6話
物心ついてからずっと、この孤児院で暮らしてきた。
自分の親の名前も顔も知らない。
だが、赤い髪と鷹の目のスキルは、狩を生業としている西部の集落でよく見られるものらしい。
孤児院での暮らしは世間一般からしたら底辺なのだろうが、俺にとってはそこまで居心地が悪いものでもなかった。
毎日仲間たちと共に働き、共に寝る。
狩りで獲物を捕らえるとみんなから褒められる。
親の顔を知らなくても、この孤児院自体が俺にとっての家族になっていた。
勿論、悲しい事もたまに起きてしまうけれど、それは自分ではどうしようもないことだ。自分のできる範囲の精一杯でいい。そう考えていた。
だが、ミリアは違った。
もともと何を考えているかわからないやつだった。ただ、いつもその瞳には強い意志があり、他の子供とは雰囲気が違うところがあった。
特に変わったのは蛍祭りの日からだろうか。
迷子になっていた間に何があったのかは知らないが気づいたら森の奥で眠っていたようで、その時に記憶が少し混乱したと言っていた。
その影響か、雰囲気が以前より明るくなったように感じた。正確には、喋り方がハキハキとし、人の目をよく見るようになった。会話の内容も、時折冗談のようなものを織り交ぜるようになった。
ーーでも、その瞳に映る意思の光は、まるで変わっていなかった。
むしろ隠しているだけで、以前より一層強く輝いているように見えた。
孤児院の子供が不慮の事故にあったとき、配給のパンが予算の都合で削られたとき、大雪で震える子供達を見つめているとき。
その目の奥には、優しく、それでいて力強い光が宿っていた。
「作戦会議をします!」
ある日、ミリアが唐突にそう言った。
入りこそ冗談めいていたが、その内容は真剣そのものだった。
作戦を聞いていて、同時に情けなくなっている自分がいた。
俺が、自分のことで手一杯なときに、同い年でここまで広く全体を見渡している人間がいること。それが境遇的には自分となんら変わりない人間であること。
それから、変わりたいと思った。
ミリアのように、他人のことを思いやり、強い意志で望みを叶えることができる人間になる。そう己に誓った。
ミリアとのトレーニングが日課になった。自分以上に頑張っている人間が身近にいると思うとやる気が出た。
負けてはいられない。先生に教えてもらって、空いた時間は文字が読めるように勉強もした。ミリアは前から読めていたそうで、ここでも自分の努力不足に愕然とした。
毎日の労働をこなし、ミリアとのトレーニングをこなし、余った時間を勉強に充てる。
初めはあまりに辛かった。こんな生活が毎日続けられるはずがないと投げ出そうとした。
だが、その度にミリアのことが頭によぎった。
正直言って、あいつは異常だ。
早朝誰よりも早く起きて走り込みに行ったかと思えば、ついでとばかりに街中での宅配手伝いや薬草採集で食料の足し分の小銭を稼ぎ、そのまま日々の労働をこなし、休憩の合間を縫ってセリーシャの皿作りを手伝う。
一度本気で、気が狂ってしまわないのかと聞いたことがある。
するとミリアは少し考え込み、こう答えた。
「結局、自分でやるか、誰かにやらされるかの違いが1番大きいとは思うんだよねー。」
ミリアはここに来る以前、労働奴隷だったのだろうか。
怖くてそれ以上聞くのはやめた。ただ、もう少しだけ頑張ろうと思った。薬草採集を手伝い、自分の食料分は自分で稼いだ。
そうして死にものぐるいの一年が過ぎた。背が少し伸び、俺ももう少しで12歳になる。
一生かかってもミリアに追いつける気がしないが、それでもこの一年踏ん張った経験は、今後の人生でも大きなものになる。ミリアだったらきっと、資金繰りさえ最後には1人でどうにかするのだろうが、俺は別の形で、みんなの役に立てる人間になりたい。
一歩ずつでいい。昨日より前へ進もう。ミリアの背中を見て、オレはそう決めた。




