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第31話 フィヨルド王国軍、王都クルスクを脱出す

第1部&第2部はこちら https://ncode.syosetu.com/s0215k/

※第3部だけでも読めます。

 同じころ

 クルスクより東方、100キロ地点。


 ガストーネ軍は既に10万の大部隊となっていた。ガストーネの読み通り、反旗を翻した諸侯らが続々と合流したためである。輜重も潤沢、もはやクルスクの勝利は間違いがない…。

 そう考えていたのだが。

「亡命…だと?」

 王都に放っていた密使からの報告であった。

「はっ。フィヨルド王は卑怯にもアリアへの亡命を選択した模様。クルスク城は無血にて明け渡す方針とのことです。如何なさいますか?」

「少し、待て…」

 本来であれば、そろそろ降伏の使者を送る心づもりであった。

 決戦とあらば兵糧攻めにて打ち滅ぼし、王家より正式に禅譲を受ける…その手はずであったのだが。


 亡命されれば、どうなる。

 無血開城であれば越したことはない…越したことは無いが、王権はいかに。果たして王を名乗るべきか。否。フィヨルド王室の権威は堕ちたとはいえ失われてはおらぬ。王道たるか、覇道たるか。果たして覇道にて統治が叶うものか?

「ジギスムント!」

 ジギスムント・フォン・ライデン。ガストーネが最も信頼を置く右腕であり、その武はガストーネ以上とも噂される猛将である。

「こちらに」

「貴様は騎兵をかき集め、クルスクへ急行しろ! 王が亡命するという伝聞が入った。何としても亡命を防ぎ、我が到達するまで持ちこたえるのだ!」

「承知!」

 本来であらば、自ら先陣を切るというのに…!

 ガストーネが歯ぎしりする。

 あまりにも大部隊となったガストーネ連合軍は、ガストーネが不在となった直後に離散しかねないほどの微妙なバランスの上で成り立っていたのだ…。



翌日、12月31日

クルスク城


 一方、フィヨルド王国軍も仔細順調と言うわけではなかった。

 なにしろ、アリアへの亡命である。残留を希望する兵、そして亡命を希望する兵らの選別に一週間は軽く過ぎ、そこからの再編で更に一週間。しかも帯同する家族もいる。ガストーネ軍の動向は逐次仕入れていたが、絶妙な時期であった。だが、到達予想は1月を過ぎる見込み。

 本日中に撤退できれば、問題なく亡命作戦を決行できる。

 だが、そこはヨハンである。

 万が一を考え、策を立てていたのだ。


 則ち、輜重隊の先行である。

 通常行軍と言えば、騎士団、歩兵団と続き、最後に輜重隊、と相場が決まってはいたが、輜重隊(無論、ハンスも含まれる)、それに亡命に帯同する家族を同行させ、更に1000の氷壁重装歩兵団を護衛に付けた上で3日前に出立させていたのである。フェンリル・ベルクまではおよそ一週間の行程である。一週間であれば、後発隊は輜重隊無しでも各自の携行食でどうにか繋ぐことができる。

 そのような判断であった。そして、その読みは当たることになる。


「ヨハン辺境伯閣下!」

 物見が血相を変えて、飛び込んできた。

「が、ガストーネが…ガストーネ軍が現れました!」

「なんだと!」

 ヨハン自ら尖塔へと赴く。地平線の先に、馬蹄と土煙。

「ぜ、全軍にございましょうか?」

 物見の望遠鏡は安価な汎用品だ。これでは軍容の把握も難しかろう

「待て…早すぎる。丁度良いものがあるのだ」

 手にしたのは、フェンリル型望遠鏡であった。実際に覗きこむのは、ヨハンも初めてであった。

 そして。


「ふ…ふははは!」

「へ、辺境伯閣下!?」

「これは、惜しいことをしたかのう! まさかこれ程とは…これ程とは思わなんだぞ、フランソワ殿! けち臭い真似をせず、我が名をくれてやれば良かったわ! これは歴史を変える発明よ、仔細まで針の穴のごとく見通せるわ! 陛下に伝達、先遣隊7000程が進軍中、指揮は…ガストーネ、貴様は人材に不足があるのか、貴様ではなく、ジギスムントでは役不足というものよ!」

「か、閣下…なぜそこまで…?」

「これよ、この最新鋭たるフェンリル型望遠鏡の効果よ! さ、陛下に申し伝えねばならぬ、直ちに進発よ! ジギスムントごときは我が軽くいなしてくれよう!」



 ほぼ編成を終えていたフィヨルド王国軍は、直ちに進発を開始した。

 その間にも、ジギスムント軍がみるみると迫る。

 だが、あいにくジギスムントが手にしていた望遠鏡はビザンティオン王国の最新型…否、既にこの時点で、『旧式』の望遠鏡であった。


 だからこそ、ジギスムントは国王の進発を見落としたのである。

 第一陣たる国王直営軍はクリストフとガストンががっちりと護衛を果たし、同行を希望した500の兵らと共に出立。


 第二陣はヨハン辺境伯率いる、フェンリル・ベルク精兵の氷結重装歩兵団4000であった。予定外も一つ、あったのだが…。

「殿下、やはり第一陣に合流されるべきかと…」

「いいえ、ヨハン辺境伯。国王を無事に亡命させることこそ本筋。フィヨルド王室は弟のセリアンさえ残れば無事に続きますわ」

「しかし…」

 なんと、フロリーナ王女自ら殿軍を志願したのである。

「なにより、私の風魔法があれば、ガストーネならいざ知らず、ジギスムントごときに遅れをとるはずがございませぬ。どうかお気になされず、陛下の認可も頂戴しておりますゆえに」

 ヨハンもフロリーナの性格は重々に承知していた。


 この娘、一度決めたら頑として動かないのである。

 いやはや、我も年を取ったのか。最近の女子は優れたものばかり…。フランソワもだが。

 つい、そう思ったのだが、無論口には出さない。

「では、共に王を守りましょうぞ…迎撃地点まで、我らも進みましょう」

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