第4話:残弾ゼロの山砲と持てない大盾、そしてジャンボジェットに刀で挑む暗殺者
世界の果ての孤島に吹き付ける冷たい雨風の中、白い煙が完全に晴れ渡った戦線で、私はただただ頭を抱えていた。
ポイントをすべて喪失して召喚された、国も時代もバラバラな3組の「仲間」たち。西洋の全身鉄鎧「全身プレートアーマー」の重みに這いつくばる私を前に、金髪の美しいドレス姿の少女が、泥まみれになりながらもしとやかにドレスの裾を持ち上げ、完璧な宮廷の礼を見せた。
「……わたくし、イザベルと申します。エルフの将軍殿、お目にかかれて光栄ですわ」
目の前で優しく微笑む中世のお姫様。だが、彼女は足元に突き刺さった、彼女の身長ほどもある分厚い木と真鍮製の大盾「カイトシールド」を見つめ、何食わぬ顔でこう付け足した。
「しかし、こんな泥臭くて重たい盾なんて、わたくしのか弱くて白く美しい腕では決して持てませんわ。お守りいたしますので、どなたか代わりに持ってくださいな」
「――は? いや、盾持ちが盾持たなくてどうするの!?」
21世紀のゲーマーとしての私のツッコミが虚しく響く。ドレスが汚れるのを嫌がって大盾から一歩遠ざかるイザベル姫。完全に戦力外だった。
私が絶望しかけたその瞬間、背後に据え付けられた鋼鉄の火砲――四一式山砲の防盾の横から、カーキ色の九八式軍衣を着た2人の日本軍兵士が、ガタガタと三十年式弾薬盒の革ベルトを軋ませながら、直立不動の姿勢で鋭く声を張り上げた。
『報告ッ! 本砲(四一式山砲)の弾薬箱を確認いたしましたが、対装甲用の徹甲弾、および広範囲殺傷用の榴弾ともに、現在の残弾は【ゼロ】でありますッ!』
「ええっ!? 弾がないの!?」
『ハッ! 残弾なき本砲は、ただの数十貫の鉄の塊に過ぎません! 敵の巨大な空中目標が再来せば、本砲の防盾など一撃で粉砕されましょう! 直ちにエルフの魔法、あるいは人力によって斜面を掘削し、防空陣地たる「掩体壕」を構築せねば、敵の急降下爆撃によって我が部隊は初手から全滅しますッ! 直ちに円匙と鶴嘴を用意されたしッ!』
弾薬がゼロだからこそ、カチコチな陸軍軍人精神で即座に「土木作業による持久戦」を提案してくる2人の兵隊さん。ミリタリー知識のない私には、コンクリートやレンガもないこの荒涼とした島で掩体壕を掘ることがどれほど不条理か、想像するだけで胃がキリキリと痛み出す。
すると、その緊迫した空気の横から、日本刀を帯びた着物姿の浪人――人斬り以蔵が、不敵な笑みを浮かべて一歩前へ出た。
男は左手で漆黒の鞘を掴み、親指でハバキを押し上げてカチャリと刀の切羽を外すと、抜き打つような滑らかな動作で、鋼鉄の「打刀(日本刀)」をスラリと引き抜いた。雨に濡れてギラリと輝く刃文が、周囲の空気を冷徹に切り裂く。
『……案ずるな、将軍殿。あの空を飛ぶ巨大なトカゲ、地を這う我が方の刀の届く間合いまで引きずり下ろしてくだされば、それがしがこの刃で、あの首を一太刀のもとに撥ねて御覧にいれましょう。首を斬る事にかけては、それがしの右に出る者はおりませぬ』
刀身を鋭く一振し、カチャリと鞘に収めて凄みを見せる幕末の暗殺者。
私は、もはや全身から血の気が完全に引いていくのを感じていた。
(ダメだ……。こいつら、誰も、何もわかってないじゃん……っ!! っていうか、全員集まってダメダメじゃん!!)
中身は通信制高校に通う、少しメンタルの弱い18歳の女子高生なのだ。他人の視線から逃げて、ゲームの中でだけ強くなりたかった私が、現実のいじめのトラウマを引きずったまま直面している、過酷すぎる異世界の現実。
「……あのさ、以蔵さん。あのドラゴン、近くで見たらジャンボジェット機くらい大きな化け物だったんだよ!? そんな新幹線みたいな化け物の首を、人間サイズの日本刀で物理的に切れるわけないじゃん!!」
私の魂の絶叫は、冷たい雨の音にかき消されていく。
盾を持てないお姫様、弾薬が1発もない75ミリ山砲を抱えたカチコチの陸軍兵、そしてジャンボジェットに刀一本で挑もうとする狂気の人斬り。
あまりにも絶望的な混成部隊のトップに据えられてしまった如月紬。
「誰か……誰でもいいから、私を21世紀の東京の部屋に帰してよ……。助けてくれー……っ!!」
鉄の兜の下で、恐怖と空腹で顔面を蒼白にしながら、私は世界の果ての孤島で心からの悲鳴をあげるしかなかった。残されたポイントはゼロ。味方は全員ポンコツ。すべてを焼き尽くす巨大な怪物の足音は、確実に、すぐそこまで近づいていた。
(第4話・了)




