表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/38

第36話 ノイエ・エーテル号急襲! そして公爵令嬢の神秘の声

第1部&第2部はこちら https://ncode.syosetu.com/s0215k/

※第3部だけでも読めます。

「バルトロメ! フランソワだけは守れ!」

「当然でさぁ、セシルの旦那! てめえら、お嬢が傷ついてみろ、全員旦那に殺されるぞ!」

 それは割と事実ではあるのだが。

「全弾発射!」


 ノイエ・エーテル号から大砲が飛び出した。通常船舶からの砲撃は海の揺れで照準が甘くなるものだが、何しろ無抵抗(ヌル・ライン)航行(・グライド)の状態である。微動だにしない、大地に直立した砲台と同義であった。ノイエ・エーテル号からの予想もしていない精密射撃に密集していたガストーネ軍にはひとたまりもなかった。複数の着弾で、陣形が一気に乱れる。

「続け、続け、撃ちまくれ! それからさっさと小舟を出せ! 急げ!」


 バルトロメは自ら小舟に乗り込み、10名の筋骨隆々とした巨躯だけを連れて浜へと急行した。他の船の倍以上の速度を出せたのはひとえにセシルが無抵抗(ヌル・ライン)航行(・グライド)の範囲を浜にまで広げた為だ。

「お嬢!」

「バルトロメ!」

「早く船に! てめぇら、全員殺せ!」

「おう!」

 バルトロメが乱戦へと殴りこんでいく。バルトロメの戦斧が舞った途端、歩兵の頭蓋から血しぶきが噴き出した。

「フロリーナ殿下!」

 フランソワ自ら手を携え、小舟に乗せる。次々と小舟が到着した。大砲が絶え間なく続く。

 シオンとギリアム、そして負傷したクリストフを乗せて、ノイエ・エーテル号へ。

 続いて、アリア救援軍、そして氷壁重装歩兵団の残兵。

 そして。

「ヨハン殿!」

 アレフが叫んだ。

「先に行かれい! 我は残り、ここで一兵でも道連れにするのみ!」

「おっさん、それなら俺も残るぜ!」

「ガストン殿も、無茶をいうな!」

 その時だった。

「ヨハン様!」

 フランソワの声だった。フロリーナの風魔法を借りて、拡声をしたのである。

「ここで死なないでください! 私は、まだ貴方に生きていて欲しいの!」

「だってよ、モテる男は違うね!」

「ヨハン殿、急がれよ!」

 ふ、とヨハンが笑う。

「あい分かった! うら若き乙女にそこまで言われて悪い気分はせんよ…ガストーネに伝えい! 我はアリアに亡命す、グルンクルスの決着はいずれつけようぞ!」

 ヨハン、乗船。

 信じられない速度で浜を離れる小舟を、ガストーネ軍はただ見送る事しかできなかった。



 だが。

 一人。ただ一人、諦めていない男がいた。

「ディートリヒ殿、こちらで間違いなく…?」

 部下に尋ねられた。

 彼は旗下の兵を連れ、フィヨルド地形の奥地に陣取っていたのだ。

「間違いない…あの船はここを通った。ここから、狙撃する」

 誰が乗っているのかは知らぬ。だが、国王がいる可能性はある。そうなれば。

 暗殺する。さすれば、ガストーネ様が王権を問題なく受領できることであろう。

 やがて、高速度で湾を進む、ノイエ・エーテル号が見えた。

 望遠鏡を使う。やはり、ぼやけていて、よく見えない。

 あれは…フロリーナか。国王は、不在であるが…。

 否。標的はフロリーナに非ず。

「嫌な空気だ」

「ディートリヒ殿…?」

 昔からの癖、もしくは能力と言うべきか。

 何か特異な存在を見つけると、ディートリヒはその本能が騒ぐのである。

 だからこそ、正確無比に将校らを仕留められていたのだ。

 その、特異の中心は…。

「あの、娘だ」

 ディートリヒ、銃を構える。

 照準の先に、フランソワがいた。


「お、お兄様! 前、前!」

「わ、分かってる! バルトロメ!」

「舵変われ、俺がやる!」

 外洋に出ようとした瞬間であった。バルトロメが操舵手を尽き飛ばす。

「なるほど、海流はこう動くのですね」

「ヨネス、感心するのは後にしてくれ! 取舵一杯!」

 まるで山のような流氷が、目前に迫っていたのである。

「おいおい、ここでお陀仏かよ」

「縁起でもないことを…」

「あと一発かな」

 ギリアム、詠唱。

「シオン、とりあえず消して!」

「だ、大分時間かかりそうだけど…!」

 シオンが手を伸ばして、グーからパーに変える。ぼこっ、と流氷に穴が開いた、開いたが…。

「流氷、大きすぎじゃないの!?」

「だ、だから時間がかかるって!」

「では私の風魔法で!」

「フロリーナ様、それなら船を押してくれ!」

「承知ですわ!」

 ぐん、と速度を上げた。い、一体何キロ出てるのかしら!? 70ノットくらい!?

 その時。

 

 あぶないよっ!


 フランソワの脳裏に、何かが過った。

 咄嗟に、殆ど無意識に、否。

 何かに押されるように、背を屈める。


 ギリアムが炎系最強魔法である炎龍を流氷に向けて放ったのは、その時だった。



「外した、だと…!」

 ディートリヒのライフリング銃から、硝煙が登る。

「し、信じられませぬ…あ、あんな高速度の船、見たことが…」

「それではない!」

 ディートリヒの放った銃は、確かに当たるはずだった。

 船の速度は計算している。確かに思った以上の速度だったが、そんなものは誤差に過ぎない。必殺の距離で、必殺の瞬間に引き金を引いたはず。なのに。

 あの娘は、()()()()()ように見えた…!

 しかも、直後に流氷から大量の蒸気である。

 同乗していた魔導士が、信じられないほどの巨大な炎を流氷に放ったのだ。そして、そこから生まれた水蒸気が、ディートリヒらの視界をも奪ったのだ。

「あの娘…神に愛されているとでも言うのか…! 信じぬ…信じぬぞ…!」

 ディートリヒが標的を外したのは、人生で初めてのことであった。

「あの船、もうあんなところに…」

 部下の言う通り。

 ノイエ・エーテル号は既に外洋の、射程圏外のはるか遠くを悠々と航行していた…。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ