7:12月26日
※本作の主人公は一切無双しないどころか、どんどん状況が悪化していく泥沼サバイバルしかしませんので、合わない方は引き返して下さい。美少女もスキルも転生もありません。逆にそれが見たい特殊な方はどうぞご自由に。
「あああ!!!! 痛え!!」
唐揚げ弁当の食べた翌日の零士の口は、ひどく腫れ上がっていた。
永久歯が抜けた跡を何の処理もせず、唐揚げで雑菌まみれにしたツケが回ってきた。
「誰か! 治療してくれや! 陽翔とか何か知らんのか!?」
数分考えた後、砂浜で寝転ぶ陽翔が
「分からんが、一応お前よりは生物学の事はきちんと学んでいるつもりだ。
やる事はやってやる。でも条件がある。聞くか?」
と言って目を閉じた。
「怖いけど、もうなんでもええから、早よやってくれ!」
陽翔が何か使える物が無いか歩いて探し、虫除けスプレーと、枝の輪切りを持って帰ってきた。
「よし零士、やってやるからそこに寝ろ。」
患者を砂で出来た診察台に乗せた。
「その虫除けスプレーが何になるっちゅうねん....?」
「さっき成分表を見た所、アルコールが含まれている事が分かった。消毒だ....」
と、言い終わる前に患部にかけた。再び零士の叫び声が島中に響き渡る。
5分ほどしてどうにか口を開いた。
「...で....次は...? 爪でも剥ぐんか..?」
「いや、むしろ詰めるんだ。こいつを。」
丁度いいサイズと形に加工した枝を隙間に詰めた。
「こんなんで噛めるんか....? そもそも素人がやって大丈夫なん?」
陽翔が見下げながら返す。
「この島で1番マシなのは俺だ。つまり相対的に言えば俺がプロ。まあ感謝しろ。」
若干青ざめた表情の零士がまた質問した。
「そんで.....条件って何なん...」
陽翔がニヤリと笑い、こう言った。
「これから向こう1週間、お前には釣った魚を分け与えない。代わりに零士の分は俺の分だ。
じゃんけんにも参加させない。」
じゃんけんに参加できないとなれば、零士の食べ物は木の実と、たまに送られてくるおにぎりぐらいになってしまう。
殴りかかろうとした零士の拳をスっと避け、捨て台詞を吐いてからまた寝に行った。
「治療費を請求するのは当たり前だろう? 分かったら大人しく寝るでもなんでもして、腹が減らないよう努力するんだな。」
「クソッ...」
地面を蹴った零士のつま先の前には小さな岩があった。
「あああああああああ!!!!!!もういっそ殺せよ!!!うわああああ!!!!!!」
とうとう零士の歯が抜けて2ヶ月、島に来て3ヶ月が経ってしまった。
もう彼らの前に食料は一切無く、おまけに4人全員が謎の高熱を出して寝込んでいる。
横になって震えている悠介の目に、遠くにあるものの、こちらに向かって来ているどす黒い雲が映った。
「ねえ、あれ台風じゃない?」
「.....え..?」
陽翔が急いで確認しにいくと、そこには確かに海上で渦を巻いている台風があった。
横で零士が不思議そうに見ている。
「なんや、ただの雨やろ..?」
焦った陽翔がキレてきた。
「馬鹿が.....あれは台風だよ! それもとびきり強力なやつ。このままじゃ俺達はお終いさ。」
「まだ死にたないんやけど.....?」
昼寝から目覚めた涼もそれを見に来た。
「おいおっさん、どうする?」
「どうするも何も、どうにもできない。生き延びるだけだ。」
と言って、荷物をリュックにまとめ始めた。とは言っても、寝袋ぐらいの物だったが。
「悠介。これを背負ってろ。1番体重の重いお前なら飛ばされずに済む。」
理解できていない様子の悠介が聞き返す。
「僕なら飛ばされないって、君は飛ぶ予定なの?」
「飛ばされるかもしれない。最初にこの島にきた時点で、体重は60kg無かった。」
「そう、じゃ、持っとくね。」
そうこうしている間に、忌まわしい台風が上陸してしまった。
今まで穏やかだった島は、強風と大雨の吹き荒れる地獄になり、木や石も飛ばされていく。
今まで味方をしてくれていた風と水が敵に寝返って襲いかかる。
「姿勢を低くして、物陰に隠れろ! 何かにぶつかったら死ぬぞ!」
「どこに!? って、あるじゃねえか。」
走ってすぐ近くの大きな岩に4人で座り込んだ。
絶望的な表情をした、絶望的な状況の、絶望的な人間達が自然の脅威に晒される。
台風と政府がこれこそ刑罰であると語りかけてくるように。
立ち上がって周りを見ようとした陽翔の足が数cm浮いた。
そのまま飛ばされそうになったが、足には手が握られていた。
「そのチップを失ったら俺らは終いや.....死なれてもダルいねんクソ野郎が!」
3人も加勢して、どうにか地面に引きずり下ろして固定する事に成功した。涼のアームで上手くいったようだ。
「そうだ。オレ達はまだそいつを使いてえんだ。死ぬ時はお前のチップが用無しになった時だ。」
その後彼らは無言を決めこみ、岩場での避難生活を1日共にした。
台風が過ぎ、日付も変わり、なんなら太陽が昇った時、いつのまにか全員寝ていた。
朝日を浴びながら独り砂浜を歩いている悠介を除いて。欠伸をしていると視界に入った、足元にあった骨らしき何かを拾いあげた。
「ん....これ...あの子の?」
恐らく茜の指と思わしき小さな骨をポケットにしまい、また歩き出した。




