番外編 夏休み②
夏休み。
海へ行った日から数日後。
夕方――
マイルのスマートフォンが鳴った。
『マイル、今日暇?』
光からのメッセージだった。
『暇だけど』
すぐに返信が来る。
『今日、近くで夏祭りあるんだって!』
『行かない?』
マイルは少し考える。
そして、
『いいよ』
⸻
数時間後。
神聖能力学園の近くにある神社。
今日は夏祭りということもあり、境内にはたくさんの人が集まっていた。
「すごい人だな」
マイルが周囲を見る。
「夏祭りだからね!」
光は楽しそうに屋台を見ている。
「何から行く?」
蓮が聞く。
「りんご飴!」
「いきなりそれ?」
「いいじゃん!」
信徒も周囲を見渡す。
「こういう場所に来るのは初めてです」
「信徒、初めてなの!?」
光が驚く。
「はい」
「じゃあ今日はいっぱい楽しもう!」
「……分かりました」
信徒は少し笑った。
⸻
四人は屋台を回っていく。
焼きそば。
たこ焼き。
かき氷。
射的。
「マイル、あれやろう!」
「射的?」
「うん!」
光が指差した先には、景品が並んでいる。
マイルが銃を構える。
「これ……能力使ったら簡単じゃない?」
蓮が笑う。
「それやったら射的の意味ないだろ」
「確かに」
マイルは普通に狙う。
パァン!
「……外れた」
「マイル下手じゃん!」
光が笑う。
「もう一回!」
「よし」
二発目。
パァン!
景品が倒れる。
「やった!」
「すごい!」
光が拍手する。
マイルは景品を受け取る。
「これ、光にあげる」
「え?」
光が少し驚く。
「欲しかったんだろ?」
「……ありがとう!」
光は嬉しそうに景品を受け取った。
⸻
その頃。
祭りの裏手。
一人の少年が走っていた。
「……こっちだ!」
誰かを探しているようだった。
その直後。
ドンッ!
小さな衝撃音。
少年が振り返る。
「……まずい」
その手には、
小さな黒い箱。
少年はそれを握りしめると、人混みの中へ消えていった。
⸻
「マイル!」
光の声。
「今度は花火だって!」
「もうそんな時間か」
四人は神社の境内から少し離れた場所へ移動する。
夜空に、
一発目の花火が上がる。
ドォン――!
「綺麗……」
光が空を見上げる。
マイルも空を見る。
「夏って感じだな」
蓮も笑う。
「こういうのも悪くないな」
信徒は三人を見ていた。
任務でもない。
報告でもない。
ただ、
友人と一緒に花火を見る。
そんな時間。
信徒にとっては、
不思議なくらい心地よかった。
⸻
その時。
「……あれ?」
マイルが振り返る。
「どうした?」
蓮が聞く。
「今、誰かぶつかった気がする」
「人が多いからな」
マイルは周囲を見る。
しかし、
誰もいない。
その直後。
「きゃあっ!」
少し離れた場所から悲鳴が聞こえた。
「何!?」
光が振り返る。
人々が一斉に騒ぎ始める。
「花火の機械が故障したらしい!」
「火が出てる!」
「危ない!」
祭りの一角から、
煙が上がっていた。
⸻
「行こう!」
マイルが走り出す。
「待て!」
蓮も追う。
信徒と光も続く。
現場には小さな火災が発生していた。
「水が必要だ!」
マイルが手を前に出す。
「水流操作!」
水が勢いよく噴き出す。
火が徐々に消えていく。
「すごい……!」
光が驚く。
マイルはさらに水を操り、
残った火を完全に消した。
「これで大丈夫」
しかし、
マイルは違和感を覚える。
(普通の故障じゃない)
機械を見る。
配線の一部が不自然に切れている。
「……誰かが壊した?」
蓮が周囲を見る。
「事件ってことか?」
「分からない」
その時。
「おい!」
警備員が叫ぶ。
「そこの少年!」
一人の少年が走っていく。
さっきの少年だった。
「待て!」
マイルたちは追いかける。
⸻
路地裏。
少年は追い詰められていた。
「……来るな!」
手に黒い箱を持っている。
「それ、何?」
マイルが聞く。
「関係ないだろ!」
少年が逃げようとする。
しかし、
蓮が重力を少しだけ強める。
「動くな」
「うっ……!」
少年の動きが止まる。
「ちょっと待って」
マイルが近づく。
「俺たちは敵じゃない」
少年は黙る。
そして、
黒い箱を見る。
「……これを捨てたら、もっと大変なことになる」
「どういう意味?」
少年は答えない。
その時。
箱から、
ピッ。
小さな電子音が鳴った。
「……?」
信徒の表情が変わる。
「離れてください!」
「え?」
信徒が箱を見つめる。
「それは――」
ピッ。
ピッ。
ピッ。
「まずい!」
信徒が叫ぶ。
「全員、離れて!」
マイルは反射的に手を前に出す。
「結界生成!」
巨大な結界が展開される。
四人と少年を包み込む。
次の瞬間。
箱が強い光を放った。
――しかし。
何も起こらない。
「……?」
マイルが警戒する。
箱の光が消える。
少年は呆然としていた。
「止まった……?」
信徒が箱を見る。
「どうやら起動に失敗したようですね」
「何だったんだ?」
蓮が聞く。
少年はしばらく黙っていた。
そして、
「……俺、知らない男からこれを渡されたんだ」
「男?」
「うん」
「『祭りの会場に置いてこい』って」
マイルの表情が変わる。
「じゃあ、さっきの火災も……」
少年は頷く。
「たぶん、これのせいだ」
⸻
事件はその後、
祭りの警備員と警察によって処理された。
幸い、大きな被害は出なかった。
黒い箱も回収された。
少年も事情を話し、
四人はようやく解放された。
⸻
帰り道。
「今日は色々あったな……」
マイルが苦笑する。
「海に行った時も変な男がいたし」
蓮が言う。
「最近、変な事件多くない?」
光が不安そうに言う。
信徒は黙っていた。
今日の事件。
そして、
あの黒い箱。
あれは明らかに普通ではなかった。
しかし、
神側の事件とも限らない。
「信徒?」
マイルが声をかける。
「どうした?」
「……何でもありません」
信徒は笑った。
「今日は楽しかったですね」
「うん!」
光が笑う。
マイルも笑った。
夏休みの一日。
また一つ、
四人の思い出が増えた。
⸻
その夜。
誰もいない建物。
一人の男が端末を見る。
『計画失敗』
男は小さく舌打ちする。
「……まさか、あの少年たちがいるとはな」
画面には、
祭りの会場で撮影された映像。
そこには――
水を操るマイルの姿。
男は映像を停止する。
「……能力者か」
そして、
マイルの顔を拡大する。
「面白いな」
男は端末を閉じる。
「次は、もう少し大きな舞台で試すか」
夜の街に、
男の笑い声だけが響いた。
――夏休みは、
まだ始まったばかりだった。
次回夏休み③




