3:釣るのは魚か視聴者か
※本作の主人公は一切無双しないどころか、どんどん状況が悪化していく泥沼サバイバルしかしませんので、合わない方は引き返して下さい。美少女もスキルも転生もありません。逆にそれが見たい特殊な方はどうぞご自由に。
1日目の夜が明け、4人の胃袋は悲鳴を上げそうになっていた。
昨日茜が物資を持ち逃げしたせいで、手元にあるのはわずかな水と、数本のエナジーバーだけだ。
「なあおっさん、もうそろそろ非常食食べてもええんちゃう?」
「駄目だ。もしの時以外食べるな。まだ我慢しろ。」
そこへ、一台のドローンがこれ見よがしに飛んできた。吊り下げられていたのは、一本の安っぽい釣竿と、派手な色のルアーだった。
「どうせなら食料をくれよな...」
涼が毒づく。誰か釣りができるか聞いていると、意外にも悠介が名乗り出た。
「僕、子供の時に少しやった事があるから....」
悠介が岩場に立ち、絡まった糸を解きながら、なんとかルアーを投げた。
その横で陽翔がソワソワしている。不確実な釣りに食卓は任せられないのだろう。
「こんなもん日が暮れる.....なんとかしないと...」
10分ぐらい浜辺を歩きまわって、なんとか口を開いた。
「よし、涼! ダンスだ。 こういう配信といえばダンスだろう。」
驚いた涼が聞き返す。
「ダンス? なんでだよ。」
「このまま釣れるのを待っていたら、いつ俺達が餓死してこの島の装飾になるかもしれない。 だから空き時間を活用するんだ。」
「撮影はどうすんだよ? これで自撮りなんてできんのか?」
「だから俺のを使う。いいからそこに立て。」
涼は陽翔の目の前で、流行りのステップを踏み始めた。
洒落たクラブか煌びやかなテーマパークの前でやっていれば様になっただろうが、泥まみれの服を纏った犯罪者が砂浜で踊る姿は、ただただ見ていられない滑稽な小躍りでしかなかった。
しばらく待っても彼らの元にドローンは来ない。
涼もバテてきて音を上げる。
「なあ! まだやる気か!?」
「もちろんだ! 1番見た目が良いのは涼! お前だ。」
流石犯罪者というだけあって、発想も感性もズレている。もちろん本人は気付かない。というか気づけるならこの島には来ていない。
「クソが、あんなもんやっても無理か....」
零士はその無様な光景から目を逸らし、悠介の隣に座り込んだ。
「当たりはあるんか?」
「いや、無い。でも待つ他ないよ。」
「それもそうよな。まあダンスよりはええか......」
2人の間に沈黙が流れる。耐えきれなくなった零士が数十時間ぶりに空中を触り、スマートコンタクトを弄りだした。
「.....って、ネットなんて無いか。こんなとこやったら、視界がぐるぐるになるだけやな。」
言い終わると同時に、痛がりながらスマコを外して投げた。
「そういえば、お前ってスマコ付けて無いん? 」
「うん。親が辞めとけって。だから付けてない。」
「というか何してここに来たんや? 俺みたいなやつとは何かこう.....違う気がするねん。罪状とかが...」
5秒くらいの葛藤の末、海を眺めながら自分の過去を話し始めた。
「バイクを盗んだんだ。 何回も。
昔から親が厳しくて、ゲームなんてやった事もない。
勉強以外した事も無かったんだ。良い大学には行って、親からも離れられたけど、でも何かが足りなくて、無人島に行けば解決するんじゃないかってね。ここには自由があると思った。」
「で、来てみてどうやった?」
「まだ分からないよ。でも、思ってたのとは違ったかな。一人ならもうちょっと良かったかも。」
「そうか.......俺は今すぐにでも帰りたいわ。なんやねんこの島。でもどうやったら生きて帰れるんやろ?」
零士が俯きながら嘆く。
2時間ほどそうこうしていると当たりが来た。
竿が大きくしなり、待ち時間は無駄では無かったと知らせてくる。悠介が急いでリールを巻く。
横から零士も急かしてきた。
「おい! 絶対逃がすなよ! 俺が食えへんくなるやんけ。」
釣り上げたのは、10cmほどの小さな魚だった。
「クソっこれやったら1人前も無いやろ。」
「やった! 釣れたよ! 見せにいこう。」
2人は急いでダンス組の方へ向かった。
4人はそれがアジであることすら分からなかったが、銀色に光り跳ねるタンパク質に、全員の目が血走った。
またやっとの思いで火を起こし、焚き火で魚を焼き始めると、香ばしい脂の匂いが島中に広がった。
すると、森の奥からガサガサと音がして、茜が姿を現した。髪は乱れ、服は木の枝でボロボロになっている。
「......お腹減った。それ分けて。」
「はあ? お前あれ半分持ってったよな!?」
零士が怒鳴って詰めるが、平然とした顔で茜は言い返す。
「もう全部食べたし全部飲んだの。マッチ箱も空。そもそもアタシを止めなかったあんたたちが悪いのよ!」
結局、誰にとっても不本意ながら、一匹の小さな魚を5人で分けることになってしまった。まさかこの魚も5人の人間に分割されて食べられるとは思っていなかっただろう。
誰が腹を食うか、誰が頭を食うか、あるいは背を食うか、内臓を食うか。
「僕が釣ったんだから、僕が一番多くもらう権利が……」
と言いかけた悠介の発言は、涼の拳にかき消された。
「うるせえ! 力のある奴が食うんだよ!」
零士が涼に飛びかかり、茜が隙を見て魚を横から奪おうとし、陽翔がそれを突き飛ばす。
たった一匹の手のひらサイズの魚を巡って、5人の男女が砂まみれで殴り合い、髪を引っ張り合う、ゲルニカも驚く地獄絵図が展開された。
その時、数時間ぶりに頭上にドローンのプロペラ音が鳴り響いた。ドローンから次々と白い三角柱が落とされる。
砂浜に散らばったのは、20個の包装された清潔なおにぎりだった。
何より1番良いのは、個数が5の倍数だという事だった。




