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【一旦完結】ジャガーバルト家の義妹  作者: もにーる
第四章 王都編

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13.ウィン商店


 武器屋から徒歩5分ほどの所に、その商店はあった。


「…でっかぁ~」


 武器屋もそれなりに広かったが、その何倍もの大きさの建物、『ウィン商店』がそこにはあった。

 店内へ入ると、フライパンやタオルといった生活用品からテントやランタンといった旅道具、ポーションや武器まで売っていた。

 ドラッグストアやホームセンターを思わせる品数と品揃え、大商店と言っていいだろう。


「これはジン様、毎度ご利用いただきありがとうございます。本日は何かお探しですか?」

「今日はウィンさんに会いに来たんだけど、いらっしゃるかな?」

「確認して参りますので少々お待ちください」


 カウンターにいた女性はそう言って頭を下げ、店の奥へと入っていった。


「ん~、店員さんも感じが良くていいお店ですね」

「ははっ、店主のウィンさんに言ってあげれば喜ぶと思うよ。品揃えも品質もいいしね」

「確かに。とりあえずこのお店に来れば大抵の物が揃うって感じが好きですよ」

「2階にも商品があるよ」

「おぉ、魅力的ですね。1日中このお店で過ごせそうです」

「高く評価していただきありがとうございます、お嬢さん」


 ジンとリュートの話に割り込んできた男性、この大商店の店主であるウィンだ。

 今日のリュートはお出かけモードなので、ワンピースとそれに合わせたサンダルというコーディネートをしていた。義姉であるシェリルのお下がりだが、三爵とはいえ貴族の令嬢の服だったのだ、お嬢さんと呼ばれるのも納得である。可愛らしい眼帯はしているが。


「こんにちはウィンさん、すみませんいきなり来てしまって」

「いえいえ、ジン様はお得意様ですからな、急ぎの仕事もありませんでしたし。本日はどうなさいましたか?」

「あ~、個室を使わせてもらってもいいですか? 例の箱の件で」

「おぉ、もちろんですとも。何か手掛かり…あ~っとすみません、先に部屋へ参りましょう。こちらへ」


 ウィンが店員にお茶の用意をお願いし、ウィンを先頭にしたまま階段を上がり、2階にある商談室と書かれた部屋へ入った。

 リュートが部屋へ入る前にちらりと見た2階の販売スペースには、1階とは違い高価な物が中心に置いてあるようだった。富裕層向けの商品である。


「どうぞ掛けて下さい」

「リュートちゃんが真ん中がいいかな?」

「そう…しましょうか。失礼します」

「ん、私はこっちに座る」

「ははっ、じゃあ俺はこっちに座ろう」


 ミュリアルはリュートの隣の席をゲットした。

 ジンもリュートの隣の席をゲットした。


「はっはっはっ、仲がよろしいのですな」

「そうですね、友達になっていただきました」

「ははっ、昨日会ったばかりだけどね。濃い1日だったよ」

「それはそれで興味深いですが、先ほどの話をお聞きしましょうか。あの箱を開ける手掛かりでも?」

「手掛かりというか、このリュートちゃんが『鑑定』を使えてね。ちょっと試してくれないかってお願いしたんだ」

「ふむ…、私の『鑑定』でも詳細が分からなかったのですが…ジン様が期待する何かがあるのでしょうな」

「期待に添えられるかは分かりませんが、やれるだけやってみます。…あぁすみません、私はリュート・ジャガーバルトと申します」

「! …失礼致しました、ジャガーバルト三爵様のご令嬢とは知らず」

「いえ、どうか普通に接して下さい。ご存知無いのも無理はありません、数日前に養子にして頂いた身ですので。…私が偉いわけでもありませんしね」

「そういう所、ラルフ様に似てる気がするねリュートちゃん」

「あ~、確かに言いそうですね。冒険者あがりの貴族ですし。…私が似るにはまだ日が浅いですが」

「…はっはっはっ! それではお言葉に甘えさせていただきます。改めて私はウィンと申します。リュート様、これからどうぞご贔屓に」

「よろしくお願いします、ウィンさん」


 見計らったかのようなタイミングで扉がノックされ、お茶が運ばれてきた。それと入れ替わるようにウィンは部屋を出ていく。

 箱を取ってくるのでくつろいでいてくれとウィンに言われたので、3人はお茶を飲みながら待つ事にした。



「俺の武器や防具もここで揃えてもらったんだ」

「そうだったんですか、結構な品ですよね? 武器屋とか防具屋で選ばれなかったんですか?」

「いや、最初は行ったよ? まだ★3ランクだった頃だけどね。出てくるのは予算ギリギリの品ばかりだし、当時の力量より上の物ばかりだし…」

「あ~、まぁ売る側の気持ちも分からなくはないですけどねぇ」

「武器が強ければ、自分が強くなったと勘違いする。剣でも弓でも杖でも」

「ですね、武器に見合うように強くなるみたいな目標にするならいいでしょうけどね。武器が悪いわけじゃなくて、使う者の心の問題ですが」

「そうだね、でも…手元に強い武器があれば使っちゃうのが普通だよ」

「「確かに」」


 ミュリアルとリュートの返事が重なった。


「まぁ、そんな時この店に来てね、ウィンさんが面倒をみてくれたんだ。この装備じゃないよ? 当時の俺に見合った物をね」

「なるほど、それじゃ結構長い付き合いなんですね」

「俺を育ててくれたのはウィンさんと言ってもいいくらいだよ。このマジックバッグもウィンさんが用意してくれたんだ」


 ジンがウエストポーチのようなカバンをポンポン叩きながらそう言った。マジックバッグだったようだ。

 ★5ランク、一流と呼ばれる冒険者となった祝いの品らしい。容量は約50リットル程度、地球で言えば大体小さなワンドアの冷蔵庫程度の容量だが、金貨30枚はする高級品だ。ウィン、太っ腹である。


「お待たせしました」


 そこへウィンが戻ってきた。手に持っていたのは、


「…トランクケース?」

「…ご存知なのですか? この箱の事を」

「え~っと、見た事はあるんですが…」


 リュートは見た事があるとは言ったが、その場所は地球でであり、侑人が持っていたという事では無い。加えて、見た機会も旅行中の他人の持っていた物か、販売されている店でという程度だ。

 ウィンが持ってきたのは、地球では旅行時に着替えなどを入れる、角張ったお洒落カバン(侑人基準)、トランクケース…の小さい版である。


(…ランドセルにでも入りそうなサイズだな、何を入れるんだ?アレ)


 明らかにリュートの…侑人の知識にある物よりも小さい。映像で見たりした物とはサイズが異なるが、形は確かにトランクケースであった。

 デザインとして貼りつけられている茶色いベルトが2本、それよりも濃いこげ茶色をしたボディ、取っ手の近くにはダイヤル式の鍵が付いている。


「…見せていただいても?」

「えぇもちろんです、どうぞ」


 リュートはウィンからミニトランクを受け取り、念の為『鑑定』のスキルを行ってみた。『インベントリ』の元となる『異空間収納』は、上級商人の更に上の豪商というジョブで手に入る。商人のスキルである『鑑定』をリュートが使えるのはある意味当然であった。

 『鑑定』で見たミニトランクの情報は、見る事は出来たが文字化けをしていて解読は出来そうになかった。ウィンが諦めたのも同じ理由だ。

 リュートは改めて角度を変えてあちこち見てみる。すると有名ブランドのロゴを見つけた。


「(ミュア師匠、多分これ地球産の物ですよ。有名なお店のマークが付いてます)」

「!?(興味深い…)」

「ウィンさん、これをどちらで?」

「その箱は、2週間前にスラム街からうちに流れてきた物です。それ以前の事は私にも分かりませんが…」

「スラム街…」


 ふとリュートの頭をよぎったのは、転移者か召喚された者がスラムへ流れ着き、奪われた物ではないかという事だった。

 日本人ではないかもしれないが、無事では済まないだろう。が、死んでいるとも限らない。…このミニトランクケースだけが異世界へ渡って来た可能性もある。

 何か情報が拾えるかもしれないと『眼』の力を使って詳細を確認し、


「…ぶふっ!」


 噴き出してしまった。

 リュートを見ていたジンもミュリアルもウィンも、何が起こったのか分からず成り行きを見守った。


「失礼しました…。これは一応カバンなんですけど…」


 そう言いながらミニトランクを持つ手を掲げ、提案をした。


「持ち主が近くにいるのですが、教えてあげてもいいですか?」



「おはようございます、リュート・ジャガーバルトと申します」

「お、おはよう…ございます。本家に何か御用で?」

「突然すみません。美鈴…様の知り合いなのですが、伝言をお願いできますか?」

「…分かりました、何とお伝えしましょう?」

「ありがとうございます、「バーバルンのミニトランク」とお願いします」

「? バーバルン…のミニトランク?ですね、かしこまりました」


 美鈴の事を知っている少女を若干不審に思った門番だったが、確信を持ったような言い方に渋々ながら納得した。ライオネル家に入っていく門番と交代で、別の門番が扉の前にやってきた。無人にするわけにはいかないので、用事があって離れる時は交代制になっている。

 …何時ぞやは、三爵一行を放置プレイしてしまう事態もあったが。


 ちなみに今はリュート1人だけでエリオスの家までやってきている。ミュリアルも付いて来たがったが、1人で来させてもらっていた。


「ご苦労様です」

「ありがとう。この家に用事なんて、お嬢ちゃんも貴族かい?」

「はい、養子ですがジャガーバルト家の一員として迎えていただきまして」

「ほぉ~そうなのか。ご近所さんだな」


 交代でやってきた門番の男と世間話が始まりそうになったその時、扉が開いて美鈴がやってきた。猛ダッシュである。急いで来たせいで息が切れている。伝言の効果は抜群だ。


「侑人さん! どこにあったんですか!? 今持ってるんですか!?」

「あぁ、落ち着いて。裸足ですよ? まずは靴を履いてきて下さい」


 足元を見て玄関へ靴を履きに戻る美鈴、履いてすぐさま戻ってきた。


「す、すみません。慌ててました」

「あはは、気持ちはお察ししますよ。トランクは今『ウィン商店』というお店にあります。今から出かけられます?」

「大丈夫です! 行きましょう! あ、行ってきます!」

「待った待った、ちゃんと報告しないと門番さんが困りますよ?」

「あ~えっと、『ウィン商店』?へ行ってきます! さぁ行きましょう!」

「慌てなくても無くなりませんよ、ちゃんと説明もしますから。お騒がせしました、美鈴さんをお借りしますね。護衛もお任せください」

「い、行ってらっしゃいませ…」


 美鈴とリュートが話をしながら遠ざかっていく。その姿を見た門番の男は、


「…あのお嬢ちゃんの方がお姉さんに見えるな」


 そんな感想を口にした。



 大まかな経緯を説明しながら『ウィン商店』へと向かう美鈴とリュート。歩いている内に美鈴も落ち着きを取り戻した。


「まさかあのカバンがこっちに来てるなんて思ってなかったですよ…。確かにホテルに居た時、手には持ってた気がしますけど」

「突然見知らぬ場所に来て黒ローブを着た人達に囲まれてたら、そりゃパニックになるもんね。カバンがあったかどうかなんて確認出来ないのも無理ないよ」

「そうですけど~…、大事なカバンだったので」

「見つかったから結果オーライじゃない? ただ…一つ謝らなきゃいけないんだけど」

「な、何ですか?」

「いや~、壊したり壊れてたわけじゃないよ? 実際に開けてもいないんだけど、見ちゃったんだよ中を…すみませんでした!」

「? 何か変な物入れ…ぁ…」


 美鈴にとっては数カ月ぶりに発見された愛用のカバン。中に何を入れていたか思い出そうとして、…思い出してしまった。


「自分で言うのもなんだけど、不可抗力だったんです…」

「い、言わなきゃ分からないまま済んだじゃないですか!?」

「いや~もしもだよ? もしも皆の前でカバンを開けて見せる流れにでもなったらさ…?」

「…あり得る、私も思い出そうとするまで完全に忘れてましたし…。気付かないまま開けてたかも…」

「…言いにくかったら別にいいんだけど、なんで入れてたのか聞いてもいい?」

「あ~、仕事をする時のスイッチみたいなものなんですよ。なくてもやれるんですけど、あると無いとじゃ役のクオリティが全然違って…。オンとオフの切り替えの為に、仕事の時は大抵…いつも入ってます」

「…日本じゃ絶対無くしたらダメなやつじゃん? 鍵はかかってたみたいだけど」

「そこがせめてもの救いでしたかね」


 リュートがミニトランクを『眼』で見た時、情報よりも先に中身の確認をしたのだが…スマホと財布、化粧類の入ったポーチの他に、きちんと折りたたまれてはいたが…履くタイプの聖なる布が入っていたのだった。

 持ち主の情報を見て吹いてしまっても仕方ないだろう。早めに知らせて謝った事によって傷は小さく済んだのかもしれない。


本作ダイジェスト版(一章~二章8話)と、短編を1本投稿しました。

よければ見てやってください。


ダイジェスト版↓

https://ncode.syosetu.com/n6413if/2/


短編『虚弱体質だったけど、いきなり丈夫になったようです』↓

https://ncode.syosetu.com/n6966ig/

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