第3話:全ポイントを消費した結果、四一式山砲と人斬り以蔵とお姫様が湧いて出た
世界の果てに浮かぶ荒涼とした孤島の地面から、爆発的に湧き上がった不気味な白い煙が、冷たい雨風に流されて徐々に消え、視界がクリアになっていく。
西洋の全身鉄鎧「全身プレートアーマー」に身体を締め付けられ、泥だらけの地面に尻餅をついたままの私は、目の前の煙の向こうに具現化した光景を前に、ただただ呆然とするしかなかった。
「……嘘、でしょ……?」
兜の隙間から滝のような冷や汗が流れ落ち、鉄の胸当ての内側を濡らしていく。
私の「ポイント全部を使って、あの化け物を倒せる仲間をありったけ呼んで!」という悲痛な絶叫に応えて現れたのは、およそ現代のゲームの常識からはかけ離れた、歴史の不条理が凝縮されたあまりにも異質な集団だった。
パニックを起こしかけている私の耳元へ、先ほどの小さな妖精がふわりと近づき、その1人1人のディテールをご丁寧に細かく説明し始める。
『まず1人目。中世ヨーロッパの血統を引く、高貴なるお姫様です』
私の視線の先には、息を呑むほどに可愛らしい容姿をした金髪の少女が佇んでいた。仕立ての良い、美しい刺繍が施されたシルクのドレスを泥で汚すのも厭わずに優しく微笑んでいるが、その足元には、彼女の華奢な身長ほどもある、分厚い木と真鍮の補強板で作られた無骨な「カイトシールド(中世西洋の大盾)」がずっしりと突き立てられていた。防御専門の、気高き盾の乙女。
『続きまして2人目。大東亜戦争におけるニューギニア戦線より徴発いたしました、陸軍の四一式山砲。および、操作人員であります』
妖精の言葉と同時に、私の目が釘付けになった。
そこに据え付けられていたのは、泥まみれになりながらも鈍い鋼鉄の輝きを放つ、口径75ミリの無骨な火砲――四一式山砲の本物だった。その閉鎖機や防盾の横には、激戦地ニューギニアの過酷なサバイバルを生き抜いてきたことが一発で分かる、カチコチに張り詰めた顔をしたカーキ色の九八式軍衣の日本軍兵士が2人、直立不動の姿勢で佇んでいた。彼らは腰の革ベルトに締めた三十年式弾薬盒を軋ませ、西洋鉄鎧を着たエルフの私に向けて、指先をピシッと揃えた厳格な挙手の礼(敬礼)を冷徹に繰り出してきた。
そして3人目の男は、妖精の解説を遮るように、自らおもむろに一歩を踏み出して自己紹介を始めた。
『……それがしは土佐の浪人、人呼んで「人斬り以蔵」と申します。お初にお目にかかる、エルフの将軍殿』
男は不敵に目を細めた。頭には泥に汚れた髷を結い、実用性重視の渋い着物の帯には、凄まじい業物であることが素人目にも分かる、漆黒の鞘に収まった日本刀(打刀)を鋭く反らせて佩いている。幕末の京都を震撼させた、本物の人斬り・岡田以蔵の凄まじい殺気の波動が、周囲の空気の温度をさらに引き下げていく。
私は、開いた口が塞がらないまま、完全に唖然としてしまった。
手にした鋼鉄のロングソードの柄を握る指先が、別の意味でガタガタと震え出す。
「これが……私の、仲間……? 古すぎるでしょ! 時代も国もバラバラだし、っていうか1人は思いっきりドレスを着た女の子じゃん!!」
21世紀の通信制高校生としての真っ当な突込みが、私の心の中で叫びとなって木霊した。
西洋の重厚な鉄鎧をまとった私。中世の大盾を持つドレス姿のお姫様。泥まみれの九八式軍衣をまとい、75ミリの鋼鉄の砲身を水平に据える2人の陸軍兵。そして、日本刀の柄に手をかけて佇む幕末の暗殺者。
あまりにも不条理極まりない混成部隊を前に、私は頭がどうにかなりそうだった。
「本当に、こんな古臭い装備の人間たちだけで……あの空を飛ぶ巨大なドラゴンを倒せるの……!?」
私の悲痛な疑問に対して、小さな妖精はただただ優しく、残酷なほどに穏やかな笑みを浮かべるだけだった。しかし、捕食者の圧倒的な暴力を肌で知った私は、ミリ単位も笑うことなどできなかった。
ポイントをすべて喪失し、戻るべき21世紀の自室も失った如月紬。彼女の異世界サバイバル戦線は、この噛み合わない不条理な仲間たちを率いて、雲の向こうから再び襲来するであろう巨大な怪物と血みどろの防空迎撃戦を戦わなければならないという、最悪の泥沼戦へと突入していくのだった。
(第3話・了)




