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2人で飲んだ翌週の土曜日の夕方、私と優斗は、私が推している男性アイドルグループのライブを観るために、都内の体育館の前にいた。元々、いつも一緒にライブに参戦する友達の分と併せて2枚のチケットを入手していたのだけど、優斗と飲む予定の前日に、彼女から連絡が来て、どうしても外せない仕事が入り、行けなくなってしまったと謝罪を受けた。何人かの友人を誘ってみたものの、皆、予定があり、断られてしまったので、友人の分のチケットをリセールに出そうと考えていたところ、タイミング良く、優斗が“イケメンを拝みたい”と言っていたので、思い切って誘ってみたのだ。すると、彼も興味を示してくれたので、今日、晴れてライブに参戦することになった。
見渡す限り、女性しかいない人だかりを見て、優斗は少し怯んでいた。
「うわー…女の人しかいない…。俺、浮いてるよね?」
彼は苦笑いしながら周りを見渡していた。
「まぁ、男性アイドルのライブだと、ファンは女性中心になるよね。いわゆる国民的アイドルになるともう少し男性の比率高くなるかも知れないけど。」
今日はグループの全国ツアーの最終公演で、今までで一番収容人数の多いアリーナでの公演だったので、単純計算で1万人弱のファンがこの場に集まっているはずである。それだけの女性がいる光景は確かに圧巻だった。
「でも、男性のファンって、男性アイドル的には嬉しいって聞くから、きっと喜んでもらえると思うよ。」
私がそう言うと、優斗は少し考えた表情をした後に、
「俺、全然、いやらしい目線で彼らを観るつもりだけど、それでも大丈夫?」
真顔で聞いてきたので、思わず吹き出してしまった。
「…心の中に秘めておけば大丈夫よ。口には出さないでいきましょう。」
私も真顔で返しておいた。
「さぁ、というわけで、これどうぞ。」
私は彼に1枚のうちわを渡した。
「…”バーンして”?」
優斗はうちわに書いてある文章を読んでいた。
「さっき確認したら、今日の座席、アリーナの結構前の方で、おそらくメンバーを乗せたトロッコが通る通路から近いから、男性でこれを持ってたら、かなりの高確率でファンサされると思う。」
「...アイドルが俺のこと撃ってくれるってこと?」
「たぶんね。せっかくの機会だし、撃たれたいでしょ?」
「そりゃあもちろん。」
優斗はうちわをまじまじと見ていた。
「美耶はうちわ持たないの?」
「これ持つよ。」
私はそう言って、公式グッズとして販売されているジャンボうちわを取り出した。私自身は、グループ全体の雰囲気が好きで、いわゆる箱推しなのだけど、敢えて挙げるとしたら、一番好きなリーダーのうちわを事前に購入していた。
優斗は私が取り出したうちわをまじまじと見つめた後、
「ファンサうちわじゃなくて良いの?」
「私は、ファンサされるの、嫌なタイプなんだよね。あくまでファンという集合体の一部として観て欲しくて、私個人を認識して欲しくないから。このうちわは、お布施みたいな感覚で購入しているのと、あなたのうちわを持っているファンがいますよって知って欲しい気持ちだけで持っています。」
「なるほど。いろんな推し方があるってことね。」
2人で色々と話しながら、会場に入った。座席は、通路から2列目で、トロッコで通るメンバーから見えそうな場所だった。
「URLで送ったMV観てくれた?」
「うん。見たよ。せっかくだから楽しみたいし。でもさすがにコールは覚えられてない。ていうか、あれ全部暗記するの難しくない?」
「難しい。私も結構曖昧。でも雰囲気で楽しめるもんだよ。メンバーの中では誰が気になった?」
私が質問すると、優斗は公式ホームページのメンバー一覧のページを表示して、1人のメンバーを指さした。
「皆カッコいいけど、しいて言うなら、この子かな?」
彼は、切れ長の大きな瞳をしていて、年齢にそぐわない色気があるメンバーだった。どう見ても、幹弥さんに似ている。
優斗の好みって一貫してるな。
「なるほどねー、良いよね、彼。私も好きだよ。トロッコで来てくれると良いね。」
「うん。楽しみだなー。アイドルのライブ初めてだから。」
「楽しいよー。アイドルのキラキラを浴びると、元気もらえるし、何よりね、」
私はそう言って、優斗の方に自分の身体を向けた。
「カッコいい男の人達が、歌って踊ってくれるのってね…。"助かる"のよ。」
私が溜めてから話すと、
「助かるって何だよ。意味が分からん。」
優斗はそう言って笑った。
「まぁまぁ、観れば分かるよ。きっと優斗も助かると思うから。」
私が意味ありげに話すと、優斗は少し呆れたように笑っていた。
「...すごかった!楽しかった!キラキラを浴びた!」
ライブ終演後、2人で予約しておいた居酒屋に入り、ライブの感想を言い合っていた。
「楽しんでもらえたようでなによりだよ。」
「みんな、ものすごいかっこいいし、歌もダンスも全力でキラキラしてて、なんていうか、これがアイドルか...!ってなった。ずっと瞬きできなかった感覚。ニヤニヤしっぱなしだったよ。」
想像以上に楽しめたようで、興奮気味に感想を話す優斗を、私は微笑ましい気持ちで見ていた。
「ステージの上のメンバーが楽しそうなのはもちろんだけど、会場のファンも皆幸せそうだし、なんていうか、幸せ空間すぎた気がする。すごいねアイドルって。参った。」
「わかるよー。私もキラキラを浴びたくて来てるから。なんか元気出るよね。」
「うん。あれは、他の娯楽では得られないキラキラだった気がする。」
興奮して喉が渇いたのか、優斗は頼んでいたビールを一気に飲んでいた。
「それに、優斗、トロッコで来たメンバー全員からファンサもらってたもんね。あれはすごいよー。」
予想通り男性ファンは目立ったようで、トロッコで来たメンバーはもれなく全員、優斗にファンサをしていた。メンバー全員から撃たれた優斗は、満面の笑みで彼らに手を振っていた。
「すごいよね!トロッコで来た全員からファンサもらったよ!男で良かったって心底思った。それに、指差されて”イケメン!”って言ってもらえたし。なんか、脳内麻薬出たわ。」
優斗は思い出を噛み締めるように、目を瞑りながら何度も頷いていた。
「優斗、イケメンでよかったねー、私も隣で見てて興奮したよ。」
開場前に並んでいたときから、周囲のファン達が優斗を見て、イケメンだと、ひそひそ声で話しており、アイドル達からもイケメン認定されていたので、優斗は人目を惹く容姿なのだろう。
元々そ分かっていたけれど、周囲の反応を見ると、改めてその事実を実感させられた。
「それと…美耶が言ってた"助かる"の意味がなんとなく分かった。」
優斗が私を見ながらにやっと笑った。
「お、伝わった?」
「美耶が考えていた意味とは違うかも知れないけど、あれだけのキラキラを浴びせてくれるおかげで元気がもらえるから、ありがとうございます!助かりました!って気持ちになった。」
優斗は腕を組んで頷きながら話していた。
「そうなんだよー。正直さ、あれだけカッコ良ければ、あの人達って歌って踊らなくてもいくらでも生きていけると思うのよ。それなのにわざわざ、プライベートも制限されるし、人目について辛い思いもするであろうアイドルになることを選んでくれてありがとうなんだよね。感謝。もうね、助かります。正直、同じくらいの格好良さの男の人が2人いるとして、片方が歌って踊れて、もう一方がそうじゃなかったら、やっぱり、歌って踊れる人の方が良いもんね。」
「うん。それは確実にそうだわ。とりあえず、またライブ行きたい。誘って欲しい。」
優斗はそう言って笑顔を見せてくれた。
「いやー、そこまで言ってもらえるなら誘った甲斐があったよ。私も嬉しい。また誘うね。」
私は満足した気持ちでハイボールを飲んでいた。
「あれだね。今回は美耶の趣味に参加させてもらったから、次は俺の趣味に美耶が参加するか。」
私は優斗の思いがけない提案に驚いた。
「え?筋トレ?サウナ?」
今まで運動経験がほぼゼロなので、筋トレをしようという発想になったことがないし、温泉は好きだけど、サウナは入っても数分で出てしまう。いわゆる"ととのう"という状態は味わったことがない。どちらかというとサウナの方が気になるけど、いくら優斗がゲイとはいえ、密室で2人きりになるのは涼太に悪いかなと思った。
「サウナはおすすめだけど、さすがに彼氏がいる女性と二人きりで密室に行くのは良くなかなって気がするから、筋トレはどう?」
私の懸念点に配慮を持ってくれる辺り、やはり彼は気遣いができる人だ。
「私、運動音痴で握力も弱いけど、それで良ければ筋トレしてみたい。」
「握力どれくらいなの?」
「えーと、確か、右で15kgくらいかな?」
そう言うと優斗は目を見開いて驚いていた。
「え、やば、子供じゃん。」
「だから力弱いんだって。でも筋トレしたら、林檎を片手で潰せるようになるかな?やってみたい。」
「なんでそれが目標なの。」
優斗はツッコミを入れながら笑っていた。
「とりあえず、美耶が筋肉ないのは分かったから、少しずつでも筋肉つけていこう。いつ空いてる?」
こうして私と優斗はお互いの趣味を教え合うくらいの仲の良い友人になった。




