5話
5話
ーー1年と、少し後。
「トニト!剣を振ったあと意識に隙が出来てる!そんなんじゃ敵の攻撃を交わしきれないよ!」
1週間後に、トニトは12歳になる。
この日も私とトニトは冒険者になるための特訓を続けていた。今は稽古の打ち合い中だ。
「よし、一旦休憩しよう。トニト、そこに立ち止まって。」
はぁはぁと息を切らしているトニトの体を見ながら鑑定を発動させる。
部位ごとに鑑定を行うことで体の疲労度、どこか怪我をしている箇所がないかのチェックを行う。
極端に疲労している部分があればトレーニング内容を変更し、より効率的に全身を鍛え上げる。
ほぼ毎日この繰り返しで、トニトのステータスはこの一年で同世代の子供に比べ一つ抜けて成長した。
名:トニト 性別:男性 年齢:11
体力:8→10
筋力:6→10
魔力:2→2
敏捷:6→9
スキル:「鷹の目」
数値にするとしょぼくれて見えるが、筋力、敏捷ともに一年前の約1.5倍になっていると考えるとその成長度合いが窺える。
この世界のステータスは基本的に数値が大きくなるほど上がりづらくなっていく。
また、体格や体の成長とステータスは別のようで、小さい女冒険者がムキムキのおっさんより筋力が高い、なんてこともザラにある。
トニトは他の11歳男子に比べて魔力以外の値がほぼ1.5〜2倍ほどであり、これは平均的な成人男性のステータスと比べても遜色ない。
これからの成長が楽しみだ。
「うん、体に異常なし!次はスキルトレーニングだね」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、一旦休憩しよう。ほんとにミリアは体力お化けだな。」
この一年。私もトニトと一緒に修行を重ねた。筋力の値は女性ということもあってか伸びにくかったので、魔力と体力にしぼって重点的にトレーニングした。
名:ミリア 性別:女性 年齢:11
体力:7→15
筋力:3→4
魔力:9→12
敏捷:4→5
筋力、敏捷の値が伸び悩む一方で、魔力は鑑定スキルの日常的な仕様で着実に伸びている。
そしてなぜか、体力だけは異様な上昇を続けていた。現時点でトニトの1.5倍はある。
もちろん1日労働をして、且つなるべく適切な特訓もしていた。健康管理は怠らなかったし、つぶさに鑑定で身体の状態を把握し、暇な日は何時間と走り込んだりもしていた。
そりゃ体力は伸びやすいのであろうが、それにしてもこの伸びはちょっと予想外だ。やはり元々の素質というものが大きい気がする。
体力が伸びた恩恵で言うと、シンプルに1日動いても疲れない日が増えた他、睡眠時間が以前より短くなった。
半年ほど前から夜は12時就寝、朝は4時に起きて走り込みにいくアスリートもびっくりな生活習慣を続けているが、体に何ら支障がない。
むしろ一年前より健康なほどだ。
予想だが、スキルが遺伝するように、ステータスの素質にも遺伝の要素があるのではないだろうか。
「鑑定」スキルを持つものはその性質上学者や医者、研究者など得てしてハードワーカーになる可能性が高い。
そうして体力を高めた彼らの遺伝から、私のステータスは体力が伸びやすいようになっているのかもしれない。
要は顔も知らない先祖社畜のオーバーワークが、私の社畜ボディを形成している可能性があるということだ。
先祖社畜に敬礼。
純粋に1日の活動時間が伸びるメリットは大きく、余った時間で採集した薬草を売って、私とトニトの分の食料の足しにしている。
健康な体づくりのために食事は不可欠だ。
それは孤児院の配給ではとても賄えるものではない。
周囲の子供たちに分け与えられるほどではないのが申し訳ないが、それもひとまずの辛抱である。
一見して順調そうだが、勿論課題もある。
お皿の売り上げが上がらないのだ。
制作環境は孤児院の一部の子供たちの協力もあり整ってきている。
セリーシャはその明るく気立てのいい性格からか、子供達からとても懐かれる。
彼女の言うことには皆驚くほど素直に従うため、飴やお菓子などの少ない報酬で喜んで手伝ってくれた。
肝心のお皿づくりはセリーシャに頼りきりである。
セリーシャが作った粘土のような物質は一定時間彼女の魔力が込められないと固まり、素焼きされたような状態になる。
固さは最初に込められた魔力量で決まるようで、セリーシャの魔力量が増えるに従ってより質の良いものが大量に作れるようになってきていた。
そうしてなんとか量、質ともに確保できる体制が整ってきたのにも関わらず、これが想定より売れていないのだ。主な理由は二つある。
一つ目。市井に既に安価で質の高いお皿が出回っていたのである。
中世では、一般庶民の食卓に陶器が用いられるのは比較的後のことであった。
しかしこの世界には思ったより「陶芸家」スキル持ちがいたようで、彼らにより既に大量生産の技術が確立していて、陶器は比較的安く変えてしまうのだ。
そして二つ目。孤児院に向けられる偏見が、お皿売りを難しくしていた。
表だって言うものこそいないが、スキル所持の有無が人生を分けるこの世界で、スキル持ちが少ない孤児たちは明確に『下のモノ』として扱われる。
それが憐みであれ差別であれ、市場で向けられるそういった感情を肌で感じるのはそう難しいものではなかった。なんせ、皿の質が悪くないと分かってなお、よし買おうと言う人たちの割合が恐ろしく低いのだ。
「モノを売るって難しい…」
朝、孤児院の鏡の前でそう呟く。今後の皿づくりについて頭を悩ませながら日課のステータスチェックを行うと、とある変化があることに気づいた。
「鑑定、Lv2…?」




