20話
本日2話投稿です!2本目は20時に!
「シルキーお疲れ様ー!」
試合後。魔力切れで救護室に運び込まれたシルキーは、そこに詰めかけた隊の面々から祝福を受けていた。
「おー、あんがとさん。いてて…マジでギリギリだったぜ。」
シルキーは砲撃によって受けたかすり傷をさすりながらそう答える。
隣のベッドには、同じく魔力切れで若干具合が悪そうなアガーフィークスの姿もあった。
「いやいや、悔しいな。シルキーはまだ14だよね。…俺ももっと頑張らなくちゃ。」
「どうも、フィークスサン。ま、ウチにゃ一歩及ばずってとこか?」
「こら。シルキー、調子乗りすぎ。」
フフンと鼻を鳴らし、ご満悦そうなシルキーをハートが諌める。
「…てか、お前こんなとこ居ていいのかよ?3回戦だろ?もう始まんじゃねえのか?」
そういうと、ハートの動きが一瞬固まった。他の隊のメンバーも気まずそうにしている。
空気が変わったことを察知して、シルキーはキョトンと不思議そうな顔をした。
「そっか、さっきまで眠ってたもんね。……アハハ、負けちゃったよ。ま、流石に僕じゃ厳しかったね。」
雰囲気が悪くなるのを恐れてか、ハートは気まずそうにくしゃりと笑いながらそう言った。
・・・
(…反省点は、いっぱいあったな。)
初めての入れ替え戦。感想としては、まあこんなものだろう、だった。
対戦相手のギルドメンバーは華奢な女性の方ではあったが、双剣使いでその技量は洗練されていた。その上にまだ50人も実力者がいるというのだから末恐ろしい。
(入って一年ちょっと。ここまでこれたのが奇跡みたいなものだ。)
限界までやり切った毎日のトレーニング。迷宮探索では効率的に成果を上げるルートをシルキーと毎晩模索し、悩み抜いて策を練った。一年で入れ替え戦に出るまでに成長したのだ。そこに、後悔はないはずだ。だがーー
脳裏に、シルキーの勝利が浮かぶ。鷹の目を使った見事な回避に会場は沸き、シルキーは一躍注目の的となった。
(もし僕にも、スキルがあれば…)
などと、益体もないことを思う。言っても仕方ないことだ。しかし、そう言い訳したくなるくらいにハートはショックを受けていた。同じだけの訓練を積んできたはずだ。
シルキーに負けないよう、せめて自分の技を磨こうと魔道具や剣の修練も続けてきた。しかし、それだけで勝てるほど現実は甘くなかった。
とぼとぼとギルドの渡り廊下を歩いていると、向こうから歩いてくる人影が見えた。紫色の長髪が見える。ギルドの古株、罠師のカロン先輩だ。
「あ…お疲れ様です、カロンさん」
「よっ、ハート。入れ替え戦、見てたぜ。…おいおい、そんなしょぼくれた顔すんなって!お前、よく頑張ってたよ!」
落ち込んでいるのが目に見えて伝わったのか、カロン先輩が必死に慰めようとしてくれる。恥ずかしくなったハートは慌てて弁明しようとする。
「いや、違うんです。これはその、あの…」
しかし、思ったように言葉が出てこない。それどころか目元には熱いものが溜まる感覚があり、そのことがハートを一層気恥ずかしくさせた。
「いやほんと…気にしないでください、何でもないんで。」
「あー…なあハート、この後ちょっと時間あるか?」
「あ…えっと…?は、はい。」
「そーかそーか。そしたらよ、俺も付き合ってやるから、今日の反省会しよーぜ。」
思わぬ提案にハートは目を見開く。
「ええでも、お忙しいのに…」
「バッカ、子供がそんなん気にすんなって!」
ハートと4つしか変わらないカロンであるが、胸をドンと叩くと、先輩冒険者としての自負を持ってハートに微笑みかけた。
「このカロン様監修、秘密の作戦会議だ!」
・・・
「いいかハート、まずはお前が今何で悩んでいるか当ててやろう。」
カロンとハートはギルドの空き部屋で、ハートの今後についての作戦会議を始めていた。夜は更けこみ、部屋には月明かりが差し込んでいた。
「ズバリ!お前の不安は…「自分が何に向いているか、どう自分の適性を見つければいいかわからない!」…これだろう。」
「お、おお…その通りです。」
明るい口調で、少しおどけたように喋ってはいるものの、カロンはハートの悩みを的確に見抜いている。
そして、言い当てたことで軽く自慢気な顔をしていた。
「まぁ、これは平凡なステータスのやつに結構あるあるの悩みだな。自分は剣士になるべきか?それとも魔道具を使って遠中距離で立ち回るべきか?ステータスに顕著な特性があれば分かりやすいが、残念ながら大多数はそう上手くはいかない。」
平凡なステータス、という直球の言葉選びにハートは思わずうっと呻いた。そうだ、自分はシルキーのようなスキルもなければ、筋力、魔力がずば抜けて高いわけでもない。1番中途半端な状態なのだ。
「ステータスが平凡であるならば、自分の肉体や、性格から適正のジョブを見つけるべきだ。でもその特徴すら分からない。そうだろう?」
ハートはうんうんと頷く。すると、カロンはスゥと息を吸い込み、こう言った。
「それじゃ教えてやろう。…そんな考え、どっかに捨てちまえ!お前に、適正なジョブなど存在しない!!」
雷が落ちたような衝撃が、ハートに走った。
「……え?」
(…まさか、この人はそれを伝えるためにわざわざ僕と2人きりになったのか?)
ハートの頭にぐるぐると困惑が渦巻く。自分の適性はなんですか、と聞いたら、お前に適性はないと言われた。自分は今何を言われているのだろうか。
「あの…カロンさん。」
「ん?」
ハートは若干躊躇ったが、意を決してカロンに尋ねた。
「遠回しで言いにくいようでしたら大丈夫です。…僕は、冒険者に向いていないということでしょうか?」
「あぁ!?……誰もそんなこと言ってねえよ!これからもよろしくな!」
「えぇ……」
・・・
「いいか、お前は難しく考えすぎだ。適性なんてのはやってって見つけんだよ。何となくこれだ!と思ったジョブを、とにかくやってみろ。
ハート、今1番使ってる獲物は何だ?」
「今は短剣と…あと魔道具も幾つか使ってます。たまに、両手剣も使ってみてます。」
「うん、ジョブで言えば斥候か剣士か魔道具使いか。で、その中で現状1番マシだと思うのは?」
「…片手剣ですかね。身軽だし、両手剣よりは扱いが簡単だから。」
「それじゃ、まずは他の二つの選択肢を捨てて、それだけを上達させろ。」
「で、でももし、後からやっぱり向いていなかったなんてことになったら…」
「その時は武器を変えりゃいい。武器を変えたからって、それまでの経験全部が無駄になるわけじゃない。上達させるために何をすべきか?って考えた経験が、お前の次の挑戦を楽にすんだよ。」
カロンの、ぶっきらぼうながらも理路整然とした説明に、ハートは内心で驚愕していた。疑問も、悩んでいた部分も綺麗に解決された。きっと本当にありがちな悩みなのであろう。そして、自分の視野が狭くなっていたと反省する。
ああそれと、とカロンが付け加える。その顔は優しい表情をしていた。
「お前や、俺みたいに突出したステータスのない人間には、天職みたいなジョブはない。逆に言えば自分がこれだ!って思うジョブが、お前にとっての天職になるんだ。…ま、気楽にやれってな。」
そう言うとカロンはハートに笑いかけ、その背中をバンバンと叩いた。この人なりの励ましなのだろう。高められた筋力ステータスで背中への衝撃は半端なものではなかったが、それに何とか耐えながらハートはふと思った。
(ああ、自分の悩みなんて、きっと他の人が何回も通ってきたものの一つなんだ。)
迷い込んだ道に、既に誰かの足跡がある。これがどんなに幸運なことか。
ギルドに所属すること、誰かとともに過ごすということの意味を、ハートはこの日大きく実感したのだった。




