第二十五話 狙われた日常
朝、
神聖能力学園。
マイルは教室へ向かいながら、昨日の戦いを思い出していた。
身体強化と水流操作。
二つの能力を同時に使えるようになってから、戦い方が大きく変わった。
だが――
マイルには、まだ一つ問題があった。
教室に入る前。
マイルはスマートフォンを取り出し、能力の記録を確認する。
⸻
身体強化:使用中・3日目
水流操作:使用不可・残り7日
結界生成:使用可能
火炎操作:使用不可期間中・残り4日
⸻
「……よし」
マイルはスマートフォンをしまう。
「身体強化はもう今日だけ」
そして、
「水流操作はしばらく使えない」
昨日で三日間が終了したため、再び取得できなくなっている。
それでも、
「結界生成が使えるだけ、まだ戦える」
マイルは教室へ入った。
「おはよう、マイル!」
光が手を振る。
「おはよう」
蓮も振り返る。
「昨日の訓練、かなり動けてたな」
「少しずつ慣れてきた」
「身体強化と水流操作を同時に使えるようになったのは大きいな」
マイルは頷く。
「うん」
信徒も静かに聞いていた。
(身体強化と水流操作……)
(同時使用は、これで三度目)
信徒はマイルを見る。
(以前よりも明らかに安定している)
しかし、
そのことを口には出さない。
「マイル」
「ん?」
「今日はどの能力を使う予定ですか?」
マイルは少し考える。
「身体強化かな」
「そうですか」
信徒はそれ以上聞かなかった。
マイルは知らない。
信徒が自分の能力について、どこまで把握しているのか。
⸻
昼休み。
四人はいつものように昼食を食べていた。
「今度の休日どうする?」
光が聞く。
「映画でもいいし、どこか遊びに行くのもいいな」
蓮が答える。
「私は遊園地がいい!」
「また?」
「だって楽しいじゃん!」
マイルが笑う。
「じゃあ、今度また行こうか」
「本当!?」
光が嬉しそうに笑う。
信徒も小さく笑った。
「楽しそうですね」
その瞬間、
教室の外を、一人の教師が通り過ぎた。
その教師は一瞬だけ
四人の方へ視線を向けた。
そして、
何事もなかったように歩いていく。
⸻
放課後、
四人は訓練場へ向かった。
「今日は実戦形式でやろう」
蓮が言う。
「分かった」
マイルが構える。
教師が訓練用ゴーレムを出現させる。
一体。
二体。
そして――
三体。
「三体か」
蓮が構える。
「いつもより多いね」
光が言う。
教師は何も言わない。
「開始」
ゴーレムが一斉に動き出す。
「重力操作!」
蓮が地面へ手を向ける。
ズンッ!!
三体の動きが鈍る。
「今だ!」
マイルが走る。
「身体強化!」
一気に加速する。
一体目へ接近。
拳を振り抜く。
ドォン!!
ゴーレムが吹き飛ぶ。
「一体!」
二体目が迫る。
マイルは拳を構える。
その瞬間。
ゴーレムの腕が伸びる。
「っ!」
避ける。
しかし、
その先に三体目。
「しまった!」
攻撃が迫る。
マイルは瞬時に判断する。
身体強化だけでは間に合わない。
「結界生成!」
ガンッ!!
目の前に結界が展開される。
攻撃を防ぐ。
そして、
マイルは身体強化を維持したまま結界を操作する。
結界の角度を変える。
ゴーレムの腕が弾かれる。
「今!」
マイルが踏み込む。
身体強化によって加速。
結界で作った隙を利用する。
「はあっ!!」
ドォン!!
二体目が崩れ落ちる。
残り一体。
蓮が重力を集中させる。
「任せた!」
「分かった!」
マイルは身体強化を維持する。
結界を前方へ展開。
ゴーレムの攻撃を防ぐ。
その瞬間、
結界を解除。
身体強化で一気に距離を詰める。
「これで――!」
ドォン!!
最後のゴーレムが倒れた。
静寂。
「……終わった」
マイルは息を吐く。
光が駆け寄る。
「すごい!」
蓮も頷く。
「三回目ともなると、かなり自然に使えるようになったな」
マイルは少し笑う。
「身体強化と結界生成の組み合わせ、結構いいかもしれない」
信徒はその姿を見ていた。
(身体強化と結界生成……)
(水流操作は現在使えない)
(それでも、戦える)
マイルは能力を失っているわけではない。
使えない能力があるなら。
使える能力で戦い方を変える。
それがマイルの強さになりつつあった。
⸻
しかし、
その日の訓練は、
本当にただの訓練ではなかった。
訓練場を出たマイルたち。
「今日は疲れたな」
蓮が言う。
「お腹すいた!」
光が笑う。
「何か食べて帰ろうよ」
「いいね」
四人は学園を出る。
いつもの帰り道。
いつもの会話。
いつもの日常。
その少し後ろ。
一人の男が歩いていた。
黒い服。
帽子を深くかぶっている。
男はマイルたちを見る。
そして、
小さな端末を取り出した。
「確認した」
『何を?』
「身体強化と結界生成」
『……なるほど』
「水流操作は使っていない」
『なら、今が狙い目だ』
男はマイルたちを見る。
しかし、
「いや」
男は静かに答えた。
「まだ動けない」
『なぜ?』
「今、マイルの近くには仲間がいる」
「そして、学園側も警戒している」
『……分かった』
通信が切れる。
男はその場を離れた。
その正体を、
マイルは知らない。
⸻
夜、
神殿。
信徒が神の前に立つ。
「本日の報告です」
「マイルは身体強化と結界生成を同時に使用しました」
神は静かに聞く。
「水流操作は?」
「使用していません」
「そうか」
神は机の上に置かれた資料を見る。
そこには、
マイルの最近の能力使用記録が並んでいた。
身体強化。
結界生成。
水流操作。
火炎操作。
そして、
その組み合わせ。
神は一つの記録を指でなぞる。
「……成長しているな」
信徒は黙っている。
「ですが」
神が続ける。
「まだ、すべての能力を同時に使えるわけではない」
「はい」
神は笑う。
「ならば、その制限を利用する」
信徒の表情がわずかに変わる。
「……どのように?」
「まだ教える必要はない」
「お前は今まで通り、奴を見ていろ」
「はい」
信徒は頭を下げる。
しかし。
神殿を出た後。
信徒は一人で歩きながら考えていた。
(マイルを狙っている人間がいる)
(そして、神もそれを把握している)
以前なら、
何も疑問に思わなかった。
だが。
今は違う。
「……何が起きようとしているんだ」
信徒は小さく呟いた。
⸻
一方、
マイルの部屋。
マイルは今日の能力使用記録を書いていた。
⸻
身体強化:使用中・3日目
水流操作:使用不可・残り7日
結界生成:使用可能
火炎操作:使用不可期間中・残り4日
本日の使用
身体強化+結界生成
⸻
マイルはペンを置く。
「二つ同時に使うのも、だいぶ慣れてきたな」
そして、
ふと考える。
「……三つ使えたら、もっと強いのかな」
しかし、
すぐに首を振る。
「いや」
「今は二つで十分だ」
マイルは窓の外を見る。
星空。
いつもと変わらない。
「明日はどうするかな」
その時。
――カン。
遠くから小さな音がした。
マイルは窓を見る。
「……?」
しかし、
何もない。
マイルはしばらく外を見つめた後、
「気のせいか」
そう呟いてカーテンを閉めた。
⸻
その頃、
学園から離れた建物の屋上。
朔夜が夜空を見上げていた。
「……まだだ」
手には古い写真。
そこには、
マイルの祖先。
そして、
その血を受け継ぐ者たち。
朔夜は写真をしまう。
「もう少しだけ」
「神が動くまで」
「俺は姿を見せない」
しかし、
朔夜の背後。
暗闇の中から、
別の気配。
朔夜が振り返る。
「……誰だ?」
返事はない。
気配も消える。
朔夜は目を細める。
「神側か……?」
それとも、
別の誰かなのか。
朔夜にも分からなかった。
⸻
翌朝、
マイルは目を覚ます。
机の上のノートを見る。
能力の記録。
身体強化。
結界生成。
水流操作。
火炎操作。
マイルはページを閉じる。
「今日も頑張るか」
少年は学校へ向かう。
しかし、
その日、
神聖能力学園では。
一つの事件が起ころうとしていた。
そしてそれは、
マイル自身ではなく――
マイルの「仲間」を狙ったものだった。
彼が守るべきものが。
初めて、
明確に敵の標的になろうとしていた。
次回第二十六話
失った力、守る力




