11:凡・voyage
※本作の主人公は一切無双しないどころか、どんどん状況が悪化していく泥沼サバイバルしかしませんので、合わない方は引き返して下さい。美少女もスキルも転生もありません。逆にそれが見たい特殊な方はどうぞご自由に。
航海15日目
「おい涼! もう死ぬんか? えらい早いな笑」
イカダの上ではついに生ゴミが処分されようとしていた。
毎日毎日生魚の身をちびちびと齧るだけの生活が2週間も続けば、人間の肉体は何かしらのバグを起こす。
最初のワクワク感は2時間だけで終わり、残りは先の見えない不安感のみである。
零士が声をかけた先で、チャラ男は完全にビーフジャーキーと化していた。
肌は少し黒く変色し、謎の病気によって呼吸も絶え絶えだ。
これは多分美味しくはない。腕のサイバーウェアが原因なのだろうか。
「……は、陽翔……」
涼が震える手で自分の首元を探り、一本の紐を外した。その先端でカタカタと揺れているのは、悠介からプレゼントされた茜の骨である。
「これ……お前に、やる……」
「いらないって。なんでこんな物を俺に渡すんだよ?」
陽翔が冷たく言い放つが、涼は無理やりその呪いの装備を陽翔の手のひらに握らせた。
掌の上に乗せたそのネックレスを、勢いよく陽翔の右手にぶつけ、ちょうど握手するような形になった。
「良いから...早く受け取れよ。お前らだけでもシャバに帰れ.....これは土産だ。」
「いや、色々と衛生面とかがだな....」
掌に乗せられた土産を見ながら困り果てている陽翔を無視して、涼は喋り続ける。
「あぁ....島を出る前にもう1回ぐらいは、鹿を狩っておくべきだったか....?」
それが、2063年に石斧を振り回したチャラ男の最期の言葉だった。
旧石器時代の名残が海で消えるというのは、ある意味生物の帰巣本能に近しいのかもしれない。ガクンと首が折れ、涼は動かなくなった。
陽翔は手元に残された指の骨を見つめ、ここで捨てるのも何か野暮なので、とりあえず首からかけてみた。
「さて、死体をどうするかやな。」
零士が文字通りゴミを見るような目で涼の死体を見つめる。というか実際ゴミ。
「このまま載せておくと衛生的にまずい。でもこれも貴重な肉、食物だ。
ハエの餌にするくらいなら、魚釣りの餌として有効活用するのが良いんじゃないか?」
陽翔のあまりにも冷徹な提案に、現場監督の悠介も
「そうだね、これなら当分は魚に困らないよ。」と穏やかに微笑んだ。
3人は事務的な手際で、涼から「餌の元」だけを綺麗にいただき、予備のペットボトルに詰め込んだ。
残った余剰パーツは、まとめて海へと乱雑に投げ捨てられた。島は綺麗になったが、海は汚れたかもしれない。SDGsはいつ達成されるのやら。
航海16日目
最悪な資源リサイクルを行った翌日、イカダの周りに不穏な影が現れた。
涼の余剰パーツから漏れ出た血の匂いを嗅ぎつけたのか、巨大なサメが数匹、イカダを値踏みするように回遊している。そのうちの一匹が、ちゃちな丸太の隙間にガツンと頭突きを食らわせてきた。
ギシッ、と不吉な音が響く。
「うせやろ! このイカダ壊されたら俺ら全員終わりやぞ!」
零士が血の気の引いた顔で叫ぶ。
その時、それまで指示しかできない指示厨の役立たずだった陽翔が、突然何も言わずに海へと飛び込んだ。
ザパーン、と派手な水しぶきが上がる。
「は!? 陽翔、何しとんねん!」
零士の制止も聞かず、陽翔は水中を滑るように泳ぎ、イカダを噛み砕こうとしていたサメの正面に回り込んだ。
そして、日頃の運動不足からは想像もつかない綺麗なフォームで、サメの鼻先を全力でぶち抜いた。
ドゴォッ。
鈍い衝撃波が水中に広がる。鼻先という最大の弱点を綺麗に殴られたサメは、あまりの理不尽な暴力に驚いたのか、完全にやる気を無くしてそのまま海の彼方へと逃げ去っていった。
ガリガリで戦闘力の欠片も無いような人間に殴られて撤退するサメとは、まったくお互い滑稽なものである。
陽翔は無言でイカダにしがみつき、零士に引き上げられた。
「お前……何考えてんねん……死ぬ気か……」
息を荒くする零士を無視し、陽翔は濡れた髪をかき上げながら、ネックレスを握りしめた。
「なんとなく、やれる気がした。いや、やれた。」
水鑑賞じじいは、サメ撃退じじいに昇格した。なんとなく水属性っぽい名前だが、実際に発揮されたのは火事場の馬鹿力だ。
航海24日目(そして最終日)
涼の肉で作ったエサで魚を釣り、簡易的な帆で風を利用してひたすら流されるだけの日々が続いた。
もはや3人には、自分たちがどこに向かっているのかを計算する気力すら残っていなかった。
しかし、ゴミを乗せたゴミが、ついにどこかも分からない陸地へと漂着した。環境汚染も良いところだ。
砂浜に乗り上げるイカダ。
「陸……陸や……」
零士、陽翔、悠介の3人は、生まれたての小鹿のように足元をふらつかせながら、泥まみれの体で上陸した。
文明の衣服はボロボロに裂け、髪は伸び放題で、どう見ても密入国してきた浮浪者の集団である。
見渡す限り、のどかな畑が広がる田舎道。そこを歩くゾンビ達。田舎の風景はDying light さながらにされてしまった。
3匹のゾンビがふらふらと歩いていると、向こうからクワを持った一人の農家の老婆が歩いてきた。
老婆は泥だらけの異様な3人組を見つけると、不思議そうに目を細め、腰に手を当てて声をかけてきた。
「あんたら見らん顔やけど、こげな所で何ばしよるね?」




