9:Violence, Pain, Settle
※本作の主人公は一切無双しないどころか、どんどん状況が悪化していく泥沼サバイバルしかしませんので、合わない方は引き返して下さい。美少女もスキルも転生もありません。逆にそれが見たい特殊な方はどうぞご自由に。
陽翔は頭から外れた金属製の重りを海に投げ入れ、光らせた目で3人を蔑んでいた。
「お前達のも外してやっても良い。でも条件付きでな。」
自分のこめかみのチップを指先でチップスロット越しに叩いた。
「外して欲しいなら、このチップの情報はタダでは使わせない。食料、特に魚は全部俺に寄越せ。」
その時、無茶苦茶な暴論を振りかざす彼に我慢ならなくなった涼が掴みかかった。
「テメエいい加減にしろよ! フザケた事抜かしやがって!」
陽翔を押し倒し、上に馬乗りになって顔面中心に拳を入れる。
2発、3発とやっていく内に顔は血で赤く染まっていった。しかしそんな状況でもまだ理論を展開する。
「代償があるのは....当然だろ..?」
その言葉がさらに火を点け、手加減が無くなっていった。
零士が仕方なく止めに入る。
「おいやめろ涼! 死体を増やしてどうすんねん! 何の得もないやろ。」
しかしその言葉は響かない。
「いいや、そうでもないぜ? 食料を分けるやつが1人減るだろ? それに、死体からチップさえ抜けば、こんなおっさん用済みなんだよ。」
「いや、そのチップどこから出したか忘れたか? 絶対やめた方がええで。」
それで一瞬思い出したかのように拳を止めたが、それとこれとはまた別問題らしい。とりあえず痛い目に合わせればそれで良いのだろう。
また醜い暴行を始めてしまった。悠介は何故か後ろで楽しみながら見ていたが。
数分間暴行を受け続けた陽翔だったが、生命の危険を感じ、流石に降参した。
「.....クソッ! 分かった! 降参だ! ロックを外してやる。だから殴るのを辞めろ!」
そう言うと、すぐに手を止め、座って休憩しだした。
顔から血と汗が滴り、誰も喋らないせいで波の音ばかりが聞こえる。気絶するように倒れ込んだ。
少しして、陽翔が立ち上がって顔を海水で洗い、ロック解除をしだした。
「じゃあ俺の前に並べ。さっきと同じようにやればできるはずだ。」
じゃんけんで決め、まず最初に涼、次に悠介、最後に零士の順番でやる事となった。
陽翔が魚の骨を使い、事務的に残りの3人の施錠を外していく。
悠介の番になった時、彼は首から下げた茜の指の骨を弄りながら、唐突に口を開いた。
「ねえ、このネックレス誰か要らない? 僕、もう満足しちゃったからいいや。」
そんな気持ちの悪い呪物を一体誰が貰うんだという雰囲気だったが、涼がすぐに興味を示した。
「へえ。なんだそれ? ちょっと見せてみろよ。」
と言って強引に奪い、眺めだした。
「これ骨か? 人の。」
「そう。茜ちゃんのね。」
「じゃあ貰っといてやるよ。」
Made by Yusukeの呪いの装備は、涼の物となった。
クズ同士の最悪なプレゼント交換。
その様子を、片手間に陽翔は冷めた目で見つめていた。
日がとうに暮れ、カメラがすべて外れた。4人はこれで一応自由の身。理論上はいつでも帰る事ができるようになった。
辺りは真っ暗な中、焚き火を囲んで作戦を練る。
「カメラは全部外れた。長かったけど、これでようやく帰れるな。
あとはイカダを作るだけだ。作業は明日から開始しよう。念のため、設計図を見ておく...」
陽翔がチップの情報を見ようとしたその時、絶望のファンファーレが鳴り響いた。
「ジジッジ..」
陽翔の顔が青ざめ、声が震える。あらゆる方法を駆使して何度も何度も開こうとして焦るが、一向に復活する事は無かった。
「うせやろ....説明してくれ。」
零士の疑問は最悪な形で返答された。
「恐らくチップが錆びたのか.....使えない....データが破損してる。」
「じゃあどうやって帰んねん!? お前のチップ無しに! 誰がイカダの作り方なんて知ってるねん。」
真夜中の暗い雰囲気の暗い空間に沈黙が流れる。もはや涼にも喧嘩を始める余力と意欲は残っていなかった。
しかしその沈黙を破ったのは悠介だった。
「えっイカダ? ……それなら、僕が教えてあげるよ。」
全員の視線が、不気味なほど穏やかな悠介に集まる。
「僕、ずっとここに来たかったんだ。勉強の事ばっかり言う親が嫌いで、でも自殺したり家出したりする度胸もなくて……だから犯罪を犯したんだ。
ここなら、合法的にサバイバルができるでしょ?」
幼顔の悠介の瞳の奥には、希望という名の皮で包まれた知識があった。
ドローンから送られてくる便利グッズでも、チップのデータでもなく、行きたかった場所に行くために身に付けてきた、地の知識。
「浮力の計算、木の組み合わせ方、わらの編み方……全部頭に入ってる。僕に従ってくれるなら、作ってあげる。」
こうして、島に来て3ヶ月。
彼らは初めて、自らの意思でイカダを作るという一つの目標を共有した。
それがどれほどの重労働になるのか、彼らはまだ知らない。




