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第6話 ガストーネ、宣戦布告。フィヨルド王女フロリーナ、動く。

10月上旬

王都クルスク


「陛下。ガストーネ伯はなんと?」

 謁見を終えたフィヨルド王エドワルドの様子が尋常でないことを見て、フィヨルド王女フロリーナ・フォン・フィヨルドが駆け寄った。元々壮健な男ではないが、元々青白い顔は益々蒼白となり、節ばった指先がぎこちなく震えている。フロリーナでなくとも、只事ではないと推測したであろう。文官、武官を問わず、せわしなく城内を駆け回っている。平時ではない。フロリーナの直観は確かに正しかった。

「ガストーネが裏切りおった」

「…やはり」

「きゃつめ、朕に代わりフィヨルドを統治するつもりらしい」

「よろしければ、文を?」

 半ば奪い取るようにガストーネの宣戦布告文に目を通す。



 エドワルド陛下

 黄金の麦は枯れ、黒土(こくど)は痩せ、民は飢え、秩序は(うしな)われたり。

 しかるに我が地には『白き芋』あり。

 我はすでに天の時を得、地の恵みを(つか)めり。

 二十を越える諸侯、我の旗の(もと)に集い、天運尽きたる国土を再興せんと欲す。

 陛下はすでに天を喪い、地を枯らし、人心は離れたり。

 我が連合は反逆に(あら)ず、天に代わりて大義を行わんとするのみ。

 グルンクルスの原にて、天下を問わん。

 ベルシュタイン・フォン・ガストーネ



「なんと恩知らずな…!」

 フロリーナにしては珍しく頬を上気させた。怒りに我を忘れそうになるのを、呼吸を整えてどうにか治める。

「陛下、このまま指を咥えている訳には」

「フロリーナの言う通りよ。貴殿が男であれば、な…」

「なにを申しますか。我らにはまだ忠勤の徒を多数抱えておりますわ」

「うむ…けだし、軍容は浅くなろう」

 今年の小麦も、収穫は思わしくなかった。全軍を動員するほどの余裕は、今のフィヨルド王室には存在しない。

「援軍を、求めるのは如何にございましょう?」

「すでにシルバへ急使を放った。フェンリル・ベルクにもだ」

「フェンリル・ベルク辺境伯、ええ、その通りですわ。ヨハン辺境伯であれば、逆賊をたちどころに討ち果たしてくれることでしょう」

「うむ…あとは諸侯であるが」

「それは…」

 フロリーナにも思い当たる節はある。フィヨルドの至る所より、飢饉の救援が届いていたのだ。だが、凶作はクルスクも同じ。他に回す糧食など、どこにも無かったのだ。

「では、アリアは如何にございましょう?」

「アリア、か…中立を守るアリアが動こうか?」

「分かりませぬ、分かりませぬが…ビアンカ皇王とは幼いころからの友人にございますば、私自ら文を書きとうございます」

「フロリーナの願いであれば、聞き入れるやもしれぬ。許可する。我は軍容を整える故」

「ご裁可、心より感謝申し上げます」


「外務卿、筆をお借りしますわ」

 その足で外務卿事務室を訪れたフロリーナは、迎え入れた若い官僚に驚かれつつも、用意されたデスクで筆を取った。外務卿も大忙しの様子だ。何しろこれからシルバへ向かい、手の空いたもので諸侯を集約せねばならないのだから。

「アリアに回す手はございまぬが…」

 恐る恐る、と外務卿が申し立てた。構いませぬ、と答える。

「我が忠実なる騎士を任務につかせますわ。ウェンディをここに」

 フロリーナの忠実なる女騎士、ウェンディがアリアへ向けて単身旅立ったのは、その翌日の事であった。



10月中旬

同じくクルスク城


「火急の用ゆえ、昼夜駆けて参りましたぞ」

 クルスク城は興奮に湧いた。それもそのはず、ヨハン辺境伯率いる精鋭部隊、大陸一とも噂される重装歩兵団…通称、氷壁重装歩兵団が5000の陣容をもって訪れたからだ。

「おお、ヨハン辺境伯。貴殿こそ真の勇者よ。ささやかではあるが宴を用意しておる。共に王道を果たそうぞ!」

「勿体ないお言葉にございます」

 その日、エドワルドはその手自らヨハン辺境伯へワインを注ぐという厚遇ぶりであったという。

 だが、そのほか2、3の諸侯が馳せ参じた以外、応じる者はいなかった。

 ほとんどの諸侯が、日和見を決め込んでいたのである。



 一方、アリア皇国。


「アレフ、とうとう来たわ…閣僚を集めて頂戴」

 ビアンカが静かに言った。

 ウェンディ、ビアンカ皇王と対面。


事態は急展開、正直しばらく真面目な感じが続きます(多分)


※この作品は『カクヨム』様および『アルファポリス』様にも連載しています。

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