12話
「8万グラン??この状態の狼電爪が?バカ言ってんじゃ無いよ、何年やってきてんだよ!!」
「シ、シルキー、どうどう。」
「っとによー、ガキだからって舐められたもんだぜ。こちとら天下の耀晶会サマだぞ!」
「発言がチンピラすぎるよシルキー…」
ミリア達が狼電龍を討伐した後。シルキーら一向は、素材屋に狼電龍の各部位を卸しに来ていた。
同年代に比べても一層小柄なシルキーは声を荒げ買取業者の素材屋に楯突く。
「なこた言ったってよ、最近は雷系の素材は有り余ってんだよ。アイスヒュドラの状態がもうちょい良けりゃ、そっちの方が値が着くってもんだ。」
素材屋の店主がそう告げる。シルキーはまだ不服そうだ。
「はぁ...団長達さえいりゃこんな舐めた査定されねーっつの。ほんと、どこいっちまったんだ?」
「団長達は、今日は午後から特別な用事があるから...」
言うと、ハートは顔を上げる。
澄んだ空は青く晴れ渡っており、草木の青さが初夏の訪れを感じさせていた。
・・・
「あれからもう7年かぁ」
孤児院の裏手に広がる山の中ほど、ほとんど整備されていない轍を進んだ先にある、少し開けた土地。
ここは私が、トニトとよく一緒に稽古の打ち合いをした場所だ。
今、その中心には石の墓標が立っている。そこには簡素な一文が彫られていた。
――トニト ここに眠る
静かに膝をつき、供えた花の前で手を合わせる。私の後ろでは、トニトと顔馴染みの元・フォルノ孤児院の皆が、同様に祈りを捧げている。
墓の前に立つと、胸の奥がじんと熱くなる。彼を失ったときの痛みは、今も消えない。
トニトの死から7年の月日が経ち、今年で私は19歳、セリーシャは17歳になる。
トニトが着るはずだった鎧は、セリーシャが引き継いだ。もともとスラリとしていたセリーシャは、今では身長が170cmほどもあり、無骨な鎧を華麗に着こなしていた。
ーーあれから数年かけて、私たちはギルド『耀晶会』を設立した。元々の思惑通りか、マーゼナル・アリスターは今や国王としてこの国に君臨している。
もう2度と後悔したくはない。その一心で、元孤児院の仲間たちには自分だけでも生き残ることができるよう全力で教育をした。
鑑定スキルをフル活用したトレーニングに初めは皆音をあげていたが、今ではそれぞれ逞しくなり、冒険者としてギルドに欠かせない存在に成長した。
ハートやシルキーなどは孤児院出身ではない。私たちに憧れ入会を希望した者たちだ。
外部からも新たな風が吹き、私たちは同年代の冒険者の中では頭ひとつ抜けた存在となった。
隣でセリーシャも目を閉じ、小さく呟いた。
「……ちゃんと、見てる? 私たち、頑張ってるよ」
風が吹き抜ける。開花の時期を迎えたセリランタンの花弁がふわりと舞い上がり、墓標の上を飛んだ。
・・・
ーー7年前。
「アルシア・アーセリス......」
「ミリア...私は...」
鑑定で得た情報に頭が混乱する。急に飛び出してきた息切れが治った後も、鼓動の音は止まなかった。
目の前の少女の名前は、セリーシャでは無い。
アーセリス家といえば、かつてリースの東側を領土としていた公爵家だ。そのスキルは、あらゆる物を生み出す錬金術。多くの魔道具や魔法生物を製造し、国防や技術進歩を支えた有力貴族のひとつだった。
しかし数年前、国王への謀反と国からの独立を企てていたことが他貴族によって暴かれ、爵位を剥奪、一家は大罪人として処刑されていた。
(ーーもし、もしアーセリス家の生き残りが、今目の前の少女であれば。)
そして鑑定の情報の通り、裏切りによってアーセリス家が滅びたのであれば。
セリーシャ暗殺が企てられたことにも納得が行く。
いつ国王が急逝するかも分からぬ状況だ。アーセリス家の最後の生き残りが裏切りを告発すれば、王選に影響が出ることは間違いない。
「セリーシャをーーいや、アルシアを狙ったのは...アーセリス家を裏切り、滅亡に追い込んだ貴族...?」
そうだ。そしてアーセリス家の裏切りを告発し、その国への貢献から次の王候補として最も有力となったのが、西の大領主ーーアレスター家だ。つまり、
(アレスター家が王選に備えて、アルシアのことを殺そうとした...!)
そもそも魔力波妨害の外套を持ち、透明化のスキルを持つ暗殺者などその筋においても一部の上澄み、ほんの一握りのプロだ。
依頼主の財力や権力が高いことは窺える。そしてそんなプロをたかが一般人1人を殺すのに雇うのは手がかかりすぎている。
ハッと、目の前の少女の顔を見つめ直す。考え込んでいたせいで周りが見えなくなっていた。
アルシアが、何か言いたげにこちらを見ている。
「ミリア...あのね、私ねーー小さい頃のこと、あんまり覚えてないの。でも、広いお家で、パパとママとお兄ちゃんがいて...それがある日突然、全部無くなっちゃったの。それで、気づいたらここにいた。」
アルシアが息を吸う。その声は涙ぐんでいた。
「ほんとは、全部夢だったのかなって思ってたの。私は楽しい夢を見てただけで、ほんとは、最初から家族なんて、いなかったのかなって。
ーーでも、今思い出した。私の本当の名前。アルシア、可愛いアルシアって呼んでくれたお父さんと...お母さんのこと.....夢じゃ...夢じゃなかったんだ......!」
そういうと、ぐすっ、ぐすっと、アルシアが再び泣き始める。
「そうか...そうだね、アルシア。もう...もう、大丈夫だから。」
嗚咽し、震えているアルシアの肩を抱き寄せる。
(私が、この子を守らなくちゃ。)
トニトが命を賭して守り抜いたこの命を。この子が抱える秘密を何としても守り抜き、また現れるであろう暗殺者の手を防ぐのだ。私は、そう託された。
アルシアだけじゃない。孤児院の皆も。強力なギルドを築き上げ、個々の力を高めーーもう二度と、こんなことにならないように。そのために力を付けるのだ。
ぽんぽんと小さな肩を叩きながら、私は後悔と悲しみに渦巻く感情を抑えながら、私はそう考えていた。
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