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第34話 公爵令嬢、ハンスと再会す。

第1部&第2部はこちら https://ncode.syosetu.com/s0215k/

※第3部だけでも読めます。

 2月2日

 フェンリル・ベルク沖


 アリア皇国海軍第三艦隊が、全艦隊集結したわ。

 完全防寒の装備に変えたけれど、それでもどこかひんやりするの。波も高いし、降雪が続いていて視界はとても悪いわ。嵐ではなさそうだから、それだけが安心材料だけれど。それにしても、ヨハン型…ではなく、フェンリル型望遠鏡を全艦に支給しておいて良かったわ。アレがなければ、通信すら怪しかったもの。


 軍容は戦列艦2隻、護衛のフリゲート艦5隻、そしてピストン輸送を担当するノイエ・エーテル号の8隻よ。

「成功を祈る…か。精々頑張りますかね。アレフ、行けるか?」

 お兄様がモールス信号を確認。

「いつでも」

「バルトロメ」

「へい、旦那! 野郎ども! 突撃だ! 半帆掲げ!」

「アイサー!」

 船員たちが一糸乱れぬ動きでノイエ・エーテル号を操り始めたわ。そして、お兄様の無抵抗航行ヌル・ライン・グライドが発動。ぴたり、と船の揺れが収まる。


「俺はおめえらと心中するつもりはねぇ! 浅瀬、岸壁に細心の注意を払え! バルサダール、測量!」

「任せとけ」

「艦長、北方に流氷を確認…恐らく明日の午後には着氷するかと」

 ヨナスさんは海流調査。デッドラインは明日まで、ってことよね。

「いっつも思うけどさ、なんで毎回ギリギリなの?」

 それは本当に申し訳ないわ。前回のグランド・ディベートもギリギリになっちゃったし、クジラを依頼したり徹夜させたりまぁ…色々お願いしちゃったから。

 私の役目は道案内よ。アレフらと上陸して、亡命軍を先導するの。


「でも、不思議な気分」

「なにが?」

 シオンが首を傾げたわ。

「あれ」

 前方に輝く光を指差す。フィニ灯台の光源よ。

「私たちが修理した灯台が、亡命作戦の肝になるなんて」

「これも宿命、というやつじゃないかな?」

 ギリアム先輩よ。というか。

「手袋、変えました?」

 以前魔法大会の時に、シオンとの決勝で使った、魔法陣入りの手袋なのだけれど。

 魔法陣が変わっているような?

「ああ、航海中手が空いたから、改良したんだ。より速く魔法が出せるようになったよ」

 相変わらず恐ろしい人!

「護衛、よろしくお願いします」

 私も別に、戦えないわけじゃないのよ。防寒具の中に胸当てを仕込んで、レイピアを腰に下げているわ。この二人と比べたら戦力外だけれど。

「おう」

「任せてくれよ」


 ノイエ・エーテル号は断崖絶壁が蛇のように続く海路を、迷うことなく進んでいったわ。時折バルサダールさんがバルトロメに指示を出して、航路を微調整。フィニ灯台の光がどんどんと大きくなっていって、やがて小さな砂浜が見えたわ。川が流れ込んでいるけれど…。もしかして、私が木灰を作るときに使った水場かしら。

 そして。

「上陸だ! アレフ、フランソワを頼んだぞ!」

「ああ。行くぞ!」

 ここからは小舟ね。無抵抗(ヌル・ライン)航行(・グライド)の範囲外だけれど、この浜辺は確かに波が穏やかだわ。屏風のように屹立しているフィヨルド地形が風を防いでいるのね。それに、外海の高波は曲がりくねっていた途中の海路で勢いを減じられるみたい。

 やがて、浜辺についたわ。

「行きましょう、皆…。フェンリル・ベルクへ!」



「来たか」

 ヨハン辺境伯が立ち上がった。客間へと急ぐ。

 そこには。

「フェンリル・ベルク辺境伯、略式にて失礼いたしますわ。フランソワにございます!」

 度肝を抜かれたのはヨハンであった。

「ふ、フランソワ殿…なぜここに!」

「なぜ、と申しましても…」

 きょとん、と首を傾げた。

「道案内ですわ」

 他に、三名。一名は記憶がある。フランソワと帯同していた黒髪の男だ。髪色が珍しいから、よく覚えていたのである。

 それにしても…近年の女子は一体どうなっているのか。

 女子と言えば家を守るもの、と考えておったが…儂の考えも、もう古いのかもしれぬ。

「失礼、ヨハン辺境伯殿。此度の救援軍を率いるアレフ・ロックウェル・ロックバードと申します。他2名はフランソワの護衛ゆえ、口上を割愛させて頂きたく。時間が限られる故、早速移動を開始頂きたい」

「う、うむ…手筈は整っておる。すぐに進発の指示を出そう。第一陣は国王陛下である」

「承知いたしました。では、道案内を」

「不要よ、フィニ海岸であろう。既に道筋を把握しておる」

「では、撤退の支援に入ります」

「うむ、我は陛下へ奏上に向かう」


 その時であった。

「ヨハン辺境伯閣下!」

 伝令である。

「ガストーネ軍、五十キロ先に出現!」

「きゃつめ、やはり来たか。アレフ殿、決戦は明日となる。後程軍議にて」

「御意に」

「うむ」

「ヨハン辺境伯閣下、少し外しても?」

 フランソワが言った。ああ、と頷く。

「ハンスであれば、輜重隊を任せておる」

 そう言い残した。

 ヨハン、即座に国王へ上奏。その一時間後、第一軍が出立した。本日中に第五軍までの乗船を予定している。合計、1000名である。


「ハンス!」

「フランソワ…! 本当に、ありがとう、本当に…なんて言ったらいいのか…」

 お互いに手を取り合ったわ。もう、なんだか涙が出てきそう!

 これから本番なのだけれど!

「キミの…瓶詰のお陰でどうにか生き延びたよ…」

「良かったわ、本当に良かった…! ハンス、今度こそ一緒にアリアに戻れるのでしょう?」

「うん…早く…皆と会いたいよ…シオンも、ありがとう…あの…でも…」

 ハンスが首を傾げたわ。

「どうして…ギリアム様が…?」

「色々あってね、今は僕もセドリック特別研究室の一員さ。ま、積もる話は船でしよう。何しろ二カ月、缶詰だからね」

「うん…僕は明日の第六陣の予定…だよ。あ、あと…瓶詰なのだけれど…あと、3000本くらいあって…」

 あら。ちょっと作りすぎたかしら?

「どうしようかな、って…持ってはいけない…よね…」

「まだ船に数万本置いているから…それに、ノイエ・エーテル号の積み荷にも限りがあるし」

「フェンリル・ベルクに置いていくのが妥当、だろうね」

「となれば…ちょっと悪戯しちゃおうかしら?」

「悪戯?」

「ええ、ヨハン辺境伯閣下の許可が必要だけれど」

「なぁ、ハンス、その前に」

「どうしたの、シオン」

「前に食べた、蕎麦のミルク粥が食べたい」

「そ、そんなものでいいの…?」

 そうね、シオンが一番瓶詰に飽き飽きしてたからね!

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