第二十九話 残された選択
朝、
神聖能力学園。
マイルは教室へ向かう途中、ポケットからノートを取り出した。
ページを開く。
そこには、現在の能力状況が書かれている。
雷撃操作――使用不可・残り7日。
身体強化――使用不可・残り3日。
結界生成――使用不可・残り5日。
水流操作――使用不可・残り2日。
火炎操作――使用可能。
マイルは小さく息を吐く。
「……しばらく火炎操作だけか」
雷撃操作は、かなり強力な能力だった。
しかし、三日間使い切った。
今はもう使えない。
「まあ、仕方ない」
マイルはノートを閉じる。
「使える能力を使えばいい」
そう呟いて、教室へ入った。
⸻
「おはよう、マイル!」
光が手を振る。
「おはよう」
「今日はなんの能力?」
「火炎操作」
蓮も席から振り返る。
「雷撃操作は?」
「しばらく使えない」
「そうだったな」
マイルは頷く。
「三日使ったから、ここから七日間は再取得できない」
光が少し考える。
「じゃあ今は火炎操作だけ?」
「そう」
信徒は静かに聞いていた。
(雷撃操作は使用不可)
(身体強化も、結界生成も、水流操作も使えない)
(今の彼が自由に選べるのは……)
火炎操作。
しかし、
信徒はそれ以上のことを口にしなかった。
マイル自身には、
信徒がどこまで自分の能力について知っているのか、
知られてはいけない。
⸻
一時間目、
能力理論。
教師が黒板に文字を書く。
『能力の制約と戦闘』
「能力には、それぞれ得意不得意がある」
「強力な能力ほど、使用条件が厳しい場合もある」
生徒たちがノートを取る。
マイルも黒板を見る。
(制約……)
自分の能力には、
他の能力者には存在しない特殊な制約がある。
能力を選べる。
複数の能力を扱える。
そして、
選んだ能力には使用期間が存在する。
だからこそ、
「どの能力を使うか」
だけではなく、
「いつ使うか」
が重要になる。
マイルはノートに書いた。
能力は、強さだけで選ばない。
その後の戦いまで考えて選ぶ。
⸻
昼休み、
四人で昼食を食べていた。
「そういえば」
蓮が口を開く。
「攫われた生徒、まだ見つかってないな」
「……うん」
光の表情が曇る。
「大丈夫かな」
マイルは箸を止める。
「絶対に見つけないと」
信徒は黙っていた。
その言葉を聞いて、
胸の奥に小さな違和感が生まれる。
神から受けた命令。
――事件について調べろ。
――マイルを最優先で監視しろ。
そして、
もう一つ。
攫われた生徒たちについては、
余計な情報をマイルに与えるな。
信徒は視線を落とす。
(……なぜ神は)
(生徒たちのことまで隠す?)
神の命令に対して、
ほんの少しだけ疑問を抱いた。
⸻
放課後、
訓練場。
マイルは一人で立っていた。
「火炎操作」
ボッ。
手のひらに炎が生まれる。
マイルは炎を大きくする。
そして、
一気に小さくする。
「……もっと細く」
炎が一本の線になる。
そのまま空中を走らせる。
シュッ。
標的の横を通り抜ける。
「まだ遅い」
マイルはもう一度。
今度は炎を二方向へ分ける。
「右……左……」
二本の炎が別々の標的へ向かう。
ドンッ!
二つの標的が同時に倒れる。
「できた」
そこへ、
光たちが入ってくる。
「すごい!」
「火炎操作もかなり慣れてきたな」
蓮が言う。
マイルは笑う。
「使える能力がこれしかないからね」
「だったら、今できることを増やせばいい」
蓮が頷く。
「その考え方、マイルらしいな」
信徒はその様子を見ていた。
(能力を失っても……)
(彼は立ち止まらない)
その時、
訓練場の外から、
ドンッ!!
大きな音が響いた。
「……!」
四人が振り返る。
教師もすぐに立ち上がる。
「全員、動くな!」
訓練場の外。
警報が鳴り響く。
ビーッ!!
「またか……」
蓮が構える。
マイルも炎を出す。
「何が起きてる?」
教師が通信端末を確認する。
「学園の北側で異常を確認!」
「全員、校舎内へ戻れ!」
生徒たちが動き始める。
しかし――
マイルは一瞬だけ、
窓の外を見た。
遠くのフェンス。
そこに、
黒い影が見えた。
「……!」
マイルが目を細める。
だが、
次の瞬間には消えていた。
「マイル?」
光が呼ぶ。
「……何でもない」
マイルは校舎へ戻る。
⸻
学園・北側。
教師たちが現場を確認していた。
地面には、
小さな金属片。
「これは……?」
教師が拾い上げる。
「何かの装置か?」
別の教師が周囲を見る。
しかし、
侵入者の姿はない。
「また逃げられたか……」
⸻
その頃、
学園から離れた路地。
黒い服の男が歩いていた。
手には、
小さな端末。
「確認した」
『どうだった?』
「まだ気づかれていない」
『マイルは?』
男は少し黙る。
「火炎操作を使っていた」
『他の能力は?』
「使っていない」
『……予定通りだな』
男は端末を閉じる。
「だが、神側もかなり警戒している」
『なら、次の段階へ進める』
男は足を止める。
「本当にやるのか?」
『ああ』
「生徒たちは?」
『まだ利用価値がある』
男は黙る。
そして、
「……分かった」
電話を切った。
⸻
夜、
神殿。
信徒が神の前に立つ。
「報告します」
「本日、学園北側で再び不審な動きが確認されました」
神は静かに聞く。
「マイルは?」
「無事です」
「能力は?」
「火炎操作を使用しています」
「他は?」
信徒は一瞬だけ間を置く。
「現在、雷撃操作、身体強化、結界生成、水流操作は使用できない状態です」
神は目を細める。
「……そうか」
「ならば」
神は資料を机に置く。
そこには、
攫われた生徒たちの情報が並んでいた。
「準備を進めろ」
「はい」
信徒は資料を見る。
「……生徒たちは、まだ……?」
神は信徒を見る。
「お前が知る必要はない」
「……承知しました」
信徒は頭を下げる。
しかし、
心の中に残った疑問は消えなかった。
(なぜ……)
(なぜ、あの生徒たちを攫った?)
⸻
一方、
地下施設。
攫われた生徒たちは、
まだそこにいた。
「……いつまでここにいるんだ」
一人の生徒が呟く。
誰も答えない。
その時、
扉が開く。
黒い服の男が入ってくる。
「今日は一人、適性が確認された」
生徒たちが怯える。
「何の適性だよ……」
男は答える。
「戦闘能力だ」
「君たちはこれから――」
男は奥の装置を見る。
「新しい兵士になる」
⸻
同じ頃、
朔夜は暗い部屋で資料を見ていた。
「……始めるつもりか」
資料には、
神側の施設の位置。
そして、
攫われた生徒たちの情報。
朔夜は拳を握る。
「まだマイルには知らせられない」
「でも……」
朔夜は窓の外を見る。
「もう、時間がない」
⸻
翌朝、
マイルは学校へ向かっていた。
ノートを開く。
雷撃操作――使用不可・残り6日。
身体強化――使用不可・残り2日。
結界生成――使用不可・残り4日。
水流操作――使用不可・残り1日。
火炎操作――使用可能・2日目
マイルは数字を確認する。
「明日には、水流操作が戻る」
そして、
「身体強化も、もう少しだ」
マイルは前を見る。
「その時は……」
火炎操作と、
戻ってくる能力。
どう組み合わせるか。
マイルは考え始めていた。
しかし――
まだ知らない。
攫われた生徒たちが、
神の計画のために利用されようとしていることを。
そして、
その計画が動き出せば、
マイルの日常が、
もう二度と元には戻らないことを。
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迫る影




