第33話 フェンリル・ベルク作戦会議
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※第3部だけでも読めます。
1月中旬、フェンリル・ベルク要塞
「ガストーネ軍は王都にその兵力の殆どを残し、二万の精兵にてフェンリル・ベルクへ進軍中とのことです」
ヨハン辺境伯が重々しく告げた。
外はブリザードが吹き荒れている。フェンリル・ベルクへはフロリーナのおかげで余計な襲撃もなく、全軍が無事に入城した。この後、氷壁重装歩兵団も解体となる。流石に5000の全員をアリアに亡命させることは叶わないのだ。
「アリアからは、戦列艦を二隻用意しております。武装を解除し、輸送に特化した特務艦にございますば、2000以上の兵を亡命させることが可能でありますが…」
「アルプミティのおっさん、俺らは500で、家族が1000。残りはヨハンの旦那の兵だろ?」
ガストンは相変わらずである。
「とんだ失礼を、アルプミティ卿。このガストン、何分平民上がりであり、礼儀を知らず…」
「いえ、構いませぬ。アリアにも平民上がりの騎士がおります故」
「へー、アリアにも。どんな男なんだ?」
「ガストン、いい加減に…」
「クリストフ殿、構いませぬ。アレフと申す、皇王の近衛騎士を率いておる若者です。此度の救出作戦にも、100の兵を率い参戦する予定にて」
「そりゃ楽しみだ! 一本手合わせ願いたいね!」
「だから、ガストン…」
「よいよい、クリストフ。それで、アリア海軍はいつ頃の到着なのか?」
エドワルド王が片手を上げてクリストフを窘める。この王、ガストンには甘いのだ。
「予定通り、12月の下旬にカレルを発ったと報告がございました。おそらく、もう間もなくの到着となるはずですが…」
「けだし、この天候であるな」
ヨハンが窓の外を懸念するように眺めた。
「ヨハンよ。フェンリル・ベルクは毎年このように吹き荒れるのか?」
「は、ブリザードは確かに多くございますが、今年はその勢いが強いように感じます」
「天はやはり見逃さぬ、ということか」
「いえ、陛下。これは天運にございましょう。ガストーネと言えども、この猛吹雪の進軍、相当の労苦を伴う事間違いございませぬ」
「フロリーナの言う通り、これが我らの天命であり、最後の難関であろう。しかし、アルプミティ卿。戦列艦と言うものを朕は見たことがないが、相当な巨大艦と聞く。果たしてこのフェンリル・ベルクへ上陸が叶うものか?」
「否にございます。我が国のセシル、およびフランソワらが貴国を訪れた際、勝手ながら海岸調査を行わせて頂きました。乗船ポイントはただ一つ、フェンリル・ベルクより北方へ3キロにある、内湾の奥にある浅瀬と伺っております」
「フィニ海岸であるな。だが、あのあたりは潮流が激しい。だからこそ灯台を置いているのだが…」
「本作戦ではフランソワが修理したという、フィニ灯台こそ肝となります。私も体感するのは初めてですが、極夜というものは慣れぬものですな。その極夜を照らし、セシル率いる特務艦、ノイエ・エーテル号にてピストン輸送を行います。セシルは水魔法の名手であり、水の抵抗を全て消し去る、『無抵抗航行』という超魔法を扱えます故」
「ほう、我がフロリーナの蒼天重圧にも匹敵する超魔法ではないか」
「ええ、一度拝見したく存じますわ」
フィヨルドは武闘派しかいないのだろうか…否、アリアも同じか。
アルプミティ卿は内心に思う。
「無抵抗航行であれば、フェンリル・ベルクの海流をものともせず、安全な移動が可能にございます。けだし、一度に輸送できる人員は200程度となりますが…」
「10往復となるか」
「つきましては、王家よりご乗船賜りたく」
「なら、俺らは最後だな」
ガストンが述べた。
「ガストン殿に限らず、極力精兵をお残し頂きますよう」
「アルプミティ卿よ、そのノイエ・エーテル号と貴国の戦列艦の往復に、どれほどの時が必要になろうか?」
「往復で2時間もあれば」
「となれば、20時間…少なくとも二日は必要になろう。陛下、搭乗の順を定めたく存じます。三日頂戴したく」
「構わぬ。ガストーネの来襲に、どれほどの時が必要か?」
「2週間はかかるかと…1月の下旬、あるいは2月を想定しております」
「万が一、早期に来襲した場合は?」
「ご安心を。フェンリル・ベルクは我ら氷壁重装歩兵団にとって庭のようなもの。伝令も随所に確保しております。幸いに極夜のため、灯篭信号を用いますゆえ」
「なるほど、光の伝達か」
「然り。50キロ先の情報であれど、瞬時に把握することが可能にございます。その際はフェンリル・ベルクに数ある峡谷に誘い込み、個別撃破するまで」
「であれば、一番の危険は乗船のその日であるな」
「ご明察の通りにございます。綿密な作戦が必要となりますな」
「あいわかった。全てそなたに任せる」
「御意に」
「然るに、ヨハン辺境伯」
フロリーナが笑みを浮かべた。舞踏会であれば、その美麗さ故にどの騎士も心をざわつかせただろうが…。
「…フロリーナ殿下には、極力最後方をお守り頂きます」
「感謝しますわ、ヨハン辺境伯」
敵わんのう。
ヨハンは内心に、盛大な溜息をついたのであった。




