第二十六話 失った力、守った力
朝、
神聖能力学園。
マイルは目を覚ますと、机の上のノートを開いた。
昨日まで使っていた能力を確認する。
身体強化:使用不可・残り7日
水流操作:使用不可・残り6日
結界生成:使用可能・残り2日
火炎操作:使用不可期間中・残り3日
「……身体強化、今日から使えないか」
マイルは少しだけ寂しそうに呟く。
三日間、
身体強化を使い続けた。
そして昨日、
その使用期間を終えた。
「まあ、仕方ない」
マイルはノートを閉じる。
「結界生成がある」
そして、
「他にも使える能力はある」
マイルは立ち上がった。
⸻
教室、
「おはよう、マイル!」
光がいつものように手を振る。
「おはよう」
蓮がマイルを見る。
「今日から身体強化が使えないんだったな」
「うん」
「大丈夫か?」
「大丈夫」
マイルは笑う。
「身体強化がなくても戦えるようにする」
光が笑う。
「じゃあ今日は何を使うの?」
「まだ決めてない」
マイルは少し考える。
「放課後に決めるよ」
信徒はその会話を静かに聞いていた。
(身体強化が使用不可になった)
(現在使用できる能力は――)
信徒はそれ以上考えるのをやめる。
マイル本人には、
自分がどこまで知っているのか知られない方がいい。
⸻
昼休み、
四人はいつものように昼食を食べていた。
「昨日の帰り、変な人いなかった?」
光が言う。
蓮が首を傾げる。
「いたか?」
「なんとなく、後ろに誰かいた気がしたんだよね」
マイルも少し考える。
「……俺も」
信徒が顔を上げる。
「本当ですか?」
「うん」
「でも、振り返ったら誰もいなかった」
蓮が笑う。
「気のせいじゃないか?」
「そうかも」
マイルも笑った。
しかし、
信徒だけは笑っていなかった。
(昨日の男……)
(やはり、まだ近くにいる)
⸻
放課後、
訓練場。
マイルは一人で能力を選んでいた。
「身体強化は使えない」
「水流操作もまだ無理」
「火炎操作もあと三日」
残っている能力。
その中から一つを選ぶ。
「……今日は」
マイルは手を前に出す。
「結界生成」
光の壁が現れる。
「これを使う」
蓮が頷く。
「昨日かなり使いこなしてたからな」
「うん」
マイルは結界を展開する。
壁。
球体。
薄い膜。
そして、
小さな板状の結界。
「身体強化がないなら」
マイルは結界を足元へ展開する。
「こういう使い方もできる」
結界を足場にして跳ぶ。
「おお!」
光が驚く。
マイルは空中で結界を作り、
それを踏んでさらに跳ぶ。
一気に高い位置まで移動する。
「身体強化がなくても、動き方は作れる」
蓮が笑う。
「相変わらず考えてるな」
その時、
訓練場の扉が開いた。
教師が入ってくる。
「全員、訓練を中止しろ」
「え?」
光が振り返る。
教師の表情は険しい。
「学園の東側で異常が確認された」
蓮が立ち上がる。
「侵入者ですか?」
「まだ分からない」
教師は続ける。
「ただし――」
一瞬、沈黙。
「生徒の一人が行方不明になっている」
「……!」
マイルの表情が変わる。
「誰が?」
「君たちと同じ学年の生徒だ」
光が不安そうにマイルを見る。
「大丈夫かな……」
「探しに行こう」
マイルが言う。
教師が止める。
「待て」
「危険だ」
「でも――」
「教師が対応する」
教師が強く言う。
「君たちはここにいろ」
マイルは拳を握る。
身体強化は使えない。
水流操作も使えない。
それでも。
「……分かりました」
マイルは頷いた。
⸻
しかし、
数分後、
学園内に警報が鳴り響く。
ビーッ!!
「なに!?」
光が立ち上がる。
教師が外を見る。
「……!」
「どうしたんですか?」
蓮が聞く。
教師は答えない。
その瞬間、
訓練場の窓が、
ガンッ!!
大きく揺れた。
「攻撃!?」
蓮が重力操作を構える。
マイルも前へ出る。
「結界生成!」
巨大な結界が展開される。
ドォン!!
何かが結界にぶつかった。
「くっ……!」
マイルの足が後ろへ滑る。
身体強化がない。
いつもなら、
ここから一気に反撃できる。
だが今は違う。
「マイル!」
光が叫ぶ。
「大丈夫!」
マイルは結界を維持する。
もう一度、
ドォン!!
結界に衝撃が走る。
「強い……!」
蓮が前に出る。
「俺が押さえる!」
「お願い!」
重力操作。
ズンッ!!
外側の何かの動きが鈍る。
マイルは結界を変形させる。
壁から、
細長い形へ。
そして、
地面へ伸ばす。
「これなら!」
結界を一気に押し出す。
ドォン!!
外にいた人物が吹き飛ばされる。
「今!」
教師が外へ出る。
しかし。
そこには誰もいなかった。
ただ、
地面に小さな装置が落ちている。
教師が拾い上げる。
「……これは」
マイルたちも外へ出る。
「逃げた?」
蓮が周囲を見る。
教師が装置を確認する。
「これは学園の警備システムを一時的に停止させるためのものだ」
マイルの表情が変わる。
「じゃあ、さっきの攻撃は……」
「陽動だ」
教師が答える。
「本当の目的は別にある」
⸻
時間は少し遡り、
学園の別の場所。
一人の生徒が、
誰もいない廊下を歩いていた。
その背後、
黒い影。
「……誰?」
生徒が振り返る。
しかし、
そこには誰もいない。
次の瞬間、
視界が暗くなる。
⸻
訓練場、
「先生!」
一人の教師が走ってくる。
「どうした?」
「行方不明の生徒、見つかりません!」
マイルの顔が強張る。
「……!」
光も青ざめる。
「さっきの生徒?」
教師が頷く。
「そうだ」
マイルは拳を握る。
身体強化は使えない。
水流操作も使えない。
でも、
「探そう」
蓮が言う。
「俺も行く」
光も頷く。
「私も!」
信徒も立ち上がる。
「僕も行きます」
教師は少し迷った。
しかし、
「……分かった」
四人は学園内を走る。
「こっち!」
マイルが叫ぶ。
廊下の角、
そこに、
小さな痕跡が残っていた。
「……これ」
マイルがしゃがむ。
床に黒い粉のようなもの。
信徒が見る。
(この痕跡……)
以前、学園周辺で見たものと似ている。
「知ってるの?」
マイルが聞く。
信徒は一瞬だけ止まる。
「……いえ」
「初めて見ました」
マイルは頷く。
「そっか」
信徒は視線を落とす。
(嘘をついた)
しかし、
今は、それしかできなかった。
⸻
その頃、
学園の外。
黒い服の男が走っていた。
「……予定より早い」
端末を確認する。
『生徒の確保に成功』
男は足を止める。
「よし」
しかし、
その背後。
「動くな」
男が振り返る。
教師が立っていた。
「……!」
男は逃げようとする。
しかし、
重力がかかる。
「重力操作!」
ズンッ!!
男の動きが止まる。
「捕まえた」
教師が近づく。
男は笑う。
「……遅かったな」
「何?」
「もう始まっている」
その言葉と同時に、
男は小さな装置を地面へ落とした。
教師が警戒する。
しかし、
装置は何も起こさない。
「……?」
男は笑う。
「今回は、ただの確認だ」
「何の確認だ?」
男は答えない。
そして、
「マイルは――」
そこまで言って、
口を閉じた。
教師が目を細める。
「今、何と言った?」
男は黙る。
⸻
夜、
神殿。
信徒が神の前に立つ。
「報告します」
「学園への侵入者が確認されました」
神は静かに聞く。
「目的は?」
「生徒一名を狙ったものと思われます」
「マイルは?」
「無事です」
神は少しだけ笑う。
「身体強化を失った状態でも、結界生成だけで対応したか」
信徒が顔を上げる。
「……ご存じだったのですか?」
「当然だ」
神は窓の外を見る。
「能力を一つ失った程度で、奴は止まらない」
「むしろ――」
神は静かに続ける。
「別の戦い方を覚えていく」
⸻
一方、
朔夜は学園から少し離れた場所にいた。
端末を見る。
「……やっぱり始まったか」
マイルの能力状況を確認する。
身体強化――使用不可
水流操作――使用不可
結界生成――使用可能
火炎操作――使用不可期間中
朔夜は眉をひそめる。
「今のあいつは、以前より戦いにくい」
「だが……」
朔夜は小さく笑う。
「それでも、あいつなら大丈夫だ」
そして。
「俺が出るのは、まだ先だ」
⸻
深夜、
マイルの部屋。
マイルはノートを開く。
⸻
身体強化:使用不可・残り7日
水流操作:使用不可・残り6日
結界生成:使用可能・残り2日
火炎操作:使用不可・残り3日
⸻
「身体強化がなくても」
マイルは今日の戦いを思い出す。
「結界だけで、なんとかできた」
そして、
「もっと強くしないとな」
マイルは新しいページを開く。
そこに、
「結界生成――応用」
と書く。
しかし、
ページの下に、
小さく別の文字を書く。
「守りたいものを守るために」
マイルはペンを置いた。
まだ知らない。
今日の事件が、
ただの侵入事件ではなかったことを。
そして、
今日狙われた生徒が、
これから起こる大きな事件の鍵になることを。
第二十七話 新たなる力




