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【一旦完結】ジャガーバルト家の義妹  作者: もにーる
第四章 王都編

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12.学園長


「ここ」

「ありがとうございます、それじゃ…」


 案内されたのは、他の部屋のものより立派な扉の前。リュートがノックをすると、「どうぞ」という女性の声が返ってきた。


「失礼します」


 リュートとミュリアルがその扉の向こう、学園長室へ入っていった。

 その部屋の中央には膝程の高さの机があり、両サイドにソファー、壁の本棚には本がぎっしりと詰まっている。扉から机を挟んだ向こう側に、社長机とでも呼べばいいだろうか、程よく書類の置かれた机で作業する女性がいた。ルクセウス王立学園の学園長である。


「あら? ミュアじゃない、どうしたの?」

「ん、…辞めにきた」

「…端折り過ぎですよ?」


 リュートとミュリアルのやりとりを見て、口元に手を当ててクスクスわらってしまった学園長。作業を止めて立ち上がり、机の前にやってきた。

 背は160cm程度、薄緑色の髪と斜め上に尖った耳、エルフである。…それよりも、


「…学園長はミュア師匠のお姉さん、ですか?」

「あら、ふふ、そう見える?」


 ミュリアルの背が伸びたらこうなるだろう、そう思わせる程そっくりであった。


「お母さん」

「おか…? …お母さん!?」

「ふふっ、ミュリアルの母で学園長をしている、ミストリア・ユースウッドよ。よろしくね」

「よ、よろしくお願いします。リュート・ジャガーバルトと申します」

(そう言えば、ミュア師匠の家族の事って聞いてなかったな。…ミルファリアさんがおばあちゃんって事くらいしか知らないや)


 学園長がどんな人物かという話も聞いていなかったと、その時になって思い至ったリュートであった。

 ミュリアルの母であると聞いても、姉くらいの若さにしか見えないミストリア。…エルフ恐るべし。


「それで、辞めにきたって言ってたけど、何があったの?」

「そうですよ、休みをもらうくらいで良かったんじゃないですか?」

「でも研究の必要が無くなったから。それにこれからはユー…リュートと一緒に過ごしたい」

「う~ん…。前に調べていた日記の事も、最近やってた研究ももういいの?」

「どっちも解決…? …解決した」


 侑人が少女になってしまった事を考えて一旦答えが止まってしまったが、質問とは関係ない事に気付いたので解決と報告したようだ。


「ふ~ん? …リュートちゃんはどう思う?」

「私ですか? そうですね…。学園に籍を残しておくことが問題ないなら、辞める必要は無いと思います。勿体ないとも思いますしね」

「そうね、学園長として娘を多少優遇させる程度なら問題ないわ。臨時の講師扱いだし」

「ただ、辞めてまで一緒に居たいという決断をされては、こちらとしては何とも言いにくいですが…。個人的には、苦情でも出ない限り籍を残しておいてあげて欲しいと思います。最低限講義を行う必要があるなら、その調節をして頂ければ日程を合わせますし。それでも師匠と一緒に居る事は出来ますから」

「確かにそうね、娘の事を大事にしてくれてありがとう。…見た目の割にしっかりした考え方するのね?」

「あ~、少々複雑な事情がありまして…」

「ふふっ、そう。面白い子が弟子になったみたいね?ミュア」

「ん、自慢の先生」

「…先生?」


 時間をあまり取れないので、簡単に関係を説明したリュート。異世界人である事と出会い、師匠と先生という関係、侑人が行方不明になり、生まれ変わってリュートとして再会した事。数日後にジャガーバルト領へ向かう事も。


「…中々愉快な人生を送っているみたいね?リュートちゃん」

「あはは、確かにそうですね。…そうだ、学園長はスタ…ダンジョンからモンスターが溢れ出てくる、なんて現象をご存知ですか?」

「聞いた事もないわね…。ダンジョンのモンスターは外には出てこないもの、そう思ってたし…」

「そうですか…ありがとうございます。もしかしたらそんな話をご存知かなと思っただけですので」


 ジャガーバルト領でスタンピードが起きた事までは話さなかった。一大事ではあるが、話し始めるとそれだけ時間が遅くなるので、そう話を打ち切った。


「とりあえず事情は分かったわ。一応籍は残しておくことにするわよ? それでもし不都合があるようなら、改めて辞めるって事にしなさい」

「ん、分かった。ありがとう」

「それではそろそろ失礼します、お時間を頂きありがとうございました」

「いいのよ、また話を聞きたいからいつでもいらっしゃい」

「…学園長って暇?」

「暇じゃないわよ、娘に会いたいの」

「あはは、ではまた王都に来た時にはぜひ」


 学園長であるミストリアとの話が終わり、ミュリアルとリュートは学園を出て街へと向かった。



「………、お揃い」


 約束通りミサンガを選んで買い、街の広場にあるベンチに座ったのだが…ミュリアルは既に満足気であった。まだミサンガは結んでいない。

 リュートはリュートで、師匠の可愛らしい一面にほっこりしていた。


(お、そうだ)


 若干トリップ中のミュリアルをよそに、ミサンガを握って集中するリュート。


(装着者の脈拍と連動…。魔力を込めて結べば、ミサンガが切れた事が分かると。…相変わらずチートな『眼』だな、便利だけど)


 祈りのミサンガ

 主にダンジョンの宝箱から入手可能。

 夫婦や恋人、または親しい間柄でよく使われる魔道具の一種。

 使用方法は、相手の手首に結んで魔力を込める。そうする事で装着者が死亡した時やミサンガが切れた時に結んだ相手に異変が起こった事が伝わる。

 死亡と生存の判断は、HPではなく脈拍で行われる。

 旅の無事を祈って、病気や怪我をしないように等の願いを込めるのが一般的だが、願いが効力を発揮するような仕様は無い。


(願いを叶えるアイテム…にするのは無理だな…。GPSっぽく相手の情報を挟んじゃえば…、HPと連動にして…、関連付けして…)


 魔道具である祈りのミサンガを弄るリュート。ジョブを魔道具技師に変え、効率の上がった作業は十数秒で終わった。


(これで…え~と、まずは魔力を流して登録)


 下準備が完了したので、ミュリアルに結んでもらおうと彼女の方を見れば、


「………」

「………」


 ばっちり目が合った。割と最初の方から見られていたのだが、ミサンガの改造を行う事に集中していて気付かなかったリュートであった。

 見ていたミュリアルは、リュートが何をしていたかまでは分かっていなかったが。


「ミュア師匠、これを結んでもらえますか? 魔力を込めて」

「ん、分かった」


 リュートはミュリアルにミサンガを手渡し、以前侑人が結んでもらったように左手首に付けてもらった。


「次は、ミサンガとの魔力の繋がりを意識してみてください」

「…ん、ん~? おぉ?」

「分かります?」


 リュートが立ち上がってミュリアルの周りを移動すると、ミュリアルの驚きの声が大きくなった。


「これで私が王都で迷子になっても問題ないですね」

「凄い、目をつむっても場所…方向が分かる。ユート先生! 私のもしてください!」


 ボケに感動が返ってきてしまった。若干照れながらミサンガを受け取るリュート。

 もちろん事件前の、行方不明になってしまった時の事を思っての改造だったが、ミュリアルが思わず敬語になってしまう程テンションが上がるとは思っていなかった。

 更に自分の分のミサンガもやってほしいという申し出をされるとは考えていなかった。

 作業は先程と同じく十数秒で終わり、まずは魔力を流して登録してもらい、リュートがミュリアルの手首にミサンガを結んだ。


(…寝不足…じゃない、怪我や病気をしませんように…)

「出来ましたよミュア師匠。…おぉ、こんな感じなんですね」

「ん、これでほんとにお揃い♪」


 実際にミサンガを付けた相手の方角が分かるという体験をしたリュートに対し、ミュリアルは機嫌の良さが漏れている、嬉しさが限界突破したようだ。

 可愛らしい師匠の喜びように、リュートも満足気であった。

 単純にお揃いを喜んでいるのか、自分の居場所をリュートに常に知られているという束縛感が嬉しいのか、それはミュリアル本人もまだ分かっていない。…恋心とは複雑である。


「あれ? おはよう」

「おぉ、奇遇ですね。おはようございます」

「おはよう♪」

「「「「「!?」」」」」


 偶然銀の盾の5人とジンに出会い挨拶を交わしたのだが、ミュリアルが上機嫌なまま挨拶をして、見た事のないその姿に驚いてしまっていた。


 話を聞くと武器屋へ行く途中だったらしく、意見を聞きたいので一緒にどうか?と誘われたリュート。リュートも興味があったので行く事にした。もちろんミュリアルもついてくる。


 道すがらミュリアルが上機嫌な理由の話になり、ミサンガの説明をすると、ミランダが羨ましそうにミサンガを見ていた。

 ジャックとミランダは付き合いたてのカップルなので、当然と言えば当然の想いだろう。


(近い内にプレゼントでもしようかな?)


 とリュートは心に留めた。



 武器屋へ着いた一行は店内を見回した後、思い思いに飾られた武器を見ていた。

 剣もあれば槍もあり、弓に籠手に小さなナイフも置かれている。一番多いのは剣で、小剣から大剣まで種類も豊富だ。

 ジャガーバルト領にも武器屋はあるが、品揃えと数はさすが王都と呼べる程の差があった。


(………無いか)


 カウンターの近くに樽に入った剣が十数本あったが、見てもどれも値段相応であり、値打ち物が混ざっているなどという事は無かった。

 異世界モノの話にありがちな「こんな所に業物が!」という出来事は起こらず、ミランダの相談が始まった。


「武器の新調をしようと思ったんだけど…リュートさんが使ってた、刀?って武器を見て、ここで以前見かけたと聞いたので」

「なるほど。種類としては脇差と言うんですけど…まぁ刀でいいかな? 多分色が変わってモンスターを倒したのを見たんでしょうけど、あの刀が特殊なだけであって、他の刀で同じ事は出来ませんよ?」

「あ~、やっぱりそうですか~…」

「(一応、刀を武器とするジョブの中に斬撃を飛ばせるスキルはありますけど、単体向き、もしくは小範囲です。やるならジョブ変更のアドバイスもします)」

「(な、なるほど。あるにはあるんですね…)」

「即決するより、一旦立ち止まって考えてみるのもいいですよ。仲間もいますしね?」

「そうですね、聞いた話も含めて相談してみます!」


 それはそれとして、リュートが「ここで以前見かけたと聞いた刀」とやらを探してみると、カウンターの後ろの高い位置に飾られていた。


 鬼切丸 金貨50枚


 500万リオル、日本であればそれなりのオプションを付けた新車が買えてしまう。


 モンスターとの戦闘を生業とする者にとっては、武器や防具は命を預ける物なので当然良い物を選ぶ。だが、身の丈に合った性能のものでないと逆に怪我をする。…正確には、自身の強さを誤認し、無茶をしてしまう。そして、成長をしなくなってしまう。


(たっけぇ~、けど…性能としては…)


 鬼切丸という名の刀は、その値段に見合う性能をしていなかった。

 オーガへの特攻は付いているが、この国にオーガは居ないのだ。他の場所に飾られている、桁一つ安いが高性能なアイアンソードと同程度。速度上昇(小)の付与がされている分アイアンソードの方が上かもしれない。もちろんオーガを相手にするなら鬼切丸の方が強いが。

 素材と耐久性と特攻ならば鬼切丸、性能と値段の釣り合いならばアイアンソード。総合的には…アイアンソード一択だろう。


「ふむ…」

(鬼切丸を作った人物がキクゾウさん、和名だなぁ…。これはそのレプリカ…かな?)


 眼帯越しに『眼』で見ていくと、


(あ~、偽物や模造品ってわけじゃないのか。一番いい出来が真打だっけ? …こっちにも真打とかあるのかは知らないけど、多数打った内の一振りがこれか)


 鬼切丸

 東国、ジャポネスで造られた刀。作者は鍛冶師キクゾウ。

 オーガの出没によりジャポネスが危機に見舞われた時代に、鍛冶師達が製造を依頼され、その時に造られた内の一振り。

 キクゾウの打った一振りが実際に使われ、オーガを討伐する事に成功し、鬼切丸の名が広まった。

 この刀は、オーガ討伐を成した鬼切丸が完成する以前に作られた一振りであり、造られた総35本の内の2本目である。尚、性能に微差はあるが、35本全てに鬼切丸の名前が付いている。


 制作初期であろう2本目である情報はどうでもよかったが、言ってしまえば…ブランド税がかかり、輸入費用で値段が更に上がってしまっていたのだ。


(ぼったくりだと責められない事情だった…)

「皆さんは何か買われます?」


 事情も分かったところでそう話を振るリュート。

 だが…誰も武器を新調する事もなかった為、そのまま武器屋を出る事となった。


「ミランダさん、一応知らせておきますけど、あの刀は性能の割に値段が高いので購入はオススメしません」

「え、そうなんですか?」

「名のある鍛冶師が打った物ではありましたけど、その名前と仕入れの手間のせいで高額になってるみたいですよ」


 鬼切丸の性能が高性能なアイアンソードと変わらない事、鬼切丸がそのアイアンソードと比べて10倍近く高い事を伝えた。


「とっても無駄遣いしちゃうところでしたね…」

「気付けたから良かったんじゃないですかね? あの武器屋には気の毒かなって気はしますけど」

「リュートちゃんは鑑定も出来るのかい?」


 興味を持ったのか、ジンが話に加わった。侑人の姿を見た後でも、呼び方はリュートちゃんでいくようである。


「そう…ですね、鑑定のような事も出来ます。深く知るには時間がかかりますけど」

「なるほど。…実は、贔屓にしている商店があるんだけど、そこの主人が珍しい品を持っているようでね。鑑定しても詳細が分からなくて困ってるらしいんだよ」

「へぇ~、鑑定しても分からない…物は何なんです?」

「俺も見せてもらったんだけど、取っ手の付いた箱…多分カバンのような物かな? これくらいの」


 手で大体の大きさを表そうとするジン。

 取っ手の付いたカバンと聞いてスーツケースやビジネスバッグが思い浮かんだリュートだったが、ジンのジェスチャーを見る限り…明らかに小さい。それは分厚めの本…月刊雑誌か辞書のような大きさに見えた。


「ふむ…。カバンという事は、開きそうな感じだけど開かない?」

「そうだね。壊れて開かないのか、鍵がかかっているのかもしれない。壊すのはちょっとね…見てもらえるかい?」

「私で良ければいいですよ。丁度どこかの商店で魔石を売りたいとも思ってましたから。…最初は冒険者ギルドで売る予定でしたけど」

「ははっ…、その商店でも買い取ってくれるはずだよ。それじゃ時間のある時に声をかけてくれ、案内するよ」

「分かりました。では…ミュア師匠は今からどうします? 用事はありませんか?」

「私はリュートに付いて行く」

「そうですか? あ~…それじゃ今からでもいいですかね?」

「俺は構わないよ、ありがとう。それじゃ早速行こうか、こっちだよ」


 早速話し合いをするという銀の盾と別れて、リュートとミュリアルとジンの3人は商店へと向かった。


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