした」
「…貴重な体験が多いねリューちゃん」
「あはは…。まぁそのダンジョンをオーちゃ…桜華さんと2人で進んで、修行しながらモンスターを倒し、ボスに挑んで脱出するのに2年かかりました。ダンジョンから出た先は崖じゃありませんでしたけどね。そのあと桜華さんはエルフの里へ行き、私はジャガーバルトに戻ってきたわけです」
「そんな冒険をしていたのか…。無事に…と言っていいか分からんが、改めて帰って来てくれて嬉しく思うよ」
「ミュア師匠に色んな事を教えてもらっていたお陰ですね」
「ん…、ユート先生、死なせてごめんね…」
「ミュア師匠のせいじゃないですよ。もう死にませんので安心して下さい」
もう死にませんという慰め方は、なかなか斬新である。
「リューちゃんなら残機3つくらいありそうだよね」
「残機って…ロボじゃないんだから」
「ザンキ?」
「覚えなくていいですよミュア師匠」
ミュリアルにマニアックな知識が増える事を阻止したリュートは、話を締め括った後、「改めてよろしくお願いします」と頭を下げた。
みんながリュートを取り囲んで歓迎した。…桜華だけは輪に加わらず、瞳を潤ませて微笑みながらその光景を見ていた。
ちなみに、『竜化』した姿がかわいいという情報を桜華から聞き、ミュリアルと美鈴の「「見たい!」」というリクエストによりリュートが姿を変えた。
輝くような白い鱗を持った小さなドラゴン、「キュイッ」という鳴き声と共に右前足を上げ、そのあまりの可愛さに撫で回されてしまった。人の姿に戻ったリュートが顔を赤くしながらも満更ではなさそうだった事を付け加えておく。
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これにて四章終了。
閑話みたいなものを挟んで五章に入ります。




