第8話:ドラゴン再び現る
世界の果ての孤島に冷たい雨が降り頻る中、黒の上下スウェット姿の私を囲む不条理な仲間たちの間で、奇妙な作戦会議が始まった。
佐藤一等兵は、泥に汚れた九八式軍衣のポケットから取り出した箱から一本の燐寸を抜き、無造作に擦った。シュッと乾いた摩擦音とともに小さな炎が立ち上がり、タバコの先端を赤く染める。人斬り以蔵が着物の懐から取り出した金属製の煙管の煙と合わさり、21世紀の禁煙推奨の現役高校生である私の視界は、瞬く間に白く濃厚な紫煙によって包み込まれていった。
以蔵は煙管をゆっくりとくゆらせ、その鋭い眼光を、弾薬が1発もないまま佇む鋼鉄の四一式山砲へと向けた。
「……しかし、この大筒が動きさえすれば、あの空飛ぶ巨大なトカゲにも致命傷を負わせることができるのにな。これほど無骨な鉄の塊、ただ据え置くだけでは宝の持ち腐れというものだ」
幕末の暗殺者ならではの、武器の威力を正確に見抜いた呟き。だが、その言葉に反応した班長の山田軍曹は、カーキ色の軍衣の胸を張り、カチコチに張り詰めた声で毅然と言い放った。
『恐れ多くも、これは天皇陛下から頂いた我が部隊の貴重な兵器であるぞ、以蔵殿ッ! 弾薬がなくとも、皇軍の圧倒的な精神力をもってすれば、いかなる困難もなんとかなるッ! 物量に頼るなッ!』
『ハッ!!』
その不条理な精神論を耳にした瞬間、鼻血を拭ったばかりの佐藤一等兵の身体がバネのように弾け、その場で綺麗に直立不動の姿勢をとった。21世紀の合理主義の中で生きてきた私には、弾薬ゼロの状況を精神力で覆そうとする彼らの思考が、ただただ理解不能だった。
そんな男たちのカチコチな応酬を、金髪ドレス姿のイザベルお姫様は、足元の大盾「カイトシールド」の真鍮の縁を細い指先で弄りながら、冷ややかに見つめていた。そして、ドレスの裾を少しだけ持ち直し、全員の顔を見渡してこう問いかけた。
「……しかし、具体的にどうするの? 精神力とやらで、あの怪物の炎が防げるわけではないのでしょう?」
イザベルが投げかけた、あまりにも真っ当で残酷な正論。
その一言に、先ほどまで軍紀を叫んでいた山田軍曹も、直立不動だった佐藤一等兵も、煙管を燻らせていた以蔵も、誰もが次の言葉を失って完全に黙り込んだ。冷たい秋雨が泥の地面を叩く音だけが、不穏な静寂となって辺りを支配していく。私を「エルフの将軍殿」と呼ぶ彼らも、ジャンボジェット機並みの圧倒的な捕食者を前に、有効な対空迎撃の手立てを何も持っていなかった。
その張り詰めた静寂が、世界の果ての孤島を完全に包み込んだ、まさにその直後だった。
――ゴォォォォォォォォォォンッッッ!!!!!
水平線の彼方から、すべてを焼き尽くすような強烈な風圧を伴って、あの巨大なドラゴンの影が、金属質の猛烈な咆哮を響かせながら島へと旋回して戻ってきた。
(第8話・了)




