<四>半妖狐と新人妖祓
◆◆◆
目を覚ました翔は依然、妖祓の家に幽閉されていた。
そこは幼少から知っている家で、遊びに来るたび幼馴染らと遊んだ楽しい思い出や、やんちゃの度を越して大人たちから叱られた苦い思い出が詰まっている所。
翔にとってそれ以上も以下もない家だった。
けれども、今の翔にとってそこは恐怖でしかない。
(人間が来る)
座敷の出入り口から一番遠い四隅で膝を抱える翔は、持ち前の耳を立て、此方に向かって来る足音を聞き拾う。
翔の手では決して開けられない襖が開いた。人間の男女が立っていたが、あれは誰だっけ。いまの翔には思い出すことが難しい。
人間の男が声を掛けてくる。
「翔くん、布団に入ろう。まだ君の熱は高いんだ」
何を言っているのか、翔には分からない。
人間の女も声を掛けてくる。
「ご飯食べましょう。お粥を作ったの」
全部食べられなくても良い。少し口にするだけで良い。それが無理なら水だけでも、と言って座敷に入ってくる。
途端に警戒心を高めた翔が、かまびすしい威嚇の鳴き声を発する。
それによって女は足を止めたが、男は迷いながらも数珠を懐から取り出した。数珠を目にした翔は恐怖した。あれは法具。化け物を調伏できる道具。殺される、ああ、殺されてしまう!
狐は警戒心がつよい。
半妖狐の翔も例外ではなく、制御できないほどの警戒心に支配された。
「来るな人間ッ、食らうぞ」
近づく人間に怒声を放つや否や、手を伸ばしてくる人間の腕に噛みつく。血の味がしたところで我に返り、翔は目の前の人間のことを思い出す。
この人間はただの人間ではない、ただの妖祓でもない。幼馴染の父であり、幼少から己を可愛がってくれた和泉朔だと。翔にとって親しい人間のひとりだと。
なのに、翔はこの人間に噛みついてしまった。
なのに、この人間は翔を容赦なく錫杖で殴打した。
翔が化け物、相手が妖祓――ただそれだけのことで関係が崩れてしまったのだ。
それに気づいた翔は気を落ち着けようとしてくる和泉朔に警戒心を向けたまま、悲痛な叫びと訴えをぶつけた。
「俺に近づかないでくれよ、朔おじちゃん」
「翔くん。布団に入ろう」
「噛みついちまう」
「怖がらせてしまったんだ。こっちに非がある」
「怪我させちまう」
「そんなに軟じゃない。大丈夫」
「俺は化け物なんだよ」
自分は人間を怖がらせてしまう生き物であり、妖祓を怖がる生き物に成り下がってしまっているのだと声音を張った。気が動転してしまった。ひっきりなしに鳴いて暴れてしまった。
それを憐れと思ったのだろう。
「眠ろう翔くん。体に障る」
朔は翔を法具で半ば強制的に眠らせた。正しくは気絶させてきたとも言えるが、体に殆ど痛みがなかったので眠らせたと受け取っておく。
ふたたび布団の中で目が覚めた翔は、枕元に置いてあるお粥と水を見やり、小さくため息をついた。
(はらは減っているけど、食えねえや)
人間が用意したものが食べられないと思ったのは、やはりつよい警戒心ゆえだろう。
その後、翔は布団を抜け出しては四隅に座り、その度に様子を見に来た妖祓の手によって布団に戻され、食事を取るよう促されることを繰り返した。
三度、飛んで、七度にして翔は様子を見に来る妖祓から逃れようと座敷を隈なく調べた。
四方八方、呪符まみれの壁と襖ばかりで逃げられるような場所はなかったが、身を隠せる場所を見つける。
数日間、閉じ込められていた押入れだった。
(……俺の身長でも余裕で足が伸ばせるな)
翔は押入れをまじまじと見つめ、おもむろに上段へあがる。
まったく良い思い出のない場所だが、押入れの襖を尾っぽで閉めることで薄暗い空間を手に入れることができた。安心できる暗さだった。土を掘って作った巣穴のような暗さだ、と思ってしまったのは狐の本能のせいだろう。
(やっとゆっくり眠れる)
身を隠せた現実に安堵の息をつき、翔はひと眠りする。
それこそ様子を見に来た妖祓が、やさしく毛布を掛けてきたが、それにすら気づかず翔はひたすら眠りに就いた。
身を隠せる行為が獣にとって、どれだけ安らぎを与えるのかを痛感した。
ただし妖祓の用意する食事はちっとも手がつけられずにいる。
(はら減った。これからどうしよう)
恐怖心が薄れると、一気に現実問題が見えてくる。
翔は空腹に堪えながら、ここしばらくの出来事を思い出していた。白狐として捕縛された夜のことも、その後の幽閉生活も翔はしかと覚えていた。
(俺の正体が、妖祓に……幼馴染にばれちまった)
いつかはばれると覚悟していたが、このようなかたちでばれてしまうとは。
ああ、これから自分はどうなるのだろう。
調伏されるのだろうか。
それとも妖祓の所有する寺や神社に封じられてしまうのだろうか。
翔は妖祓の会話を思い返しながら、今後のことや幼馴染らのことを考える。
「ばーか。どうにもならねえよ」
思わず口に出して自虐してしまった。
妖祓の家から逃げ出すことに失敗しただけでなく、幼馴染らに正体がばれてしまったのだ。
ただで済むはずがない。
(……人間はいびつな生き物を嫌う)
だから化け物を祓う妖祓は、妖相手に容赦がない。
翔の脳裏に逃げ出した夜の日が過ぎる。必死に逃げ出そうとする自分を、痛いほど押さえつける妖祓。術を掛けてくる人間。容赦ない一蹴を繰り出す顔見知り。
相手はみんな好い人だと知っているからこそ一連の暴力は翔の心を深く傷つけた。
そして自分の行為にも傷ついてしまった。翔は顔見知りに向かって爪を向けた。鋭利ある牙で噛みついた。怪我を負わせてしまった。
(妖祓は宝珠の御魂を狙っているみたいだった)
翔は妖祓の不穏な会話を思い出す。
人間たちは宝珠の御魂を狙っている。鬼門の祠とやらに白狐ごと宝珠の御魂を封じたいと言っていた。
なんとも不用心な会話だろうか。
そういう会話は妖の前でするものじゃない。おかげで翔は妖祓のほの暗い思惑を知ってしまった。持ち前の警戒心と恐怖心を強めるには十分すぎる。
(俺ごと宝珠の御魂を封じたい、か)
そんなことをしてしまえば、妖側が黙っていないだろうに。
翔はひとつ腹の虫を鳴らすと、空腹から逃避するようにそっと目を閉じる。
どうせ封印されるなら眠っている時に封じてほしい。起こさないでほしい。何も分からなくなるようにしてほしい。
ああ、なにも考えたくない。
押入れで過ごす内に、翔は自堕落に眠ることが多くなった。起きていても腹が減るだけ。のどが渇くだけ。現実と向き合うだけ。
であれば、ひたすら眠る方が良い。
大丈夫、食事を何日も取らずとも生きていける自信がある。半分妖狐の血が流れているからだろう。
何も食べなくとも、飲まなくとも翔は押入れの中で生きていける。空腹はつらく、のどの渇きもひどく、視界はぼやけるばかりだがそれだけだ。百年この状況でも生きていける自信がある。
しかし妖祓は翔の様子を良しとはしてくれなかった。
「翔くん。そこにいていい。ただ食事を取ろう」
一向に押入れから出ない翔を、大人たちは説得してくるが動くのも返事をするのも億劫だった。
押入れの下段にお粥の入ったお盆を入れられることもあるが、それを取りに行く気力も出ない。押入上段にパンを置かれることもあるが、手を伸ばすことも面倒くさい。
とうとう翔が恐れている人間、立ち振る舞い厳しい和泉月彦や楢崎紅緒が現れるが、翔は眠ることを徹底した。考えることも悩むことも現実と向かい合うことも、少々疲れてしまった。
無理やり起こされることもあったが、弱々しい威嚇の鳴き声を発して翔は目の前にいる月彦に向かって首を横に振る。
「人間が用意する食い物は、こわくて、たべられない」
だからいらない。
「安心してよ。いまの俺は暴れる力も残っちゃいない」
「翔」
「逃げる力もない」
「このままでは死んでしまう」
「死なねーよ。俺は化け物なんだから」
「お前は生きている。生き続けるためには食が必要だ。弱り切る前に水だけでも飲みなさい」
「あんたが一番わかってるだろ。俺はニンゲンとはちげぇよ」
こうして翔は妖祓らの優しさを拒んだ。
弱っている自覚はあったが、翔は完全に無気力狐と化していた。
ひたすら眠りたい衝動に駆られた。暇な時間は退屈極まりないが、それでも翔は動こうとは思わなかった。
(異界にいるみんなはどうしているだろう)
狭い闇の中で身を丸くし、己の尾っぽに顔を埋めて現実逃避をする。
(かえりたいな)
思うことはひとつ、妖の世界に帰りたい。
妖祓が翔を家に帰してくれないのは雰囲気で察している。翔は半妖であっても狐の化け物だ。妖祓にとって翔の存在は、簡単に町へ放り出せないのだろう。ヒトの世界に翔の居場所はない。
それならば同胞として扱ってくれる、妖の世界に身を寄せた方が心も穏やかだ。
(みんなに会いたい)
狭く暗く巣穴を思わせる押入れの中は、夜行性の翔にとって暖かな世界だった。
闇よりも光を拒むようになった自分は確実に妖の階段をのぼっているのだろう。
(そういえば学校は始まっているんだっけな)
もう学校には通えないのだろうか。
(家に帰してもらえない時点で無理か)
翔は諦めに近い気持ちを抱くと、狭い闇に息を潜めて眠りに就いた。
意識を失う寸前まで、いびつな化け物たちが集う異界が恋しくて仕様がなかった。
◆◆◆
妖祓の和泉朔夜は幼馴染の正体を知り、自室でひとり思い悩んでいた。
ただの人間だったはずの幼馴染が半妖と化していただけでなく、捕縛を試みた例の白狐だったなんて、どんな星のめぐり合わせだろうか。
(あれからショウと会っていない)
白狐が逃げ出そうとした夜から、朔夜は一度たりとも幼馴染に会っていない。
何度も会おうと行動を起こしたのだが、妖祓長を筆頭に玄人の妖祓に止められてしまうのだ。
いまの白狐は人間にひどく怯えている。近づくだけで爪や牙をむき出しにする。新米の朔夜では大怪我を負いかねない。親しい仲にいる朔夜と飛鳥は白狐との接触を禁ずる、と。
さりとて、幼馴染は朔夜の家に幽閉されている。
ゆえに夜な夜な聞こえてくる。
幼馴染の威嚇する鳴き声が、聞き取れない喚き声が、それを落ち着かせようとする両親の声が――ああ、我が家は地獄と化している。
(ショウが部屋に幽閉されているのに、僕はのうのうと日常生活を送っている)
起床して朝食を取り学校に登校、始まった新学期は進路のことばかり話して、適当に勉強して下校する。幼馴染の母が病院で泣いていることを知りながら、幼馴染が幽閉生活に苦しんでいることを知りながら、どうしようもできない状況を見てみぬ振りをしながら。
気が狂いそうだ。
(なにが妖祓だ)
血統を絶やさぬよう妖祓として暗躍することが和泉家の人間の宿命だった。
他の生き方は許されなかった。
朔夜はそれに不服を抱きながら懸命に応えてきたつもりである。人間の暮らしを脅かす化け物を祓って人間たちを守ってきた。未熟なところはあるが一人で妖を祓えるまでに成長したと思っていたし、これからも化け物から人間を守りながら生きていくのだと思っていた。なのに。
(やり切れない)
机に着いていた朔夜は眼鏡を取ると、上体を伏せてしまう。
(僕はショウに法具を向けた)
人間が妖になることもある。
知識としては持っていたが、まさか身近な人間が妖になるとは思わないではないか。
(法具であいつを傷つけた)
白狐と対面したのは過去に二回。
一度目は白狐を捕縛しようと傷つけ、二度目は白狐に救われ、結局は父たちが捕縛した。
調伏ではないにしろ、朔夜は白狐を捕縛しようとしたのだ。
脳裏に法具で傷ついた白狐と、両腕に包帯を巻いていた翔の姿が結びつく。頑なに怪我した理由を言わず、翔と口論に なってしまったが、あれは朔夜のせいだったのだ。
止めどない罪悪感が襲ってくる。
(……飛鳥、泣いていたな)
現実に打ちのめされている朔夜と同じように、飛鳥もすこぶる現実に落ち込んでいた。
登下校を共にする彼女は朔夜に胸の内を明かしてくれた。
『私はショウくんに呪符を向けた』
『……うん』
『傷つけるつもりなんてなかったのに』
『そうだね』
『どんな顔でショウくんと会えばいいんだろう』
飛鳥は嘆いていた。
己に好意を向けてくれる幼馴染を傷つけてしまった。謝っても謝り切れないことをしてしまった。どう償えば良いか分からない、と。
妖祓を降りたいとも言っていたが、簡単に降りられるなら苦労もない。
(これからどうしよう)
鬱々とした気持ちを抱えて時間を過ごす。
すっかり月がのぼった頃、机に伏して過ごしていた朔夜の耳に威嚇の鳴き声が聞こえてきた。ずいぶんと声は弱々しいが、また幼馴染が人間に怯えているのだろうか。
放り投げていた眼鏡を掛けて、おもむろに自室を出る。
一階に下りたところで、廊下最奥から大人たちの物々しい会話が聞こえてくるが、聞き取ることは難しい。
いつもであれば見てみぬ振りをしてするところだが、なんとなく様子が気になり、朔夜は玄関から外へ。中庭を通って幼馴染のいる座敷の窓に立つ。
(座敷はカーテンをしていないから、中の様子が見えるはずだ)
大人たちに見つからないよう、慎重に窓を覗き込む。
そこには布団に入って眠る幼馴染と、白狐の容態を見ている楢崎紅緒。傍で見守る和泉月彦。そして朔夜の両親と飛鳥の両親が集まっていた。
耳を澄ますと会話が聞こえてくる。
月彦と紅緒の声だ。
「紅緒。翔の容態はどうだ」
「熱は完全に下がっていますが、心身弱っています。心はともかく、体の方はやはり食事を拒んでいるのが原因なのでしょう」
「そうか。無理やり押入れから出して食事を取らせようとしたが、まったく口を開けようとせん」
「粥を口に押し込んでも吐き出すのが関の山でしょうね」
「布団に入れてみたものの、この調子ではまた押入れに戻るだろうな」
「妖狐の警戒心の強さは、他の妖と比較しても非常に高い。この子が心を開かないかぎり、食事どころか水すら飲んでくれないでしょうね。すでに翔は七日も飲まず食わず。つらいでしょうに」
七日も食べていない?
盗み聞きする朔夜は思わず声を出し掛けたが、どうにか感情を嚥下する。
その間も月彦と紅緒の会話は続く。
「月彦。翔さんは半妖であり人間よりも強い。けれど化け物とて食は必要とする生き物。このまま食事を拒み続けるのであれば、選択の幅を広げた方が良いと思います」
「赤狐にこの子を託す、か」
「親御さんを思えば、我々妖祓で翔の身を引き取るべきでしょうが、妖の体は妖が診るのが一番にございます。赤狐であれば衰弱していく半妖狐をどうにかしましょう。無論、赤狐との交渉の話を踏まえると最終手段にしたいところですが」
「あれはこの子を異界に置くつもりだ。戻れなくなるだろう」
「であれば、我々の手で翔の心を開かせるしかございません」
紅緒は重いため息をつき、脱脂綿を水で湿らせると、それを幼馴染の口元に運んで乾燥した唇を拭った。
幾度かそれを繰り返した後、紅緒の合図と共に座敷にいた妖祓らが退室していく。
朔夜は未だ動けず、妖祓長の言葉を反芻していた。
と。
座敷から音が聞こえた。
ふたたび窓を覗き込むと、布団から這い出る幼馴染が一匹。
のそりのそりと布団から抜け出す、その姿かたちはヒトに近しいが、頭に生えた耳は立派な獣であった、尾てい骨から生えた三つの尾っぽは彼が人間ではないことを教えてくれる。
うう。翔がうめき声を漏らした。
「あたま、くらくらする」
座敷がとても眩しい、と翔がぼやいた。
頭がくらくらするのは食事をしていないせいだろうが、眩しいと思うのは翔が狐の本能を持つ妖狐だからだろう。狐は夜行性だから。
(ショウ。そこにお粥があるだろ)
枕元のお盆に目を向けて、朔夜はそれを食べろと念じる。
けれども翔はお盆に載ったお粥こそ見つけるものの、まったく手を伸ばそうとはしなかった。
じっとお粥を見つめると盛大に腹の虫を鳴らした後、ぶるぶると身を震わせ、尾っぽでお盆を四隅まで押してしまう。
空腹だろうに、喉も乾いているだろうに。翔の青ざめた表情が朔夜に教えてくれる。
幼馴染は持ち前の強い警戒心のせいで、人間の用意した食事を恐れているのだ。
「こわい。食えねえよ」
食べたいけど、食べることができない。
ここは怖い。法具を持つ人間がいる家だ。死にたくない。祓われたくない。死にたくない。家に帰りたい。学校に通いたい。
誰もいない座敷に翔の弱音が響く。
「なんも考えたくねえ」
現実逃避をしている顔だった。
何もかも諦めているような、そんな顔をしている。
「花見……行けなかったな」
あ。
朔夜は知る。
翔が本当に花見を楽しみにしていたことを。
「調伏される前に、もっかいだけあいつらと……もっかいだけ」
先の言葉は無い。半妖狐と化した幼馴染は口を閉じると、体を引きずるように移動し、押入れの上段に入ってしまった。
何度も上段にのぼれず、尻もちをつく姿は切ないものを感じた。
その場に佇んでいた朔夜は踵を返し、急いで自室に戻る。
(ショウは人間の用意する食事が食べられない。それは狐の本能のせいだ)
部屋に本を片っ端から読んでいく。
どれも妖に関する書物であったが、朔夜は妖狐の生態がある書物だけを選び、それらを机に置いた。
(警戒心が強い。それはつまり用心深い証拠。それを緩和させるには)
ただ食事を促すだけでは、妖狐は何も口にしない。
安心を与えなければいけない。
いまの朔夜に安心など与えられるのかどうか、それは定かではないが、接触禁止だのなんだの言われて閉じこもってばかりなんぞ気が狂いそうだ。行動しなければ。
いつか翔が語っていた。
時機が来たら胸の内に抱えているものを話すと。
それができなかったせいで翔は傷つき、人間の仕打ちにも傷つき、現実逃避を起こしているのだろう。
朔夜とて白狐に対する仕打ちに罪悪感を抱いてしまったし、白狐の正体に混乱しているばかりだが、今やるべきことは白狐のことであれこれ言うことではない。
いま、朔夜がやるべきことは――。
「もしもし飛鳥」
妖狐の生態について調べた後、朔夜は携帯で相棒に連絡を取った。
突然の連絡に飛鳥は驚いている様子だったが、構わず朔夜はネットで料理サイトを調べながら早口で相談を持ち掛けた。
「今からスーパーに行くんだけど、飛鳥も手伝ってくれないかい? ……ショウが食事を取らなくてね。父さんも母さんもじいさまもお手上げ状態なんだ。うん、うん、そうなんだ。あのばか、七日飲まず食わずなんだって。このままじゃ衰弱してしまう。何か食べさせないと」
だけど朔夜はてんで料理ができない。
「だから飛鳥、君にお願いしたい。僕もできる限り手伝うから」




