4:KICK! KNIFE! HUNT IT!
※本作の主人公は一切無双しないどころか、どんどん状況が悪化していく泥沼サバイバルしかしませんので、合わない方は引き返して下さい。美少女もスキルも転生もありません。逆にそれが見たい特殊な方はどうぞご自由に。
零士の目の前にはおにぎりの袋、ペットボトル、大量の魚の食べカスに、寝ている茜が横たわっていた。そのゴミの量が、過ごした日々の長さを連想させた。
「陽翔、今日でこの島に来て何日目やっけ?」
テントで零士の横に寝転んでいる陽翔が指を折って数えだした。
「ええと....12、13、14....今日でちょうど2週間だ。」
「もうそんなにいたんか! いつ脱出できるねんこれ。」
陽翔が半ば諦めたように返す。
「分からないが、少なくとも頭のこれがある限り無理だな。できても死体だけだ。」
「お前なら無効化できひんのか?」
「無理だな。仕組みが分からん。」
零士が神妙な面持ちで考え出した。
「もうエナジーバーは食べ飽きたし、んー....そういえば、ここに来て1回も肉食べてへんよな。肉食わな死んでまうでこんなん。鹿を捕まえる用のトラップとか作れへんの?」
陽翔が若干小馬鹿にしたように言い返す。
「多分できるけど、この島に鹿なんているのか?」
「いるねん! 一昨日後ろ姿と足跡も見た。てことで作り方教えろや。」
「仮にいて、仮に捕まえたとして、どうやって倒すんだよ? 武器なんて俺が持ってるナイフしか無いぞ。」
零士の頭には倒し方なんて物は思い浮かんでいなかったのだろう。肉を食べたい、ただそれだけで返した。
「拳とそれで十分や。やるぞ。塩とかかけれへんかなー。」
陽翔が遮る。
「俺のメリットは?」
「久々に肉を食える。それでええやろ。」
諦めきれない陽翔が最後の抵抗をした。
「もう1度聞かせてくれ。本当に見たのか?」
「当たり前や。確かにあそこにいた。俺が近付いたら逃げて行ってん。もうええやろ。ほらやるで!」
そう言って、残り3人も集めて作業を開始しようとした。が、茜はまだ茜でしかなかった。
「おい、キラキラ女、鹿トラップ作るから手伝えや。」
「なんで私が? 男が行ってきてよ。待ってるから。」
「はあ、マジで.....まあ言うてもしゃあないか。おい! 涼! 悠介! 今から焼肉や!」
そう言うと4人は作業を開始した。
陽翔がチップの情報を頼りに作り方を読みこみ、零士が足早に例の場所へ先導し、涼がナイフを振り回しながらついて行き、その様子を悠介がにこにこしながら歩いて見ている。
数分後、異臭に気が付いた涼が戸惑う。
「なあ、なんか異臭がしないか? 獣みたいな....鹿か?」
「そうだといいな。」
だが、適当に返した陽翔の頭に零士が顔を近づけて答えは出た。
「分かったコイツのチップや! そういえばあれロクに洗って無かったやろ! 離れとこ。」
小学生のいじめ状態である。もちろん陽翔菌なるものは大量に付着しているであろう。臭いの元が顔を真っ赤にして反論した。
「俺だって嫌さ! でもこうでもしないとチップなんて没収されて持ってこれなかっただろ? 少しは感謝しろ。」
先頭を歩く陽翔から2mほど離れて3人は歩いた。
30分ほど歩き、川がすぐ近くにある獣道に着いたところで止まって罠作りを始め、陽翔が指示を出した。
「よし、とりあえずツタを集めてくれ。種類は多分ここの物ならなんでも良い。」
「しゃあない。やるか。」
涼がそう言って4人でツタを集めだした。
ちょうどそこにあった葛のツタを拝借し、木に括りつけて、余った部分で輪っかを作り、結ぶ。その様子をまた2m離れて3人が見守る。
「よしできた! あとはここにベリーでも置いて待つだけだ。」
ちょうど暗くなってきたので一旦帰り、寝る。
しかし、翌日の朝見に来た彼らの目に肉は映っていなかった。
「おいこれどういう事やねん! これ多分かかったのにちぎれてもうてるやんけ! 嘘つきじじい。」
悪びれる様子も無い陽翔の口からはこんな答えが出てきた。
「悪く思うな。文句を言うならこのチップの情報はやらん。だから、もう1回やるんだ。肉を食べたいんだろ?」
肩を震わせて今にも手が出そうになったが、チップの事を考慮して自重した。
「......りょう....かい..」
今度は頑丈でちぎれないものを探す事になった。葛が使えないとなると他に良いものがなく、作業は難航した。
1時間後、悠介が謎のトゲが山ほど生えたツタを持ってきた。
「これ見てよ! トゲを落とせば丁度良いよ!」
「えー....いやまあやるしかないな。」
涼がナイフでツタの表面のトゲを削り始めた。幸い涼の左腕はチタン合金などの金属製だったから良いものの、もし生身なら今頃涼の血で鹿も逃げていただろう。
作業開始から1時間、4人はなんとかトラップを作る事に成功した。
「よし、今度こそ。あの茂みに隠れて待つぞ。」
茂みの中の虫になった気分で何時間も待ち続け、ついに1匹の雌鹿がやってきた。
ベリーに気を取られ、陳腐な罠に気づかなかった、陳腐な鹿になってしまった。
足を輪の中に入れれば最後、逃げようとすれば余計に逃げるのは困難になる。
もちろん茂みの虫達は見逃さなかった。一斉に出てきて、指をポキポキ鳴らしている。
「零士君、どうやって倒すの?」
「おい陽翔! ナイフを出すんや。他の俺らは腕まくりや。」
と言い終わるが最後、貧相なだらしない身なりの男4人が鹿をいじめ始めた。
頭を殴り、蹴り、しまいには腹に短刀を刺し込む。20分後には鹿も黙りこんで動きを止め、立派なステーキの元ができていた。
涼が背中に死体を担いでテントの元へと急いで帰る。陳腐な鹿肉に心が踊る。
いつもの3倍早く火起こしが終わった。
砂浜はステーキハウスに変わり、雑に切られたステーキ単品が地面に配膳される。
男4人が豪快にかぶりついた。数週間ぶりの肉のジューシーさが、クズ共の脳を刺激する。
「美味! 2日かけた甲斐はあったわ! 今日で全部食べるで!」
「ちょっとは燻製用に取っておけ。....そういえば茜は食べないのか? というか何してるんだ?」
そう言った陽翔の視線の先には、肉を口に入れはするが、全然噛み切れていない茜の姿があった。整形で顎を削りすぎたらしい。
そしてそれを見逃す暴行犯では無い。零士が横から素早く入り、奪い取った。
「おっラッキー! ほな貰うで。元からお前に食べる資格はないわな!」
肩を震わせ何かを悟り、肉を地面に吐き捨てた。と同時に、奇声をあげながら零士の制止を振り切り、深淵の海に全速力で走っていった。
星と深淵を目指せと言わんばかりに大海へと泳ぎ出していく。
ある程度泳いだところで、途中で海に雷が落ちたような感じがした。晴れているのに。




