2:21世紀クズ達
※本作の主人公は一切無双しないどころか、どんどん状況が悪化していく泥沼サバイバルしかしませんので、合わない方は引き返して下さい。美少女もスキルも転生もありません。逆にそれが見たい特殊な方はどうぞご自由に。
輸送船が5人を引きずり降ろし、大量の物資が支給された。
エナジーバー50本、2リットルのペットボトルの水50本、マッチ5箱、そしてナイフが1本。それが、日本政府から彼らに与えられた唯一のプレゼントだった。
最後に船長が捨て台詞を吐いて島を後にした。
「間違っても脱出しようなんて思うなよ! 頭のカメラが凄い事になるからな。」
これで帰る足は無くなった。
荷物の塊を椅子にして、陽翔が今後の相談を始めようとした矢先、茜がヒステリックな声を上げた。
「最初からあんたみたいなやつらと一緒にいる気はない。アタシ1人でやるから! 着いてこないでね!」
彼女は制止を振り切り、プレゼントの中身の半分を強引に引っ張ると、ジャングルの奥へと消えていった。残された4人の間に、重苦しい沈黙が流れる。
が、沈黙を破ったのは陽翔だった。
彼は周囲を警戒するように見回すと、ズボンの中に手を入れ、ケツの中に隠し持っていた小さな電子チップを顔を歪めて取り出した。
服の裾で汚れを拭き取ると、少し凝視して睨んだ後、吹っ切れたように側頭部のチップスロットへ差し込む。陽翔の瞳の奥で、スマートコンタクトが青白く発光した。
「データは生きてる。簡易テントの設計図を展開するから、お前ら手伝え。」
零士が不貞腐れたように言い返す。
「なんでお前みたいなやつの言う事を聞かなあかんねん? 何の得があるねん? あ?」
「このチップには役に立つデータが山ほど入ってる。俺の言う事は聞いておいた方が、生き残れる確率は上がるぞ。」
今度は涼まで反論した。
「そんな汚ねえチップ信用できるのかよ?」
「ネットのあらゆるサイトから役立つ情報を引っ張ってきた。少なくとも俺は信用してる。」
最後に零士が文句を吐いて行動を開始した。
「なんでもええけど、頭を近づけんなよ。あとチップは絶対要らんから。」
陽翔の指示を受け、4人は慣れない手つきで枝を集め、組んでいく。だが、共同作業はすぐに決裂した。
原因は、唯一の武器であるナイフだった。
「お前みたいな危ない野郎が持ったらもっと危ないやろ。俺が安全に使ったる。」
「渡せ零士! お前が木なんて切れんのかよ?」
涼が強化アームの指先でナイフを弄ぶと、零士がその胸ぐらに掴みかかった。砂を撒き散らしながら、二人は地面を転がって殴り合う。
「そもそもあんたは女を切りつけて、おまけにその数時間後にコンビニ店員をぶん殴って捕まったらしいじゃねえか。その遠藤・バイオレンス・零士が安全?」
「お前も女殴ってたやんけ。」
悠介は怯えたように、はにかみながらその様子を眺め、陽翔は舌打ちをして作業を続けた。
その時、頭上で不快なプロペラ音が響いた。
見上げると、一台のドローンがホバリングしている。カメラのレンズが彼らを冷酷に捉え、その下部から小さな包みが一つ、落とされた。
砂浜に落ちたのは、一個の塩むすび、視聴者からのウェルカムギフトだった。
殴り合っていた零士と涼も、それを見た瞬間に動きを止めた。
4人は同時に、たった一つの炭水化物に向かって飛びついた。ナイフの事などハナから無かったかのように。
「これは俺のもんだ!」
「お前が食べてもすぐに餓死するだけやろ!」
「いいや僕のだ!」
突き飛ばし、引きずり回す。自分が地球で1番知能の高い哺乳類だということなど覚えていないのだろうか。
指が米粒に触れた瞬間、誰かの足がそれを蹴飛ばした。塩むすびは砂の上に転がり、真っ黒に汚れた。
悠介がそれを拾おうとした。もちろん陽翔が止めに入ったが。
「おいやめとけ。自分を砂肝にする気か?」
「海で洗って食べようと思って。塩気も増していいでしょ?」
「絶対やめとけ。」
陽翔が奪って遠くに投げ捨てた。かつて食料だったものが、無惨にも魚の肥やしとなってしまった。
数時間後、周囲は急速に夜の闇に飲み込まれていった。
陽翔は震える手でマッチを擦るが、湿った空気と不慣れな手つきのせいで、火は一向に点かない。マッチの軸が何本も無駄に消費され、砂の上に散らばる。
煙が目に染み、全員が激しく咳き込む。泥にまみれた手で何度も何度も何度も枯れ葉を組み直し、ようやく小さな、頼りない火が爆ぜた。
焚き火の明かりが、疲れ果てた4人の顔を不気味に照らし出す。幸い、そこまで暖まる必要がない季節ではあったのが救いだろう。
零士は独り火の輪から離れ、波打ち際まで歩いた。
足元に転がっていた小石を拾い上げ、海の向こう、自分を捨てた世界の方向へと、力いっぱい投げつけた。2回だけ跳ねた。
波の音が石が水面を叩く音を即座にかき消した。




