第28話 ガストーネ進発、クルスク決戦へ
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※第3部だけでも読めます。
その後、紛糾しかけた会談をエドワルド王が抑え、散会となった後。
「別にお時間を賜り、恐縮至極にございますわ」
ベアトリスは別に、ヨハンとの会談を申し入れていた。
「構わぬ…亡命とは、想定しておらんかったが」
「政治外交は私の関与するところにございませぬわ。ヨハン辺境伯閣下には、別にフランソワ様から貢物がございます」
目録と、手紙を手渡す。
鯨油 一斗
新型望遠鏡 2基
「ほう。やはり失念しておったか。そろそろ鯨油が尽きる頃と気を揉んでおったのだ。まだまだ若輩であるな」
ふふ、と手紙を読みながら、その瞳を緩めた。
「どうかお納めくださいませ。また、もう一つご伝言にございます。こちらの新型望遠鏡はフェンリル・ベルク産の蛍石を用いた、最新型の望遠鏡にございます。虹彩が滲まず、遥か地平線まで裸眼で覗きこんだような明度を保つ望遠鏡ですわ」
「うむ、顕微鏡と同じ素材であるな。そういえば、グランド・ディベートとやらはどうなったのか?」
「ご心配に及びませぬわ。フランソワ様は見事な勝利を納めました。その鍵となりましたのは、まさしくフェンリル・ベルク産蛍石の『真・顕微鏡』にございます」
「当然の帰結であるな」
「つきましては、フランソワ様よりこの新型望遠鏡の名称について許可を頂きたく」
「許可とは?」
「フランソワ様はヨハン辺境伯閣下に敬意を称し、この望遠鏡を『ヨハン型望遠鏡』と名付けたいと申されました。ぜひ許可を頂戴したく」
そこで、ヨハン辺境伯はふん、と鼻を鳴らした。
「許可はせぬ。我は浮名を広めるつもりはないのでな」
「しかし…」
「だが、我らフェンリル・ベルク産の蛍石がそなたの言う『革命』を起こしたことは理解しておる。フェンリルベルク型、あるいはフェンリル型であれば許可をしよう」
「恐縮にございます。では、フェンリル型望遠鏡とし、フランソワ様にお伝えいたしましょう」
「うむ。良きに計らうと良い…」
同じころ、グルンクルス要塞にて
「随分と長い逗留ですが…余勢を駆ってクルスク城へ侵攻すべきなのでは?」
ユンバスがガストーネへ尋ねた。ガストーネはただ黙するのみ。
すでにグルンクルス会戦より、ひと月が経過しようとしている。
「既にガストーネ殿への帰順を決めた諸侯は50を越えました。勝ち馬に乗るとは浅ましくも感じますが…これ以上お待ちになられても」
「…敵の損害を見たか?」
「ええ、無論。なんでも二万以上の首級を上げられたとか。敵の損害率は五十パーセントを遥かに越えたことでしょう」
「2万5千よ」
「であれば。敵軍は既に半減しております。逃亡兵や撤退中に倒れた者もおりましょう。最早敵軍に抵抗する意思はないと推察いたします」
「その、ほぼ全てがシルバ軍であった」
「…と、申しますと?」
「フィヨルド王国軍の損害は僅か数百よ。千ほどは捕虜としたが」
ユンバスが思考を巡らせる。純粋なフィヨルド王国軍はフェンリル・ベルク軍と合わせても15000程度であったはずだ。一方、シルバ軍は30000であったはず。
「敵の損害は、そのほとんどがシルバ軍であると?」
「然り。敗戦ながらフィヨルド王国軍の損害率は一割以下…この後に及んで国王に付き従う忠臣どもが1万以上残されておる。さて、ユンバス殿。士気高く忠義の厚い精兵1万がクルスク城に立てこもった時、我らはどれほどの兵力をもって当たるべきか?」
「それは…」
軍事の素人でも回答は可能だ。
「少なくとも3万…確実な勝利のためには10万は必要になりましょうか」
「その通りよ。けだし、幸いに冬場。今年の収穫も覚束なかろう」
「つまり、兵糧攻め…と」
うむ、とガストーネが頷いた。
「かつ、完全な包囲を敷かねばならぬ…。あいにくクルスクは平城、包囲には相応の兵が必要よ。既に我が方は帰順した諸侯を合算し、7万を越えた。ここから進発し、クルスク着陣までに10万とする。ユンバス殿、忙しくなるぞ」
「引き続き、調略に務めることといたしましょう」
「期待しておる」
ガストーネが立ち上がった。
ガストーネ連合軍、グルンクルス進発。




