10:打開
※本作の主人公は一切無双しないどころか、どんどん状況が悪化していく泥沼サバイバルしかしませんので、合わない方は引き返して下さい。美少女もスキルも転生もありません。逆にそれが見たい特殊な方はどうぞご自由に。
作業0日目
「おい悠介、これ本当に斧になってんのか?」
涼が作ったそれは、太い木の枝に丸石をツタでぐるぐる巻きにしただけの代物だった。
どう見てもトイザらスの対象年齢3歳以上の玩具だ。
「うん、立派な石斧だよ。これで木を切り倒してね。」
不気味なほど穏やかな笑顔の悠介に言われ、涼がヤシの木に向かってそれを全力で叩きつける。
ベキィィィィィン!
鈍い音と共に、石がツタから外れて涼の足元に転がった。木から毛虫も落ちてきた。
「……!」
「……あ、やっぱり頑丈な紐じゃないと強度が足りないね。じゃあ、まずはわらを編んで頑丈なロープを作るところから始めようか。」
チャラ男の血相が石斧によって変わってしまった。
「最初から言えよ!」
2063年で石斧を使うのは間違いなくこの男ただ1人だろう。
涼の怒号が響く中、首元で茜の生きた(ある意味死んだ?)証がカタカタと揺れていた。
見守るというよりは、背中を向けてふんぞり返っているような感じだった。
作業13日目
陽翔がその辺の平べったい石の上で、海水をひたすら煮詰めていた。顔はまだ前回の涼の暴力のせいで青あざが残っている。
「いいか、人間は塩分がないと40日間の重労働には耐えられない。死ぬ。俺がこうやって塩を抽出しているからこそ、この計画は成り立っているんだ。感謝しろよ。」
「お前、さっきから薪焚べてんの俺やねんけど。お前ただ座って水が蒸発するの見てるだけやん。水鑑賞じじい。」
零士が怒りながら歯の代役を吐き出した。もうすっかり口に馴染んでしまっているのが悲しい。
小枝ではなく冷やしきゅうりの輪切りなどであればどれだけ幸せであったか。
陽翔が完成させた....いや見ていた塩は、石の上でベタベタになっただけの汚れでしかなく、舐めると苦味と僅かな塩味だけが広がった。
作業28日目
「零士くん、浮力の計算がズレるから、そっちの竹はあと5センチ右。涼くんはわらのロープをキツく縛って。陽翔くんは……今は邪魔だからあっちで魚でも釣ってて。」
完全に悠介が文字通り現場監督になり、残りの3人はただの現場作業員と化していた。
大学生の悠介にとっての初めての労働は、いきなり現場監督になってしまった。
アットアイランドな職場だ。
毎日毎日、魚の身をちびちび齧り、石にこびりついた塩を舐め、全身泥まみれになりながら竹の丸太を運ぶ。
じゃんけんをする気力すら失せ、夜は4人で泥のように眠った。泥だらけの人間が泥のように眠れば、それはもう泥そのものかもしれない。
カメラが外れた解放感など微塵もない。ただ、生きてシャバに帰るという執念だけで動く肉体の集団だった。零士の目には実家の自室が映り続けていた。
作業46日目
「やっとだな....」
砂浜の上には、4メートル四方ほどの歪でちゃちなイカダが鎮座していた。イカダというよりは流木の寄せ集めである。
悠介の実用的な知識がなければ、ただの流木のゴミ山になっていたであろう代物だ。
「できた……ほんまに出来たぞ..!」
零士がボロボロの手のひらを見つめながら呟く。
イカダの上には、海水を煮詰めてどうにか作った少量の真水を入れたペットボトル、貯めておいた予備の水、予備の釣竿、そして乾燥させた魚の干物が少しだけ載せられている。
「じゃあ、行こうか。僕たちの帰るべき場所へ。」
悠介の合図で、4人はイカダを濁った海へと押し出した。
波に揺られ、ギシギシと悲鳴を上げる木と木の隙間。お世辞にも頑丈とは言えないが、彼らを乗せてゆっくりと進み出す。ゴミを乗せたゴミが、ゴミだらけの海に入水した。
零士はイカダの端に座り、3ヶ月間自分たちを苦しめ続けた忌まわしい無人島を、これ以上ないほどの冷徹な目で睨みつけてい
た。
いや、生まれつき一重で、目が単に細いだけかもかもしれない。
「帰ってやるからな。待ってろよ....」
ゴミは大海に消えていった。
元無人島は随分汚れてしまったが。




