第十話 昼休みの距離
神聖能力学園。
月曜日の朝。
転校生が来た翌日ということもあり、教室はいつもより騒がしかった。
「神村くんって前の学校どこなの?」
「能力無効化ってどんな感じ?」
「好きな食べ物は?」
信徒の周りには、朝から何人もの生徒が集まっている。
しかし信徒は、質問一つ一つに淡々と答えていた。
「前の学校は普通の学校です」
「能力は昨日説明した通りです」
「好きな食べ物は……特にありません」
「えー、ないの?」
光が笑う。
「じゃあ、これから好きなもの見つければいいじゃん」
「……好きなものを?」
「うん」
信徒は少し考えた。
「必要ですか?」
「必要っていうより……」
光は少し笑って、
「その方が楽しいよ」
と答えた。
信徒は黙って光を見る。
「……そうですか」
⸻
一時間目、
数学。
教師が黒板に問題を書いていく。
「では、この問題を神崎」
「はい」
蓮が立ち上がる。
黒板に答えを書く。
「正解だ」
「ありがとうございます」
席に戻る蓮。
マイルが小声で話しかける。
「やっぱり数学得意なんだ」
「普通だ」
「この前、料理の本買ってたのに」
「数学と料理は関係ないだろ」
「確かに」
後ろから信徒が口を挟む。
「数学と料理には関係があります」
二人が振り返る。
「え?」
「分量、時間、温度など、計算は必要です」
蓮が少し考える。
「……確かに」
マイルは笑った。
「信徒って、そういうところ真面目だよね」
「真面目……ですか?」
「うん」
「褒めてるんですか?」
「たぶん」
「たぶん……」
信徒は少し困ったような顔をした。
⸻
昼休み。
いつものように光がやってくる。
「みんな、お昼食べよう!」
「俺はいい」
蓮が答える。
「なんで?」
「人が多い」
「じゃあ屋上!」
「……それならいい」
マイルも弁当を持って立ち上がる。
「信徒も行く?」
信徒は一瞬だけマイルを見る。
近くで観察できるいい機会だ。
「……はい」
そう答えた。
⸻
屋上。
四人で弁当を広げる。
「信徒くん、それだけ?」
光が信徒の弁当を見る。
「はい」
「少なくない?」
「必要な量です」
「じゃあ、これ食べる?」
光が自分のおかずを少し分ける。
「……いいんですか?」
「もちろん」
信徒は少し迷ってから受け取る。
「ありがとうございます」
一口食べる。
「どう?」
「……美味しいです」
光が嬉しそうに笑う。
「でしょ?」
マイルはその様子を見ていた。
昨日まで何も知らない転校生だった信徒が、少しずつこの場所に馴染んでいる。
その光景は、不思議と嫌ではなかった。
⸻
「そういえば」
蓮が口を開く。
「今度、四人で訓練しないか?」
マイルが驚く。
「四人で?」
「そうだ」
「能力の相性を確認しておきたい」
光も頷く。
「いいね」
信徒も、
「私も構いません」
と答える。
四人での訓練。
それは後に、何度も世界を救うことになる四人にとって。
最初の一歩だった。
⸻
放課後、
マイルは一人で訓練場に残っていた。
能力変更の練習。
現在の能力。
身体強化。
そこから、
結界生成へ。
「……っ」
瞬間。
激しい頭痛が走る。
「くっ……」
膝に手をつく。
まだ慣れていない。
能力を変更するたびに、頭の奥を強く締めつけられるような感覚。
マイルは息を整える。
「……まだ、こんなに痛いのか」
その時。
「無理をしていますね」
振り返る。
信徒だった。
「……見てた?」
「はい」
信徒はマイルを見る。
「能力を変更する時に負担があるのですね」
「そうなんだ」
「なぜ隠すんですか?」
マイルは少し黙る。
「……癖かな」
「癖?」
「昔から、一人で何とかすることが多かったから」
信徒は何も言わなかった。
そして、
「そうですか」
とだけ答えた。
信徒はその場を離れる。
だが、
数歩歩いたところで立ち止まる。
振り返る。
マイルはまだ一人で訓練している。
「……」
信徒は神への報告を考える。
メモ帳を開く。
【対象は能力変更時に強い負荷を受ける】
そこまで書いて、
指が止まる。
なぜか、
その先を書きたくなかった。
「……何をしているんだ」
自分でも理解できない。
結局、メモには別の文章を加えた。
【現在、詳細は確認中】
⸻
その夜、
神。
信徒からの報告を振り返る。
「能力変更時の負荷……」
神は画面を見つめる。
「なるほど」
そして、
「まだ成長途中か」
静かに笑う。
「ならば、今は手を出す必要はない」
____
一方、
マイルは自室のベッドに横になっていた。
今日の出来事を思い返す。
光。
蓮。
そして信徒。
「……友達、か」
以前なら、そんなことを考えることもなかった。
能力を隠さなければならない。
神の存在にも注意しなければならない。
誰かと深く関わることは危険。
それでも、
「……悪くないな」
マイルは小さく笑った。
まだ誰も知らない。
この四人が。
やがて世界の命運を背負うことになるなんて。
次回第十一話
4人で訓練




