5:H2O
※本作の主人公は一切無双しないどころか、どんどん状況が悪化していく泥沼サバイバルしかしませんので、合わない方は引き返して下さい。美少女もスキルも転生もありません。逆にそれが見たい特殊な方はどうぞご自由に。
朝、零士は果てしなく続く海を見ながら、波打ち際で用を足していた。
陸に目を向けると異物が零士の目に入った。浅瀬にふやけた人らしき何かが打ち上げられている。
2日前、光に包まれて消えた茜らしかった。
死体は海水にふやけ、魚に突つかれたのか顔の半分が欠損している。おまけにシリコン製の豊胸パッドが1部剥き出しになっていた。
「ん.....? なんや?」
零士は吐き気を堪え、彼女の頭に取り付けられたカメラを覗いた。普段なら0.5秒間隔で青く点滅しているはずのLEDが、一切光らなくなっている。
「海水で壊れたんか......?」
零士はその事実を誰にも言わず、ただ砂を
蹴りかけてその場を立ち去った。
拠点に戻ると、陽翔が視聴者から届いたプレゼントを広げていた。
4つの安っぽいナイロン製リュックサックが、ビニール袋に梱包されている。
(リュック? まああったら便利やな....)
陽翔がリュックサックを隅々まで見回しながら、口を開いた。
「丁度いい。これを持って水を探しにいこう。もうペットボトルはそろそろ全部空だ。」
「でもどこに水なんてあるんだよ? また歩かせる気か?」
「そうだ。それしかない。川を探しにいくんだ。」
涼の文句は一蹴されてしまった。苛立って地団駄を2度踏んだ。
20km²の島を歩くのは、想像を絶する重労働だった。
道なき道を進み、道中の鹿をまた狩ろうとして失敗して断念し、わけの分からぬ植物のトゲに皮膚を裂かれ、マダニに食われながら、彼らは3時間かけてようやく上流の小川に辿り着いた。
「……水だ」
悠介が這いつくばって頭から水を被る。
しかし、彼らのショートカットインベントリの0番スロットには水を運ぶ容器が入っていない。
陽翔は無表情に、届いたばかりのリュックサックを指差した。
「これに入れろ。他に容器は無い。踏ん張るしかないぞ。」
冗談ではない。4人はリュックの中に直接、川の水を汲み入れた。
水を汲み入れながら涼が聞いてきた。
「そういえば、あの女って結局どうなったんだっけ?」
零士が水を浴びながら適当に返す。
「知らんけど、なんか光ってた気するわ。知らんけど。頭のあれちゃう?」
陽翔が横から口を挟む。
「あれで分かっただろ。勝手に遠くまで泳ぐなよ。」
話しながら、どうにか全員分を汲み終わった。当然、防水加工などされていない安物だ。背負った瞬間に冷たい水が背中を伝い、ズボンを濡らす。
「重い……クソ、なんでこんな……!」
当然である。容量が30Lとして、満杯になるまで入れれば30kg。体重の半分の重りを、衰えた現代人が背負うには重すぎる。
よろめきながらもなんとか体重を1.5倍にする事に成功した。
水を吸って数倍の重さになったカバンを背負い、彼らは4時間かけて拠点へ引き返した。
戻る頃には、カバンの中身と重さは半分以下に減り、零士たちの体力は底を突いていた。
「……飲めるんか、これ」
零士が自分の脱ぎたてのシャツを広げる。
泥と汗が染み込んだ布を濾過器にし、滴り落ちる濁った水をペットボトルに入れ煮沸する。
立ち上る湯気からは、焦げた布と、得体の知れない野生の臭いがした。
零士は、ぬるくなったその液体を一口啜った。
「……マズッ……!!」
思わず吐き出しそうになる。
泥の味と、自分たちの体臭、そして煮え切らない殺菌不足の不快感と生臭さが喉を焼く。だが、飲まなければ死ぬ。
4人のクズたちは、泥水のようなそれを回し飲みしながら、真っ暗な海を眺めることしかできなかった。
「オレはいいや。零士もっと飲めよオラッ!」
涼が汚物に汚水をかけた。




